上 下
88 / 162
第2章 「ドグロブニク攻防戦」

86話:「円卓議会」

しおりを挟む

時は大和たち旅の一行がドグロブニクに到着する14日ほど前まで遡る。
ここはサルバン大陸西部にある都市【ドボルツァーク】にある邸宅、そこにとある目的のため
招集されたもの達がいた。

「全くいきなりの幹部招集なんて一体何事だ?」
「このメンバーが一堂に会するなんて3年前の戦争終結以来じゃないかしら?」
「・・・・・・」

この場には魔王軍の幹部と呼ぶべき4人の大魔族が同じ円卓に着座していた。

赤のサマエル
緑のタローマティ
青のルシファー
黄のメフィストフェレス

10年前に開戦したとされる先の戦争、俗に【10年戦争】と呼ばれた戦いで
その圧倒的な力を以ってかつての種族連合を打ち破った4人の魔族それが彼らであった。
全員が集まったのを確認した招集した張本人であるメフィストが重々しく口を開いた。

「皆さん急な招集に応じていただきありがとうございます。
 それではこれより円卓議会を始めたいと思います」

メフィストがそう言葉を結ぶと開口一番敵意に満ちた視線を彼に向け
あからさまに嫌悪をむき出して彼は答えた。

「そんなかたっ苦しい挨拶を聞くためにここに集まったんじゃねえんだわ!
 さっさと用件を言いやがれこの変態野郎!!」

メフィストに対し物怖じすることなく答えたのはサマエルだった。
火を司る魔族で赤色のとげとげした髪が特徴的な目つきの鋭い男だ。
彼の言葉を肯定するように他の二人が黙して頷く。

「わかりました。 では僕が突き止めた事実をお話します」

そう言うとメフィストは先日勇者である小橋大和と接触し
その際に魔力測定を行った結果、【測定不能】と出たことを3人に報告する。
それを聞いて一同が驚愕する中またしてもサマエルが怒号に満ちた声で問い詰める。

「そんな馬鹿な魔力がてめえよりも上だとっ、何をふざけたこと言ってやがる!」

彼を後押しするように風を司るタローマティが質問を重ねる。

「あなたの魔力測定の能力を疑うわけではないのだけれど間違いないのねフィス?」

臀部でんぶまで伸び切った緑色のつややかな髪を翻しながら問いかける彼女に対し
円卓に肘を立て、指を交差するように組み上げた手を額に当てながら真剣な表情で答える。

「まず間違いはないよ、彼の魔力値は僕よりも上さ」

何かの間違いであってほしいというその場にいる者たちが期待する中
その期待を裏切る言葉が返ってきたことに一同は落胆する。
事の重大さを理解した3人はしばらく押し黙っていたがここで初めて水を司るルシファーが口を開く。

「それで? 今後の対応はどうするのだ?
 このまま放っておくわけにもいかないだろ?」

その問いにメフィストがはっきりと答えた。

「少なくとも僕一人では手に負えない状況になっている以上
君たちにも協力してほしいんだけど?」

そう問いかけると3人は意外そうな顔をして彼を見た。
そもそもメフィストは4人の中で最も協調性の欠片がない自由奔放な性格をしている。
その彼が自ら3人に協力を申し出ること自体が異常事態と言って差し支えない。

それを理解したサマエルが確認するように呟く。

「事はそれだけ切迫してるってことかよっ!」

己の拳を卓に叩きつけこの状況に対して憤怒する。
だがそんなことしたところで状況は何も変わらない。

「わかったわ、今回は4人で協力しましょ!」

「そうするしかこの状況を打破できないと思う」

「了解した」

タローマティ・メフィスト・ルシファー3人が共闘の姿勢を見せる中、残ったサマエルはと言えば

「ふふふふふ、はははははははは!!」

3人に対しまるで愚かな行為と言わんばかりの嘲笑を浴びせたあと誇大に宣言する。

「タローマティもルシファーもどうかしちまったんじゃねえか!?
 この変態野郎が自分から協力しようとか言い出すあたり何か裏があると思わねえのかよ!!」

そう言いながら2人に鋭い視線を向けると彼らはそれに反論する。

「メフィストの話が真実なら此度は全員でその勇者とやらと一戦交えるべきだ」
「それともサマエル? あなた一人で勇者を倒すとでも言うのかしら?」

彼女の反論にニヤリと笑い、その言葉を待ってましたと言わんばかりに返答する。

「おうさ! やってやろうじゃねえか!!
 その勇者ってのがどんだけつえーか知らねえが、こいつと仲良しこよしで戦うくらいなら
俺一人でやってやらあ!!!」

そう言いながら円卓に正拳突きを叩きつける。
先ほどとは違い大魔族が放った一撃は蜘蛛の巣のようにヒビが入り
ついに粉々に爆砕する。

彼は円卓を粉砕すると踵を返し部屋を出ていこうとする。
それをメフィストが呼び止める。

「待つんだサマエル! 一人で同行できるほど神託の勇者ヤマトは甘い奴じゃない!!
 ここは4人で協力してっ・・・・」

そう言い終わる前にサマエルがメフィストの懐に入り込み
先ほど円卓を粉砕したのと同じ威力の拳を彼に放った。

下から突き上げられた剛拳はためらいなくメフィストの顔を撃ち抜かんと距離を縮める。
そして、サマエルの拳がメフィストの下顎を捉える寸前に彼の拳が受け止められる。

「んんーー?」

完璧に下顎を打ち砕いたと思ったサマエルは
己の拳を止めた人物を睨みつける。

「・・・・邪魔すんなよ、ルシファー」
「貴様、いい加減にしろ・・・・」

赤の大魔族と青の大魔族、2つの圧倒的力が一触即発の状態を迎える状況で
手をぱんと打ち鳴らすとメフィストはサマエルに再び要請する。

「お願いだサマエル、僕たち4人で協力しよう!」

「嫌だね、誰がお前なんかと協力するかっ!!」

そう吐き捨てると再び踵を返し、ついには部屋を後にした。
残された3人の間にしばしの沈黙が支配したが
この状況をあらかじめ想定していたかのような口調で彼が口を開いた。

「まあこうなるだろうとはどこかでわかってたけどさ・・・・」
「これからどうするんだ?」
「何か策は?」

2人の問いかけにニヤリと笑いながら彼は答える。

「こうなった以上彼にはビルド大陸の地は踏ませない!
 決戦の地はドグロブニクだ!!」

その後魔王軍幹部3人は己が支配する領地に一旦戻り
勇者を迎え撃つための戦力を整える運びとなった。

この円卓会議から15日後、世界に再び魔王軍の猛威が襲い掛かることになる。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

運命の番を見つけることがわかっている婚約者に尽くした結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:12,581pt お気に入り:256

悪いのは全て妹なのに、婚約者は私を捨てるようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:759

収監令嬢は◯×♥◇したいっ!・おまけのおまけ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:25,519pt お気に入り:3,541

処理中です...