転生してもノージョブでした!!

山本桐生

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崩壊編

花の都と金色の光

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 見た目は幼いけど、これでも立派な18歳なんです!!
 幼いのは仕方無いが、それでも我ながら可愛いな。
 左側、少しだけ髪の毛を取り、小さく編み込む。それを頬の辺りに垂らす。シンプルだが、俺、ちょっと可愛過ぎない? 可愛くて可愛くて震える。
 俺の部屋、鏡台の前で髪のセットしていると……

「初めまして、シノブ」

 それは女性の声だった。
 えっ、な、何だ?
 部屋の中を見回すと、それはベッドの上にいた。
「猫?」
「こっちの世界ではヌコと呼ばれるけどね」
 真っ黒な猫だった。光沢のある滑らかな毛を持つ黒猫。首輪の鈴がチリンと小さく音を鳴らす。
 確かに俺の前世で彼女は『ネコ』と呼ばれる、しかしこの世界でのイントネーションは『ヌコ』に近い。
 しかも『こっちの世界』と言った。それはつまり俺と同じ転生者の類……なのか?
「初めまして……って、あなたどこから入って来たの?」
 部屋の戸も窓も閉まっている。
「ふふっ、猫は忍び込むのが得意なのよ。私はベルベッティア。よろしくね」
 よく観察すればベルベッティアは左右の目の色が違う。右目は金色、左目は青水晶、黒の中で輝く瞳が美しい。そしてユラユラと揺れる二本の尻尾。
 コイツぁ、普通の猫じゃねぇ。
「ベルベッティアね。私に何か用なの? 場合によっては今この場で剥製にしてやろうと思うんだけど」
「ふふっ、怖い事を言わないの。私はただ鑑賞しに来たの。数奇な運命を持つあなたを」
「確かに若くして商会の代表しているから珍しいけど、数奇な運命なんて大袈裟じゃない?」
「二つの世界を知り、アリアに会った事があるんだから。それを数奇な運命と言わずに、何て言うの?」
「……じゃあ、俺が誰かも分かるわけか? よし、カン袋に押し込んでポンと蹴ってニャンと鳴かせたらぁ」
「そっちが本当のシノブなのね」
「さぁ? こっちも、もう本当の私だけどね。ベルベッティアも転生者って事で良い?」
「ちょっと違うかな。私は旅する者。いくつもの世界を、いくつもの時代を、永遠に生きているの」
「世界……って、この大陸の事だけを言っているんじゃないよね?」
「そうね。あなたの前世にも私は居たわ。その時は猫又なんて言われて妖怪扱いされていたけど」

 ベルベッティアは言う。
 俺がいた前世、そして今いるこの世界、世界はこの二つだけではない。無数の数え切れない程の世界が存在している。
 永遠に近い時の中、その様々な世界を廻るのが彼女だった。
 いつからベルベッティアがそのような存在になったのか……彼女は語らない。しかし……

「私は物語が好きなの。魔王を倒す王子の英雄譚、底の底から駆け上がる立志伝、身を焦がすような恋のお話、奇妙で不可思議な神話や伝説、そして数奇な運命を辿る転生者の物語……幸せな結末はいつも私の心を満たしてくれる」
「ベルベッティアの言う幸せな結末って、最後はみんな無残に死ぬとかそういうのじゃないでしょうね?」
 ベルベッティアは笑う。
「世間一般が思い浮かべる幸せな結末と同じよ」
「ちなみに最前列で物語を楽しむつもりなんだから、私は鑑賞料金を要求する!!」
「もちろんよ。私は幸せな結末が好きなんだから、そうなるように力を貸すつもり」
 不思議な猫だぜ。
 敵だか味方だか分からない。裏に何か目的があるのか無いのかも分からない。なのに、どこかこちらの警戒心を解くような雰囲気を纏っている。
 まぁ、全面的に信用するわけじゃないけど……

「って、事で、ベルベッティア、こっちがヴォルフラム」
 全身の毛を逆立てているのはヴォルフラムだった。鋭い牙を剥く。
「ちょっとヴォル?」
 二人を会わせてみたんだが。
「シノブ……俺はこいつが部屋に入ったのを全く気付かなかった……普通じゃないぞ」
 ヴォルフラムの鼻と、気配を察知する能力は特別に高い。それを掻い潜っているのだから、やっぱり普通じゃないのは確か。
「初めまして、ヴォルフラム。私はあなた達に危害を加える気は無いの。本当よ」
 ヴォルフラムはチラッと視線を俺に向ける。
「いやまぁ、本当のトコは分からないけどさ。いざとなったらヴォルがこう……ガブッとね」
「そうされないように気を付けるから、そんなに警戒しないで」
「それは無理。でも……シノブが良いのなら」
 そんな感じでベルベッティアが仲間に加わった!!

★★★

 お店の戸が開けられる。お客さんの来店と同時に。
「ニャ~ン」
 ベルベッティアが迎え出る。
「あら、ヌコちゃんがいるのね」
「いらっしゃいませ」
「可愛いヌコちゃん。ここの子?」
「はい、うちの看板ヌコなんですよ」
 俺は微笑んだ。
 愛想の良い看板猫としてベルベッティアは働いている。リコリスなんて最初に会った時は、ベルベッティアの毛が擦り切れて無くなるんじゃないかってぐらい撫でていた。そしてお客さんの受けも良い。ふむ、なかなか使える野郎ではないか、ふひひひっ。

「さて。じゃあ、私はちょっとアバンセんトコに顔出してくるから、後はよろしく」
 いつもコキ使っているし、たまにはご機嫌取りをしねぇとな……アバンセとのデートである。
 おっと待て、俺の外見がこれだからデートだと言っているが、心の中では男同士で遊びに行く感じなんだぜ。別にアバンセを男と意識してデートするわけじゃないんだぜ。本当だぜ。
 とは言え、身だしなみは大事だからな。
 細かいフリルが飾られた白いワンピース、その胸元には黒のリボン。そして丈が長めの黒いワンピースを合わせる。白と黒だけだが、シンプルで俺の可愛さを際立てるようだぜ。
 くるぶし辺りまでの丈の短い、黒皮のブーツでいざ出発!!

★★★

 少し離れた場所だが花の都と呼ばれる場所がある。悠久の大魔法使いララ・クグッチオが力を貸したとも言われる都は、時期を問わずに四季様々の花が咲き誇る。
 大陸観光地ランキングでも海辺の街と同じく上位にランクインする観光都市。それが花の都。
 だけどここには来たくなかった……男女で花の都を訪れるなんて……完璧にデートじゃん。男同士で訪れる所じゃねぇ……
 色彩に富んだ花畑、柔らかい風に花の匂いが乗る。
 その中、手と手を繋いで並んで歩く俺とアバンセ。
 基本全裸だったアバンセだが、フレアやホーリーに服装もコーディネートされ、元々の見た目の良さもあり、かなり魅力的な美男子に変身中。
 しかしいくら美男子でも手を繋ぐなんて……こっちの心は男なんだぞ!!と思うが仕方ない。しかもアバンセがウッキウキなんで文句も言えねぇ。
「どうだ、シノブ。凄いだろ」
「うん、凄いねぇ~」
「ここは季節に関係無く、あらゆる種類の花が咲く。綺麗だな」
「うん、綺麗だねぇ~」
「……もしかして楽しくないのか? 女性が喜ぶ場所だと聞いたんだが……」
「そんな事ないよ!! ただ見惚れていたの。だって普段は一緒に見れない花が同時に咲いているんだよ? なんか夢の中みたい。ありがとう、アバンセ」
「そ、そうか。良かった」
 アバンセは嬉しそうに笑う。
「でも逆にアバンセは退屈なんじゃない? だって本当はあんまり興味無いでしょ?」
「そんな事は無いぞ。俺はシノブが楽しんでくれるならそれが一番楽しい」
「そ、そうなんだ」
 こ、この野郎、嬉しい事を言ってくれるじゃねぇか。ちょっと胸にキュンッと来ちゃうぜ……サービスしたろ!!
 俺はアバンセの腕を抱く。
「ほら、向こうに変わった花があるみたい。行ってみよ」

 しかしよく我慢出来るもんだ。
 唇と唇を合わせるようなキスもしない。服の上から軽く体を触らせる程度なら許しているけども、それ以上は無し。
 俺も男だったから分かるが、辛くはないのだろうか……それも竜と人では時間の感覚が違うから我慢出来るのかも知れないが。
 まぁ、押し倒されそうになったら返り討ちにしてやるけどな!!
 なんて余計な事を考えていたから……
 ドンッ
「あうっ」
 俺は何かに当たりバランスを崩すが、その体をアバンセが支える。
「ボケっとしてんなよ」
 俺は男に吐き捨てられて気付いた。
 すれ違いざまに一組の男女、その男の方と当たったのだ。
「あっ、ごめんなさい」
「邪魔なのよ」
 女の方が言いながら、男女はそのまま俺の横を通り過ぎる……かと思ったが、男女はその足を止めて振り返る。
「てめぇはあの時の!!?」
 男の方が大声を上げた。
 そして女は舌打ちをして言う。
「こんな所で会うなんて……本当に気分が悪い」
 この男女は!!
 海辺の街でパルとデート中に喧嘩したあのカップルだ!!
「あーあの、お久しぶりです」
「何がお久しぶりだ!! てめぇ等のせいでこっちは……」
 男はアバンセへと視線を向けた。
「……前の奴と違うじゃねぇか」
 男の言葉に女は続ける。
「もしかして取っ替え引っ替え男と遊んでいるんじゃない? 幼い顔をして淫乱なのよ」
 二人は鼻で笑う。
 俺は隣のアバンセに視線を向けた。
 ……!!?
「二人ともそこまでにしといた方が……」
「うるせえぞ。今度は無事に済むと思うな。男は半殺しにして、てめぇは娼館にでも売り飛ばしてやるよ。その貧相な体が好きな奴もいるだろ。犯されてボロボロにされちまえ」
 男は下卑た笑みを浮かべた。
 ああっ、コイツ等またボコボコにされるんだろうな……
 アバンセは俺に聞こえる程度に小さく呟く。
「前の奴とはパルの事なんだろう? それだけでも腹立たしいんだが、シノブに対してその態度……それが許せん。八つ裂きにしても物足りない」
「ちょーと!! アバンセ!! 分かってるとは思うけど、せめて殺しちゃダメだからね!!」
「死ぬのはてめぇ等だろうが!!」

 もちろんアバンセの圧勝である。
 男女揃って花の養分になる寸前で辛うじて生きている。殺されないだけ感謝してくれぇ……

★★★

 そしてデートの後はいつもこんな感じ。

 竜の山に戻り、夕暮れの中で二人きり。
 座ったアバンセの膝の上に俺は座り、そのアバンセの首に手を回す。
「ねぇ、こんなの楽しい?」
「楽しいというより幸せだ」
「だったら良いけどさ」
 アバンセの腕が俺の細い体をギュッと抱きしめる。体温を交換するかのような密着。たまにアバンセの手が俺の体を軽く撫でる。その度に俺の体はゾクッと反応する。そんなに嫌じゃない。
「あふぅ」
 小さな吐息が漏れる。
 このままエッチな展開になりそうな時もあるが、基本的にはこうやって抱き合っているだけ。少しだけの会話を交わしつつ、お互いの心臓の音を聞き続ける。
 ……
 …………
 ………………
「シノブ」
「ん……」
 アバンセのキスが首筋に触れる。
 ここからがヤベェ!! しっかりと理性を保たねば純潔を失っちまう!!
 これは快楽の為ではなく、俺の仕事の一環なんだ!!と、誰にともなく言い訳。

 それは突然だった。

 竜の山が光に包まれた。それもほんの一瞬。金色の光。
 その眩しさに俺は目を閉じる。次の瞬間、俺はアバンセの膝から落ちて、地面に尻を強打。
「ちょ、な、何?」
 尻を擦りつつ目を開ければすでに光は消えていた。ついでにアバンセも。
「アバンセ?」
 アバンセの姿が見えない。さっきまで俺がその膝の上に乗っていたのに……大声で呼んでも、体育教師ホイッスルを吹いても、アバンセは現れない。
 それが普通でないことだけは分かる。
 一体、何がどうなっているやら……俺は辺りを見回す。そこにあるのはいつもの見慣れた木々の景色が広がるだけだったのだ。
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