転生してもノージョブでした!!

山本桐生

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予兆編

人身売買と商売絡み

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 深夜。エルフの町、郊外。この先は大森林。
 人の気配などまるで感じない。
 服の下にはコノハナサクヤヒメ。ベルベッティアが野良猫のふりをして付かず離れず傍にいる。
 森の中に入り、しばらく歩くと……
「止まれ」
 それは男の声。闇夜に紛れて姿は見えない。
「……ルチエを誘拐したのはあなた達?」
 返事は無い。
 近付いてくる微かな足音。そして頭にズボッと布袋。さらに両手を縛られ、そのまま縄のようなもので引っ張られる。
 増える足音。複数が周囲にいる。
「目的は?」
「……」
「どこに連れていくつもり?」
「……」
「もし金銭目的の誘拐ならいくらでも払うから解放してほしいの」
「……」
 足元の感触が変わる。土と草の感触から石畳の感触に。町の中に戻ってきたか。

 時々、足が止まる。
 探索魔法で尾行の確認をしているのだろう。でもシャーリーの魔弾の効果範囲は驚く程に広くなっていた。気付かれる事はない。これもガーガイガーの教えと、単純な成長だろうねぇ。
 やがて建物の中へ。
 布袋を取られ、部屋の中へと蹴り飛ばされた。
「ぐべぇっ」
 床の上を転がる。
「シノブ!!」
「ルチエ?」
 窓も、家具すらない殺風景な部屋。吊るされたランタンが、部屋の中を薄暗く照らしていた。そこにいたのは私と同じく両手を縛られたルチエ。心配そうな表情を浮かべて言う。
「怪我は? 大丈夫か?」
「私は大丈夫だけど、ルチエは? 攫われた時に怪我とかしてない?」
「俺も大丈夫……だけどごめん……また迷惑を掛けて……」
「逆かもよ。私が狙われててルチエが巻き込まれた可能性だってあるんだから」
「でも……ロザリンドには動くなって言われたのに……逃げて助けが呼べるならそっちの方が良いと思って……」
「ああ……まぁ……そこは……うん、ルチエの失敗だね」
 ルチエは涙目で歯を食いしばる。
 リアーナとロザリンドから話を聞いていた。
 大森林の奥、魔物討伐中を襲われたわけだが、その際にルチエは『隠れて動くな』と指示されていた。リアーナもロザリンドも気配に鋭い。ルチエの位置が分かるなら、守りながら戦う事も難しくなかった。
 しかしルチエは独自の判断で動いてしまった。判断ミス。
「でもルチエをその場に留めるのが敵の作戦かも知れない」
「なんで俺を?」
「ルチエがその場に留めるのは、同時にリアーナとロザリンドの足止めにもなるでしょ」
「じゃ、じゃあ、俺はどうすれば良かったんだよ?」
「自分の力、仲間の力、敵の力、自分達の目的、敵の目的、原因、動機、地形、そりゃもう色んな状況で正解は変わるよ。結果論だよね」
「それじゃ俺……何もできなくなる……」
「その中で正解を導く為に必要なものがある。それは『経験』なんだって私は思うよ。失敗だって一つの経験。今日の事だって絶対にルチエの力になるはずだから、そんなに落ち込まない」
 私は笑った。
 少しだけルチエは考えて……
「……うん……シノブがそう言うなら……」
 実際に私だって失敗はみんなにフォローしてもらってるだけだしな。
「とりあえず……ルチエ、何か気付いた事はある?」
「……俺、足音だけで相手の体格が分かるように訓練していたんだけど……一人、軽い足音の奴がいる……多分、女か子供だと思う」
「聞き出した情報と一致してるね。女が一人いるみたい……まぁ、とりあえず周りにはみんないるから安心して。でも相手の目的を探りたいからもう少し我慢してね」
 ……
 …………
 ………………
 やがて。
 施錠されていた戸が開けられた。そこには……
「入れ」
 男と。
「殺さないで……」
 女。
「言う事に従えば殺しはしない。お前達は大事な人質だからな」
「……」
 両手を拘束された女性。年齢的には二十代の真ん中くらいか。薄暗いランタンの灯に、不安の表情が浮かんでいた。
 ……
 …………
 ………………
「私を誰だと思っている!!? こんな事をして許さ、うおっ」
 さらにもう一人、突き飛ばされるようにして中年の男。
「大丈夫ですか?」
「……ああ、怪我は無いが……乱暴な」
 中年の男の視線が私で止まる。
「……な、何ですか?」
「もしかして……シノブさんか? あの商会の」
「そうですけど……違ったら申し訳ありません、商工ギルドのレンツィオさんでしょうか?」
「顔を合わせた事はあるが話すのは初めてだったな。まさかその初めてがこんな所とは思わなかったが」
 交易都市の商工ギルドで顔と名前を見掛けた事があった。
「それとこの子はルチエ。うちの子です。あなたは?」
 女性の方へと視線を向ける。
「……ヌーノと申します」
「私とシノブさんが同時に誘拐されたとなると、何か商売絡みの事だと思うが……そちらさんは……」
 レンツィオはヌーノを見るが、見覚えは無いようだった。
「……」
 ヌーノは何も答えない。ちなみに私も見覚えは無い。
 とにかく身代金目的の誘拐ではないと思うけどな。私の周りは護衛が強過ぎる。狙うのにもっと楽な金持ちなんていっぱいいるし。
 あれだけの人数を掛けたんだ、私達じゃないとダメな理由がある。だがその理由はアッサリと明かされるのであった。

 粗暴な雰囲気を纏った男達。各々が手に武器を持つ。
「さて。さっきは従えば殺さないと言ったが……シノブ以外には死んでもらう」
 その言葉にヌーノは息を飲んだ。ルチエは男達を睨み付ける。
「待て!! り、理由は何だ!!? 金が目的じゃないのか!!? 恨みか!!?」
 と、レンツィオ。
 男は静かに言う。
「目的はシノブだからだ」
「私?」
「だ、だったら私は関係無いだろ!! 解放しろ!! ぐはっ!!」
 レンツィオは蹴り飛ばされた。
「救国の小女神シノブ……その姿は女神アリアを彷彿とさせる。お前みたいな美しい小娘を欲しがる変態はどこにでもいる。俺達の目的は『人身売買』という事だ」
「だったらレンツィオさんの言う通り、私以外は解放してあげても良いでしょう?」
「この男がここで死んでいれば、事件は『商売絡み』だと判断されるだろう。これは時間稼ぎの攪乱さ」
「じゃあ、ヌーノさんは?」
「この女は」
「やめて!!」
 ヌーノは叫ぶ。
「……まぁいい。とにかくお前達は死ね」
 男達は武器を構えて迫る。
 私は小さくコノハナサクヤヒメに呼び掛けた。次の瞬間。
 水滴が弾丸のように男達の体を貫いた。もちろん致命傷を避けて。
 男達の一人が叫ぶ。
「魔法!!? 魔法封じの拘束のはずだろ!!?」
「これでもね、救国の小女神なんて呼ばれているんですよ。この程度の拘束で私の魔法は抑えられませんよ」
 実際は魔法じゃないしな!!
 水の刃が拘束を切断する。
 ドタドタと集まってくる男達。だが高速で撃ち出される水滴の弾丸を避けられる者など一人もいない。
「ああっ、やられた!! クソッ、俺の足が!!」「がぁぁぁぁぁっ!!」「ど、どうなってやがる!!?」
 いやいや、そりゃコノハナサクヤヒメも優秀だけども、コイツ等ちょっと弱過ぎない?
「レンツィオさん、ヌーノさん、逃げますよ。私が先を歩くから後ろはルチエがお願い」
「任せろ」
 頷くルチエ。

 それからすぐである。リアーナ達と合流したのは。
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