彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi

文字の大きさ
3 / 27

第3話:グレイズが気を使ってくれます

しおりを挟む
翌朝、お兄様と一緒に貴族学院へと向かう。

「アンリ…その、元気出せ。令息はエディソン様だけではない。お前にもきっと素敵な殿方が現れるだろうし…」

どうやら私が落ち込んでいると思っているのか、珍しく優しい言葉を掛けてくるお兄様。

「ありがとうございます、お兄様。でも、私は大丈夫ですわ。これからは、学院生活を楽しみたいと思っております」


「そうか、そうだな。お前はこの1年半、エディソン様に全力をささげてきたんだ。今後は友人との思い出作りに励むといい」

そう言って励ましてくれたお兄様。でも私、グレイズ以外の友人はいないのよね…と、都合の悪い事は、心の中でそっと呟いた。

「さあ、学院に着いたぞ。いいな、絶対に3年棟に来るなよ」

「分かっていますわ。さっきまで優しい言葉を掛けていてくれたのに、どうしてまたその話に戻るのですか?」

「それだけお前は、今までやりたい放題だったって事だ。俺は心配でたまらないんだ」

一気に元のお兄様に戻ってしまった。まあ、妹が家より身分の高い侯爵令息を追い回していれば、気が気じゃないのは理解できる。私、本当にお兄様にも迷惑を掛けていたのね…

「お兄様、今までごめんなさい。でも、本当に大丈夫ですので。それじゃあ、先に行きますね」

お兄様に頭を下げ、自分の教室へとやって来た。いつもなら真っ先に3年棟に行くのだが、そのまま自分の席についた。

「アンリ、おはよう。今日は3年棟に行かないのか?」

不思議そうに私に聞いて来たのは、グレイズだ。

「ええ、私、もうエディソン様に付きまとうのは止めたの。本人はもちろん、ネリア様や家族にも迷惑を掛けていた様だし。それに何より、私自身も疲れてしまったから」

「そうか、やっと諦めたか。そもそもお前みたいなどこにでもいる伯爵令嬢を、貴族界で3本の指に入るほどの人気の高い、マッキーノ侯爵令息が相手にする訳ないもんな。それでいいんだよ、アンリ。お前にはお前に合った男がいるはずだ。やっと現実を見てくれたんだな、俺は嬉しいよ」

私の肩をバシバシ叩きながら、失礼な事を言うグレイズ。こいつ、黙って聞いていれば、私の事を何だと思っているのよ!それも大きな声でベラベラ話すから、皆がこちらを見ているじゃない。本当に恥ずかしい男ね!

グレイズに絡まれている間に、授業が始まった。そんなグレイズ、休み時間のたびに私に話しかけてくれる。そのお陰で、時間を持て余すことはない。

そして迎えた昼休み。いつもなら真っ先に3年棟に向かうのだが、さて、どこでお弁当を食べようかな?

「アンリ、飯だぞ。今日は天気がいいからテラスに行こう」

そう言うと、グレイズが私の手を掴んだ。

「お~い、皆も今日はテラスで食べようぜ。ほら、行くぞ」

グレイズの掛け声で、皆がぞろぞろとテラスにやって来た。そしてクラスの子たちも交えて、昼食タイムだ。

「おお、アンリの弁当に入っているその肉炒め、旨そうだな。1口よこせ」

ちょっと目を離したすきに、私のお弁当からお肉を強奪するグレイズ。私の大好物を食べるなんて、許すまじ~

「グレイズ、よくも私のお肉を食べたわね。それなら私は、このステーキをいただくわ」

すかさずグレイズのお弁当から、ステーキを強奪し、口に放り込んだ。このお肉、柔らかくて美味しいわ。それにソースも私好みの甘めだし。

「おい、俺の肉を取るなんて。お前それでも令嬢かよ」

「先に私のお弁当を取ったのは、グレイズの方でしょう。あっ、また食べた!」

私に文句を言いながらも、再びお肉を強奪するグレイズ。こいつ、どれだけ食い意地が入っているのよ。

そんな私たちの姿を見た令息が急に笑い出したのだ。つられて他の子たちも笑い始めた。一体何がおかしいのかしら?

「ハハハッハハ、アンリ嬢って、こんな子だったんだ。いつも教室にいないし、俺たちには見向きもしないから、高貴な身分の人間しか興味がないのかと思っていたよ」

「確かに、いつもグレイズ様とお話をしている姿しか見た事がなかったので…きっと私たちの事なんて眼中にないと思っていましたわ」

「私は高貴な身分の人間にしか興味がないのではなく、エディソン様をお慕いしていただけですわ。でも、私なんて全く眼中に無かったようですが」

そう、私はただエディソン様が好きだっただけなのだ。

「もしよろしければ、これからは私とも仲良くして頂けますか?実はずっとクラスの皆様と仲良くしたいと思っていたのです。でも、どうしていいか分からなくて…」

「もちろんだよ。せっかく同じクラスになったんだ。仲良くしようぜ」

そう言ってほほ笑んでくれた令息。他の令嬢や令息たちも、頷いてくれている。

「よかったな、アンリ。こいつ実はずっと皆と仲良くしたいって悩んでいたんだ。本当に、世話の焼ける奴だぜ」

私の頭をポンポンと叩きながら、笑っているグレイズ。そういえば昼食に誘ってくれたのも、皆を呼んでくれたのもグレイズだった。もしかして、私が早く皆に馴染めるように、わざとお弁当を取ったのかしら?普段バカな事ばかりやっているグレイズだけれど、私が困ったり落ち込んだりしていると、いつもこうやって助けてくれる。

なんだか胸の奥が温かいもので包まれた。

その時だった。

「アンリ、弁当食わないのか?それなら俺が貰ってやるよ」

そう言って他のおかずまで食べ始めていたのだ。

「ちょっと、誰が食べないなんて言ったのよ。人のお弁当を勝手に取らないでよね」

急いでグレイズからお弁当を奪い取る。


「ハハハッハ、お前みたいな食いしん坊令嬢じゃあ、世界がひっくり返ってもマッキーノ侯爵令息に相手にされることはないわな。お前、1年半、本当に無駄な時間を過ごしたな」

ちょっと、誰が食いしん坊令嬢よ。その上、また暴言を!こんな失礼な男に、少しでも感謝した私がバカだったわ。

「うるさいわね、食いしん坊なのはグレイズでしょう。すぐに人のお弁当を取るんだから。皆、気を付けて。油断するとグレイズにお弁当とられるわよ!」

「おい、人聞きの悪い事を言うなよ」

「人聞きの悪い事を言っているのはグレイズでしょう。そんな失礼な事ばかり言っているから、あなたは令嬢にモテないのよ」

「俺がいつモテなかったんだよ。大体お前は…」

「お前たち、いい加減にしろよ。本当にさっきから子供の喧嘩みたいなことをして」

は~とため息を吐きながら、令息が私たちの喧嘩を止めた。

「「ごめんなさい」」

2人でシュンとなって頭を下げた瞬間、なぜか周りから笑いが沸き起こった。なぜ笑われているかよくわからない。

ただ、この一件ですっかりクラスの皆と仲良くなったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」  その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。  王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。  ――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。  学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。 「殿下、どういうことでしょう?」  私の声は驚くほど落ち着いていた。 「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

処理中です...