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第49話:大切な人たちと残り少ない時間を過ごします

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サフィール様を見送った後は、屋敷に戻ってきた。今日は朝から色々とあって疲れた。シャティに手伝ってもらいながら、一旦湯あみを済ませ、ハーブティで一息つく。

「お嬢様、よかったですね。ついにライム殿下をギャフンと言わせることに成功しましたね」

なぜか急にそんな事を言い出したシャティ。一体何を言っているのかしら…

「シャティ、何をどうしたら、そういう発想になるの?」

ジト目でシャティを見つめる。

「お嬢様はライム殿下をギャフンと言わせるため、今までずっと頑張っていらしたではありませんか。お嬢様にフラれたライム殿下、あの後大泣きしておりましたよ。これは立派なギャフン成功と言えますわ」

満面の笑みで、そう言い切ったシャティ。確かにギャフンは成功したかもしれない。でも…

「シャティ、もう私はライムをギャフンと言わせたいと思っていなかったのよ。何より、ライムに自分の気持ちを伝えた時、とても苦しかったのだから…」

「まあ、そうだったのですね。それは失礼いたしました。でも、あれほどライム殿下にギャフンと言わせることに執着していたお嬢様から、そんな言葉が出るなんて。お嬢様がまた成長された証ですね」

成長した証か…そもそも、シャティはなぜまだ私がライムをギャフンと言わせたいと思っていたのかしら?まあ、これ以上突っ込むのも面倒なので、そっとしておこう。

「そうだ、お嬢様。クレーション王国に行ったら、早速以前お世話になっていた修道院に顔を出しましょう。きっと子供たち、喜びますよ」

「そうね、皆元気かしら?あの子たちに会えるのが楽しみね。ねえ、シャティ、あなたはどうするつもり?私は今後、一生クレーション王国で生活する事になるのだけれど…」

「もちろん、私もクレーション王国に付いて行きますわ!当たり前のことを聞かないでください!」

なぜかシャティに怒られてしまった。シャティなら、付いてきてくれると言いそうな気がしていたけれどね。

「とにかく、後1ヶ月後にはクレーション王国に向かわなくてはいけません。それまでにお世話になった人たちに、しっかりお別れの挨拶を行わなくてはいけませんね」

「そうね、まずは明日、貴族学院の友人たちに伝えるわ」

きっとあの子たちなら、自分のことの様に喜んでくれるはず。なんだかそんな気がした。

翌日、早速皆にサフィール様と婚約する事、1ヶ月後クレーション王国に行く事を伝えた。

「そう、やっぱりセイラはサフィール殿下とくっついたのね。おめでとう、セイラ。でも、セイラがクレーション王国に行ってしまったら、寂しくなるわね」

少し寂しそうに笑ったアイリ。

「そうね、せっかく仲良くなれたのにね…そうだわ、クレーション王国に行ったら、手紙を書くわ。それに、ミュンジャス王国にもたまには帰ってこられると思うから、その時は会ってくれる?」

「もちろんよ。私たちも、クレーション王国に遊びに行ってもいいかしら?」

「ええ、ぜひ遊びに来て。皆が遊びに来てくれたら、全力でおもてなしするわね」

「まあ、それは楽しみだわ」

そう言って皆で笑った。

「そうだわ、クレーション王国に行くまでの1ヶ月間で、たくさん思い出を作りましょう。ねぇ、いいでしょう、セイラ」

「もちろんよ。そうだわ、この前話していたケーキ屋さん。サフィール様と一緒に行ったのだけれど、とても美味しかったわ。また皆で行きましょう」

「あら、いつの間に2人で行ったの?既にラブラブね」

令嬢たちがニヤニヤしている。もう、すぐにからかうんだから。

「たまたま誘われて行っただけよ。そんな事を言うなら、もう行かないわよ」

プイっと顔をそむけた。

「ごめんごめん、早速ケーキ屋さんに、今から行きましょう。とにかく後1ヶ月しかないのだから、たくさん思い出を作らないとね」

そう言うと、私の手を取ったマリー。他の令嬢も立ち上がり、早速馬車に乗り込みケーキ屋さんへと向かった。

「ねえ、せっかく皆で来たのだから、全員でシェアしましょう。一口ずつくらいなら、全ケーキ制覇出来るわよ」

「いいわね、そうしましょう。それにしても可愛いケーキね。実は私、お店のケーキを全種類制覇するのが夢だったのよ」

そう言いつつ、皆でケーキをシェアする。そしてケーキを食べながら、話しに花を咲かせ、各家のメイドたちに帰る様うながされるまで、楽しい時間を過ごしたのであった。


数日後。
お兄様と一緒に馬車に乗り込み、孤児院を目指す。私が立ち上げた協会は、今後お兄様が引き継いでくれることになったため、その挨拶に向かうためだ。それと同時に、今までお世話になった孤児院の子供たちにも、お別れを言うのだ。

色々な孤児院を回っていた為、何日かに分けて訪問する。どこの孤児院の子供たちも、本当にいい子たちばかり。正直別れが辛い。でも、黙ってクレーション王国に行く事は出来ない。

きちんと子供たちに挨拶をしてから、旅立ちたいのだ。早速孤児院に着き、院長に挨拶をする。

「まあ、ミューディレス公爵令嬢様は、隣国に嫁がれるのですね。それはおめでとうございます。でも、寂しくなりますね」

そう言って寂しそうに笑った院長。

「今後協会は兄が引き継ぎますので、どうか引き続きよろしくお願いいたします。それと、最後に子供たちに会いたいのですが、よろしいでしょうか?」

「もちろんです、どうぞ中へ」

いつも通り、子供たちのいる部屋へと入って行く。

「あっ、セイラおねえちゃんだ。ジャックおにいちゃんもいる。サフィおにいちゃんとラムおにいちゃんは?」

「今日は私たちだけよ。今日はね、皆にお別れを言いに来たの。実はね、私、サフィさんと結婚する事になったの。それで、サフィさんの住む国でもある、クレーション王国に行く事になったのよ。皆、今まで私と仲良くしてくれて、ありがとう。とても楽しかったわ。これ、少しだけれど私の気持ちよ」

子供たちにお菓子の詰め合わせを渡した。

「イヤだ!サフィおにいちゃんが、ここにいればいいよ」

「そうよ、サフィおにいちゃんにいてもらって」

泣きながら私にしがみつく子供たち。こうなる事を覚悟していたが、やはり辛い。

「ごめんね、皆。でも、サフィさんはこの国の人じゃないの。だから、この国にはいられないの」

そう伝えたが、やはりまだ小さな子供たちには、理解できないだろう。その時だった。

「セイラおねえちゃんをこまらせちゃダメ」

泣きながらもそう訴えたのは、7歳のミアレだ。私とサフィール様の恋の行方を、一番応援してくれていた子。

「ありがとう、ミアレ」

そっと彼女の元に行き、抱きしめた。

「ぜったいにしあわせになってね」

そう言って泣きながらも笑ったミアレ。あぁ、何て優しい子なのかしら!さらにギューッとミアレを抱きしめた。その後落ち着いた子供たちに見送られ、再び馬車に乗り込む。

その後も、何軒かの孤児院を回った。どの孤児院でも、皆泣いて別れを惜しんでくれた。最後の孤児院を後にし、馬車に乗り込む。

「お兄様、どうか子供たちの事、よろしくお願いします」

向かいに座るお兄様に頭を下げた。気が付くと、瞳から涙が溢れる。次から次への流れる涙を、止める事が出来ない。そんな私の頭を優しく撫で

「お前の意志は、俺がしっかり受け継いだ。だから、子供たちの事は心配するな。お前もクレーション王国の子供たちを、幸せにしてやれよ」

「ええ、もちろんです」

優しく微笑んだお兄様に、泣きながら笑顔を向ける。きっとお兄様なら、子供たちの事をしっかり考えて行動してくれるだろう。そんな気がした。
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