上 下
69 / 82

第69話:卒業式当日を迎えました

しおりを挟む
レオナルド様と1日一緒に過ごしたあの日、私の心は随分と吹っ切れた。好きな人の為に身を引く事が、どれほど辛いか知っている。それでもレオナルド様が幸せになれるなら、それだけで私は幸せだ。

明日はいよいよ卒業式。今日中に荷物をまとめて、地下通路の出口付近に置いておこうと思っている。ひとつづつ荷物を詰めていく。あまりたくさんの荷物を持って行かない方がいいと、メアリーが教えてくれた。特に小説などは重いため、持って行くのは諦めよう。でも、この本は持って行こう。

私の大好きな小説、エレフセリア王国に住んでいる時にお金をためて買った、大切な小説だ。既にボロボロだが、これだけは持って行かないとね。他にも、洋服や下着なども詰めた。よし、準備は完了ね。

周りを確認し、急いで地下通路に荷物を運んだ。私が国を出るときに置いて行く手紙の準備も出来た。後は明日を迎えるだけだ。

このベッドで眠るのも、今日で最後なのね。初めてこのベッドで寝た時は、あまりにも柔らかくて大きくて、興奮したものね。なんだか昨日の事の様に思い出すわ。

この7年、本当に幸せだった。大切な家族やレオナルド様、レオナルド様の家族に囲まれて。

お父様もお母様もきっと悲しむだろうな。そう思ったら、胸が締め付けられた。でも、私はもう決めたのだ。そのままきつく瞳を閉じて、なんとか眠りについたのであった。


翌日、制服に袖を通す。この制服を着るのも、今日で最後だ。今日は卒業式の後、そのまま学院でパーティーがある。今回は制服でパーティーに参加する事になっている。

きっと帰ってくるのは夜だろう。王宮に戻ってきたら、すぐに準備をして国を出ないといけないのね…そう思ったら、なんだかこの部屋が懐かしくて、つい見まわしてしまった。

いつもの様に門に向かうと、両親とシャルル、レオナルド様、さらにレオナルド様の両親も待っていた。

「オリビア、卒業おめでとう」

「おめでとう、オリビア」

「お父様、お母様、ありがとうございます」

なぜか悲しそうな顔をしているお父様とお母様。そんな2人を、ギュッと抱きしめた。きっとこうやって2人と話すのも、最後かもしれない。

「オリビア、本当に大きくなったな。もう卒業だなんて…オリビア、もしレオナルドと結婚するのが嫌なら、婚約を解消してもいいんだよ。君はずっとこの王宮で暮らせばいいのだから…」

いつになく真剣な表情のお父様。

「陛下、いい加減にしてください!オリビアは僕と結婚して、公爵家で暮らしますので」

すかさずレオナルド様がお父様に文句を言っている。でも私は、1人クレティーノ王国で暮らすつもりだ。

「さあ、オリビア、そろそろ行こうか。遅刻すると大変だからね」

「ええ、分かったわ。それじゃあ、お父様、お母様、シャルル、それから公爵様、お義母様、行って参ります」

皆に挨拶をして、馬車に乗り込んだ。これで両親の姿を見るのが最後かと思うと、どうしても目に焼き付けておきたくて、両親から視線を外すことが出来ない。

「オリビア、どうしたんだい?そんなに陛下や王妃様を見つめて。確かに明日から君は、公爵家に通う事になっているが、別に会えなくなる訳ではないんだよ。それなのに、そんな名残惜しそうにして」

「ごめんなさい、今日は卒業式でしょう?なんだか悲しくなってしまって。私、この学院で色々な事を経験したから」

「そうだね…しなくてもいい経験もしたね…」

「えっ?」

「何でもないよ。ほら、学院に着いたよ」

レオナルド様と一緒に馬車を降り、今日の会場でもあるホールへと向かった。すると、メアリーが私たちの方にやって来た。

「おはよう、オリビア、レオナルド様。今日は卒業式ね」

「おはよう、メアリー」

いつも以上に明るいメアリー。そりゃそうだ、今日は恋敵でもある私が、姿を消す日なのだから。きっと大好きなレオナルド様と一緒になれると、胸弾ませているのだろう。

「レオナルド様、今日の卒業パーティーの件で、少しお話があるのですがよろしいでしょうか?」

「ああ、いいよ。何かな?」

2人が仲良く話し始めた。イヤ…私、この人たちのそんな姿を見たくない…そんな思いから

「私、先に席に付いているわね」

そう伝え、その場から離れようとしたのだが…

「オリビア、僕の傍から離れてはいけないよ。最近少し自由にしすぎた事、反省しているんだ。今日は僕の傍にいてもらうからね。それで、メアリー嬢、何の話だったかな?」

そう言うと、私の腕をギュッと掴んだ。一体どういうつもりなの?好きな人と2人きりで話せるチャンスなのに。

もしかして、私が知らないだけで、2人の事が噂になっているとか?そういえばお父様も、急に“もしレオナルドと結婚するのが嫌なら、婚約を解消してもいいんだよ”なんて言っていたものね。

そんな事を考えてしまう。まあそれも、私が男性と駆け落ちしたとなれば、話しは別だろう。とにかく、私が消えれば丸く収まること。

そんな思いで、2人が話している姿を見守ったのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

言いたいことは、それだけかしら?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:57,218pt お気に入り:1,402

クラス転移で、種族変換されちゃいました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:2

乗っ取られた令嬢 ~私は悪役令嬢?!~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:525pt お気に入り:115

元婚約者に未練タラタラな旦那様、もういらないんだけど?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,249pt お気に入り:2,733

『私に嫌われて見せてよ』~もしかして私、悪役令嬢?! ~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:46

私の婚約者は、いつも誰かの想い人

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:79,265pt お気に入り:3,453

聖女を召喚したら、現れた美少女に食べられちゃった話

恋愛 / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:13

処理中です...