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第11話:陛下が王宮内を案内してくれました

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バーイン王国に来て、早2ヶ月。随分と陛下とも普通に話しが出来るようになってきた。最初の頃は、私と目を合わすのもためらっていたが、最近は私の目を見て話しをしてくれる様になった。それが嬉しくてたまらない。

今日も陛下と2人で朝食をとっている。

「アナスタシア嬢、この国に来てもう2ヶ月も経っているが、ほとんど部屋から出ていないらしいじゃないか。それでだな…その、今日は午前中少し時間があるから、王宮内を案内しようと思っているのだが…」

そういえばこの2ヶ月間、ほとんど海と図書館くらいしか行っていなかったわね。あまり私が王宮内をウロウロしては申し訳ないと思っていたのだが、せっかく陛下が誘ってくれているのだし、ここはお言葉に甘えて。

「それではお願いします」

「それじゃあ、朝食が終わったら、早速王宮内を案内しよう」

そう言うと、ほほ笑む陛下。最近陛下は、こうやってほほ笑んでくれる様になった。それがなんだか嬉しい。食後早速陛下に連れられ、王宮内を案内してもらった。基本的に王宮の作りはカルビア王国の王宮とよく似ていた。ただ、いたるところに脱出用の通路があるのだ。

さらに、あちらこちらに小さな窓がある。

「陛下、この小窓は一体なんですの?」

「これか、これは敵が攻めてきた時に、この小窓から攻撃でいる様になっているんだ。それから、ここが地下の隠し部屋に繋がる通路だよ」

そう教えてくれた。

「ここが国王でもある、私の部屋だ。さあ、入っておいで」

次に案内してくれたのは、何と陛下の部屋だ。さすがに陛下の部屋に私が入るだなんて。そう思って固まっていると。

「大丈夫だよ、この部屋にはね、君に覚えておいて欲しい大切な場所があるんだ」

そう言うと、本棚を移動させた陛下。そこには扉が。さらに扉を開けると、6畳ほどの小さな部屋がある。その部屋のカーペットをめくると、また扉が出てきた。


「我が国はね、どうしても戦争から切っても切れないから。万が一の時に備えて、王族の逃げる部屋が準備されているんだ。この扉は、地下の隠し部屋へと繋がっているんだよ。さあ、行こうか」

扉を開けると、どうやら地下に続く階段が。ろうそくの明かりを頼りに、ゆっくり降りていく。すると、ここにも大きな扉が。扉を開けると、広い空間にいくつもの部屋がある。これはすごいわ。

そのうちの1室に入った陛下。再びカーペットをめくると、小さな切込みがある。そこには、鍵が入っていた。

さらに別の部屋に移り、ここでも本棚を移動させると、またまた扉が。どれだけ隠し扉があるの?そう思うくらい、色々なところに隠し扉があるのだ。

「この部屋にある扉の先は、王宮の裏山へと繋がる道になっている。万が一敵国が攻めてきたら、さっきの通路を使って、裏山に逃げて欲しい。多分敵国も、ここまではおってこないとは思うが…いいかい?この通路は、王族しか知らないんだ。いわば私と君しか知らない。だから、もし緊急事態になったら、迷わずさっきの通路を使って逃げるのだよ」

陛下が真剣な表情で訴えかけてくる。

「この通路は、王族のみが知るとおっしゃいましたよね。そんな大切な隠し通路を、私の様な者に教えるなんて…」

「何を言っているのだ。君は大切な客人だ。それに、たとえ敵がこの国をお襲って来たとしても、私がこの通路を使う事はない。この城が落とされるときは、私の命が尽きるときだ。アナスタシア嬢、万が一の時は、必ずこの通路を使って逃げて欲しい。分かったね」

王族のみが知っている隠し通路を、あえて私に教えてくれるだなんて。どうしてこの人は、こんなに私を大切にしてくれるのだろう。どこの馬の骨とも分からない、私を…

でも、どうして今隠し通路を私に教えたのかしら?もしかして、近々戦争が?

「陛下、もしかして近々戦争が始まるのですか?」

「いいや、今のところ戦争は始まらないよ。5年前の戦争で、各国と和平条約を結んだし。それに国境付近には、今まで以上に厳重な警戒を敷いている。だから、そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫だ。ただ、万が一の時に備えてだよ」

万が一の時…

「少し暗い話になってしまったね。次は中庭を案内しよう」

私の手を引き、来た道を引き返していく。そういえば、陛下にはご両親がいないのかしら?さっき王族は自分1人と言っていたし。もしかして5年前の戦争で、ご両親を亡くされたとか?

て、そんな事はさすがに聞けない。でも、きっとたった1人残った王族として、必死にこの国を支えてきたのだろう。やっぱり陛下はすごいな。

私なんて、足元にも及ばない。

ふと引き返していく通路を見る。どうか私がこの通路を使う日が来ませんように。そっと心の中で、そう願ったのだった。


※次回、国王(カイ)視点です。
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