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第55話:正直まだ辛いけれど…~アレックス視点~
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客間に着くと、心配そうな顔のディアンが待っていた。
「アレックス…随分とやつれてしまったのだね。ごめん、僕の顔なんて見たくないかもしれないと思うけれど、どうしてもアレックスと話がしたくて」
「ディアン、久しぶりだね…なんだか最後にディアンに会った日が、遠い昔の様に感じられるよ…」
力なく笑う僕に、ディアンが悲しそうに見つめている。
「アレックス、今日は君と腹を割って話したくて来たんだ。君は僕の、大切な幼馴染だからね」
「大切な幼馴染?違うだろ?僕はディアンが大好きだったユーリを傷つけ、苦しめた男だ。そして君との約束を、平気で裏切る様な人間だよ。ディアンだって僕の事、恨んでいるのだろう?君があの日、どんな思いでユーリを諦め領地に行ったのか…」
今ならわかる。きっと身を切られる思いで、ユーリを諦め1人で旅立ったディアンの気持ちが。ユーリの幸せを願い、身を引いたディアンを僕は…
「正直、ユーリがアレックスに拒まれ、深く傷ついたと知った時、腸が煮えくりかえるくらい怒りを覚えたよ。僕がどれほどユーリを愛していて、どんな思いでユーリを諦めたと思っているのだ!そう叫びたかった。アレックスをぶん殴ってやりたいと思った。でも…」
悲しそうに、僕の方を見つけるディアン。
「でもね、アレックス。僕はあの日、ユーリとアレックスから逃げたのだよ。体が弱く、領地での療養が必要だったのは確かだ。でも本当は、ユーリとアレックスが幸せにしている姿を、見たくなったのだよ。でも、それがいけなかったんだ…もし僕が傍にいたら、ユーリは傷つかずに済んだかもしれない…そう考えると僕は、自分の弱さに怒りを覚えた。だからこそ、今度こそユーリの傍で彼女を見守ろう。そう思い、王都に戻ってきた。もちろん、僕の手でユーリを幸せにしたいと思っていたけれどね」
「ディアンは弱くなんてないよ!ディアンは僕を信じて、ユーリを託してくれたのに…それなのに僕は…」
ポロポロと涙が溢れだす。そんな僕の背中を、優しくディアンが撫でてくれる。
「僕だってわかっているんだ。あれほどまでにユーリを傷つけ苦しめた僕が、今更ユーリを幸せに何て出来ないという事くらい…ディアンが王都に戻ってきた時点で、ユーリとディアンが結ばれるのは時間の問題だっていう事も…でも、どうしても心が付いていかなくて。散々ユーリに“君の事は令嬢として見られない”と言っていたくせに…僕は本当に、最低な人間なんだよ…」
「確かにアレックスがやった事は、最低だと思う。僕もアレックスがユーリにやった事は、絶対に許せない。でも…過ぎてしまった過去を、取り戻すことはできない。もしユーリに申し訳ないと思っているのなら、どうかユーリの幸せを願ってあげて欲しい。それがアレックスに出来る、ユーリへの唯一の罪滅ぼしだと僕は思うよ。それに…」
「それに?」
「王都に戻ってくるまでは、どうしてもアレックスが許せなかった。でも…なぜだろうね、貴族学院で君の顔を見た瞬間、なんだかホッとしたんだ。その時僕は気が付いたんだ。アレックスは僕の大切な人、ユーリを傷つけた憎き相手だけれど、それ以上に僕の大切な幼馴染でもあり、何でも話せる親友なんだって…こんな事を僕が言うのも図々しいかもしれないけれど、僕はアレックスにも幸せになって欲しいんだ」
“僕の大切な幼馴染で、何でも話せる親友”
ディアンの言葉が、僕の胸に突き刺さる。僕は心のどこかで、ディアンに恨まれていると思っていた。でもディアンは、僕の事をそんな風に思っていてくれていただなんて…
「それにね、ユーリが君の事を物凄く心配しているのだよ。ユーリは分かりやすい性格をしているからね。正直僕は、ユーリがアレックスの事を考えていることが、嫌でたまらないのだけれど、さすがにそんな事は言えなくてね…ユーリにとって、アレックスはいつまでたっても、大切な人なのだろう。でも、ユーリは譲らないからね」
「ユーリが僕の心配を?」
「ああ、そうだよ。僕という婚約者がいるのに、腹立たしいだろう?なんてね、こんな話、アレックスにしかできないよ。アレックス、君が僕の事をどう思っているのかはわからないけれど、少なくとも僕は、アレックスの事を何でも話せる大切な親友と思っているよ」
そう言うと、少し恥ずかしそうにディアンが笑った。その姿を見た時、なんだか懐かしい気持ちになった。
子どもの頃からライバルでもあり、何でも話せる大切な親友、ディアン。今日も僕の為に、腹を割って話に来てくれたディアン。
「ありがとう、ディアン。僕だって、君の事は大切な親友だと思っているよ。ただ…その…あの日の約束を破ってしまって、本当にごめんなさい」
改めてディアンに謝罪をした。
「本当だよ!アレックス、なんて事をしてくれたんだ!て、思ったんだから。ねえ、アレックス、傷ついた君にあり得ない程図々しいお願いをしてもいいかな?」
「僕に図々しいお願い?何だろう。でも、僕は君を1度裏切っているから、断りにくいな」
「あのね…アレックスには僕がちゃんとユーリを幸せに出来るか、見守っていて欲しいんだ。僕はあの日、君にユーリを任せて領地に逃げ出してしまっただろう?自分が出来なかった事を、ましてユーリの事が好きだった君に、こんなお願いをするのは良くないと思っている。でも…こんな事を頼めるのは、アレックスしかいないだろう?」
「確かにかなり図々しいお願いだな…ユーリにフラれて、こんなにボロボロになっている僕に、そんなお願いをするだなんて…でも、僕は散々ユーリを傷つけたからね。せめてディアンが、きちんとユーリを幸せにするところを見届ける義務がある。仕方ないな…僕がディアンを見張っているよ。でも、もしユーリを泣かしたら、その時は承知しないからな」
「ああ、その時は僕をぶん殴ってくれて構わないよ」
そう言って頬を差し出したディアン。そんなディアンの姿を見たら、なんだか笑いが込みあげてきた。
正直まだ、ディアンとユーリの仲睦まじい姿を見るのは辛い。
でも…
なぜだろう、ディアンと腹を割って話した事で、何だか心が随分と軽くなった。僕がユーリの事を完全に忘れる事が出来るのは、まだまだ先かもしれない。
それでも僕は、ユーリを傷つけた分、ディアンがユーリを泣かせないか、見届ける義務がある。それが僕にできるユーリへの唯一の罪滅ぼしだと思うから。
それに何よりも、親友でもあるディアンの頼みを聞き入れてあげたい。
なんだか前に進める気がした。きっとディアンのお陰だろう。
ありがとう、ディアン。君がユーリを幸せにする姿、僕がちゃんと見届けるからね。
※次回、ユーリ視点に戻ります。
よろしくお願いします。
「アレックス…随分とやつれてしまったのだね。ごめん、僕の顔なんて見たくないかもしれないと思うけれど、どうしてもアレックスと話がしたくて」
「ディアン、久しぶりだね…なんだか最後にディアンに会った日が、遠い昔の様に感じられるよ…」
力なく笑う僕に、ディアンが悲しそうに見つめている。
「アレックス、今日は君と腹を割って話したくて来たんだ。君は僕の、大切な幼馴染だからね」
「大切な幼馴染?違うだろ?僕はディアンが大好きだったユーリを傷つけ、苦しめた男だ。そして君との約束を、平気で裏切る様な人間だよ。ディアンだって僕の事、恨んでいるのだろう?君があの日、どんな思いでユーリを諦め領地に行ったのか…」
今ならわかる。きっと身を切られる思いで、ユーリを諦め1人で旅立ったディアンの気持ちが。ユーリの幸せを願い、身を引いたディアンを僕は…
「正直、ユーリがアレックスに拒まれ、深く傷ついたと知った時、腸が煮えくりかえるくらい怒りを覚えたよ。僕がどれほどユーリを愛していて、どんな思いでユーリを諦めたと思っているのだ!そう叫びたかった。アレックスをぶん殴ってやりたいと思った。でも…」
悲しそうに、僕の方を見つけるディアン。
「でもね、アレックス。僕はあの日、ユーリとアレックスから逃げたのだよ。体が弱く、領地での療養が必要だったのは確かだ。でも本当は、ユーリとアレックスが幸せにしている姿を、見たくなったのだよ。でも、それがいけなかったんだ…もし僕が傍にいたら、ユーリは傷つかずに済んだかもしれない…そう考えると僕は、自分の弱さに怒りを覚えた。だからこそ、今度こそユーリの傍で彼女を見守ろう。そう思い、王都に戻ってきた。もちろん、僕の手でユーリを幸せにしたいと思っていたけれどね」
「ディアンは弱くなんてないよ!ディアンは僕を信じて、ユーリを託してくれたのに…それなのに僕は…」
ポロポロと涙が溢れだす。そんな僕の背中を、優しくディアンが撫でてくれる。
「僕だってわかっているんだ。あれほどまでにユーリを傷つけ苦しめた僕が、今更ユーリを幸せに何て出来ないという事くらい…ディアンが王都に戻ってきた時点で、ユーリとディアンが結ばれるのは時間の問題だっていう事も…でも、どうしても心が付いていかなくて。散々ユーリに“君の事は令嬢として見られない”と言っていたくせに…僕は本当に、最低な人間なんだよ…」
「確かにアレックスがやった事は、最低だと思う。僕もアレックスがユーリにやった事は、絶対に許せない。でも…過ぎてしまった過去を、取り戻すことはできない。もしユーリに申し訳ないと思っているのなら、どうかユーリの幸せを願ってあげて欲しい。それがアレックスに出来る、ユーリへの唯一の罪滅ぼしだと僕は思うよ。それに…」
「それに?」
「王都に戻ってくるまでは、どうしてもアレックスが許せなかった。でも…なぜだろうね、貴族学院で君の顔を見た瞬間、なんだかホッとしたんだ。その時僕は気が付いたんだ。アレックスは僕の大切な人、ユーリを傷つけた憎き相手だけれど、それ以上に僕の大切な幼馴染でもあり、何でも話せる親友なんだって…こんな事を僕が言うのも図々しいかもしれないけれど、僕はアレックスにも幸せになって欲しいんだ」
“僕の大切な幼馴染で、何でも話せる親友”
ディアンの言葉が、僕の胸に突き刺さる。僕は心のどこかで、ディアンに恨まれていると思っていた。でもディアンは、僕の事をそんな風に思っていてくれていただなんて…
「それにね、ユーリが君の事を物凄く心配しているのだよ。ユーリは分かりやすい性格をしているからね。正直僕は、ユーリがアレックスの事を考えていることが、嫌でたまらないのだけれど、さすがにそんな事は言えなくてね…ユーリにとって、アレックスはいつまでたっても、大切な人なのだろう。でも、ユーリは譲らないからね」
「ユーリが僕の心配を?」
「ああ、そうだよ。僕という婚約者がいるのに、腹立たしいだろう?なんてね、こんな話、アレックスにしかできないよ。アレックス、君が僕の事をどう思っているのかはわからないけれど、少なくとも僕は、アレックスの事を何でも話せる大切な親友と思っているよ」
そう言うと、少し恥ずかしそうにディアンが笑った。その姿を見た時、なんだか懐かしい気持ちになった。
子どもの頃からライバルでもあり、何でも話せる大切な親友、ディアン。今日も僕の為に、腹を割って話に来てくれたディアン。
「ありがとう、ディアン。僕だって、君の事は大切な親友だと思っているよ。ただ…その…あの日の約束を破ってしまって、本当にごめんなさい」
改めてディアンに謝罪をした。
「本当だよ!アレックス、なんて事をしてくれたんだ!て、思ったんだから。ねえ、アレックス、傷ついた君にあり得ない程図々しいお願いをしてもいいかな?」
「僕に図々しいお願い?何だろう。でも、僕は君を1度裏切っているから、断りにくいな」
「あのね…アレックスには僕がちゃんとユーリを幸せに出来るか、見守っていて欲しいんだ。僕はあの日、君にユーリを任せて領地に逃げ出してしまっただろう?自分が出来なかった事を、ましてユーリの事が好きだった君に、こんなお願いをするのは良くないと思っている。でも…こんな事を頼めるのは、アレックスしかいないだろう?」
「確かにかなり図々しいお願いだな…ユーリにフラれて、こんなにボロボロになっている僕に、そんなお願いをするだなんて…でも、僕は散々ユーリを傷つけたからね。せめてディアンが、きちんとユーリを幸せにするところを見届ける義務がある。仕方ないな…僕がディアンを見張っているよ。でも、もしユーリを泣かしたら、その時は承知しないからな」
「ああ、その時は僕をぶん殴ってくれて構わないよ」
そう言って頬を差し出したディアン。そんなディアンの姿を見たら、なんだか笑いが込みあげてきた。
正直まだ、ディアンとユーリの仲睦まじい姿を見るのは辛い。
でも…
なぜだろう、ディアンと腹を割って話した事で、何だか心が随分と軽くなった。僕がユーリの事を完全に忘れる事が出来るのは、まだまだ先かもしれない。
それでも僕は、ユーリを傷つけた分、ディアンがユーリを泣かせないか、見届ける義務がある。それが僕にできるユーリへの唯一の罪滅ぼしだと思うから。
それに何よりも、親友でもあるディアンの頼みを聞き入れてあげたい。
なんだか前に進める気がした。きっとディアンのお陰だろう。
ありがとう、ディアン。君がユーリを幸せにする姿、僕がちゃんと見届けるからね。
※次回、ユーリ視点に戻ります。
よろしくお願いします。
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