離縁前提で嫁いだのにいつの間にか旦那様に愛されていました

Karamimi

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1巻

1-3

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 全く話についていけず、キョロキョロすることしかできない。

「アーサーとローラちゃんが一緒に夜会に参加してくれるなんて嬉しいわ。そうだ、ドレスを作らないとね。どんなドレスがいいかしら?」

 嬉しそうに話す大奥様。相変わらず話についていけないのだが……

「母上、ドレスはこっちで準備するから。さあ、話は済んだだろう。とにかくもう帰ってくれ」

 そう言って、さっさとご両親を追い返そうとする旦那様。
 その前に、私には大奥様に渡したい物があった。

「大奥様、これを」

 二人が訪ねてくるということで、せっかくなので、ドレスを着たクマのぬいぐるみを作ったのだ。

「まあ、これを私にくれるの? 嬉しいわ。でも大奥様じゃなくて、お義母様と呼んでね。私たちはもう親子なのだから」

 嬉しそうにお義母様がクマを受け取ってくれた。
 喜んでもらえたようで良かった。ただ、呼び方は気に入らなかったみたいだが……

「それじゃあ、アーサー。ローラちゃんを大切にするのよ。ローラちゃん。可愛いクマのぬいぐるみをありがとう。それじゃあ、また夜会でね」

 そう言って馬車に乗り込んでいったご両親。
 どうやら私はこの仏頂面と一緒に、夜会に参加しないといけないようだ。憂鬱ね……

「お前も聞いていたと思うが、二ヶ月後、王宮主催の面倒な夜会に参加することになった。お前にも俺の妻として参加してもらうからそのつもりで」
「は~、はい。わかりましたわ」

 ものすごく面倒だが、仕方がない。

「おい、今ため息を付いただろう。俺と参加するのがそんなに嫌なのか? いいか、これは公爵家嫡子の妻としてのお前の務めでもある。当日はしっかり立ち振る舞えよ。もちろん見た目もだ。ドレスや宝石にいくら使っても構わん。明日にでも、デザイナーと宝石商を呼んで準備を始めろ。いいな」

 そう言って旦那様は去って行った。相変わらず感じの悪い男だ。
 とにかく、夜会に参加するドレスや宝石を選ばないといけないらしい。
 面倒で仕方ないが、モカラに明日デザイナーと宝石商を呼んでもらうように伝える。

「わかりましたわ。早速手配させていただきます」

 なぜかとても嬉しそうに頷いていた。何がそんなに嬉しいのか、さっぱりわからない。
 自室に戻ると、再びため息が出る。
 今まで伯爵令嬢として、数々の夜会に強制的に参加させられて来た。
 興味のない貴族の会話に笑顔で相槌を打ち、興味のない男たちとダンスを踊る。
 そう、私にとって、夜会は苦痛でしかない。
 その上、今回はあの旦那様と一緒に参加するのだ。もう苦痛を通り越して、拷問だ。
 でも、一応旦那様と結婚した身。参加しないなんて選択肢はない。
 よく考えると、結婚してもう三ヶ月も経っている。それなのに、なぜ未だに追い出されないのか不思議でたまらない。正直いつでも出て行く準備はできているのだが……

(グチグチ言っていても仕方がないわね)

 とにかく、この夜会をなんとか、無難に、終わらせなくてはならない。


 翌日、早速モカラが呼んだデザイナーとドレスについて打ち合わせを行った。
 とは言っても、私は人間が着るドレスに関してはド素人だ。私がお茶会や夜会のときに着ていくドレスは、いつもお母様が選んでいたからだ。
 そもそもドレスなんて、これっぽっちも興味がない。正直どんなドレスでも構わない。
 そんな私の横で、楽しそうにデザイナーとモカラがドレスを選んでいる。

「ローラ様はやっぱり、若草色のような淡いお色が合いそうですね。瞳の色に合わせて、青というのもいいですわ。ねえ、ローラ様」

 そう言って、モカラが私に話を振ってきた。実際のところ、何色だろうが心底どうでもいい。

「私はドレスに関してはよくわからないから、二人で決めてくれると助かるわ」
「まあ、よろしいのですか? では、色は青にしましょう。そうだわ、水色にして、旦那様の瞳の色に合わせてはどうかしら?」
(ん? 旦那様の瞳の色?)
「ちょっと待って、それだけは嫌よ。そうだわ、さっき言っていた若草色がいいわ。ね、若草色にしましょう」

 旦那様の瞳の色と同じになんかしたら、きっと眉間にたっぷり皺を寄せ、嫌味の一つでも言われるだろう。それだけは避けたい。
 私の強い要望が聞き入れられ、ドレスは若草色になった。デザインはモカラとデザイナーで楽しそうに話しながら決めていた。

(あぁ、暇ね。ぬいぐるみ作りがしたいわ……)

 たっぷり時間をとられた後でどうにか解放され、一旦自室に戻る。
 やっとぬいぐるみ作りができる。そう思ったのも束の間、今度は宝石商がやって来た。人間の身に着ける宝石に関してもよくわからないので、モカラにお願いした。

「ローラ様、こんなにも美しい宝石が並んでいるというのに、ときめかないのですか?」

 そう言われたが、綺麗だとは思うものの全くときめきはしない。
 結局モカラは、私の瞳の色に合わせた、サファイアのネックレスとイヤリングを選んでくれた。とりあえず、これで宝石も選び終わった。

「ローラ様は欲がなさすぎです。せっかくの機会ですし、もっと色々とドレスや宝石をお買いになればよろしいのに」

 ほっとする私を見て、モカラはとても不満そうにそう言った。
 そもそも私は、宝石にもドレスにも興味がないのだ。それに、使いもしないものを沢山買っても、もったいないだけ。それならぬいぐるみ作りの道具を増やしたい。
 そういえば、以前留学していたカールズ王国で買った、ぬいぐるみ作り専用のハサミをもう一本欲しいと思っていた。そういうものを買い与えられた方が、私にとってはずっと嬉しい。
 ふと時計を見ると、まだ四時前だった。

「モカラ、ちょっと出かけてくるわ」
「今からですか? どちらに行かれるのですか?」
「ぬいぐるみが完成したから、依頼主に渡して来るの。旦那様が帰る前には戻るから」

 以前、モカラにぬいぐるみを渡したとき、旦那様は出迎えがなかったと怒っていた。
 また眉間に皺を寄せて怒られると面倒だ。とにかく、急いで行ってこないと。
 ラッピングしたぬいぐるみを持って、依頼主の元へと向かう。
 今回の依頼主は、子供の頃から仲良しの元伯爵令嬢だ。彼女は四年前、別の伯爵家に嫁ぎ、既に三歳の娘がいる。その子のためにぬいぐるみを、と今回私に依頼してきたのだ。
 屋敷に着くと、嬉しそうに駆け寄る女の子の姿が目に入った。

「ローラおねえちゃん、いらっしゃい」
「こんにちは。リリアちゃん。はい、これ。貴女のお母様からの贈りものよ」

 手に持っていた包みを手渡した。

「わぁ、かわいい。あけてもいい?」

 目を輝かせてぬいぐるみを見つめるリリアちゃんが、後から来た母親に確認している。

「いらっしゃい、ローラ。わざわざぬいぐるみを持ってきてくれたのね、ありがとう。リリア、開けてもいいわよ」

 その言葉を聞いたリリアちゃんが嬉しそうにラッピングのリボンをほどき、ぬいぐるみを取り出した。

「フワフワで、とてもやわらかい。ありがとう、ローラおねえちゃん。たからものにするわ」

 何度もぬいぐるみを抱きしめ、頬ずりしているリリアちゃんを見ていたら、つい私まで頬が緩んでしまった。やっぱりこの瞬間が一番嬉しい。
 さて、可愛い笑顔も見ることができたし、そろそろ帰ろう、そう思ったのだが……

「ローラってば、あのバーエンス公爵家のアーサー様と結婚したのでしょう? その話も聞きたいし。せっかくだから上がって行って」

 そう誘ってくれたものの、早く帰らないときっとまた旦那様に怒られる。
 でも、久しぶりに会った友人と話もしたい。

(う~ん……、まあいいか)
「それじゃあ、上がらせてもらうわ」

 せっかくなのでお邪魔することにした。

「それで、アーサー様との新婚生活はどうなの? あの人、女嫌いで気難しいって有名じゃない。心配していたのよ」
「確かに旦那様は気難しいし、毎日不機嫌だけれど、まだ追い出されてはいないわ。それに、使用人がとてもいい人たちなの。私はぬいぐるみさえ作れればいいから、今のところ特に問題はないわ」

 はっきり言って、公爵家の生活に不満はない。
 それどころか、旦那様以外は皆いい人なので、快適なくらいだ。

「さすがローラだわ。あなたならきっと、うまくやっていけるわよ」

 急に笑いだしながら、そう言った友人。
 一体何がそんなにおかしいのか、さっぱりわからない。
 結局その後も話に花を咲かせてしまい、気が付くと随分長居してしまった。急いで公爵家の馬車に飛び乗り、家路を急ぐ。
 旦那様はもうとっくに帰って来ている時間だ。
 きっと夕食も食べ終わっている頃だろう。食事は必ず一緒に食べるものと言った私自身が、それを破るなんて。さすがに申し訳ない。
 重い足取りで公爵家に向かうと、案の定怖い顔の旦那様がいた。

「こんな時間まで行先も告げず、一体どこに行っていたんだ!」

 馬車から降りるや否や、眉間に皺を寄せた旦那様にそう怒鳴りつけられる。

「遅くなって申し訳ありません。依頼主の元に、ぬいぐるみを届けに行っておりましたの」

 怒っているようなので、とりあえず謝っておいた。

「ぬいぐるみを届けに行くだけで、どうしてこんなに遅くなるんだ。モカラの話では、夕方四時前には出て行ったというではないか。今はもう夜の七時前だぞ。一体どこの誰と、こんな時間まで何をしていたんだ。もしかして事故にでもあったのではないかと、今使用人に捜しに行かせようとしていたんだぞ」

 さらに詰め寄る旦那様。真剣に怒っているのか、いつも以上に鬼の形相だ。

「ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした。今回の依頼主は、私の古くからの友人でもある女性だったので、つい話に花を咲かせてしまったのですわ。そんなに恐ろしい顔をして、怒らなくてもいいではありませんか」
「本当だな? 本当にその女のところに行っていたのだな」
「そんなにお疑いなら、どうぞ連絡でも入れて確かめてみてください。バラーレル伯爵家に嫁いでおりますので」

 本当にしつこい男だ。

「お前がそこまで言うなら信じよう。だが、今後は夜に外出することを禁じる。そもそも、お前は仮にも次期公爵の妻だ。もう少し考えて行動しろ! いいな」

 そう言うと、旦那様はプリプリ怒って屋敷に入って行った。
 一体なんだったのかしら?

「ローラ様がお出迎えにならなかったのが、よほど気に入らなかったのでしょう。アーサー様はローラ様がお帰りにならないのを心配して、ずっと玄関前で待っていらっしゃいましたし」

 そうモカラが教えてくれた。きっとあの鬼の形相で仁王立ちして待っていたのだろう……

「おい、何をボーっとしているんだ。こっちは腹が減っているんだ。さっさと食堂に来ないか」
「はいはい、今参ります」
「『はい』は一回でいい!」
「はい」

 私がまだ屋敷に入ってこないので、こちらに向かって怒鳴りつけている。
 でも、どうやら私のことを心配してくれていたようだ。そう思ったら、少しだけほっこりした。
 その後は、相変わらず仏頂面の旦那様と、美味しい夕食を食べたのであった。



「お前、ドレスと宝石の準備は大丈夫なのか?」

 二ヶ月後。夜会を明日に控えた夕食時に、旦那様が話しかけてきた。

「ええ、今日も試着しましたが問題ありません。あんなにも素敵なドレスと宝石を買ってくださり、ありがとうございます」

 デザインなどはモカラたちが考えたが、お金を出してくれたのは旦那様だ。
 とりあえず、お礼だけは言っておいた。

「俺はお前の夫だ。当然のことをしたのだから、別に礼はいらん」

 毎回思うけれど、どうしてこの男はこんなにも感じが悪いのだろう? 本当にもう。

「それで明日の夜会だが、くれぐれもウロウロして俺に恥をかかすなよ」

 ウロウロって……。子供ではないのだから、そんなことはしない。

「私はこれでも伯爵家の子女です。夜会の経験もありますので、大丈夫ですわ」
「それならいい。とにかく、明日は頼んだぞ」

 そう言ってさっさと席を立つ旦那様。
 そういえば、明日は王宮主催と言っていた。ということは、お姉様やお兄様たちも来るだろう。
 特にお姉様に会うのは久しぶりだから、楽しみだ。


 そして迎えた夜会当日。
 王宮の夜会に参加するとあって、今日は本家から何人ものメイドがお手伝いに来ている。
 モカラの指示の下、体を徹底的に磨かれ、ドレスを着せられアクセサリーをつけられていく。

「ローラ様は元々お美しいですけれど、こうやって着飾られるとさらにお美しさに磨きがかかりますわね。それに、若草色のドレスもよくお似合いですわ」

 急にお世辞を言いだしたモカラ。でも、褒められるとやっぱり嬉しい。

「さあ、ローラ様、そろそろお時間です。参りましょうか」

 モカラに連れられ、旦那様が待つ玄関へと向かった。旦那様は、相変わらず不機嫌そうな顔をしている。

「お待たせいたしました」

 私が声をかけると、眉間に皺を寄せた旦那様が、こちらを振り向いた。
 旦那様は一瞬だけ目を大きく見開いた後で、すぐに不機嫌な顔に戻ると、乱暴な足どりでこちらにやって来た。

「どうしてドレスが若草色なんだ。普通は夫の瞳の色のドレスにするだろう。モカラ、どうなっているんだ?」

 なぜかドレスに文句を言いだしたこの男。その上、モカラにまで詰め寄っている。

「旦那様、私が若草色が良いと言ったのです。モカラを責めるのはおやめください。第一、ラブラブ夫婦でもあるまいし、夫の瞳の色のドレスなんて着ませんわ」

 普通どころか、仲が良い夫婦以外、夫の瞳の色のドレスなど着ないものだ。
 その上、仲が良いどころか、私たちはものすごく仲が悪い。それに、誰も私のドレスなんて見ていないだろう。

「とにかく行くぞ。さっさと来い」

 とてつもなく機嫌が悪い旦那様と一緒に、馬車に乗り込んだ。
 向かいに座った旦那様は、なぜか私のドレス姿を睨みつけている。
 そんな顔で睨みつけられても、もう怖くないんだから。さすがにこの顔にも慣れてしまった。
 しばらく走ると、王宮が見えて来た。そういえば、王宮で行われる夜会に参加するのは初めてだ。そう思うと、さすがに緊張してくる。

「いいか。絶対にウロウロするなよ! いいな?」
「だから子供ではないのですから、ウロウロなんてしません」

 本当にしつこい男だ。
 旦那様と言い合いをしている間に、馬車が停まった。

「ほら、行くぞ。さっさと降りろ」

 いちいち指図してこなくても、ちゃんと降りるわよ。
 そう思いつつ、急ぎ気味に馬車を降りる。
 スッと腕を差し出して来た旦那様。ああ、腕を組めって事ね。一応夫婦だものね、私たち。
 腕を組むと、歩き出した旦那様。でもこの人、無駄に歩くのが速くてついていくのがやっとだ。
 普通はこういうとき、妻の歩調に合わせるものじゃないの? 

(本当にこの男は!) 

 不満を抱きつつも、なんとかついていく。

「バーエンス公爵令息ご夫妻、ご入場です」

 大ホールの入り口に着くと、ご丁寧にアナウンスされた。
 一斉にこちらを向く参加者たち。そんなにこっちを見なくても……
 そう思うぐらい、皆こちらを観察している。気まずい雰囲気の中、ホールへと進む。
 さすが王宮の大ホール。天井からは特大のシャンデリアがぶら下がっている。
 あんなものが万が一落ちてきたら、きっと一溜まりもないだろう。

「おい、さっきからキョロキョロして、誰かを捜しているのか?」
「いいえ、王宮の夜会は初めてなので、周りを見ているだけですわ」

 その時だった。一人の男性が話しかけて来た。

「アーサー、この子が噂の奥さんかい?」

 美しい銀色の髪に緑の瞳をした男性が、これまた美しい女性を連れて立っていた。
 この人は確か、侯爵令息で騎士団副団長のレオナルド・モーレンス様だ。隣は奥様の、ミラ様だろう。

「レオナルド、お前、何しに来た」
「何って、俺も夜会に招待されていたから、妻と来たまでだ」

 なぜかレオナルド様を睨みつけている旦那様。とりあえず、私も挨拶をする。

「レオナルド様、お初にお目にかかります。ローラと申します。ミラ様、お久しぶりですわ」
「久しぶりね、ローラちゃん。メーラが心配していたわよ。あなたが……アーサー様と結婚したって聞いて」

 なぜか最後の方は、かなり小声になっていた。

「お前、レオナルドの妻と知り合いなのか?」
「ええ、ミラ様は姉のご友人ですので。私とも仲良くしていただいておりましたの」
「俺も君たちが知り合いだとは思っていなかったな」
「もう、レオったら。メーラの妹でぬいぐるみ作家のローラちゃんが、アーサー様に嫁いだと言ったでしょう。本当に、私の話を全く聞いていないのだから」
「そういえば、そんなことを言っていたな。ごめん、ごめん。よろしくね、ローラちゃん」

 そう言って握手を求めてくるレオナルド様。
 さすがに拒むのは失礼にあたる。手を出そうとした瞬間、旦那様にそれを阻止された。

「レオナルド、お前は馴れ馴れしいんだよ。俺たちは挨拶回りに行かないといけないから、忙しいんだ。それじゃあな」

 そう言って私の手を掴んだまま、挨拶もそこそこに旦那様はスタスタと歩き出してしまう。
 それからしばらく歩くと、急に立ち止まった。

「お前も男の手に軽々しく触れようとするな」

 なぜか怒られてしまった。本当によく怒る男だ。なんとも言えない空気の中、色々な貴族たちに挨拶をしていく。ふと旦那様の顔を見ると、眉間に皺こそ寄せてはいないものの、ほぼ無表情だ。

(この人、笑顔というものを作れないのかしら?)

 もちろん、私のお姉様やお兄様とも挨拶を交わした。どうやらお姉様の夫、アルフィーお義兄様と旦那様は知り合いだったようで、二人で盛り上がっていた。
 一通り挨拶を終え、そろそろ休憩を、そう思ったときだった。

「ローラちゃん、アーサー」

 声の方を振り向くと、お義母様がいた。隣には王妃様がいる。
 さらに近くにはお義父様と陛下、さらに王太子夫妻と第二王子夫妻、第三王子もいる。
 何かと面倒そうなのでこの国の最高権力者たちにはできれば関わりたくはない。そう思っても、嬉しそうにこちらにやって来るので、まさか逃げ出す訳にもいかない。

(ええい、女は度胸。こうなったら、しっかり対応してやろうじゃない)
「あなたがローラちゃんね。初めまして」

 王妃様が私に話しかけてきてくれた。私も挨拶をしないと。

「お初にお目にかかります。ローラ・バーエンスと申します」

 初めてバーエンスと名乗った。なんだか不思議な感じがする。

「それにしても、あのアーサーがまだ女性を追い出さないなんて、びっくりだな」

 そう言って笑っているのは王太子殿下だ。

「どうでしょう。せっかくだから、僕と踊っていただけますか?」

 そう言って、なんと、第三王子が私に手を差し伸べて来た。
 嘘でしょう……。王族にダンスに誘われたら、さすがに断れない。
 仕方なく手を掴もうとした瞬間、またしても旦那様に阻止された。

「ローガン、ダンスなら他を当たれ。お前も気安く男に触れるなと言っただろう。俺の言った意味が理解できないのか?」

 旦那様は怖い顔をして、私と第三王子に文句を言っている。

「相変わらずアーサーは鬼みたいに怖いね。別に良いだろう、ダンスくらい。ほら、行こう」

 私の手を掴み、ホールの真ん中までやって来た第三王子。

「あの、ローガン殿下」

 さすがにマズいんじゃ。そう思ったのだが、音楽が流れ始めたので仕方なく踊る。

「見て、アーサーのあの顔。すごい形相でこっちを睨んでいるよ」

 そう言ってクスクス笑っている第三王子。どうやらこの王子は、少し性格が悪いようだ。

「それにしても、君はダンスが上手だね。とても踊りやすいよ。ねえ、あんな仏頂面とはさっさと離縁して、僕と結婚しない? 一応第三王子だし、アーサーより絶対幸せにする自信があるよ」

 その上、私などを口説き始めた。
 私には、旦那様と離縁したら悠々自適な独り暮らしが待っているのだ。悪いが、再び結婚するつもりはない。

「あの、私は……」
「ローガン、いい加減にしろ!」

 地の底を這うような低い声が背後から聞こえ、そのまま第三王子から引き離された。

「アーサー。まだダンスの途中だぞ」
「うるさい! ローガン、お前、人の妻を抱きしめたり耳元で囁くとは、どういう了見だ。ふざけるな! 大体お前も、人妻でありながら他の男とダンスを踊るなんて、どういう神経をしているんだ」

 旦那様は、苛立ちを露わにしている。

「アーサー、やめなさい。大体、夜会ではパートナー以外とも踊るのが普通よ。それを外聞も考えず二人に文句を言って……。もしかして、ローラちゃんが他の男性と踊るのが嫌だったの?」

 そう言ったお義母様は、途中からなぜかニヤニヤ顔になっていた。

「お……、俺は別にこんな女が誰と踊ろうが関係ない。ただ、節度というものを考えただけだ。おい、もう帰るぞ。さっさと来い」

 耳まで真っ赤な旦那様に手を引かれて、会場から連れ出されるとそのまま馬車に乗せられた。
 どかりと座った旦那様は、今日一番の不機嫌顔だ。刺激しないように向かいにそっと座る。

「お前、俺が言ったことを忘れたのか? 男に軽々しく触れるなと言っただろう。母上はああ言っていたが、夫以外の男に触れるなんて、ふしだらだ。それともお前、ローガンが好きなのか? まさか、俺と離縁してローガンと……」

 勝手に妄想して、勝手に文句を言っている。
 どうして旦那様と離縁して、第三王子と結婚なんて話になるのだろう。

「旦那様、この際なので申し上げておきます。私は旦那様と離縁したら、悠々自適な独り暮らしが待っております。ですので、他の殿方と再婚するつもりは全くございません!」

 そうはっきりと言ってやった。

「何が悠々自適な独り暮らしだ! お前は俺の妻だ。離縁するつもりはない。とにかく、これ以上公爵家の品格を下げるような真似まねはするな。いいな? わかったな?」

 旦那様が、顔を真っ赤にして怒る。本当にうるさい男だ。
 まあでも、旦那様がダメだと言うのなら、従うしかない。
 そもそもそんなに文句があるなら、最初から夜会になんて参加させないでほしい。
 なんだか今日はすごく疲れた。ああ、この揺れ、気持ちいい……
 すっかり疲れ果ててしまった私は、心地よい馬車の揺れに、いつの間にか眠ってしまったのであった。


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