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1巻

1-2

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 翌朝も旦那様と食事をするため、食堂に向かった。
 予想通り、今日も不機嫌そうな顔の旦那様を笑顔で見送った後は、再び自室に戻る。
 すると、そばに控えていたモカラが、話しかけてきた。

「ローラ様、せっかくなので、屋敷を案内させていただきます。本来ならアーサー様が案内すべきところなのですが、生憎あんな性格なもので……」

 そういえば、この広い屋敷のどこに何があるか、まだよく知らないのよね。でも……

「ありがとう、モカラ。でも、多分もうすぐ追い出されると思うから大丈夫よ」
「何をおっしゃるのですか。ローラ様のような女性を追い出したら、アーサー様はもう二度と結婚などできません! とにかく、案内させてください」

 そう強引に腕を引っ張られ、部屋の外へと連れ出された。
 そうして一つ一つ丁寧に色々な部屋を案内してくれ、使用人たちまで紹介してくれた。

「ねえモカラ。女性の使用人はあなただけなの?」

 驚くことに、モカラ以外は男性の使用人ばかりだった。

「もう一人おりますが、先日、孫が生まれたので、少し休んでおります。残りは全員男性ですわね。とにかくアーサー様は、女性と魔法が大嫌いでして……」

 えっ? 魔法? 今、魔法と言ったわよね。

「モカラ、魔法ってどういうこと? 旦那様は魔法が使えるの?」

 そういえば、この国ではごく稀に魔法が使える人間が産まれることがあると聞いたことがある。
 私は今まで魔法を使える人間に会ったことがなかったけれど、まさか旦那様は、魔法使いなのかしら?

「いえ、なんでもありませんわ。さあ、次に参りましょう」

 話をそらされてしまった。正直気になるが、これ以上聞いてほしくない雰囲気なので、聞かないでおくことにした。
 とにかく使用人たちまで男性でそろえているのだから、筋金入りの女嫌いということだ。やっぱり追い出されるのも時間の問題ね。
 一通り屋敷の中を案内してくれたところで、中庭に出て来た。
 さすが公爵家の嫡男が住んでいるお屋敷の中庭。隅々まで手入れが行き届いている。

「ローラ様、こちらが庭師のドーゴンとマテオですわ」
「ローラ様、どうぞよろしくお願いします」

 モカラが紹介してくれた庭師のドーゴンはモカラと同じ年くらいの男性で、マテオの方は私と同じ年くらいに見えた。

「こちらこそ、よろしくね。あら? あなたたち、洋服のボタンが取れかかっているわ。ちょっと待っていてね」

 急いで部屋に戻り、裁縫セットを持って来る。

「私ね、裁縫が得意なの。ほら、縫うから脱いで」

 私の言葉を聞き、二人で顔を見合わせている。

「遠慮しなくていいのよ。もう糸も針に通しちゃったし」

 早く服を渡してと言わんばかりに、針を握っている反対側の手を差し出す。
 すると戸惑いながらも、服を脱いで渡してくれた二人。

「ローラ様、そのようなことは……」

 止めようとするモカラに、私は笑いかけた。

「あら、どうせ私はもうすぐ追い出される身なのよ。だから居候みたいなもの。そんな私が、使用人の役に立てることがあるなんて嬉しいわ。そういえば、ここは男性が多い職場よね。もし他にも、洋服がほつれていたり、破れて困っている人がいたら教えてくれる? 私にできることってこれくらいしかないから、せめて皆の役に立ちたいわ。もちろん、モカラも何かあったら遠慮なく言って」

 話をしている間に、二人のボタンも付け終わった。

「はい、できたわ。他にも何かあるかしら?」
「ありがとうございます、ローラ様。まさかローラ様にこのようなことをしていただけるなんて……。実は早くに妻を亡くし、息子と二人暮らしでして。どうしても、こういうことには疎くて」

 そう言って何度も何度も頭を下げるドーゴン。マテオも申し訳なさそうに頭を下げている。そんなに気にしてもらわなくてもいいのだけれど……
 それにしても、二人は親子だったのね。男性二人では何かと大変だろう。困ったことがあれば、なんでも言ってほしいと伝えておいた。
 その後は、ドーゴンとマテオにお庭を案内してもらった。私の好きな花を植えてくれるというマテオの言葉に甘えて、ポピーとパンジーを植えてもらうことにした。
 でもよく考えたら、花が咲く頃には私はもういない可能性が高いだろう。
 そう思ったものの、嬉しそうに準備を始めたマテオに、今更そんなことは言えない。
 気を取り直してゆっくり庭を見ているうちに、夕方になってしまった。

「ローラ様は使用人の心を掴むのがお上手ですね。昨日も料理人と仲良くなっておりましたし、今日は庭師と。私はそんなローラ様が好きですわ」

 そう言って笑っているモカラ。どうやら私は、使用人とは仲良くなれたようだ。
 ここに来て二日目、この屋敷の人たちは皆良い人ばかりだ。ただし、旦那様を除いて。
 いつ追い出されるかわからないけれど、なんとかやっていけそうね。



   第二章 モカラのお孫さんにぬいぐるみを贈ろう


 旦那様と婚姻関係を結んで、二週間が過ぎた。
 相変わらず、とても不機嫌そうな様子ではあるが、まだ追い出されてはいない。
 ただ、使用人たちとはとても仲良くなった。
 皆に裁縫関係で困ったことがあったらなんでも言ってねと伝えてから、定期的に部屋にも訪ねてくれるようになった。

「ローラ様の部屋に使用人が訪ねるだなんて」

 と、最初は怒っていたモカラだったが、そのうちモカラ自身もほつれてしまったメイド服などを持って来るようになった。
 どうやらモカラは、裁縫が苦手らしい。
 それから庭師のマテオとは、随分仲良くなった。歳が近いのもあり、話も合う。最近では時間があるときは、庭で一緒にお茶を飲んで楽しんでいる。
 本来であれば、主の妻である私と使用人がお茶なんてもってのほかなのだろうが、生憎私はこの屋敷の主である旦那様から、妻と認められていない。そのため、皆も比較的気安いのだ。
 もちろん、ぬいぐるみ作りにも精を出している。
 最近では普通のぬいぐるみ以外にも、お部屋に飾る小物などを作っている。
 伯爵家にいたころは、やれマナーレッスンだの、ダンスレッスンだのと、色々とやらされていた。
 そのため、ぬいぐるみを作る時間が確保しにくかったが、今は自由に作れる。まるで天国だ。
 この前は食堂に、小さなクマのぬいぐるみを作って置いた。砂糖が入った小瓶を抱きかかえているクマだ。我ながら自信作である。
 それを見た旦那様は「なんだ、このクマは」と言って怒っていた。

「殺風景だったので、作って置いてみましたの。何かご不満でもありますか?」

 そう聞き返したら「勝手にしろ」と言っていた。
 勝手にしていいと言われたので、お言葉に甘えて勝手にさせてもらうことにした。
 せっかくなので客間や居間にも、私の作品を並べてみると、時折、眉間に皺を寄せ、私の作品を睨みつけている旦那様を見かけるようになったが、そっとしておいた。
 今日も、不機嫌そうな旦那様と一緒に朝食をとり、その後は騎士団へと向かう旦那様を見送った。
 相変わらず仏頂面だが、それでも食事は必ず一緒にとるというルールを、なんだかんだ守ってくれている。意外と律儀な人のようだ。
 旦那様を見送った後は、モカラがお茶を入れてくれる。

「いつもありがとう。モカラが入れてくれるお茶は、本当に美味しいわ。そういえばモカラはお孫さんがいるのだったわね。どんな子なの?」
「孫娘ですか? 今年五歳になります。可愛いものが大好きで、四歳の誕生日に買い与えた木彫りの人形をいつも持ち歩いていますわ。ただ、先日転んだときに壊れてしまいまして。未だに落ち込んでおります」
「そうなのね。木だとどうしても衝撃に弱かったりするものね。可哀想に」
「じきに元気になるでしょうから、大丈夫ですわ。それでは、何かありましたらいつでもお声がけください」

 モカラはそう言うと、申し訳なさそうな表情で部屋から出て行った。

(よし、モカラのお孫さんの情報も仕入れたわ)

 実は、いつもお世話になっているモカラに、何かお礼をしたいと思っていたのだ。
 そして思いついたのが、モカラのお孫さんにぬいぐるみをプレゼントすることだった。
 五歳の女の子で可愛いものが好きな子か。それなら、猫やウサギのぬいぐるみがいいわね。
 そのまま、いつものように型紙を準備する。
 でも、モカラは平民。最初に話をしたとき、確かぬいぐるみは貴族が持つものと言っていた。
 そうなると、一般的なモヘア生地のぬいぐるみだと、恐縮して受け取ってくれないかもしれない。
 以前、伯爵家のメイドたちにぬいぐるみを贈ったときも、平民出身のメイドたちは恐縮して受け取るのを躊躇していたし。
 もっと安価で作れる物……。何があるかしら?

(う~ん、そうねぇ)

 色々な生地をひっくり返して机に並べていると、以前練習用に使っていたフェルトの生地が出て来た。

(フェルトか……)

 そういえば、昔留学していたぬいぐるみ大国のカールズ王国では、平民たちは比較的安価で手に入るフェルト生地のぬいぐるみを好んで持っていた。
 そうだわ、このフェルト生地を使えばいいのよ。
 私の住むペルソナ王国でも最近見かけるようになったフェルト生地。カールズ王国と同じように安価で手に入るのだけれど、まだ知名度が低いせいか、全くといっていいほど浸透していない。お店の人も、あまり売れないと言っていた。
 早速デザインを紙に描いて行く。
 今回は可愛らしい猫とウサギのモチーフにする。
 持ち歩くことを考えると、あまり大きくない方がいい。
 それから、少しふっくらさせて、触り心地を良くしないと。
 ウサギはピンク、猫は白を基調に作ろう。
 デザインが決まったら、厚紙に各パーツを描いていく。
 正直この作業が一番緊張する。厚紙のサイズや大きさで、どんなぬいぐるみができるかがある程度決まるのだ。厚紙にパーツを描いた後は、形に沿って丁寧に切っていく。型紙ができたら、次は布用のペンで型紙の縁をフェルトに写していく。
 写し終わったら、線に沿って丁寧に布を切り取る。よし、切り取りまで完成だ。
 次は縫い合わせていくのだけれど、……普通に縫うのではつまらない。
 あえてフェルト生地と違う色で縫い目を見せるようにして縫うのはどうかしら?
 フェルトに合いそうな糸を選んで縫っていく。
 一針一針丁寧に丁寧に。途中で綿を詰めながら、仕上げていく。

(できたわ!)

 目の前には、可愛い猫とウサギのぬいぐるみが並んでいる。
 糸を変えたことで、より可愛く仕上がった。さすがに休憩なしで一気に仕上げたから、肩が凝った。軽く肩を叩きながら窓の外を見ると、外は既に真っ暗だった。
 そういえば、昼食も食べずに作業をしていた。モカラを含めた使用人にも、私が部屋から出るまで入ってこないでほしいと伝えてあったのだった。
 さすがにお腹が空いたので部屋の外に出ると、心配そうな顔をしたモカラが待っていた。

「ローラ様、良かったです。ご昼食もとられずにお部屋に引きこもっていらしたので、本当に心配しましたわ」

 心底ホッとした表情を浮かべるモカラ。
 しまった、ぬいぐるみ作りに没頭するあまり、つい周りを考えずに行動してしまった。実家にいたときも、よくお母様に怒られていたものだ。

『ぬいぐるみ作りに熱中するのはいいけれど、ちゃんとやることはやりなさい。周りに心配かけるようなことをしてはいけないわ』

 そう言われていた。モカラにも謝らないと。

「モカラ、心配かけてごめんなさい」
「そんな、ローラ様が謝罪する必要はございませんわ。私が勝手に心配していただけですから」

 手をぶんぶん振って慌てるモカラの姿を見たら、なんだか心が温かくなった。
 いつの間にか公爵家にも、私のことを心から心配してくれる人ができたのだ。

「モカラ、部屋に入って。渡したいものがあるの」
「私にでございますか?」

 不思議そうな顔で部屋に入って来るモカラに、完成したばかりのぬいぐるみを手渡した。

「これ、お孫さんにあげて」
「まあ、なんて可愛らしいぬいぐるみなのでしょう。それに、いつもローラ様が作ってらっしゃるぬいぐるみとは、随分と違うのですね。触り心地もとてもいいです。でも、こんな高価な物は頂けませんわ」

 やっぱり、モカラならそう言うと思った。

「モカラ、これはフェルトというとても安価な生地で作ったぬいぐるみなのよ。この国の人にはあまりなじみがないかもしれないけれど、街でも普通に売っている生地で、隣国では平民はみんなフェルトでできたぬいぐるみを持っているくらい庶民的な素材なの。だから、遠慮せずに受け取って」

 私の言葉を聞いたモカラは、ぬいぐるみを持ってしばらく考えている様子だった。
 このまま受け取ってくれるといいのだけれど。

「……言われてみればこのフェルト生地というものを、街で見たことがありますわ。ローラ様、ありがとうございます。きっと孫娘も大喜びしますわ。まさか今まで、このぬいぐるみを作っていらしたのですか?」
「ええ、そうよ。いつもお世話になっているモカラに喜んでもらいたくて」
「ローラ様、私のために本当にありがとうございます。こんなにも嬉しい贈り物、初めてです」

 涙を流して喜ぶモカラ。そんなに喜んでもらえるなんて、逆にこっちが嬉しいくらいだ。本当に作って良かった。
 そんな和やかな空気をぶち壊したのは、帰ってきた旦那様だった。

「おい、俺の出迎えに来ないとは、どういう了見だ。それに、モカラが泣いているではないか。お前、モカラに何をした!」

 怖い顔で私に詰め寄る旦那様。

「アーサー様、おやめください。ローラ様は孫娘のために、こんなにも素敵なぬいぐるみを作ってくださったのです。私のような平民にまで気を使ってくださるローラ様の優しさに、感動していたのです」

 すかさずモカラがフォローしてくれた。それにしてもすぐに怒鳴る癖、なんとかならないかしら?

「そうだったのか……。それは、悪かったな……。腹が減った。着替えて来るから、お前は先に食堂に行っていろ」

 えっ? 今、あの旦那様が謝罪した?
 蚊の鳴くような声であまり聞こえなかったけれど、間違いなく「悪かった」って言ったわよね。へ~、旦那様の頭の中にも、一応、悪いことをしたら謝るという基本的な知識くらいはあったのね。

「ローラ様、食堂へ。アーサー様より遅くなれば、またご機嫌が悪くなるでしょうから」

 そう言って笑っているモカラ。
 確かにあの人なら、機嫌が悪くなりそうだ。そう思った私は急いで食堂へと向かったのであった。


 それから数日後。

「ローラ様、先日は孫娘のために、可愛いぬいぐるみを作ってくださり、本当にありがとうございました。落ち込んでいた孫娘も大喜びで、ずっと持ち歩いております。息子夫婦からも、くれぐれもお礼をとのことでした。それからこちら、孫娘からのお礼の品です。ローラ様をイメージして描いたようなのですが、何分まだ幼いものでして……」

 そう言いながらモカラが渡してくれたのは、なんと私の似顔絵だ。
 周りには猫とウサギのぬいぐるみも描いてある。
 きっとモカラに私の特徴を聞いたのだろう。髪の色も瞳の色も私に似せてある。

「モカラ、こんなにも可愛らしい絵をありがとう。これ、せっかくだから部屋に飾ってもいいかしら? そうね、あの一番よく見える場所がいいわ」

 五歳の子が私のために一生懸命書いてくれたのだ。こんなに嬉しいプレゼントはない。早速、部屋の一番目につく場所に飾った。

「わざわざローラ様のお部屋に飾っていただけるなんて。きっと孫娘も喜びますわ。本当に、ありがとうございます」

 モカラが深々と頭を下げた。

「いいえ、お礼を言うのは私の方よ。こんなに喜んでもらえるなんて、本当に嬉しいわ」

 まさかこんなにも喜んでもらえるなんて思わなかった。
 そういえばモカラが、平民は木彫りの人形が主流だと言っていた。
 木彫りは確かに見た目は素晴らしいけれど、大きな衝撃を受けると壊れてしまうことがある。それに触り心地も良くないため、特に小さな子供にはあまり与えられない。
 そうだわ! これをきっかけに、我がペルソナ王国の平民の間にも、ぬいぐるみを浸透させていこう。価格を抑えるならフェルト生地はもちろん、古着をアレンジしたり、タオル生地を使うのもいいだろう。

(よし!)

 私はこの日から貴族向けのモヘア生地のぬいぐるみを作ると同時に、フェルトや古着、タオル生地でもぬいぐるみを作り始めた。
 作ったぬいぐるみはモカラと相談し、平民にも手が届く値段で、街でおもちゃを取り扱っているお店に置いてもらうことにした。
 さらに裁縫が得意な平民たちを集め、平民向けのぬいぐるみ作りの指導も行った。
 そのおかげでペルソナ王国の平民の間でも、急速にぬいぐるみが浸透したのであった。



   第三章 夜会に参加することになりました


 公爵家に嫁いできて、三ヶ月が過ぎた。
 旦那様の仏頂面にも随分慣れて来た。今も仏頂面を拝みながら、美味しい夕食をいただいているところだ。

「今週末、俺の両親が様子を見に来ることになっている。予定を空けておくように」

 珍しく話しかけて来た旦那様。

「公爵ご夫妻がですか? わかりました、空けておきますね」

 と言っても、特に予定などないのだが……

「ところで、今度はウサギが増えているぞ。どういうことだ」

 テーブルに乗るウサギを目ざとく見つけた旦那様が、相変わらず眉間に皺を寄せて怒っている。

「クマだけでは寂しいと思ったので、ウサギも作ってみましたの。どうですか? 可愛いでしょう?」

 ウサギも自信作だ。ちなみに今回は、様々な調味料が乗っているトレーの左右に一匹ずつ付けた。使用人たちからは大好評だ。

「何が可愛いでしょう? だ。食卓に可愛さなんて必要ない。が……、作ってしまったものは仕方がない。今回は見逃してやるが、これ以上増やすな。いいな」

 そう言って、旦那様はさっさと自室に戻ってしまった。
 相変わらずだ。仕方ない、これ以上食堂を飾るのはやめよう。
 その後は、料理人たちと楽しく会話をして自室に戻る。私は基本的に、誰かと話をするのが好きだ。もちろんぬいぐるみを作るのが、一番好きな時間ではあるが。

(そうだわ!)

 週末まで少し時間がある。材料を取り出し、私はあるものを作り始めた。

(これを差し上げたら、喜んでもらえるかしら?)


 そして週末。相変わらず不機嫌そうな旦那様と一緒に、ご両親を待つ。あんなに眉間に皺を作っていたら、歳をとったときに皺くちゃになってしまう。マッサージはしているのだろうか。

「おい、俺の顔をジロジロ見て、一体何のつもりだ」

 不機嫌そうに話しかけて来た旦那様。

「毎日毎日、そんなに眉間に皺を寄せていると、お年を召したときに皺くちゃになってしまうのではと思って、心配していたのです。定期的にマッサージをした方がよろしいですわよ」

 こうやって。旦那様に見えるように、おでこのマッサージをしてみせた。

「大きなお世話だ! お前は少し黙っていろ」

 自分から話しかけておいて、黙っていろだなんて、相変わらず失礼な男だ。
 しばらく待っていると、ご両親がやって来た。

「ローラちゃん、アーサー、久しぶりね。元気そうで良かったわ。それにしても、アーサーが三ヶ月も女性を追い出さないなんて、初めてね」

 そう言って大奥様が嬉しそうに笑った。大旦那様も隣で嬉しそうに頷いている。
 実際のところ、私たちの関係はものすごく冷え切っているのだが……まあ、そこは触れないでおこう。

「父上、母上、中へ」

 旦那様は面倒くさそうに、二人を客間へと案内した。

「まあ、可愛らしいぬいぐるみを沢山飾っているのね。そういえば、ローラちゃんは有名なぬいぐるみ作家と聞いたわ。これ、全部ローラちゃんの作品なの?」
「はい、そうです。せっかくなので、飾らせていただいております」
「いいじゃない。殺風景な客間が、一気に明るくなったわ」

 嬉しそうにぬいぐるみを見ている大奥様。ソファーに座ると、早速お茶の時間になった。
 多分隣に座ったら怒られそうなので、私は気を使って旦那様から少し離れた位置に座った。

「おい、なんで隣に座らないんだ? 俺への当てつけか?」

 すると、隣に座らなかったことに対して、なぜか旦那様から怒られてしまい慌てて隣に座り直す。
 もしかして、ご両親にはうまくいっているように装いたいのかしら?

「アーサー、それで、新婚生活はどうなの? ローラちゃんを大切にしている?」
「それなりに」
(それなりにって何よ!)

 そもそも、私なんてほぼいないものとして扱っているじゃない。たまに話すときには、怒ってばかりいるくせに。
 そう抗議したいが、一応旦那様の顔を立ててやめておいた。

「ローラちゃん、屋敷の住み心地はどう?」
「はい、皆とても良くしてくださいますので、快適に過ごさせていただいております」

 実際に、旦那様以外とは仲良しだ。正直今の生活に不満はない。

「そうか、それは良かった。それじゃあ、王宮で行われる今度の夜会は、夫婦で参加できるな?」
(ん? 夜会?)

 なんだそれは? そんな話は聞いていない。

「ああ、大丈夫だ」

 返事をする旦那様。ちょっと、何が大丈夫なのよ。


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