上 下
70 / 87

第70話:おばあ様の容態は…

しおりを挟む
皆の姿が見えなくなり、やっと腰を下ろした。窓の外は、見慣れた景色が広がっている。しばらくこの国ともお別れか…

おばあ様の容態によっては、いつ戻れるか分からない。ずっと離れて暮らしてきたのだ。おばあ様が元気になるまでは傍にいたいし。とにかく今は、おばあ様の様子が気になる。窓の外をボーっと見ていると。

アデル様に渡された通信機が急にヴーヴー言い出したのだ。

あら?まだ皆と別れて1時間も経っていないのに。どうしたのかしら?

急いで通信機に出ると

“ローズ、ごめんね。まだ出発したばかりなのに。通信機がきちんと作動するか気になって”

「まあ、そうだったのですね。気に掛けて下さり、ありがとうございます。問題なさそうですわね」

“そうだね。でも、距離が離れると使えなくなるかもしれない。定期的に連絡を入れる事にするよ。ローズの事も心配だし”

「…ええ、分かりましたわ。でも、アデル様もお忙しいでしょう?今日泊まるホテルに着きましたら、私から連絡をいたしますわ」

あまりアデル様の手間を取らせる訳にはいかないものね。

“わかったよ。それじゃあ、馬車が停まるたびに連絡を頼むよ。僕も時間を見つけて連絡するからね。ごめんね、もう授業が始まりそうなんだ。それじゃあね”

どうやら授業が始まる前に掛けてきてくれたらしい。アデル様ったら、私の事を気に掛けてくれたのね。それが嬉しくて、つい頬が緩む。

その後も何度かアデル様から通信が入った。そう、学院の休み時間の度に…

ちょっと頻度が多すぎる様な気もするが、きっと長い馬車移動で私が退屈しているだろうと思って、かけてきてくれているのだろう。そう考えると、何も言えない。

やっとホテルに着き、その日は早めに休むことにした。

翌日も、その翌日も、何度もアデル様と通信をしながら過ごす。日が沈みかけた頃、グラシュ国に入った。

見た感じ私が住んでいる国と、大して変わらない。しばらく走ると、一軒の家に入って行く。どうやらここが、お兄様とおばあ様が住んでいる家の様だ。でも、おばあ様は入院しているはずなのに…

そうか、まずはお兄様と家で合流してから、一緒に病院に向かうのね。そう思っていたのだが…

馬車から降り、急いで玄関へと向かう。そして、ゆっくりと玄関のドアを開けると。

「ローズ、よく来たね。長旅で疲れただろう。さあ、中に入って」

笑顔のお兄様に迎え入れられた。

「お兄様、それで、おばあさまの容態は…」

「ローズ、会いたかったわ。私によく顔を見せて頂戴」

え…この声は…

声の方を向くと、そこには杖を突いて立っているおばあ様の姿が。

「おばあ様、怪我をして入院しているのではなかったのですか?お兄様の話では、危険な状態とありましたが…」

「ちょっと転んだだけで、大したことはないわ。頭を打ったから、1日検査入院をしただけよ」

えっ…転んで検査入院をしただけ?

お兄様の方を見ると、スッと目線を外された。あの人、もしかして私をこの国に呼ぶために、わざと大げさに書いたのかしら?

もう、お兄様ったら。絶対に後で文句を言ってやるんだから!

「ローズ、長旅で疲れたでしょう?今日はローズの好きな料理をいっぱい準備しておいたんだよ。さあ、食べよう」

私の背中を優しく撫でながら、嬉しそうにおばあ様がそういった。目に涙を浮かべ喜んでいるおばあ様を見ていたら、急遽来てよかったとさえ思ってしまう。

「ありがとう、おばあ様。それは楽しみですわ。私、お腹がペコペコです。それに、おばあ様には色々と聞いてもらいたい話があるのですよ。学院の話とか、友達の話とか」

「そうかい。それにしても、ローズはしばらく見ない間にすっかり綺麗になったね。たった1人で、寂しい思いをさせてごめんね」

涙を流すおばあ様を見ていたら、無意識におばあ様を抱きしめていた。以前は私が抱きしめられる方だったのに、いつの間にかおばあ様が小さくなってしまった様な気がして、私まで涙が流れてきた。

「おばあ様、中々会いに来なくてごめんなさい。今日は来れてよかったわ」

2人で抱き合ってひとしきり泣いた後、3人で食卓を囲む。私は学院で出来た友人のティーナ様やアデル様、マイケル様、グラス様の事を話した。もちろん、アデル様と心が通じ合った事は内緒だ。

おばあ様にだけは言ってもいいのだが、何分隣にはお兄様もいる。きっと私とアデル様が付き合ったと聞いたら、大騒ぎになるだろう。

「そうかい、ローズは随分と友達に恵まれたんだね。楽しい学院生活を送っている様で、安心したよ」

そう言ってほほ笑んでくれたおばあ様。でもその瞳はどこか寂しそうで、なんだか胸が締め付けられた。

「おばあ様、そんなに悲しそうな顔をしないで下さい。さあ、もっとたくさん食べて下さいね。こっちもお料理も美味しいですよ」

すかさずおばあ様にお料理を勧めた。本当は早く国に帰りたい。でも…
こんなに嬉しそうな顔のおばあ様を見ていたら、とてもじゃないがすぐに帰りたいなんて言えない。

おばあ様の笑顔を見ながら、複雑な感情をいだいたのであった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:207,401pt お気に入り:12,431

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,629pt お気に入り:2,919

月が導く異世界道中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:58,042pt お気に入り:53,914

チートなタブレットを持って快適異世界生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,015pt お気に入り:14,313

婚約破棄であなたの人生狂わせますわ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,732pt お気に入り:49

処理中です...