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第70話:おばあ様の容態は…
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皆の姿が見えなくなり、やっと腰を下ろした。窓の外は、見慣れた景色が広がっている。しばらくこの国ともお別れか…
おばあ様の容態によっては、いつ戻れるか分からない。ずっと離れて暮らしてきたのだ。おばあ様が元気になるまでは傍にいたいし。とにかく今は、おばあ様の様子が気になる。窓の外をボーっと見ていると。
アデル様に渡された通信機が急にヴーヴー言い出したのだ。
あら?まだ皆と別れて1時間も経っていないのに。どうしたのかしら?
急いで通信機に出ると
“ローズ、ごめんね。まだ出発したばかりなのに。通信機がきちんと作動するか気になって”
「まあ、そうだったのですね。気に掛けて下さり、ありがとうございます。問題なさそうですわね」
“そうだね。でも、距離が離れると使えなくなるかもしれない。定期的に連絡を入れる事にするよ。ローズの事も心配だし”
「…ええ、分かりましたわ。でも、アデル様もお忙しいでしょう?今日泊まるホテルに着きましたら、私から連絡をいたしますわ」
あまりアデル様の手間を取らせる訳にはいかないものね。
“わかったよ。それじゃあ、馬車が停まるたびに連絡を頼むよ。僕も時間を見つけて連絡するからね。ごめんね、もう授業が始まりそうなんだ。それじゃあね”
どうやら授業が始まる前に掛けてきてくれたらしい。アデル様ったら、私の事を気に掛けてくれたのね。それが嬉しくて、つい頬が緩む。
その後も何度かアデル様から通信が入った。そう、学院の休み時間の度に…
ちょっと頻度が多すぎる様な気もするが、きっと長い馬車移動で私が退屈しているだろうと思って、かけてきてくれているのだろう。そう考えると、何も言えない。
やっとホテルに着き、その日は早めに休むことにした。
翌日も、その翌日も、何度もアデル様と通信をしながら過ごす。日が沈みかけた頃、グラシュ国に入った。
見た感じ私が住んでいる国と、大して変わらない。しばらく走ると、一軒の家に入って行く。どうやらここが、お兄様とおばあ様が住んでいる家の様だ。でも、おばあ様は入院しているはずなのに…
そうか、まずはお兄様と家で合流してから、一緒に病院に向かうのね。そう思っていたのだが…
馬車から降り、急いで玄関へと向かう。そして、ゆっくりと玄関のドアを開けると。
「ローズ、よく来たね。長旅で疲れただろう。さあ、中に入って」
笑顔のお兄様に迎え入れられた。
「お兄様、それで、おばあさまの容態は…」
「ローズ、会いたかったわ。私によく顔を見せて頂戴」
え…この声は…
声の方を向くと、そこには杖を突いて立っているおばあ様の姿が。
「おばあ様、怪我をして入院しているのではなかったのですか?お兄様の話では、危険な状態とありましたが…」
「ちょっと転んだだけで、大したことはないわ。頭を打ったから、1日検査入院をしただけよ」
えっ…転んで検査入院をしただけ?
お兄様の方を見ると、スッと目線を外された。あの人、もしかして私をこの国に呼ぶために、わざと大げさに書いたのかしら?
もう、お兄様ったら。絶対に後で文句を言ってやるんだから!
「ローズ、長旅で疲れたでしょう?今日はローズの好きな料理をいっぱい準備しておいたんだよ。さあ、食べよう」
私の背中を優しく撫でながら、嬉しそうにおばあ様がそういった。目に涙を浮かべ喜んでいるおばあ様を見ていたら、急遽来てよかったとさえ思ってしまう。
「ありがとう、おばあ様。それは楽しみですわ。私、お腹がペコペコです。それに、おばあ様には色々と聞いてもらいたい話があるのですよ。学院の話とか、友達の話とか」
「そうかい。それにしても、ローズはしばらく見ない間にすっかり綺麗になったね。たった1人で、寂しい思いをさせてごめんね」
涙を流すおばあ様を見ていたら、無意識におばあ様を抱きしめていた。以前は私が抱きしめられる方だったのに、いつの間にかおばあ様が小さくなってしまった様な気がして、私まで涙が流れてきた。
「おばあ様、中々会いに来なくてごめんなさい。今日は来れてよかったわ」
2人で抱き合ってひとしきり泣いた後、3人で食卓を囲む。私は学院で出来た友人のティーナ様やアデル様、マイケル様、グラス様の事を話した。もちろん、アデル様と心が通じ合った事は内緒だ。
おばあ様にだけは言ってもいいのだが、何分隣にはお兄様もいる。きっと私とアデル様が付き合ったと聞いたら、大騒ぎになるだろう。
「そうかい、ローズは随分と友達に恵まれたんだね。楽しい学院生活を送っている様で、安心したよ」
そう言ってほほ笑んでくれたおばあ様。でもその瞳はどこか寂しそうで、なんだか胸が締め付けられた。
「おばあ様、そんなに悲しそうな顔をしないで下さい。さあ、もっとたくさん食べて下さいね。こっちもお料理も美味しいですよ」
すかさずおばあ様にお料理を勧めた。本当は早く国に帰りたい。でも…
こんなに嬉しそうな顔のおばあ様を見ていたら、とてもじゃないがすぐに帰りたいなんて言えない。
おばあ様の笑顔を見ながら、複雑な感情をいだいたのであった。
おばあ様の容態によっては、いつ戻れるか分からない。ずっと離れて暮らしてきたのだ。おばあ様が元気になるまでは傍にいたいし。とにかく今は、おばあ様の様子が気になる。窓の外をボーっと見ていると。
アデル様に渡された通信機が急にヴーヴー言い出したのだ。
あら?まだ皆と別れて1時間も経っていないのに。どうしたのかしら?
急いで通信機に出ると
“ローズ、ごめんね。まだ出発したばかりなのに。通信機がきちんと作動するか気になって”
「まあ、そうだったのですね。気に掛けて下さり、ありがとうございます。問題なさそうですわね」
“そうだね。でも、距離が離れると使えなくなるかもしれない。定期的に連絡を入れる事にするよ。ローズの事も心配だし”
「…ええ、分かりましたわ。でも、アデル様もお忙しいでしょう?今日泊まるホテルに着きましたら、私から連絡をいたしますわ」
あまりアデル様の手間を取らせる訳にはいかないものね。
“わかったよ。それじゃあ、馬車が停まるたびに連絡を頼むよ。僕も時間を見つけて連絡するからね。ごめんね、もう授業が始まりそうなんだ。それじゃあね”
どうやら授業が始まる前に掛けてきてくれたらしい。アデル様ったら、私の事を気に掛けてくれたのね。それが嬉しくて、つい頬が緩む。
その後も何度かアデル様から通信が入った。そう、学院の休み時間の度に…
ちょっと頻度が多すぎる様な気もするが、きっと長い馬車移動で私が退屈しているだろうと思って、かけてきてくれているのだろう。そう考えると、何も言えない。
やっとホテルに着き、その日は早めに休むことにした。
翌日も、その翌日も、何度もアデル様と通信をしながら過ごす。日が沈みかけた頃、グラシュ国に入った。
見た感じ私が住んでいる国と、大して変わらない。しばらく走ると、一軒の家に入って行く。どうやらここが、お兄様とおばあ様が住んでいる家の様だ。でも、おばあ様は入院しているはずなのに…
そうか、まずはお兄様と家で合流してから、一緒に病院に向かうのね。そう思っていたのだが…
馬車から降り、急いで玄関へと向かう。そして、ゆっくりと玄関のドアを開けると。
「ローズ、よく来たね。長旅で疲れただろう。さあ、中に入って」
笑顔のお兄様に迎え入れられた。
「お兄様、それで、おばあさまの容態は…」
「ローズ、会いたかったわ。私によく顔を見せて頂戴」
え…この声は…
声の方を向くと、そこには杖を突いて立っているおばあ様の姿が。
「おばあ様、怪我をして入院しているのではなかったのですか?お兄様の話では、危険な状態とありましたが…」
「ちょっと転んだだけで、大したことはないわ。頭を打ったから、1日検査入院をしただけよ」
えっ…転んで検査入院をしただけ?
お兄様の方を見ると、スッと目線を外された。あの人、もしかして私をこの国に呼ぶために、わざと大げさに書いたのかしら?
もう、お兄様ったら。絶対に後で文句を言ってやるんだから!
「ローズ、長旅で疲れたでしょう?今日はローズの好きな料理をいっぱい準備しておいたんだよ。さあ、食べよう」
私の背中を優しく撫でながら、嬉しそうにおばあ様がそういった。目に涙を浮かべ喜んでいるおばあ様を見ていたら、急遽来てよかったとさえ思ってしまう。
「ありがとう、おばあ様。それは楽しみですわ。私、お腹がペコペコです。それに、おばあ様には色々と聞いてもらいたい話があるのですよ。学院の話とか、友達の話とか」
「そうかい。それにしても、ローズはしばらく見ない間にすっかり綺麗になったね。たった1人で、寂しい思いをさせてごめんね」
涙を流すおばあ様を見ていたら、無意識におばあ様を抱きしめていた。以前は私が抱きしめられる方だったのに、いつの間にかおばあ様が小さくなってしまった様な気がして、私まで涙が流れてきた。
「おばあ様、中々会いに来なくてごめんなさい。今日は来れてよかったわ」
2人で抱き合ってひとしきり泣いた後、3人で食卓を囲む。私は学院で出来た友人のティーナ様やアデル様、マイケル様、グラス様の事を話した。もちろん、アデル様と心が通じ合った事は内緒だ。
おばあ様にだけは言ってもいいのだが、何分隣にはお兄様もいる。きっと私とアデル様が付き合ったと聞いたら、大騒ぎになるだろう。
「そうかい、ローズは随分と友達に恵まれたんだね。楽しい学院生活を送っている様で、安心したよ」
そう言ってほほ笑んでくれたおばあ様。でもその瞳はどこか寂しそうで、なんだか胸が締め付けられた。
「おばあ様、そんなに悲しそうな顔をしないで下さい。さあ、もっとたくさん食べて下さいね。こっちもお料理も美味しいですよ」
すかさずおばあ様にお料理を勧めた。本当は早く国に帰りたい。でも…
こんなに嬉しそうな顔のおばあ様を見ていたら、とてもじゃないがすぐに帰りたいなんて言えない。
おばあ様の笑顔を見ながら、複雑な感情をいだいたのであった。
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