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第6話:もう大丈夫です

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翌日、朝一番で領地を出て、王都へと向かう。今回はお父様とお兄様が増えたので、2台の馬車で帰る事になった。私はお父様とお母様と同じ馬車だ。

せっかくなので、美しい海を見ながら、領地とお別れをする。

「ルーナ、行きとは打って変わって、今とてもいい顔をしているわ」

そう言って笑ったお母様。

「ありがとうございます。領地に行った事で、随分と心が軽くなりましたわ。お母様、領地に連れて来てくださり、本当にありがとうございました」

「お礼なら、ミシェルちゃんに言ってあげて。あの子が領地にあなたを連れていく事を提案してくれたのよ。“王都にいたら、きっと考えなくてもいい事を考えてしまう。どうせなら、領地で全てを忘れて、目いっぱい楽しんで欲しい”てね。本当に優しい子よね。ロイドはいい奥さんをもらったわ」

「まあ、お義姉様が。本当にお義姉様には助けられてばかりね」

お義姉様の優しさが身に染みる。

「それからルーナ、既にお前と婚約を結びたいと言う申し込みが何通か来ているよ。ルーナが婚約出来る様になるのは、早くてもあと半年後なのに…既にルーナ争奪戦が始まっているみたいだ。ただ、正式な申し込みという訳ではなく、あくまでも候補に入れて欲しいと言った感じだ。屋敷に戻ったら、目を通しておきなさい」

「まあ、もうそんなお手紙が来ているのですか?」

ビックリして口をポカンと開けて固まってしまう。

「そりゃそうよ、あなたはこの国で一番美しいと言われているのよ。あなたが婚約破棄をしたとなれば、国中の殿方が放っておかないわ」

お母様…いくら娘が可愛いからって、ちょっと過大評価しすぎではなくって…それでもこんな私と結婚してもいいと考えて下さっている殿方がいらっしゃるだけで、なんだか心がまた軽くなる。本当に有難い事だ。ただ…

「有難い限りなのですが、当分は婚約者とかはいいですわ。なんだか疲れてしまったし…」

「分かっているよ。ルーナの心が落ち着き、この人となら結婚してもいいと言う人が現れたら、婚約すればいいよ」

そう言ってほほ笑んでくれたお父様。侯爵令嬢として家の為により身分の高い人の元に嫁がないといけないはずなのに。私の事を一番に考えてくれるお父様。本当に私は家族に恵まれている。

「ありがとうございます、お父様」

その後もお父様とお母様と話をしながら、王都を目指す。そして日もすっかり暮れた頃、やっと屋敷に戻ってきた。1週間しか留守にしていないのに、なんだか何年も家に帰っていない様で、懐かしい感じがした。

きっとそれだけ、領地での生活が充実していたという事なのだろう。

さすがに今日はもう遅いので、急いで夕食を食べ、湯あみを済ます。すると

「お嬢様、今日もエマ様が心配して様子を見に来てくださいましたよ」

そうメイドが教えてくれた。

「まあ、エマが。それは申し訳ない事をしてしまったわね。明日から貴族学院に行く予定だから、エマにはお礼を言っておくわ」

心優しいエマの事だ。私の事を相当心配してくれているのだろう。でも、エマらしいわ。明日は久しぶりの貴族学院。エヴァン様に会うのは正直気が重いが、エマもいるしきっと大丈夫だろう。

そう思い、ゆっくり目を閉じた。

あれほどまでに辛かったのに、なんだかすっかり吹っ切れたわ。私、意外と切り替えが早いタイプなのね。自分でもびっくりするくらい、今は心が穏やかだ。
今日も疲れていたせいか、あっという間に眠りについたのだった。



翌日、久しぶりに制服に袖を通した。なんだかもう随分学院にも行っていない気がするのは気のせいだろう。

正直少しだけ、そう、ほんの少しだけ気が重いが、きっと大丈夫だ!そう自分に言い聞かせる。

いつもの様に食堂に向かった。

「おはようございます、お父様、お母様」

「おはよう、ルーナ。その格好、まさか貴族学院に行くのかい?」

「ええ、もちろんですわ。だって1週間も休んだのですもの。それにエマたちも心配してくれている様だし。元気な姿を見せないと」

極力笑顔でそう伝えた。

「ルーナ、無理をする必要は無いのよ。昨日帰りも遅かったし、今日くらいは…」

「本当に大丈夫ですわ。私、もう吹っ切れましたから。さあ、早く朝食を頂いて学院に行かないと、遅刻してしまいますわ」

急いで朝食を済ませ、自室で準備を整えると、馬車に乗り込んだ。

「ルーナちゃん、あなたまさか学院に向かうつもり?」

隣の建屋から飛んできたのは、お義姉様だ。傍にはお兄様とロードもいる。

「ええ、お義姉様のお陰で、心の療養も出来ましたし、本当にありがとうございました。お義姉様」

お義姉様に向かって、頭を下げる。

「もう、ルーナちゃんったら。ルーナちゃんの頑張り屋のところ、私は大好きよ。でも、無理はしないでね。もし辛くなったら早退してきたらいいからね」

そう声を掛けてくれたお義姉様。

「ありがとうございます。それでは行ってきます」

両親だけでなく、兄夫婦と甥にまで見送られ、学院へと向かったのだった。
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