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第27話:ナタリー嬢とハドソン殿下が婚約した理由~エヴァン視点~

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翌日、ヴィノーデル公爵家から正式な謝罪と、慰謝料が渡された。ただ、ナタリー嬢がルーナに謝罪する事はなかったが、この日は特にルーナに暴言を吐く事もなかった。

「父上、ヴィノーデル公爵はさすがにこのままではまずいと思ったのでしょうか?今日になって急に謝罪をして来るなんて」

「そうだな。ただ、ヴィノーデル公爵は腹黒いところがあるから、信用はならないが…」

父上も困惑している様だ。それでも謝罪してきたという事は、さすがのヴィノーデル公爵も思う事があったのだろう。でも、やはり油断は出来ない。

そもそもどうしてあんなにも傲慢な女が、王太子の婚約者なんかになったのだろう?2人が婚約したのは、確か4歳の時だったな。通常この国では、王太子の婚約者選びは早くても8歳くらいから始めるのが一般的と言われているのに。どうしてこんなに早く婚約をしたのだろう。

「父上、どうしてナタリー嬢が婚約者に選ばれたのですか?確かに公爵令嬢ですが、ヴィノーデル公爵に忖度する必要はないはずですが?」

ずっと気になっていたのだ。いくら公爵令嬢だからって、どうしてあんな女がハドソン殿下の婚約者になったのかを。

「実はな…ナタリー嬢の母君、亡くなったヴィノーデル公爵夫人は、現王妃様の幼馴染兼親友だったんだ。ナタリー嬢からは想像できないだろうが、ヴィノーデル公爵夫人は非常に慈悲深く、心優しい女性だったんだよ。侯爵令嬢だった王妃様を妬む貴族もいてね。意地悪をする令嬢たちから体を張って王妃様を守っていたのも、ヴィノーデル公爵夫人だったんだ」

どうやらナタリー嬢の母親は、かなりまともな人間だった様だ。でも、ヴィノーデル公爵夫人は既に…

「そんな夫人が亡くなったのは、ナタリー嬢が3歳の時だった。王妃様はもちろん、ヴィノーデル公爵もそれはそれは悲しんでね。夫人の忘れ形見でもあるナタリー嬢と自分の息子を婚約させたいと、王妃様が公爵に申し出たんだよ。ただ…ヴィノーデル公爵は母親を亡くしたナタリー嬢を不憫に思ったのか、それはそれは我が儘に育ててしまった。もし夫人が生きていればきっと、ナタリー嬢は夫人に似て心優しい人間になっていたかもしれないね…」

そうだったのか。それにしても王妃様は、愚かだな。いくら親友の忘れ形見であっても、やはりある程度成長させてから婚約を成立させるべきだったのに。

「もちろん王妃様も、ナタリー嬢を立派なレディに仕立て上げようとした。でも…ヴィノーデル公爵が娘可愛さからか、厳しく接しようとする王妃様をナタリー嬢に一切会わせない様にしてね。実際今の2人は、かなり険悪になっているよ。王妃様も毎日“私が無理やり婚約させたばかりに…”と、泣いているらしい。夫人が亡くなってから、ヴィノーデル公爵もすっかり変わってしまったし。あの家にとって、夫人は全てだったんだ」

なるほど、そんな理由があったのか。だからと言って、ルーナを傷つけていい理由にはならないがな。

「父上、話していただき、ありがとうございます。たとえどんな理由があれ、やはりナタリー嬢は王妃にはふさわしくないかと。それに、このまま諦めるとは思えません。ルーナに対する執着は、正直恐ろしいほどです。きっと何らかの行動を起こして来るかと思われます」

「そうだな…引き続き、ルーナ嬢を見守ろう。それでエヴァン、ルーナ嬢との仲は少しは縮まったかい?」

「…いえ、全然です。それでも僕は、ルーナを守れるなら幸せです。たとえ人生を共にする事が叶わなかったとしても…」

と言ってみたが、もちろん、何が何でも手に入れる予定だけれどね。こうやって謙虚に生きておいた方がいいだろう。

「そうか…大丈夫だよ、エヴァンがどれほどルーナ嬢を大切に思っているか、きっといつかルーナ嬢に伝わる。だからあまり気を病むなよ」

「はい、ありがとうございます。父上」

一旦自室に戻り、今後について考える。
さすがのナタリー嬢も、今後は直接ルーナに手を出すことはないだろう。だとすると、何らかの方法で、ルーナを傷つけるかもしれない。もしナタリー嬢の動きを監視する事が出来れば…

でも、さすがに厳重な警備を敷いているヴィノーデル公爵家に潜入する事は至難の業。となると、やはりあいつに協力を依頼するしかないか。

すぐに執事を呼び出し、僕はあるものを準備してくれる様に頼んだ。準備ができ次第、あいつに交渉に行かないと。


そして2週間後、準備が整った。思ったより時間が掛かってしまったが、仕方がない。この2週間、1度だけルーナに危険が及んだ事があった。そう、ルーナが乗る馬車が襲われたのだ。ただ、僕が付けていた護衛がすぐに対処したため、大事には至らなかった。もちろん、僕もすぐに駆け付けたし。

すっかり怯えてしまったルーナを、今は僕が送り迎えをしている。最初は抵抗していたルーナだったが、今は大人しく乗っている。本当にかわいい子だな。

でも…間違いなくナタリー嬢が雇った男たちだろう。生け捕りにして尋問を行ったが、”俺たちは金で雇われただけで、依頼主は知らない”の一点張りだった。

とにかく、早く僕も動き出さないと。
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