助けた青年は私から全てを奪った隣国の王族でした

Karamimi

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第6話:アダム様はしばらくここに居てくれるそうです

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快気祝いを行った翌日、今日も朝から薪を準備してくれるアダム様。今までは枝を拾ってきて、使いやすい大きさに切って使っていたが、なんとアダム様は大きな木を切り倒し、そこから薪を作ってくれているのだ。さすが男性ね!


そう言えばアダム様は元々この国の人ではない様だ。という事は、怪我が治ったからこの家から出て行くのかしら?

そう考えると、胸がチクリと痛んだ。カミラさんが亡くなってから、ずっと1人だった。そんな中、突如現れたアダム様。アダム様との生活は大変な事もあったが、それでも楽しい日々だった。いつの間にか私の中で、アダム様は大切な家族の一員になっていたのかもしれない。

出来る事ならアダム様にはここにずっといて欲しい。でも、アダム様にも色々と事情があるだろう。何となくだが、高貴な身分の様だし…

一度アダム様に今後について聞いてみよう!とにかく今は朝ご飯の準備をしないとね。朝晩は随分と冷えて来た!栄養たっぷりの温かいスープを作ろう。

食事の準備をしていると

「ただいま、フローラ。今日は随分と冷えるよ!とりあえず薪はこれでもかと言うくらい準備したから、この冬は越せそうだ」

「ありがとうございます。寒かったでしょう?さあ、朝ご飯にしましょう」

2人向かい合い、朝ご飯を食べる。

「このスープ、体の芯まで温まるよ!本当に美味しいな」

そう言って嬉しそうに食べている。アダム様に今後について聞かないと。でも…もし出て行くと言ったらどうしよう。て、何をウジウジしているのかしら!私らしくもない!よし!

「あの、アダム様。あなた様の怪我も完治しました。それで、これからどうするおつもりですか?もし行く当てがないのであれば、ずっとここにいてもらっても大丈夫ですよ」

さあ、アダム様からはどんな答えが返ってくるのかしら!緊張の瞬間である。

「正直あまり考えていなかったな。それじゃあお言葉に甘えて、ここにしばらく置いてもらおうかな。もちろん、俺も働いて収入を得るから安心して!」

そう言ってにっこり笑ったアダム様。良かったわ、しばらくはここに居てくれるのね!

「そうだ、実は来週俺の誕生日なんだよ。良かったらお祝いしてくれるかい?」

「まあ、アダム様のお誕生日なのですね。それで、いくつになられるのですか?」

「18歳だよ!」

「え…そんなに年齢がいっていたなんて…全然私の言う事も聞かないし、自由奔放だからてっきりもう少し若いのかと…」

「フローラ、多分心の中で呟いたのだろうが、声が漏れているよ!」

苦笑いしながらそう言ったアダム様。しまった!つい思ったことが口から出てしまったわ。

「あら、ごめんなさい!それならば、盛大にお祝いをしましょう!何か食べたいものはありますか?」

「そうだな、チキンの丸焼きかな」

「またチキンですか!まあいいですけれど…」

本当にアダム様はチキンが好きなのね。

「フローラの誕生日はいつなんだい?もちろん、お祝いしたいからさ」

私の誕生日…私の誕生日は…

「3ヶ月後です…でも、私の誕生日はお祝いしてもらわなくても大丈夫ですわ…あまり良い思い出がありませんので…」

そう、この日は私達家族が地獄に叩き落とされた日。辛い辛い日でもあるのだ。6歳の誕生日以来、ずっとお祝いをしてこなかった。その日は両親や兄姉を思い、ただただ祈り続ける日。それが私の誕生日なのだ。

「そうなのかい?それなら俺が素敵な誕生日の日に塗り替えて…」

「ありがとうございます!でもこの日は、どうしてもやらなければいけない事がありますので大丈夫ですわ!」

アダム様の言葉を遮った。アダム様も何かを感じ取ったのか、これ以上何も聞いてこなかった。

「空気を悪くしてごめんなさい。でも、アダム様の誕生日は盛大にお祝いしますね!私、誰かのお誕生日を祝うのって好きなんです!カミラさんのお誕生日も、毎年盛大に祝っていたのですよ」

初めて迎えたカミラさんのお誕生日の時、こっそり準備をした。と言ってもまだ幼かったので、大したことは出来なかったが。それでも嬉しそうに「ありがとう、フローラ」そう言ってくれたのが嬉しくて、それから毎年お祝いをしていた。そんなカミラさんももういない。

でも今年はアダム様がいるわ。盛大にお祝いをしないとね。アダム様が木彫りの作業をしている間に、早速街に出て毛糸を購入する。これから寒くなるので、マフラーと手袋、帽子を編んで誕生日プレゼントとして渡そうと思ったのだ。来週までに編み上げないといけないから、急がないとね。

急いで家に帰ると、なぜか外でアダム様が待っていた。

「フローラ、俺に内緒でどこに行っていたんだい?物凄く心配したんだよ!」

珍しく怖い顔をしている。

「ごめんなさい。ちょっと街に買い物に行っていたの!真剣に木を彫っていたので、邪魔しては駄目だと思って。それにすぐに帰って来るつもりでしたし…」

「すぐでも何でも駄目だ!そもそも、街に出る時は必ず俺も一緒に行くと言っただろう?とにかく、これからは勝手に街に行かないでくれ!それで、他の男共には絡まれていないよね?」

「別にいつも通り話をしたくらいですわ…」

そもそも、街に出る時はアダム様も必ず行くなんて言っていたかしら?でも、なんだかそんな事を言える雰囲気ではない!

「やっぱり絡まれたんじゃないか!昨日街に出て思ったんだ。フローラは少し警戒心がなさすぎるってね!とにかくこれからは、1人で街には行かない事。分かったね!」

物凄い勢いで詰め寄って来るアダム様。あまりの迫力に

「はい…分かりましたわ…」

そう答えてしまった。そもそも、今まで10年近く1人で街に買い物に行っていたけれど、特にトラブルに巻き込まれた事はないのだけれどな…
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