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35 レイモンド・ボーイング ~レオナルド目線
しおりを挟む~レオナルド目線
リリアにプロポーズしてから二か月後。
キリリとした冬晴れの中、俺とリリアの結婚式が行われた。
リリアのウエディングドレス姿はそれはもう美しく、またもや俺の脳天には雷が落ちて、こんどは脊髄までドロドロに溶かされてしまった。
指環の交換、誓いのキス。
厳かな鐘の音に、舞い散る沢山のフラワーシャワー。
そして、リリアの幸せそうな笑顔。
ああ、俺はこの日をどんなに待ちわびていたことか!!
ずっと、ずっと待ち続けていたんだ。
そう、前世から。
リリアにも誰にも黙っているが、実は俺、レオナルド・ボンディングも転生者だ。
前世の記憶を思い出したのは、トーマスからリンの全てを聞いたとき。
『日本の国民的アイドル、加々美リン』
加々美リン?
リン・カガミ!!
俺のエンジェル!俺のミューズ!俺のフェアリー!
マイスイートハニー!リン・カガミ!!
俺の前世はボクシングのスーパーヘビー級選手、レイモンド・ボーイング。
アメリカ人だ。
俺は大きく筋肉で埋め立てられたような体躯をしていたが、ボクシング選手としてはあまりパッとしなかった。
ボクシング人生では勝ちより敗けのほうが多かったくらいだ。
特にあのソーイチロー・ナルミという日本人と対戦した時は、ボコボコにやられて2ラウンドKO負け。
引退まで考えた。
しかし引退したのは俺ではなく、あの男。
しかもその後すぐに空手に転向して世界チャンピオンになりやがった!!
だが俺のこの大きな身体と厳つい顔立ちは東洋人にはえらい受けたらしく、ニッポンでは一躍ヒーロー扱いされた。
俺がリン・カガミと会ったのは一度きり。
ニッポンのバラエティー番組に呼ばれ、その共演者の中にリンがいた。
そのオファーが来た時、俺は正直言って『めんどくせぇな』と思ったんだ。
だってニッポンに行く準備とかだりぃし言葉も通じないだろ?
さらにその間、恋人にも会えない。
五日間も禁欲生活とかマジかよ!
収録中も、ゲラゲラ笑う周りに合わせて、ただニコニコとぎこちない笑みを浮かべるだけ。
『それでは!今、大人気のボクシング、スーパーヘビー級のレイモンド・ボーイング選手に我らがアイドル、加々美リンちゃんを抱っこしてもらいましょう!!』
『ゲンドー』とかいう、禿げたチビの童顔オヤジがそのナリに似合わない大きな声を張り上げた。
は?『ダッコ』って何だ?
俺の耳元で通訳のおばさんがボソボソと告げる。
『ダッコ』って抱き上げることか!
まあ、小さなニッポン人くらい、俺なら片手で余裕だけどな!
『えっと、加々美リンです。よろしくお願いします』
15、6歳くらいの美少女がにっこりと笑って俺の前に立った。
ワーオ!なんちゅうプリティーガール!
俺が屈んで両手を広げると、恥ずかしそうに笑って腕の中に入ってきた。
その笑顔とは裏腹に、緊張しているのか体は小刻みに震えている。
『大丈夫だ。落っことしたりしねぇよ?』
英語で話しかけたが、彼女には伝わらなかったらしい。
カチカチに固まった少女の体。
小さな尻の下に腕を回し、子供を抱っこするように縦に抱き上げた。
だって、短けぇスカート履いてたんだぜ?
お姫様抱っこなんかしたら、この子のパンツが見えちまう。
抱き上げた彼女の耳元で
『力抜けよ、大丈夫だから』と小さな声で囁いて優しく笑って見せた。
こんな可愛らしい少女を怖がらせるわけにはいかねぇだろ?
その瞬間、彼女の全身の力が抜けたと思ったら、俺の顔を見てふにゃりと笑った。
そして俺の首にその細い腕を回し、耳元で何か呟いた。
ニッポン語だったから、なんて言ったかわかんなかったけど。
俺が『何て言ったんだ?』って彼女の顔を見ると、首を傾げてまた笑った。
今度はさっきのふにゃっとした笑顔とは違う。
甘噛みをして遊びに誘ってくる子猫のような笑顔。
突然、俺の脳天に雷が落ちたかのような電流が走った。
少女の大きな黒い瞳に、狼狽えた俺の顔が映っている。
ああ、吸い込まれる。
俺の脳ミソは一瞬で、完全にイカれちまった。
ドロドロに。
俺は強烈にこの少女、リン・カガミが欲しいと思った。
このまま、俺の腕に抱いたまま、この子を連れて帰りたい!
この子を俺の腕の中に抱き締めて、ずっとずっと眺めていたい。
この小さな子猫に引っかかれながら、優しく抱いて手懐けてみたい。
俺の部屋に閉じ込めて鍵を掛け、誰にも会わせずに俺だけのものにしたい。
そして、この子が欲しがる物を何でも与えてやろう。
そうすればきっとこの子は俺のことを好きに・・・・・・
いや、いやいや、俺はロリコンじゃねぇ!
こんな子供にそんな想像するとか犯罪者かよ、変態かよ!
それに俺の好みはセクシーでグラマーな大人の女だ。
はっきり言って俺は女好きだ。
とっかえひっかえ、今も6股中だ。
体だけの関係の女を合わせると、10人を越える。
こんな汚れた大人に変な想像されるとか、この子がかわいそうだろうが!
そのあと何事もなかったような顔でアメリカに帰った俺だったが、どうしてもリン・カガミの事が忘れられずにいた。
未成年の少女に恋をしただなんて、アメリカじゃなくても犯罪だ。
いや、あの子はアイドルなんだから別に好きなだけなら構わないんじゃねぇか?
ネットでジャパニーズアイドルと打ち込んだらリン・カガミの画像がトップに出てきた。
モニターに映る彼女にさえ、ドキドキと心臓がうるさく鳴り響く。
震える手で画像をクリックした。
『リン・カガミ、ニッポンの国民的女性アイドル、年齢23歳。』
はあああ? 23歳?! あの少女が23歳だと?!
大人じゃねぇか!
好きになっても犯罪じゃねえ!
ヤッホー!俺はリン・カガミが好きなんだ!大好きだ!
今度ニッポンからオファーがあれば喜んで受けよう!
またリン・カガミに会えるかもしんねぇ!
そんで、もしまた会えたら俺と結婚してくれってプロポーズするんだ!
こんなことしてらんねぇ!
ニッポン語の勉強だ!
言葉が通じねぇんじゃ話にならねぇ!
俺はそれまで付き合っていた女たちと全て縁を切り、一人ニッポン語の勉強に勤しんだ。
待ってろリン・カガミ!
もうすぐ迎えに行く!
もう一度会ってちゃんと会話ができれば、お前は俺の事を好きになるはずだ!
だが俺は、それまでの行いのツケを払うことになる。
俺の淫らな女関係がニッポンのマスコミにフューチャーされた。
俺にフラれた女どもが腹いせにリークしたらしい。
潔癖症のニッポン人に完全に嫌われた俺は、二度とニッポンのテレビに呼ばれることはなかった。
リン、リン、リン。
そんな報道は信じるな!
俺は、今はもうお前ひと筋だ!
俺の頭の中はリン・カガミで隙間なく埋め尽くされている。
俺は必死にニッポン語の勉強を続けた。
そして一年後、俺は空港に向かってハイウェイを走っていた。
やっとリン・カガミに会える。
アポなんてとってないけど大丈夫。
俺とリンは『運命の二人』なんだから。
はやる気持ちを押さえて安全運転を心がける。
こんな所で事故ったりしたらシャレになんねぇからな!
ニッポン語会話のCDでも聞こうと、カーステレオのボタンを押した。
ラジオが鳴った。
ああ、間違えた、ラジオじゃねぇよ、CDだろ?
落ち着けよ俺。
ふとラジオから聞こえて来た海外ニュース。
『ニッポンの女性トップアイドル、リン・カガミが、同じニッポンの男性アイドルに刃物で刺され死亡』
は?
・・・・・・リン・カガミが
・・・・・・死んだ?
嘘だろ・・・・・・?
リンは俺と結婚する運命なんだ。
彼女は俺が迎えに来るのを待ってるんだ。
何でだよ!!
目の前が真っ暗になった俺はそのままガードレールに激突して、死んだ。
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36 最終話 おやすみ
~レオナルド・ボンディング目線 へ
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