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五章
58 勇者と魔王の最後
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シグファリスは僕を覆い隠すようにきつく抱き込んだ。あまりにきつい抱擁で息もできない。
――息ができない?
「ああ、アリスティド兄様……よかった、どこも痛くないか?」
「く……苦しい……」
僕の掠れた声に反応したシグファリスはすぐさま腕の力を緩めたが、僕を離す気はないらしい。抱きしめられたまま、清浄な空気を肺いっぱいに吸い込んで、吐く。
呼吸をしている。悪魔の体は呼吸を必要としないのに。それに、降り注ぐ朝日のなんと暖かいことだろう。忌まわしいはずの太陽光が、冷えた頬を心地よく温める。
「な……なんということだ……まさか、こんなことが」
懐疑心と驚嘆の入り混じった呻き声が耳に届く。
戸惑いながらも周囲を見渡す。瘴気が祓われ、清浄な空気を取り戻した湖のほとり。シグファリスの間合いの外から僕らを囲んでいるのは、シグファリスの仲間たち。
フロレンツ。トリスタン。カグヤ。三人とも僕を見て愕然としている。もう一人、ジュリアンだけは地面に這いつくばって紙束らしきものに猛烈な勢いで何かを書き殴っていた。
シグファリスは僕の体に自分が着ていた外套を纏わせながら、仲間たちにじろりと睨みをきかせた。
「見せ物じゃねえんだよ、散れ。だいたいお前らどっから湧いて出てきた?」
「貴様が魔王を連れて逃走したから追いかけてきたに決まっているであろうがこの馬鹿たれがっ! しかし、魔王は……アリスティドは……その姿は、まやかしではないのか……?」
トリスタンはシグファリスに殴りかからんばかりの勢いで拳を振り上げていたが、後半は僕の姿を見て恐々と拳を下げた。
信じがたいものを見るような彼らの視線につられて、僕も自分の両手を見る。爪が黒くない。肌は白いが、死体のようではない。血の通った健康的な白さだ。なにより視界の端に映る髪が、銀色に輝いている。
「……ま、さか……」
生き返っただけではない。
人間に戻っている。
「信じられない……なぜ……」
僕の呟きに答えたのはシグファリスだった。
「アリスティド兄様が俺を生き返らせてくれただろ? だから、アリスティド兄様が使った魔法陣の……魔力痕? っていうのか? それをなぞってもう一回魔法陣を編んで、なんとかしようとしたらなんとかなった」
シグファリスはこともなげにそう説明して、期待に目を輝かせていた。早くご褒美をもらえないかとそわそわしている子供のような顔だった。そんなシグファリスの顔を見つめたまま呆然としてしまう。
――なんとかしようとしたらなんとかなった?
そんな出鱈目な話があるか。だが光の加護というものはそもそもが規格外だ。
エステルの笑顔が脳裏に蘇る。そして、あの光の奔流。彼女が、光が力を貸したに違いない。
いや、だからといって一度消滅した人としての肉体を蘇生させられるはずがない。生まれ直した、という方が近いのだろうか。新たに人体を錬成して、僕の魂を定着させたと考えれば納得――できるわけがない。
奇跡の横暴さに滅多打ちにされて愕然としている僕の気など知らず、シグファリスは無邪気な眼差しで僕を見つめている。
何もかも理解し難いが、とりあえずは。
僕は震える手を伸ばしてシグファリスの頭を撫でた。シグファリスは金色の目を細めて、くしゃりと笑った。
「し、シグファリスが笑った……!」
驚きの声を上げたのはトリスタンだった。他の仲間たちもシグファリスの無邪気な笑顔など見たことがないに違いない。
「おやまあ。これが奇跡というものなら、一段落と見てええわな」
カグヤののんびりとした声が、張り詰めていた空気を弛緩させる。だがフロレンツだけは緩んだ空気に飲まれることはなかった。
「――いいえ。それは早計だと言わざるを得ませんね」
凍りついたフロレンツの表情が僕に向けられる。
「悪魔を蘇生させて人間に戻したことは、百歩譲って奇跡だと言ってもいい。だが、それがなんだ? それで魔王アリスティドの残虐な行いがなかったことになるとでも?」
「それはアリスティド兄様じゃなくて全部ベルトランとかいうクソ野郎がしでかしたことだし、そいつはもう殺した。アリスティド兄様は無実だ」
「その話を信ずる根拠は?」
「悪魔に殺された俺をアリスティド兄様が生き返らせて、俺が持つ光の加護がアリスティド兄様を生き返らせて人間に戻した。それで説明が足りねえか?」
「足りないね。確かに光の加護は神の力だ。だがその力は神の意思そのものではない。シグファリス、君の意思によって発動する。君が悪魔にそそのかされて光の加護を利用されたのだとしたら? すべてがアリスティドの計略ではないとどうして言い切れる?」
フロレンツの言い分は正しい。ディシフェルが裏で糸を引いていたということを示す客観的な証拠はないのだから。
「トリスタンはどうだ? セルジュ陛下や、その他にも大勢の人々の命が不当に奪われたことを許せるのか?」
「う……む、それは……」
水を向けられたトリスタンが言い淀む。シグファリスはトリスタンの中に生じた隙を見逃さなかった。
「へえ? 国王陛下を守れなかった騎士様は、ここにいらっしゃるオーベルティエ公爵閣下までむざむざ殺しちまおうってのか? 国王陛下と同じで悪魔の被害を受けただけの、この罪のないアリスティド兄様を?」
「う……ぬ……」
その言葉は忠誠心も信仰心も深いトリスタンの戦意を削ぐには十分すぎたようだ。ただ呻くだけで何も言えないトリスタンに追い打ちをかけるように、シグファリスは大仰にため息をついた。
「みんな散々俺のことを勇者だなんだと持ち上げてたのに、俺の言うことを信じてくれないなんてな……魔王を倒させたらそれで用済みってことか?」
「けしてそんなことはない! だが論点をずらさないでもらおうか」
情に訴えかけて持論を押し通そうとするシグファリスに、フロレンツは流されない。しかし他の者たちは違った。
実直なトリスタンはすでに僕への敵意を失っている。
戦闘態勢を解いたカグヤは岩場にどっかりと座り込み、静観を決め込んでいた。
ジュリアンはそもそも話を聞いていない。蘇生魔法のことで頭がいっぱいに違いない。
フロレンツの主張を汲めるのは僕だけだ。
「――フロレンツの言う通りだ、シグファリス」
口を開いた僕に注目が集まる。
「僕は確かにディシフェルに操られていた。だが、上に立つものとして――オーベルティエ公爵家の当主という立場であり、権力を持つ身でありながら、身内の裏切りを看破できずに悪魔に隙を見せてしまったこと自体が既に罪だ。僕さえ悪魔に対抗できていたなら、これほどまでに被害が拡大することはなかった」
僕一人が世界のすべてを背負う必要はないとエステルは言った。だが、それで僕がまったく責任を取らなくていいということにはならない。
「……魔王に庇われるとは、皮肉だな」
フロレンツがため息をつく。フロレンツにとって僕は故国を滅ぼした仇敵だ。それでも私怨だけで僕を糾弾しているわけではない。僕はフロレンツの棘のある視線を浴びたまま話を続ける。
「こうして生き返ったのが神の意思だというのなら、それは生きて罪を償えという神の思し召しだろう。僕は王都へ戻り、オーベルティエ公爵として罪を償おうと思う」
「どうやって償うと? その首を差し出す覚悟はおありか?」
「それは当然――」
「あ゛ぁ? 誰の首を差し出せって?」
僕の言葉を遮ったシグファリスが殺気を放つ。
「アリスティド兄様は俺が生き返らせたから俺のもんなんだよ。アリスティド兄様の首が欲しけりゃ俺を殺してからにしろ。当然ただ殺されてやるつもりはねえからな」
「待て、シグファリス、仲間と争うな」
「大丈夫だ。俺たちはこう見えても仲良しだから、意見が食い違う時は殺すぐらいのつもりで真剣に語り合うんだよ」
何も大丈夫ではない。シグファリスの言う「語り合う」は「殴り合う」という意味だ。
「いいか、シグファリス。せっかくシグファリスに繋いでもらった命だ、無為に首を落とされようとは思わない。今、王国は貴族と平民の間で対立が起こるか否かの瀬戸際だ。戦争に発展するかもしれない。そんな中、共通の敵であるオーベルティエ公爵が現れれば、彼らは再び一つにまとまるはずだ」
「――どうして囚われていたはずの貴公がそんなことを知っているのか、今は問わないでおくが。その通りだ」
フロレンツが僕の後を引き継ぐ。
「シグファリス。僕はシグファリスこそが新しい時代を築く象徴として王座につくべきだと考えていたけれど、アリスティドを庇うというなら話は別だ。魔王を庇う君のことなど、誰も王として認めようとは思わない」
「お前のご大層な大局観に勝手に俺を組み込んでんじゃねえよ、俺は王になりたいなんて思ったことすらない。いい加減にしろぶち殺すぞ」
「いいだろう。僕たちはそれなりに長い付き合いになるけど、拳で語り合ったことはなかったね。僕の腕力を舐めるなよ」
一触即発。そんな空気を一切読まずに声を上げたのはジュリアンだった。
「ねえ紙が足りなんだけど! 誰か持ってない!?」
「こんな時になにをやっているんだ貴様は!」
「トリスタンこそなに言ってんの!? 蘇生魔法の魔法陣を書き写してるんだよ! 今それより大事なことある!? てゆうか早くアリスティド様に質問させてくれないかな! 見たまま書き写しはしたけど全然意味がわかんない記憶が鮮明なうちに早く早く早く!」
駄々をこねる子供のように地面を転がるジュリアンに、シグファリスもフロレンツも毒気を抜かれたようだった。
フロレンツは這いつくばったままのジュリアンのかたわらに膝をつき、目線を合わせて真摯に語りかける。
「ジュリアン、今はすべての戦いに蹴りをつけるための、大事な時なんだ。蘇生魔法が重要だということもわかるけれど――」
「別に揉める必要なくない? 勇者と魔王が二人とも死ねば全部解決するんだからさ」
あっさりと放たれたジュリアンの言葉に、その場にいた全員が凍りつく。再び一触即発の空気に浸されるかと思いきや、シグファリスはしばらく考え込むような顔をした後で、深々と頷いた。
「――いいな。それでいこう」
議論の末。勇者シグファリスと魔王アリスティドは死ぬことになった。
――息ができない?
「ああ、アリスティド兄様……よかった、どこも痛くないか?」
「く……苦しい……」
僕の掠れた声に反応したシグファリスはすぐさま腕の力を緩めたが、僕を離す気はないらしい。抱きしめられたまま、清浄な空気を肺いっぱいに吸い込んで、吐く。
呼吸をしている。悪魔の体は呼吸を必要としないのに。それに、降り注ぐ朝日のなんと暖かいことだろう。忌まわしいはずの太陽光が、冷えた頬を心地よく温める。
「な……なんということだ……まさか、こんなことが」
懐疑心と驚嘆の入り混じった呻き声が耳に届く。
戸惑いながらも周囲を見渡す。瘴気が祓われ、清浄な空気を取り戻した湖のほとり。シグファリスの間合いの外から僕らを囲んでいるのは、シグファリスの仲間たち。
フロレンツ。トリスタン。カグヤ。三人とも僕を見て愕然としている。もう一人、ジュリアンだけは地面に這いつくばって紙束らしきものに猛烈な勢いで何かを書き殴っていた。
シグファリスは僕の体に自分が着ていた外套を纏わせながら、仲間たちにじろりと睨みをきかせた。
「見せ物じゃねえんだよ、散れ。だいたいお前らどっから湧いて出てきた?」
「貴様が魔王を連れて逃走したから追いかけてきたに決まっているであろうがこの馬鹿たれがっ! しかし、魔王は……アリスティドは……その姿は、まやかしではないのか……?」
トリスタンはシグファリスに殴りかからんばかりの勢いで拳を振り上げていたが、後半は僕の姿を見て恐々と拳を下げた。
信じがたいものを見るような彼らの視線につられて、僕も自分の両手を見る。爪が黒くない。肌は白いが、死体のようではない。血の通った健康的な白さだ。なにより視界の端に映る髪が、銀色に輝いている。
「……ま、さか……」
生き返っただけではない。
人間に戻っている。
「信じられない……なぜ……」
僕の呟きに答えたのはシグファリスだった。
「アリスティド兄様が俺を生き返らせてくれただろ? だから、アリスティド兄様が使った魔法陣の……魔力痕? っていうのか? それをなぞってもう一回魔法陣を編んで、なんとかしようとしたらなんとかなった」
シグファリスはこともなげにそう説明して、期待に目を輝かせていた。早くご褒美をもらえないかとそわそわしている子供のような顔だった。そんなシグファリスの顔を見つめたまま呆然としてしまう。
――なんとかしようとしたらなんとかなった?
そんな出鱈目な話があるか。だが光の加護というものはそもそもが規格外だ。
エステルの笑顔が脳裏に蘇る。そして、あの光の奔流。彼女が、光が力を貸したに違いない。
いや、だからといって一度消滅した人としての肉体を蘇生させられるはずがない。生まれ直した、という方が近いのだろうか。新たに人体を錬成して、僕の魂を定着させたと考えれば納得――できるわけがない。
奇跡の横暴さに滅多打ちにされて愕然としている僕の気など知らず、シグファリスは無邪気な眼差しで僕を見つめている。
何もかも理解し難いが、とりあえずは。
僕は震える手を伸ばしてシグファリスの頭を撫でた。シグファリスは金色の目を細めて、くしゃりと笑った。
「し、シグファリスが笑った……!」
驚きの声を上げたのはトリスタンだった。他の仲間たちもシグファリスの無邪気な笑顔など見たことがないに違いない。
「おやまあ。これが奇跡というものなら、一段落と見てええわな」
カグヤののんびりとした声が、張り詰めていた空気を弛緩させる。だがフロレンツだけは緩んだ空気に飲まれることはなかった。
「――いいえ。それは早計だと言わざるを得ませんね」
凍りついたフロレンツの表情が僕に向けられる。
「悪魔を蘇生させて人間に戻したことは、百歩譲って奇跡だと言ってもいい。だが、それがなんだ? それで魔王アリスティドの残虐な行いがなかったことになるとでも?」
「それはアリスティド兄様じゃなくて全部ベルトランとかいうクソ野郎がしでかしたことだし、そいつはもう殺した。アリスティド兄様は無実だ」
「その話を信ずる根拠は?」
「悪魔に殺された俺をアリスティド兄様が生き返らせて、俺が持つ光の加護がアリスティド兄様を生き返らせて人間に戻した。それで説明が足りねえか?」
「足りないね。確かに光の加護は神の力だ。だがその力は神の意思そのものではない。シグファリス、君の意思によって発動する。君が悪魔にそそのかされて光の加護を利用されたのだとしたら? すべてがアリスティドの計略ではないとどうして言い切れる?」
フロレンツの言い分は正しい。ディシフェルが裏で糸を引いていたということを示す客観的な証拠はないのだから。
「トリスタンはどうだ? セルジュ陛下や、その他にも大勢の人々の命が不当に奪われたことを許せるのか?」
「う……む、それは……」
水を向けられたトリスタンが言い淀む。シグファリスはトリスタンの中に生じた隙を見逃さなかった。
「へえ? 国王陛下を守れなかった騎士様は、ここにいらっしゃるオーベルティエ公爵閣下までむざむざ殺しちまおうってのか? 国王陛下と同じで悪魔の被害を受けただけの、この罪のないアリスティド兄様を?」
「う……ぬ……」
その言葉は忠誠心も信仰心も深いトリスタンの戦意を削ぐには十分すぎたようだ。ただ呻くだけで何も言えないトリスタンに追い打ちをかけるように、シグファリスは大仰にため息をついた。
「みんな散々俺のことを勇者だなんだと持ち上げてたのに、俺の言うことを信じてくれないなんてな……魔王を倒させたらそれで用済みってことか?」
「けしてそんなことはない! だが論点をずらさないでもらおうか」
情に訴えかけて持論を押し通そうとするシグファリスに、フロレンツは流されない。しかし他の者たちは違った。
実直なトリスタンはすでに僕への敵意を失っている。
戦闘態勢を解いたカグヤは岩場にどっかりと座り込み、静観を決め込んでいた。
ジュリアンはそもそも話を聞いていない。蘇生魔法のことで頭がいっぱいに違いない。
フロレンツの主張を汲めるのは僕だけだ。
「――フロレンツの言う通りだ、シグファリス」
口を開いた僕に注目が集まる。
「僕は確かにディシフェルに操られていた。だが、上に立つものとして――オーベルティエ公爵家の当主という立場であり、権力を持つ身でありながら、身内の裏切りを看破できずに悪魔に隙を見せてしまったこと自体が既に罪だ。僕さえ悪魔に対抗できていたなら、これほどまでに被害が拡大することはなかった」
僕一人が世界のすべてを背負う必要はないとエステルは言った。だが、それで僕がまったく責任を取らなくていいということにはならない。
「……魔王に庇われるとは、皮肉だな」
フロレンツがため息をつく。フロレンツにとって僕は故国を滅ぼした仇敵だ。それでも私怨だけで僕を糾弾しているわけではない。僕はフロレンツの棘のある視線を浴びたまま話を続ける。
「こうして生き返ったのが神の意思だというのなら、それは生きて罪を償えという神の思し召しだろう。僕は王都へ戻り、オーベルティエ公爵として罪を償おうと思う」
「どうやって償うと? その首を差し出す覚悟はおありか?」
「それは当然――」
「あ゛ぁ? 誰の首を差し出せって?」
僕の言葉を遮ったシグファリスが殺気を放つ。
「アリスティド兄様は俺が生き返らせたから俺のもんなんだよ。アリスティド兄様の首が欲しけりゃ俺を殺してからにしろ。当然ただ殺されてやるつもりはねえからな」
「待て、シグファリス、仲間と争うな」
「大丈夫だ。俺たちはこう見えても仲良しだから、意見が食い違う時は殺すぐらいのつもりで真剣に語り合うんだよ」
何も大丈夫ではない。シグファリスの言う「語り合う」は「殴り合う」という意味だ。
「いいか、シグファリス。せっかくシグファリスに繋いでもらった命だ、無為に首を落とされようとは思わない。今、王国は貴族と平民の間で対立が起こるか否かの瀬戸際だ。戦争に発展するかもしれない。そんな中、共通の敵であるオーベルティエ公爵が現れれば、彼らは再び一つにまとまるはずだ」
「――どうして囚われていたはずの貴公がそんなことを知っているのか、今は問わないでおくが。その通りだ」
フロレンツが僕の後を引き継ぐ。
「シグファリス。僕はシグファリスこそが新しい時代を築く象徴として王座につくべきだと考えていたけれど、アリスティドを庇うというなら話は別だ。魔王を庇う君のことなど、誰も王として認めようとは思わない」
「お前のご大層な大局観に勝手に俺を組み込んでんじゃねえよ、俺は王になりたいなんて思ったことすらない。いい加減にしろぶち殺すぞ」
「いいだろう。僕たちはそれなりに長い付き合いになるけど、拳で語り合ったことはなかったね。僕の腕力を舐めるなよ」
一触即発。そんな空気を一切読まずに声を上げたのはジュリアンだった。
「ねえ紙が足りなんだけど! 誰か持ってない!?」
「こんな時になにをやっているんだ貴様は!」
「トリスタンこそなに言ってんの!? 蘇生魔法の魔法陣を書き写してるんだよ! 今それより大事なことある!? てゆうか早くアリスティド様に質問させてくれないかな! 見たまま書き写しはしたけど全然意味がわかんない記憶が鮮明なうちに早く早く早く!」
駄々をこねる子供のように地面を転がるジュリアンに、シグファリスもフロレンツも毒気を抜かれたようだった。
フロレンツは這いつくばったままのジュリアンのかたわらに膝をつき、目線を合わせて真摯に語りかける。
「ジュリアン、今はすべての戦いに蹴りをつけるための、大事な時なんだ。蘇生魔法が重要だということもわかるけれど――」
「別に揉める必要なくない? 勇者と魔王が二人とも死ねば全部解決するんだからさ」
あっさりと放たれたジュリアンの言葉に、その場にいた全員が凍りつく。再び一触即発の空気に浸されるかと思いきや、シグファリスはしばらく考え込むような顔をした後で、深々と頷いた。
「――いいな。それでいこう」
議論の末。勇者シグファリスと魔王アリスティドは死ぬことになった。
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