【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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一章

07 貴族→奴隷→男娼→商人()

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 娼館を巣立ってから半年。俺は旅商人としてエスト国内の主要都市を巡っていた。
 復讐すべき元家族を見つけ出すためには広く情報を集めなくてはならない。旅商人であれば怪しまれずに各地を回り、かつ食い扶持を稼ぐことができる。
 商品として主に取り扱っているのは魔法石。アルティメット・ドラゴンでは「火の石」「風の石」などという名称で登場する。戦闘中に使うとMP消費なしで魔法攻撃ができる便利アイテムだ。一回限りの使い捨てだけれど、MPの少ない序盤で活躍する。
 この世界において、魔法石を製作しているのは魔法使い――つまり貴族だ。しかし貴族にとって労働は恥。領民から税を搾り取り、享楽に耽ってこそ貴族。魔法石の製作は、それほど裕福ではない下級貴族がひっそりと行う内職という位置付けだ。貴族とつながりのある商人が彼らから魔法石を仕入れて、魔法を使えない平民に向けて売っている。
 さてこの魔法石。旅に出てからしばらくして、俺にも生成可能であることに気づいた。作り方は簡単。そこらへんで拾ってきた手ごろなサイズの天然石を握りしめ、スキル一覧から〔付加術〕を選択して任意の魔法を込める。ファイアボールを込めれば「火の石」、ウィンドアローを込めれば「風の石」が生成されるってわけ。
 通常であれば魔法石を生成する際にもMPを消費する。しかし普通の魔法使いとは違い、俺は魔力ゼロにしてMPゼロ。なのになんの縛りもなく魔法を使える。つまり元手ゼロで無尽蔵に魔法石を作りまくって売りさばくことができるのだ。
 これがまあ儲かって仕方ない。売れば売るだけ金になる。やっぱり世の中、金だよねガハハ。
 ――なんて調子に乗ってたから悪人に目をつけられてしまったわけで。

「おら、かわいい顔に傷を作りたくなかったら大人しく仕入れ先を吐きな」

 町はずれの廃屋に連れ込まれた俺は、いかつい顔をしたごろつき三人に囲まれていた。
 まあちょっと派手に商売しすぎちゃったんだよね。俺みたいな儚げプリティボーイが一人でボロ儲けしてるもんだから、仕入れ先を奪ってやろうという困った輩に目をつけられてしまったのだった。

「俺たちだって乱暴したいわけじゃないんだ。ただ、お前さんに魔法石を卸してるお貴族様に俺らを紹介してくれたらそれでいいんだよ」
「そうそう、俺らも一緒に仕事をしてやろうってこった。悪い話じゃねえだろ?」

 三人の男たちは脅したりなだめたりしながら俺に仕入れ先を吐かせようとしている。悪い話じゃないと言われても俺に何のメリットもない。そもそも俺が作ってるから教えようがない。

「守秘義務がありますのでお答えしかねます」
「ああ? しゅ……しゅひ……なんだって?」
「馬鹿、お前、しゅひぎむってのはなあ……大事なことだろうが」
「そうそう、大事なことだ! 仕入れ先ってのは商人にとって大事だからな」

 馬鹿三人が守秘義務について考えている隙に、俺はこそっと〔能力鑑定+++〕を発動させた。
 三人分のステータスが一気に表示される。全員使える魔法はなし。しかし三人のうち一人が〔値切り〕というスキルを持っていた。商人としてはかなり役立ちそうなスキルである。

 この半年間で、魔法とスキルの違いについてもなんとなくわかってきた。
 魔法は生まれつき使える者と使えない者に別れているが、スキルは平民でも努力の結果、身につけることができる技能らしい。
 商人なら〔物品鑑定〕、鍛冶師なら〔武器製作〕〔防具製作〕などなど。剣士であれば〔乱れ斬り〕〔一刀両断〕などの必殺技的なものも使える。
 恐らくは相応の経験を積み、修行の末に獲得できる能力なのだろう。俺は彼らが苦労して身につけたスキルを簡単にいただいてしまえるわけなので胸が痛まないでもない。ごめんね♡ たっぷり天国にイかせてやるから許して♡

「あの……こわいこと、しないでください……ちゃんと言うこと聞くので……」

 スキル持ちの男めがけて上目遣いをぶちかます。儚げに震え、目に涙を浮かべることも忘れない。

「んお……おお、素直じゃねえか。いい子にしてりゃ悪いようにはしねえよ?」

 スキル持ちの男はデレっとした顔を隠そうともせずに、なれなれしく俺を抱き寄せた。よし。この男とさくっと一発やって新しいスキルをゲットだぜ。

「おいちょっと待て、そういうのは後にしろよ」
「そうだぞ。最初に俺がこのガキに目をつけたんだから俺が先だ」
「はあ? そういうことじゃねえだろ」

 なんということでしょう、俺をめぐって争いになってしまうなんて。俺は怯えたふりをしながら内心でほくそ笑んだ。
 男娼から商人になって気づいたことのひとつ。
 ――俺はかわいい。
 娼館にいたころは周囲が美形ぞろいで霞んでいたが、市井に出たらまあ目立つ。芸能界でパッとしなかったアイドルも、一般人に混ざれば飛びぬけてかわいい、みたいな感じだろうか。そんなわけで俺がかわいいのは仕方のないことだから存分に争ってくれ。

「まあいいじゃねえか。かわいいなあ、震えちまって……優しくしてやるからよお……」

 なんだかんだで話がついたらしく、スキル持ちの男が俺を押し倒す。乱暴にしないでちゃんと敷物の上に転がしてくれるし、服も破かずにきっちり脱がせようとしている。残った男たちは舌打ちしながら廃屋の外に出ていった。
 三人でいっぺんにかかってこられたらちょっとしんどかったからよかった。この手の悪人ってやるときは意外と優しかったりするんだよな。スキルをいただいたら全員記憶が飛ぶほどぶん殴って逃げるけど。
 そうして男の手でほとんど裸に剥かれたとき、外から鈍い物音がした。どさりと重量のあるものが倒れる音に続いて、バンッ! と勢いよく廃屋の扉が開く。

「なっ、なんだ――んがッ!」

 嵐のように廃屋へと飛び込んできた侵入者は、鞘に納めたままの剣で男の後頭部を殴打して昏倒させた。押し倒されていた俺はすかさず横に転がり、倒れてくる男の巨体から逃れた。
 突然現れたのは、まばゆい銀髪の青年。面識はないが見覚えはある。腕が立つと評判の剣士。
 ――名前は確か、レオ。

「君、大丈夫か。怪我は……」

 レオは俺が裸に剥かれていることに気づいて、はっと息を呑んだ。すぐに状況を察して自分のマントを脱ぎ、俺にかぶせてくれる。
 どういう経緯かはわからないが、レオは俺を助けに来てくれたらしい。新しいスキルをゲットする機会を失ってしまったという気持ちに蓋をして、一応お礼を言う。

「ありがとうございます。怪我はないし、僕は元男娼なので……こんなのは慣れてるから大丈夫です」

 男に襲われた姿(未遂だしむしろ誘惑したのは俺だけど)が憐れに見えたのだろう。あまりに痛ましい表情をしていたので「気にすんなよ、俺も気にしてないし」ぐらいの気持ちで言ってみたけれど、レオは余計に悲しそうな顔をした。

「どんな生まれでも、どんな仕事をしていても、虐げられていい理由にはならないよ」

 そう言いながらレオは俺に手を差し伸べた。開け放たれた扉から注ぐ陽の光を背負ったその姿と、まっすぐな眼差しに、なぜだか胸が騒いだ。
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