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一章
09 商人(裏の顔はヤバい冒険者)
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この国で商売をするためには商業ギルドに加盟する必要がある。
商業ギルドに加盟していれば、国内のどの都市でも市場に店を出すことができる。逆に商業ギルドに加盟していなければ市場から爪はじき。商品があっても売る場所がなければ商売にならないので、合法のまっとうな商いをするためには商業ギルドへの加盟は必須だ。俺は娼館のおかみさんに身元の保証をしてもらうことで商業ギルドに加盟できた。
金を稼ぎながら世界を旅して見聞を広め、俺の生家について情報を集めるためには、旅商人という立場は最適だった。
しかし問題はその後だ。生家を見つけ出せたとしても、復讐を完遂できるかどうか分からない。復讐に失敗して俺だけが殺されるなら自業自得だが、貴族に危害を及ぼした平民は一族郎党皆殺しになる。俺とつながりのある娼館のおかみさんや男娼たちにまで累が及ぶのは避けたい。
なので。俺は娼館を出てから新たに得た〔形態変化〕のスキルを活かし、復讐の実行役として「冒険者イスミ」という架空の人物を作り上げた。
〔形態変化〕は魔法に近い。任意の姿に変身できるだけではなく、体格まで変えられる。万が一にも正体がばれないよう、小柄でかわいいニールちゃんのイメージとは正反対の、ガタイのいいムキムキアニキの姿に設定した。
装備は旅の途中で見かけた黒い鎧の騎士がかっこいいなと思ったので真似した。大剣もかっこいいから完全に趣味で装備した。下手なことを話してボロが出ないよう無口キャラを貫いた。合理性と趣味を半々にしたつもりが、気づいたら中二病全開の人物に仕上がってしまっていた。
でも外見と性格だけならまだそこまで恐れられなかったはずだ。「魔物の血を浴びて残忍に笑う」などというヤバい噂が立ってしまったのは、俺が冒険者の身分を作った直後に犯した失敗のせいだった。
信用第一の商業ギルドとは違い、冒険者になるために問われるのは実力だけだ。身元の保証はいらない。冒険者イスミとしての俺は、慣れるまでは目立たないように細々と活動していた。受けるのは薬草の採取や町の近辺に出没する雑魚魔物の駆除など。地道に実績を積み、冒険者としての常識を学んだ。
そうしてイスミとしての立ち居振る舞いが板に付いてきたころ。二人組の冒険者が割のいい依頼を譲ってくれた。
――夜香草を十本採取したら千ゴールド。急ぎの仕事なので謝礼金が通常の十倍なのだが、相棒が別の依頼を受けてしまったためにキャンセルしなくてはならない。だから代わりに受けてくれないか。
今思えば怪しい話なのだが、初心者の俺は「冒険者同士、こうして助け合うこともあるのだな」などと素直に思ってしまった。
依頼を譲ってくれた冒険者たちは地図まで用意してくれていた。喜び勇んで夜香草の群生地に向かった俺は、気がついたらオーガの巣に足を踏み入れてしまっていた。
地図を確認したが場所は合っている。つまりオーガごとき、初心者でも何とかなるということだ。
俺は大剣を振り回してオーガを倒しまくった。だが数が多い。自分の二倍以上ある体格の魔物たちに囲まれ、疲れすぎてテンションがおかしくなっていた。
「アハハ! あと何匹いんだよド畜生! っていうかこれが初心者向けとか冒険者なめてたわガハハハハ!」
俺いっぱい能力持ってるし最強じゃん? という驕りがあったせいで、初心者向けの依頼にてこずっている自分が恥ずかしかった。恥ずかしすぎてなんかもう逆に笑える。俺は半ばやけくそになってゲラゲラ笑いながら大剣を振り回し、隙あらば魔法をぶっ放した。
そうしてオーガを殲滅し終えたときには、俺は返り血で全身血まみれになっていた。
「ワハハハハ! やったー、狩ったどー!」
狩ったけど物凄く疲れたし、自分はそんなに強くないということが判明して精神的にショックだった。それに当初の目的である夜香草も見つからない。
依頼的には失敗だが、ただでは起きない。とりあえずオーガを狩った証として右耳を切り落としていく。倒したオーガは全部で八匹。依頼を受けていなくても、魔物を倒した証を冒険者ギルドに持ち込めば褒賞が出る。
ゲームだったら戦闘後に「〇〇ゴールド手に入れた」という表示が出て自動的に金が手に入るけれど、この世界では自分で換金する必要がある。魔物が人間の通貨を持っているわけがないので当然といえば当然だ。
「ひ、ひぃ……」
面倒だと思いながらオーガの耳を切り取っていたら、ふと奥の茂みからか細い声が聞こえてきた。手にナイフを持ったまま覗き込むと、俺にこの依頼を譲ってくれた二人組の冒険者がいた。
もしかして俺のことを心配して様子を見に来てくれたのか? と思ったけれど、様子がおかしい。二人ともひどく青ざめた顔をしてガクガクと震え、地面にへたり込んで俺を見上げていた。
「ここでなにをしている」
イスミ用の低い声で尋ねてみると、二人とも弾かれたように地面にはいつくばり、俺に頭を下げた。
「す、す、すみませんでしたぁあ……ッ!」
「……どういうことだ」
マジでなんにもわからん。
俺は要領を得ないまま、腰を抜かした二人を引きずって冒険者ギルドに戻った。すると彼らは冒険者ではなく「冒険者狩り」をしている悪党だということが判明した。
初心者をオーガの巣に誘導し、殺された後で装備品や所持金を奪うという手口を繰り返していたそうだ。
オーガは上級冒険者と呼ばれるベテランが数人集まってようやく一匹倒せるレベルの強敵らしい。それを俺は一人で八匹も倒した。しかも血まみれになってゲラゲラ笑いながら。茂みに隠れてその光景を目撃した悪党たちは、恐怖のあまり腰を抜かし、逃げることもできなかったそうだ。
というわけで。冒険者イスミは一騎当千の強さを誇り、かつ頭がどうかしている戦闘狂なのだと冒険者たちの間で恐れられるようになってしまったのだった。
商業ギルドに加盟していれば、国内のどの都市でも市場に店を出すことができる。逆に商業ギルドに加盟していなければ市場から爪はじき。商品があっても売る場所がなければ商売にならないので、合法のまっとうな商いをするためには商業ギルドへの加盟は必須だ。俺は娼館のおかみさんに身元の保証をしてもらうことで商業ギルドに加盟できた。
金を稼ぎながら世界を旅して見聞を広め、俺の生家について情報を集めるためには、旅商人という立場は最適だった。
しかし問題はその後だ。生家を見つけ出せたとしても、復讐を完遂できるかどうか分からない。復讐に失敗して俺だけが殺されるなら自業自得だが、貴族に危害を及ぼした平民は一族郎党皆殺しになる。俺とつながりのある娼館のおかみさんや男娼たちにまで累が及ぶのは避けたい。
なので。俺は娼館を出てから新たに得た〔形態変化〕のスキルを活かし、復讐の実行役として「冒険者イスミ」という架空の人物を作り上げた。
〔形態変化〕は魔法に近い。任意の姿に変身できるだけではなく、体格まで変えられる。万が一にも正体がばれないよう、小柄でかわいいニールちゃんのイメージとは正反対の、ガタイのいいムキムキアニキの姿に設定した。
装備は旅の途中で見かけた黒い鎧の騎士がかっこいいなと思ったので真似した。大剣もかっこいいから完全に趣味で装備した。下手なことを話してボロが出ないよう無口キャラを貫いた。合理性と趣味を半々にしたつもりが、気づいたら中二病全開の人物に仕上がってしまっていた。
でも外見と性格だけならまだそこまで恐れられなかったはずだ。「魔物の血を浴びて残忍に笑う」などというヤバい噂が立ってしまったのは、俺が冒険者の身分を作った直後に犯した失敗のせいだった。
信用第一の商業ギルドとは違い、冒険者になるために問われるのは実力だけだ。身元の保証はいらない。冒険者イスミとしての俺は、慣れるまでは目立たないように細々と活動していた。受けるのは薬草の採取や町の近辺に出没する雑魚魔物の駆除など。地道に実績を積み、冒険者としての常識を学んだ。
そうしてイスミとしての立ち居振る舞いが板に付いてきたころ。二人組の冒険者が割のいい依頼を譲ってくれた。
――夜香草を十本採取したら千ゴールド。急ぎの仕事なので謝礼金が通常の十倍なのだが、相棒が別の依頼を受けてしまったためにキャンセルしなくてはならない。だから代わりに受けてくれないか。
今思えば怪しい話なのだが、初心者の俺は「冒険者同士、こうして助け合うこともあるのだな」などと素直に思ってしまった。
依頼を譲ってくれた冒険者たちは地図まで用意してくれていた。喜び勇んで夜香草の群生地に向かった俺は、気がついたらオーガの巣に足を踏み入れてしまっていた。
地図を確認したが場所は合っている。つまりオーガごとき、初心者でも何とかなるということだ。
俺は大剣を振り回してオーガを倒しまくった。だが数が多い。自分の二倍以上ある体格の魔物たちに囲まれ、疲れすぎてテンションがおかしくなっていた。
「アハハ! あと何匹いんだよド畜生! っていうかこれが初心者向けとか冒険者なめてたわガハハハハ!」
俺いっぱい能力持ってるし最強じゃん? という驕りがあったせいで、初心者向けの依頼にてこずっている自分が恥ずかしかった。恥ずかしすぎてなんかもう逆に笑える。俺は半ばやけくそになってゲラゲラ笑いながら大剣を振り回し、隙あらば魔法をぶっ放した。
そうしてオーガを殲滅し終えたときには、俺は返り血で全身血まみれになっていた。
「ワハハハハ! やったー、狩ったどー!」
狩ったけど物凄く疲れたし、自分はそんなに強くないということが判明して精神的にショックだった。それに当初の目的である夜香草も見つからない。
依頼的には失敗だが、ただでは起きない。とりあえずオーガを狩った証として右耳を切り落としていく。倒したオーガは全部で八匹。依頼を受けていなくても、魔物を倒した証を冒険者ギルドに持ち込めば褒賞が出る。
ゲームだったら戦闘後に「〇〇ゴールド手に入れた」という表示が出て自動的に金が手に入るけれど、この世界では自分で換金する必要がある。魔物が人間の通貨を持っているわけがないので当然といえば当然だ。
「ひ、ひぃ……」
面倒だと思いながらオーガの耳を切り取っていたら、ふと奥の茂みからか細い声が聞こえてきた。手にナイフを持ったまま覗き込むと、俺にこの依頼を譲ってくれた二人組の冒険者がいた。
もしかして俺のことを心配して様子を見に来てくれたのか? と思ったけれど、様子がおかしい。二人ともひどく青ざめた顔をしてガクガクと震え、地面にへたり込んで俺を見上げていた。
「ここでなにをしている」
イスミ用の低い声で尋ねてみると、二人とも弾かれたように地面にはいつくばり、俺に頭を下げた。
「す、す、すみませんでしたぁあ……ッ!」
「……どういうことだ」
マジでなんにもわからん。
俺は要領を得ないまま、腰を抜かした二人を引きずって冒険者ギルドに戻った。すると彼らは冒険者ではなく「冒険者狩り」をしている悪党だということが判明した。
初心者をオーガの巣に誘導し、殺された後で装備品や所持金を奪うという手口を繰り返していたそうだ。
オーガは上級冒険者と呼ばれるベテランが数人集まってようやく一匹倒せるレベルの強敵らしい。それを俺は一人で八匹も倒した。しかも血まみれになってゲラゲラ笑いながら。茂みに隠れてその光景を目撃した悪党たちは、恐怖のあまり腰を抜かし、逃げることもできなかったそうだ。
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