【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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一章

11 ピクニック

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「わぁ~! すごくきれいなところだね~!」

 目の前の絶景に、俺は半分演技を忘れてはしゃいだ声をあげた。
 今日はレオと二人きりで、町の西側に位置するヘレネー山に来ていた。ゆるやかな登山道をたどり、八合目付近まで登っただろうか。高地に湖が広がり、周囲には白い小さな花が群生している。魔物の気配もなく、小鳥たちが平和そうにチイチイと歌っていた。

「ここはちょっとした穴場で、一人になりたい時にたまに来るんだ。ニールにも気に入ってもらえてよかったよ」
「そうなんだ……連れてきてくれてありがとう」

 そんな隠れ家的な秘密の場所に俺なんかを連れてきてくれたなんて。レオの純粋な好意が照れくさいのと、あくまで体目当てでレオにつきまとっているのが流石に申し訳なくなって、ついうつむいてしまう。
 足元に落ちた俺の影で、蝶が翅を休める。ほのぼのピクニック、といった雰囲気だけれど、今日の目的は素材採取である。このヘレネー山は町からそれほど離れておらず、魔物があまり出現しない上に、採掘しなくても天然石が豊富に転がっている。魔法石商人にとって非常に都合がいい場所だった。
 魔法石商人は天然石を魔法使いの元へ持ち込み、そこに魔力を込めてもらう、という流れが一般的だ。純度の高い石であればあるほど強い魔力を込めることができる。
 いつもは冒険者イスミとして活動するついでにめぼしい石を適当に拾っているけれど、今回は商人のニールとしてレオに素材採取の護衛を依頼した。レオの腕からしたら全然張り合いのない、大した稼ぎにもならない仕事なのだけれど、二つ返事で請け負ってくれた。

 そろそろ昼食にしようというレオの提案に従って、灌木の脇に敷物を広げる。俺が持参した手作りサンドイッチはレオに大好評だった。

「これは美味いな! 食べたことのない味だ……!」
「いっぱいあるからたくさん食べてね♡」

 レオはいつものお行儀のいい食べ方を忘れて、大きく口を開けてサンドイッチにかぶりついた。よし、これでレオの胃袋は掴んだぞ。
 常宿にしてる白兎亭のキッチンを借りて作ってきたのは、ごく普通のサンドイッチだ。芥子菜ときゅうり、ハム、チーズを挟んだ簡単なやつ。レオが「食べたことのない味」と言っているのはマヨネーズのことだ。
 この世界にはまだマヨネーズは存在していなかったらしい。白兎亭のおかみさんに味見を頼んだら絶賛されて、レシピと引き換えに宿代が十日分無料になった。ありがとう前世でマヨネーズを発明した人。

「ごちそう様でした。本当においしかった……」
「どういたしまして。口元が汚れてるよ」

 レオの口元についたマヨネーズを指先で拭って、ぺろりと舐めとる。

「あ、ありがとう……恥ずかしいな、子供みたいで」

 俺の煽りにレオは耳まで赤くしていた。う~ん純情。グイグイ行きすぎたかな。でも今日の真の目的はレオといちゃつくことだったりする。
 依頼は当然建前だ。いつも町中でデートしているから、気分を変えてお外でデートしたらレオも開放的な気分になってセックスしたくなるのではなかろうか――という目論見である。
 今日は山頂付近にある山小屋まで移動して一泊する予定になっている。なにやら温泉も湧いているらしいですし。湯煙でしっぽり♡ ずっぽり♡ 胃袋だけじゃなくてきんたま袋も掴みたい♡
 下心たっぷりでいるのは俺だけで、隣にいるレオは穢れのない瞳で景色を眺めていた。俺もレオの視線を追う。
 圧巻の眺望だった。遠くには急峻な山岳が重なり、頂上付近にはまだ雪が残っている。裾野には緑の絨毯が広がっていて、見渡す限り人工物は見つけられない。
 空は突き抜けるように青い。前世の世界のように排気ガスで汚れているわけじゃないけれど、人の多い街よりもずっと空気が澄んでいる。周囲は花や草木の清々しい香りに満ちていて、薄桃色の蝶たちが風に踊る。

「この世界って、こんなに綺麗だったんだね……」

 レオに語り掛けるでもなく、ぽつりとつぶやく。
 この世界に生まれ変わってからというもの、こうしてゆっくりと景色を眺める余裕なんてなかった。生き延びるのに必死で、復讐で頭がいっぱいで。
 目的を忘れたわけじゃないけど、たまにはリラックスするのも悪くないな、なんて。油断しきっていたら、不意にレオが飛び掛かってきた。体重の軽い俺は簡単に灌木の影へと転がされてしまう。

「えっ!? レオ、どう……!」

 どうしたの、と問いかけようとした俺の口を片手で塞ぎ、きつく抱きしめる。うそ♡ やだ♡ レオが急にヤる気になってくれた♡ こんな上品な顔して野外プレイがお好きな方だったのかよ♡ と思ったが当然違う。
 ――すぐ近くに魔物の気配。
 花畑にいた小鳥たちが一斉にはばたく。地面からわずかに振動を感じる。大型の魔物が歩き回っているのだろう。姿は見えないが、どしんどしんと大地を揺らす足音から、オーガ以上の大型であることがうかがえる。
 密着した体越しにレオの緊張が伝わってくる。足音は一体だけだが、もし見つかってしまえばレオ一人では分が悪い。無力な商人のニールを庇いながらの戦闘、ということになるだろうし。まあ俺が本気を出せば瞬殺だけど、できれば俺の本当の力は内緒にしておきたい。
 幸いなことに、魔物はすぐに遠ざかっていった。完全に魔物の気配がしなくなってから、レオは俺を助け起こしてくれた。

「――もう大丈夫。急に押し倒してすまなかった」
「ううん、助けてくれてありがとう。でも、怖かったから……震えが止まるまで、もうちょっとくっついてていい……?」
「あ、ああ、もちろん」

 涙目+上目遣いのコンボ技を駆使すると、レオは俺を優しく抱き寄せてくれた。俺はレオの胸に顔をうずめ、偶然を装ってレオの股間に体をこすりつけた。レオはさりげなく腰をずらして角度を変えつつも、俺を離さずに頭を撫でてくれた。

「おかしいな、あんな大型がいるなんて。この辺りには小型の魔物しかいないはずだけど……。念のため、今日はもう下山しよう」
「うん、そうだね。レオが一緒にいてくれてよかった……」

 レオは冷静に判断を下すが、俺にはレオが動揺してるのが丸分かりだった。だって股間に体を擦り付けたとき、確実にちんぴくしてましたからね。しかも結構立派なモノをお持ちではないですか。
 天然石は往路でしか採取できなかったし、お泊りもできなかった。しかしレオの下半身が俺に反応すると判明したのだ。押せばイケる。手応えはあった――と思ったのだけど。
 それからさらに一か月が経過しても、俺はレオを落とすことができなかった。
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