【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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二章

35 露払い

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 それからの俺は忙しかった。
 まずはマジックポーションをできる限り量産。そうして商人のニールとして閃光騎士団との商談を成立させたら、お次は冒険者イスミの出番。俺は休む間もなくブルードラゴン討伐の先遣隊に加わっていた。

「ガァアアアア――ッ!」
「ウガァアアアアアア――ッ!」

 前者は魔物の断末魔。後者は俺――イスミの雄叫びである。
 先遣隊に参加してからというもの、俺は魔物を見つけては真っ先に飛びかかり、奇声を上げながら剣をふるいまくっていた。
 通常よりも強い魔物が現れるのはレッドドラゴンが出現したときと同じ。それでも秒でトロールを倒した俺に、老騎士が馬上から語りかけた。
 
「見事な働きである」
「恐縮にございます」

 戦闘中はバーサーカー。貴族と話すときは敬語だが、不気味な低い声で、必要なこと以外口にしない。
 ――魔物を屠ることさえできれば金などいらない。
 そんな戦闘狂の演技は効果抜群だった。他の冒険者たちはもはやイスミに恨みがましい目を向けることすらしない。ただただかかわりたくない一心で、イスミが討伐した魔物を解体して素材の収集に勤しんでいた。

「イスミ。深追いするでないぞ。こちらに襲いかかってくる大物だけ退治すればよい」
「御意」

 先遣隊の隊長は他の騎士団員が務めているが、俺に語りかけてくるのは老騎士だけである。俺も忙しかったが、相談役という立場で先遣隊に参加しているこの老騎士も大概だ。かわいいニールちゃんを閣下のもとまでエスコートしたり、狂犬イスミの手綱を握ったり。クロヴィスに幼い頃から仕えていると言っていたが、何かと重宝する人材のようだった。
 先遣隊は俺を含めた上級冒険者が二十名。ギルドの職員が十名前後。閃光騎士団が七名。それなりの大所帯だった。
 冒険者たちを率いる閃光騎士団の顔ぶれを見ると、貴族の中の力関係もうっすら見えてくる。おそらく身分の低い下級貴族からなる編成なのだろう。領主の館で門番をしていた若い騎士の姿もある。
 彼らは冒険者たちと一定の距離をとっているが、横柄な態度はない。むしろ無償で働く冒険者たちに同情を寄せている面すら伺える。イスミが老騎士の言葉に「御意」と答えつつも、逃げる魔物を狩りまくっているのを黙認していることからもなんとなくそう感じられる。魔物を倒せば倒すだけ冒険者側の儲けになりますからね。ついでに稼いでおきたい。



「ここを野営地とする!」

 魔物の気配が途絶えたタイミングを見計らい、閃光騎士団の小隊長が声を張った。これは休憩できるという意味ではない。これからこの場所を野営地として開拓せよという命令だ。

「ったく、なんなんだよ。きこりを雇えってんだ」
「じゃあお前、イスミと一緒にトロールを倒してこいよ」
「ば、馬鹿野郎、あの戦闘狂に近づいてみろ、俺まで斬られちまう」

 聞き耳を立てていた俺は兜の下でにんまり微笑む。そんなことないですよ。酒場でイスミの悪口を言ってたやつが戦闘中に近づいてきたらどさくさに紛れてワンパンくれてやりますけどね、などと内心でふざけながら、俺も斧を握って伐採に参加する。
 レッドドラゴン討伐の際は伐採地と林道を利用できたが、俺たちがここまでたどってきたのは獣道だ。大所帯の騎士団が問題なく通行するために道を切り開き、要所ごとに野営可能な場所を確保していかねばならない。
 地味な作業だが、閃光騎士団の面々も率先して働いていた。伐採が済んだあと、土魔法を使って根を切り、地面を均している。彼らは工兵なのかもしれない。
 ちなみに伐採した木も冒険者の取り分である。おかげでギルドの職員たちは大忙しだ。荷台いっぱいになった魔物の素材や木材を街まで運び、再び空の荷台を運んでこなければならない。
 冒険者たちのサポートをするために派遣されているギルド職員は十名ほどだが、この荷運び作業にはまた別の人員が割かれている。あまりに俺がハッスルして魔物を狩るので、彼らも忙しなく街まで往復していた。

 土木作業を続けて、日が沈み始めてからようやく冒険者たちにも休息が与えられる。食材の一部は閃光騎士団から振舞われた。

「ははっ! 見ろ、この上等な肉! ご慈悲に感謝だな!」
「うはーっ、酒もあるってよお!」

 冒険者たちは単純である。うまい飯と酒に弱い。「あとはかわい子ちゃんさえいりゃあなあ」というつぶやきに反応しそうになるが、今の俺はかわい子ちゃんのニールではなくバーサーカーのイスミである。出番はない。俺は食事を抱えて自分のテントに引きこもった。
 ――そう。今回俺はギルド側の配慮で個人のテントを与えられている。誰からも文句が出なかったのは、ブルードラゴン討伐の先遣隊が一堂に会したとき、挨拶代わりに兜を脱いだ効果だろう。俺への配慮というより、イスミの恐ろしい顔面を見たくない他の面々への配慮だといえた。
 俺としても隠れていられる方がありがたい。一応〔形態変化+++〕のスキルを使ったまま飲食できるように訓練をしていたが、食事のときぐらいは気を抜きたい。
 外であたたかいものを食べられると、ほっとする。葡萄酒も一緒に持ってくればよかったと思いながらも、俺はひとりを噛みしめた。



 そうして七日が経過した。
 雨も降っていないのに氾濫する川の脅威にさらされながら、ひたすら魔物を倒し、道を切り開き続ける。やがて上流域にたどり着くと、魔物の気配が途絶えた。

「――イスミ、これをどう見るか」

 静まり返った森の中。老騎士が俺に語りかける。もう答えはわかっている。それでも俺に話を振ったのは、経験を重んじる老騎士のやり方なのだろう。

「ブルードラゴンの生息地に接近したと見て、間違いありません」

 俺の返答に、緊張がさらに高まった。
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