【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

文字の大きさ
36 / 96
二章

36 閃光騎士団

しおりを挟む
 先遣隊が上流域にたどり着いてから二日後、閃光騎士団の本隊が到着した。
 旗を掲げた騎兵を先頭に歩兵が続く。おおよそ五十名ほどだろうか。威風堂々と行軍するその姿に、冒険者たちは完全に呑まれていた。

「閃光騎士団総長、クロヴィス閣下の御成りである」

 老騎士が重々しく声を張る。騎士たちに倣って冒険者たちも不恰好に膝を折る。かしこまって迎える俺たちに接近したクロヴィスは、わざわざ馬から降りて直接声をかけた。
 
「貴公らの働き、大義であった」
「もったいないお言葉でございます」

 先遣隊の隊長が恭しく答える。冒険者たちはクロヴィスの貫禄にうろたえながら、ただただ額ずいていた。俺も同じように従順な態度をとりつつも、ちょっと笑いそうになってしまった。ニールと一夜を過ごしたときとのギャップがありすぎる。おろおろしながら平民の腰を撫でる王族なんて、この場の誰も想像できないだろう。そんな不埒な考えを見透かしたように、俺の前でクロヴィスが動きを止めた。
 
「――貴公が……イスミか?」

 まさか声をかけられるとは思わず、対応に惑っているうちに老騎士が「この者が冒険者イスミにございます」と簡潔に答えてくれた。ご紹介に与った俺はさらに深く頭を下げた。

「面を上げよ」

 なぜ俺だけ。戸惑いながらも顔を上げると、じっと見据えられた。本来ならば兜を取るべき場面だ。俺の斜め前方にいる老騎士に目をやると、俺だけにわかるように小さく首を横に振っていた。イスミのグロ顔を閣下にお見せしたくないのだろう。クロヴィスも俺に兜を取れとは言わなかった。

「……貴公の勇名は聞き及んでいる。働きに期待する」

 特別にお言葉をたまわってしまった俺は、ただ愚直に頭を下げた。
 クロヴィスが立ち去ったあと、あれだけタダ働きに文句を言っていた冒険者たちは手のひらを返して閃光騎士団を褒め称えた。

「すげえな、王族は」
「やっぱり俺らとは格が違うぜ。それに、イスミさんに声をかけてたな」
「――まあ、あれだけ働いてりゃな……」

 王族に直接お声がけいただいたおかげで俺の株も上がったが。この後は残念ながら負け戦だ。



 開戦は魔物の力が最も弱まるとされる真昼だった。
 ブルードラゴンが住処にしているのは上流域にある滝壺。周辺の木々は薙ぎ払われ、幾度も川が氾濫したせいで地面はぬかるんでいる。それも想定のうちなのだろう。工兵たちが素早く足場を固め、最前線には重盾を装備した守備部隊を展開。その後方には上位魔法の使い手である騎士たち。
 ここまで道を切り拓いてきた冒険者たちは、そのさらに後方に待機している。先遣隊の隊長を務めていた騎士に「もしも機会があるならば出撃させてやらないでもない」というようなことを言われたが、誰も出しゃばろうとはしなかった。俺も高みの見物をさせてもらう。

 クロヴィスが抜剣して切先を滝壺に向ける。それを合図に、雷属性の上位魔法が一斉に放たれた。魔法による遠距離攻撃でブルードラゴンを引き摺り出そうという作戦なのだろう。だがこれは悪手だ。
 アルティメット・ドラゴンでは、敵の特性ごとに魔法攻撃力に差が出る。たとえば植物系の魔物には火属性の魔法、水生系の魔物には雷魔法がてきめんに効く。そのセオリーを覆してくるのがこのブルードラゴンだ。
 雷撃が滝壺に吸い込まれていく。
 一瞬、静まり返る。

「――伏せろ」

 一応周囲にも声をかけて、俺は地面に伏せた。その直後、滝壺から騎士団に向けて雷魔法が放たれた。まばゆい光に一瞬遅れて、凄まじい轟音が鳴り響く。衝撃で空気がびりびりと震える。怒号と悲鳴が飛び交い、あっという間に前線は崩壊した。

「うわあああっ!」
「な、なんだっ!?」

 衝撃波を浴びた冒険者たちが悲鳴を上げながら後方へとすっ転んでいく。咄嗟に俺を真似て伏せていた冒険者たちや、警戒を怠っていなかった老騎士は難を逃れたが、誰もが愕然としている。
 ――このギミック。俺もアルドラをプレイしていたときに驚かされた。
 水生系の魔物には雷系魔法が効く、という定石はブルードラゴンには通用しない。それどころか雷系の魔法を使うと、次のターンで倍になって帰ってくる。しかも全体攻撃。初めて挑んだときは全滅した。
 前線にいた閃光騎士団の者たちも死屍累々だ。相当数の死者が出ている様子だが、騎士団の後衛部隊に〔リザレクション〕の使い手がいるから蘇生できるだろう。

「怯むな! 第二隊、前へ!」
「救援部隊を援護しろ!」

 各部隊の隊長が声を張り上げる。不測の事態にも即座に対応できるのはさすがだ。
 滝壺からのそりと全容を現したブルードラゴンに、新たに前線へと躍り出た騎士たちが切りかかっていく。

「くっ! 刃が通らん!」
「なんだこの粘液は……ぐっ!」

 日差しを受け、ブルードラゴンの巨体が光る。東洋系の竜とは様子が違う。電気ウナギにツノと短い手足が生えたような姿をしている。長大な全身を覆うのは細かな鱗と粘液。表皮が分厚いだけではなく、粘液のせいで刃が滑って攻撃が通らない。
 ゲームでも物理攻撃は半減する。魔法攻撃を試みようとも、つい先ほど雷撃のお返しが飛んできたばかり。うかつに魔法は放てない。

「ォオオオオオ――ッ!」
 
 ブルードラゴンが雄叫びをあげて全身をくねらせる。騎士たちは長い尾に打ちすえられる寸前で避けたが、遺体は滝壺に引きずり込まれてしまった。一度下がって立て直すべきだが、前線の騎士たちは救助に躍起になっている。遺体を見失えば蘇生もできない。
 ブルードラゴンはけたたましく吠えながら滝壺に飛び込み、一瞬動きを止めた。その隙にとばかりに騎士たちは遺体の回収を試みるが、みるみるうちに滝壺の水があふれていく。

「――! 退避せよ!」

 隊長格の一人が異変を察知して叫ぶが、遅い。津波を思わせる大波が滝壺から迫りあがり、前線にいた半数以上の騎士たちはなすすべなく波に飲まれた。それでも果敢に立て直しを図っているが、防戦一方。苦戦を強いられる閃光騎士団の姿に、冒険者たちもざわつきだした。

「お、おい……」
「やばいんじゃねえのか……」

 明らかに戦況は悪い。顔を青くして囁き合う冒険者たちに、老騎士は毅然と振り返った。

「落ち着くがいい。閣下を信じておれ」

 遠方にいる俺たちの声が届くはずもないが、その声を合図にしたかのようにクロヴィスが動き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界魔物大図鑑 転生したら魔物使いとかいう職業になった俺は、とりあえず魔物を育てながら図鑑的なモノを作る事にしました

おーるぼん
ファンタジー
主人公は俺、43歳独身久保田トシオだ。 人生に疲れて自ら命を絶とうとしていた所、それに失敗(というか妨害された)して異世界に辿り着いた。 最初は夢かと思っていたこの世界だが、どうやらそうではなかったらしい、しかも俺は魔物使いとか言う就いた覚えもない職業になっていた。 おまけにそれが判明したと同時に雑魚魔物使いだと罵倒される始末……随分とふざけた世界である。 だが……ここは現実の世界なんかよりもずっと面白い。 俺はこの世界で仲間たちと共に生きていこうと思う。 これは、そんなしがない中年である俺が四苦八苦しながらもセカンドライフを楽しんでいるだけの物語である。 ……分かっている、『図鑑要素が全くないじゃないか!』と言いたいんだろう? そこは勘弁してほしい、だってこれから俺が作り始めるんだから。 ※他サイト様にも同時掲載しています。

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

辺境伯は嵌められた元令息から目が離せない

コムギ
BL
冤罪により、辺境の地へ追いやられた元侯爵令息ユベール。 だが彼は、あまりのことに気を病んで――はいなかった。 野山を駆け回り、虫を捕まえ、草花をスケッチし、のんびり釣りをする。 それはすべて、侯爵家の令息として縛られていた頃には許されなかった自由だった。 そんな生活から一年。 冤罪を証明できそうだと、幼なじみの王太子から報せが届く。 ――王都へ戻れる。 それは同時に、あの窮屈で冷たい場所へ戻るということでもあった。 迷うユベールの前に現れたのは、これまで静かに見守るだけだった辺境伯ラドヴァン。 「ならば、ずっとここにいろ」 「俺と婚約すればいい」 不器用に、しかし真っ直ぐに差し伸べられた手。 優しく(時に暑苦しく)包囲してくる辺境伯と、元侯爵令息の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

処理中です...