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二章
37 サクリファイス
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クロヴィスが前線に出ると、それだけで騎士たちが活気づいたのが遠目にも見てとれた。
少数の精鋭を引き連れて、クロヴィスはブルードラゴンの猛攻をかわしながら接敵していく。鋭く、力強いクロヴィスのひと太刀で、粘液と鱗が飛び散った。どうやらクロヴィスはただのお飾り総長ではないらしい。
冒険者のレベルは大体10から20前後。30を超える猛者は滅多にいない。閃光騎士団も似たようなもので、前線にいる騎士たちも25前後がせいぜいだ。クロヴィスには〔能力鑑定+++〕が通用しないので正確なレベルはわからないが、魔物相手に実戦経験を積み、自らの手で凶悪な魔物に止めを刺してきたのだろう。――必殺の魔法を使って。
後方にいる騎士たちは、クロヴィスが前線に出た時点で勝利を確信しているらしい。すでに緊張を緩めている者までいる。老騎士もクロヴィスの勝利を信じて疑わない。彼らがそれほどまでにクロヴィスを信頼している根拠が、俺にもわかった。
クロヴィスからは数々の貴重な能力をコピーさせてもらった。
そのうちのひとつである〔サクリファイス〕。これは自らの生命力を犠牲にして敵を一撃で葬る魔法。要は自爆攻撃だ。
アルティメット・ドラゴンは、魔法を覚えても効果の説明が表示されない。名前から察するか、実際に使ってみるしかない。だから仲間のひとりが〔サクリファイス〕を覚えたときに俺はそれが「生贄」という意味だと知らずに使ってしまい、かなり動揺した。自爆攻撃なんて酷すぎる。俺はそれ以降〔サクリファイス〕を封印してプレイしていた。
――だが、クロヴィスは〔サクリファイス〕を使う気だ。
味方には〔リバイバル〕の使い手がいる。〔リバイバル〕は、戦闘不能に陥った際に一度だけ自動で蘇生する魔法。おそらく〔サクリファイス〕は〔リバイバル〕をかけた上で使うことを想定されているのだろう。俺はそれでも仲間を殺すなんて嫌だったから使わなかったけれど。
俺が過去に思いを馳せている間に、クロヴィスは迷いなくブルードラゴンに接近し、尾の一撃を剣で受け流す。そうしてブルードラゴンの懐に飛び込んだ次の瞬間、クロヴィスを中心にまばゆい光が放たれた。
光の洪水は俺たちがいる後方にまで届き、冒険者たちは目をくらませながら動揺した声を漏らした。
「うわあっ! な、なんだ、これは……!」
「安心しなさい、閣下の神聖魔法だ」
うろたえる冒険者たちに、先遣隊に加わっていた騎士のひとりが誇らしげに声をかける。もう戦いは終わったとばかりに勝鬨を挙げている騎士さえいる。
これで本当にブルードラゴンが倒せたのなら、それでいい。クロヴィスの勝利を願いながらも、俺には結果がわかっていた。
やがて光が消えていく。ブルードラゴンは巨体を硬直させていたものの、すぐに敵意を剥き出しにしてクロヴィスに襲いかかった。
「オオオオオオオ――ッ!」
雄叫びと共に巨大な顎でクロヴィスに食らいつこうとする。死の淵から復活したばかりで自失しているクロヴィスを庇って、騎士のひとりが吹き飛ばされる。すぐに戦意を取り戻したクロヴィスは再度〔リバイバル〕をかけさせて、〔サクリファイス〕を発動させる。だがブルードラゴンはもはや光にさえも怯まなかった。
それまで余裕を見せていた騎士たちに、これまでにない緊張が走る。
「まさか……閣下の神聖魔法が効かないとは……!」
老騎士が呆然と呟く。
閃光騎士団に危機が訪れたときは、クロヴィスの〔サクリファイス〕で切り抜けてきたのだろう。だがドラゴンは別格だ。ゲームバランス的にも、ダンジョンのボスであるドラゴンに〔サクリファイス〕が通用するはずがない。
「怯むな! 総員、かかれっ! 閣下をお助けするのだ!」
最前線で大隊長が叫ぶと、動揺していた騎士たちが一斉に動き出した。
まだ統制は取れている。だが圧倒的に閃光騎士団が不利だった。足場は大波のせいでぬかるみ、馬が役に立たない。切り掛かっても刃が通らない。後方の僧侶が蘇生魔法や回復魔法を駆使して援護しているが、追いつかない。見る間に薙ぎ倒されていく。
この戦いの結末は予想がついていた。
閃光騎士団は敗北する。そして暴走したブルードラゴンにより国境付近の町は消滅してダンジョンになる。アルドラと同じように。
「――これはいかん! 我らも閣下をお助けに参るぞ!」
切迫した老騎士の号令に、先遣隊に同行していた騎士たちが一斉に飛び出していく。
「我も出る! 貴公らは好きにせよ!」
老騎士の声を聞くなり、冒険者たちの半数は素早く離脱した。懸命な判断だ。残った者たちは本当に好きに逃げても咎められないのか疑っている様子だった。そんな中、俺は前へと進み出た。
「私にも参戦の許可を」
「――イスミ。頼むぞ」
老騎士の返答とほぼ同時に、俺は放たれた矢のようにブルードラゴンへ接敵した。
少数の精鋭を引き連れて、クロヴィスはブルードラゴンの猛攻をかわしながら接敵していく。鋭く、力強いクロヴィスのひと太刀で、粘液と鱗が飛び散った。どうやらクロヴィスはただのお飾り総長ではないらしい。
冒険者のレベルは大体10から20前後。30を超える猛者は滅多にいない。閃光騎士団も似たようなもので、前線にいる騎士たちも25前後がせいぜいだ。クロヴィスには〔能力鑑定+++〕が通用しないので正確なレベルはわからないが、魔物相手に実戦経験を積み、自らの手で凶悪な魔物に止めを刺してきたのだろう。――必殺の魔法を使って。
後方にいる騎士たちは、クロヴィスが前線に出た時点で勝利を確信しているらしい。すでに緊張を緩めている者までいる。老騎士もクロヴィスの勝利を信じて疑わない。彼らがそれほどまでにクロヴィスを信頼している根拠が、俺にもわかった。
クロヴィスからは数々の貴重な能力をコピーさせてもらった。
そのうちのひとつである〔サクリファイス〕。これは自らの生命力を犠牲にして敵を一撃で葬る魔法。要は自爆攻撃だ。
アルティメット・ドラゴンは、魔法を覚えても効果の説明が表示されない。名前から察するか、実際に使ってみるしかない。だから仲間のひとりが〔サクリファイス〕を覚えたときに俺はそれが「生贄」という意味だと知らずに使ってしまい、かなり動揺した。自爆攻撃なんて酷すぎる。俺はそれ以降〔サクリファイス〕を封印してプレイしていた。
――だが、クロヴィスは〔サクリファイス〕を使う気だ。
味方には〔リバイバル〕の使い手がいる。〔リバイバル〕は、戦闘不能に陥った際に一度だけ自動で蘇生する魔法。おそらく〔サクリファイス〕は〔リバイバル〕をかけた上で使うことを想定されているのだろう。俺はそれでも仲間を殺すなんて嫌だったから使わなかったけれど。
俺が過去に思いを馳せている間に、クロヴィスは迷いなくブルードラゴンに接近し、尾の一撃を剣で受け流す。そうしてブルードラゴンの懐に飛び込んだ次の瞬間、クロヴィスを中心にまばゆい光が放たれた。
光の洪水は俺たちがいる後方にまで届き、冒険者たちは目をくらませながら動揺した声を漏らした。
「うわあっ! な、なんだ、これは……!」
「安心しなさい、閣下の神聖魔法だ」
うろたえる冒険者たちに、先遣隊に加わっていた騎士のひとりが誇らしげに声をかける。もう戦いは終わったとばかりに勝鬨を挙げている騎士さえいる。
これで本当にブルードラゴンが倒せたのなら、それでいい。クロヴィスの勝利を願いながらも、俺には結果がわかっていた。
やがて光が消えていく。ブルードラゴンは巨体を硬直させていたものの、すぐに敵意を剥き出しにしてクロヴィスに襲いかかった。
「オオオオオオオ――ッ!」
雄叫びと共に巨大な顎でクロヴィスに食らいつこうとする。死の淵から復活したばかりで自失しているクロヴィスを庇って、騎士のひとりが吹き飛ばされる。すぐに戦意を取り戻したクロヴィスは再度〔リバイバル〕をかけさせて、〔サクリファイス〕を発動させる。だがブルードラゴンはもはや光にさえも怯まなかった。
それまで余裕を見せていた騎士たちに、これまでにない緊張が走る。
「まさか……閣下の神聖魔法が効かないとは……!」
老騎士が呆然と呟く。
閃光騎士団に危機が訪れたときは、クロヴィスの〔サクリファイス〕で切り抜けてきたのだろう。だがドラゴンは別格だ。ゲームバランス的にも、ダンジョンのボスであるドラゴンに〔サクリファイス〕が通用するはずがない。
「怯むな! 総員、かかれっ! 閣下をお助けするのだ!」
最前線で大隊長が叫ぶと、動揺していた騎士たちが一斉に動き出した。
まだ統制は取れている。だが圧倒的に閃光騎士団が不利だった。足場は大波のせいでぬかるみ、馬が役に立たない。切り掛かっても刃が通らない。後方の僧侶が蘇生魔法や回復魔法を駆使して援護しているが、追いつかない。見る間に薙ぎ倒されていく。
この戦いの結末は予想がついていた。
閃光騎士団は敗北する。そして暴走したブルードラゴンにより国境付近の町は消滅してダンジョンになる。アルドラと同じように。
「――これはいかん! 我らも閣下をお助けに参るぞ!」
切迫した老騎士の号令に、先遣隊に同行していた騎士たちが一斉に飛び出していく。
「我も出る! 貴公らは好きにせよ!」
老騎士の声を聞くなり、冒険者たちの半数は素早く離脱した。懸命な判断だ。残った者たちは本当に好きに逃げても咎められないのか疑っている様子だった。そんな中、俺は前へと進み出た。
「私にも参戦の許可を」
「――イスミ。頼むぞ」
老騎士の返答とほぼ同時に、俺は放たれた矢のようにブルードラゴンへ接敵した。
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