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二章
38 ドラゴンスレイヤー
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最近手に入れた〔俊足〕のスキルのおかげで、ぬかるんだ足場をものともせずに戦場を素早く駆け抜けることができた。同時に〔身体強化〕〔腕力増強〕〔見切り〕を展開しておく。
撤退する騎士たちを避け、泥の中に沈んで動かない遺体を飛び越え、最短距離をたどってブルードラゴンに向かっていく。銀色に輝く鎧をまとった閃光騎士団の中で、ただひとり黒。驚いた騎士たちの顔が後方に流れていく。
「グォオオオオオ!」
「ガァアアアアア――ッ!」
ブルードラゴンの雄叫びに負けじと咆哮する。猛スピードで向かってくる新たな敵の気配に気づいたブルードラゴンは、クロヴィスから俺へと攻撃対象を変更した。
長大な体を鞭のように動かして大地ごと俺を薙ぎ払おうとする。避けた先を読んで食らいつこうとしてくる顎を剣撃で退けて、追い討ちとばかりに襲いかかってくる長い尾を紙一重でかわす。
後方でじっくりと攻撃パターンを観察させてもらった。予備動作は頭に入れてある。続け様に尾の一撃が飛んでくる予兆を見逃さず、俺はカウンターを仕掛けた。しなる尾を剣撃で迎え撃つと、長大な尾は根元から切断されて弾け飛んだ。
「ギィイイイイイッ!」
ブルードラゴンが絶叫しながらのたうち回る。俺は追撃の手を緩めず、ブルードラゴンの攻撃を紙一重でかわし、HPを削っていく。
「お、おお……! 刃が通ったぞ!」
「今のうちに救助を!」
騎士たちが驚嘆する声を耳にして、死線の上で踊りながらも冷静さを保つ。多数の目があることを忘れて、人間離れした動きをしないように注意しなくてはならない。
俺の猛攻に耐えかねたのか、ブルードラゴンが滝壺に戻る。水面から顔だけ覗かせてヒレを動かす――これは水を操って大波を起こす予備動作だ。
「いかん! 退避だ!」
騎士たちが叫ぶ。だが俺はこれを待っていた。無防備なブルードラゴンに真正面から突っ込み、氷属性の最上位魔法を放つ。
「――アブソリュート・ゼロ!」
溢れ出る大波が、ブルードラゴンを巻き込んで凍りつく。氷に閉じ込められたブルードラゴンは完全に動きを止めた。
アルティメット・ドラゴンに登場するブルードラゴンは、氷属性の魔法を喰らわせると1ターン行動不能になる。そしてその間は半減していた物理攻撃が通るようになる。
特殊なギミックを備えた敵だが、ブルードラゴンはレッドドラゴンよりも弱く、レベル35前後で挑む相手。
格上のレッドドラゴンを倒し、その後も経験を積み続けていた今の俺のレベルは38。そして装備しているのはドラゴン特効を持つ剣。レッドドラゴンからドロップしたドラゴンキラーである。
元々クロヴィスたち精鋭の攻撃を受け続け、ブルードラゴンのHPは三分の二ほどになっていた。さらに俺の連撃を受け、氷漬けになっているブルードラゴンに、もはや勝ち目はない。
俺は〔一刀両断〕〔必中撃〕のスキルを発動しながら飛びかかった。
「ウォオオオオオ!」
雄叫びを上げて凍った波を駆け上がり、高く跳躍して、ブルードラゴンの首めがけてドラゴンキラーを振り下ろした。
轟音を立てて、凍りついたブルードラゴンの首が落ちる。俺はその横に着地し、剣を空に向けて掲げた。
一瞬の静寂があった。
その後に響いたのは感嘆と驚愕の叫び声だった。
「おおおっ! やった! やったぞ!」
「なんてことだ、あの巨大な首を一撃で……ッ!」
「見事なり! 黒き騎士よ!」
興奮混じりの賛辞を受けながら、俺は首を失ったブルードラゴンからほとばしる血をさりげなく浴びた。口元に垂れてきた血を舐める。まずい。生臭い。だがこれでブルードラゴンのスキルもいただいたはずだ。
「――素晴らしい働きであった」
血まみれのまま振り返る。そこにいたのはクロヴィスだった。直々に声をかけられた俺は、恭しく跪いて頭を下げた。
「貴公は貴族であるのか」
「イスミよ、閣下は直答をお許しになられている」
クロヴィスの言葉に、側に控えていた老騎士が言い添える。
あれだけ派手に魔法を使ったのだから、貴族階級だと思われて当然だ。それでも俺にはこう答えるしかない。
「一介の冒険者にございます」
「……うむ。詮索はよそう」
寛大な王族に感謝して俺はさらに首を垂れた。
「そなたに褒賞を取らせる。望みを言うがいい」
「恐れ多いことです。先の取り決め通りで十分でございます」
誰がどう考えても今回のMVPは俺である。俺がいなかったら閃光騎士団は全滅していただろう。だが謙虚な俺は決して高望みしない。納得のいかない顔をしているクロヴィスに向けて、俺は「先の取り決め」について改めて確認した。
「冒険者が狩った魔物は、冒険者の取り分にしてよい。――そうでしたね」
俺の言葉を受けた老騎士は、見る間に目の色を変えた。
「い、イスミよ! それはいくらなんでも傲慢すぎる!」
え~? でもそういう約束でしたしぃ~? と言わんばかりに首を傾げる俺に、老騎士はなおも「功労は十分に労うから! 分をわきまえなさい!」と言い募る。まあそうですよね。閃光騎士団の面子を潰す所業だし、ドラゴンまるまる一体から得られる素材の利益は国家予算並みだ。しかし俺は一歩も譲らない。
そんな俺たちの様子を見て、クロヴィスは豪快に笑った。
「――ははは!」
激戦の爪痕が残る荒地にクロヴィスの笑い声が高らかに響く。周囲にいた騎士たちも動きを止めてこちらを注視している。王族の馬鹿笑いなんてそうそう聞けるものではない。
クロヴィスは豪快に笑ってから、改めて俺に向き直った。
「そなたの言う通りだ。ブルードラゴンは冒険者であるそなたが狩った。そなたたちの獲物を我らが横取りしてはならぬな」
「クロヴィス様! しかしですぞ! ブルードラゴン討伐は我らの任務、これでは閃光騎士団の名折れというもの――」
「いいのだ、爺よ。彼がいなかったら、我らは敗走を余儀なくされていただろう」
しかし、とさらに言い募る老騎士をなだめながら、クロヴィスは俺に目を向けた。
「いやまったく。面白い人物だな、君は」
そう呟いたクロヴィスの眼差しが親しみにあふれていて、驚く。戸惑う俺に背を向けて、クロヴィスは騎士たちに命じた。
「さあ、今は負傷者の手当てが先決だ。行方不明者を捜索せよ、誰一人として救い漏らすな」
撤退する騎士たちを避け、泥の中に沈んで動かない遺体を飛び越え、最短距離をたどってブルードラゴンに向かっていく。銀色に輝く鎧をまとった閃光騎士団の中で、ただひとり黒。驚いた騎士たちの顔が後方に流れていく。
「グォオオオオオ!」
「ガァアアアアア――ッ!」
ブルードラゴンの雄叫びに負けじと咆哮する。猛スピードで向かってくる新たな敵の気配に気づいたブルードラゴンは、クロヴィスから俺へと攻撃対象を変更した。
長大な体を鞭のように動かして大地ごと俺を薙ぎ払おうとする。避けた先を読んで食らいつこうとしてくる顎を剣撃で退けて、追い討ちとばかりに襲いかかってくる長い尾を紙一重でかわす。
後方でじっくりと攻撃パターンを観察させてもらった。予備動作は頭に入れてある。続け様に尾の一撃が飛んでくる予兆を見逃さず、俺はカウンターを仕掛けた。しなる尾を剣撃で迎え撃つと、長大な尾は根元から切断されて弾け飛んだ。
「ギィイイイイイッ!」
ブルードラゴンが絶叫しながらのたうち回る。俺は追撃の手を緩めず、ブルードラゴンの攻撃を紙一重でかわし、HPを削っていく。
「お、おお……! 刃が通ったぞ!」
「今のうちに救助を!」
騎士たちが驚嘆する声を耳にして、死線の上で踊りながらも冷静さを保つ。多数の目があることを忘れて、人間離れした動きをしないように注意しなくてはならない。
俺の猛攻に耐えかねたのか、ブルードラゴンが滝壺に戻る。水面から顔だけ覗かせてヒレを動かす――これは水を操って大波を起こす予備動作だ。
「いかん! 退避だ!」
騎士たちが叫ぶ。だが俺はこれを待っていた。無防備なブルードラゴンに真正面から突っ込み、氷属性の最上位魔法を放つ。
「――アブソリュート・ゼロ!」
溢れ出る大波が、ブルードラゴンを巻き込んで凍りつく。氷に閉じ込められたブルードラゴンは完全に動きを止めた。
アルティメット・ドラゴンに登場するブルードラゴンは、氷属性の魔法を喰らわせると1ターン行動不能になる。そしてその間は半減していた物理攻撃が通るようになる。
特殊なギミックを備えた敵だが、ブルードラゴンはレッドドラゴンよりも弱く、レベル35前後で挑む相手。
格上のレッドドラゴンを倒し、その後も経験を積み続けていた今の俺のレベルは38。そして装備しているのはドラゴン特効を持つ剣。レッドドラゴンからドロップしたドラゴンキラーである。
元々クロヴィスたち精鋭の攻撃を受け続け、ブルードラゴンのHPは三分の二ほどになっていた。さらに俺の連撃を受け、氷漬けになっているブルードラゴンに、もはや勝ち目はない。
俺は〔一刀両断〕〔必中撃〕のスキルを発動しながら飛びかかった。
「ウォオオオオオ!」
雄叫びを上げて凍った波を駆け上がり、高く跳躍して、ブルードラゴンの首めがけてドラゴンキラーを振り下ろした。
轟音を立てて、凍りついたブルードラゴンの首が落ちる。俺はその横に着地し、剣を空に向けて掲げた。
一瞬の静寂があった。
その後に響いたのは感嘆と驚愕の叫び声だった。
「おおおっ! やった! やったぞ!」
「なんてことだ、あの巨大な首を一撃で……ッ!」
「見事なり! 黒き騎士よ!」
興奮混じりの賛辞を受けながら、俺は首を失ったブルードラゴンからほとばしる血をさりげなく浴びた。口元に垂れてきた血を舐める。まずい。生臭い。だがこれでブルードラゴンのスキルもいただいたはずだ。
「――素晴らしい働きであった」
血まみれのまま振り返る。そこにいたのはクロヴィスだった。直々に声をかけられた俺は、恭しく跪いて頭を下げた。
「貴公は貴族であるのか」
「イスミよ、閣下は直答をお許しになられている」
クロヴィスの言葉に、側に控えていた老騎士が言い添える。
あれだけ派手に魔法を使ったのだから、貴族階級だと思われて当然だ。それでも俺にはこう答えるしかない。
「一介の冒険者にございます」
「……うむ。詮索はよそう」
寛大な王族に感謝して俺はさらに首を垂れた。
「そなたに褒賞を取らせる。望みを言うがいい」
「恐れ多いことです。先の取り決め通りで十分でございます」
誰がどう考えても今回のMVPは俺である。俺がいなかったら閃光騎士団は全滅していただろう。だが謙虚な俺は決して高望みしない。納得のいかない顔をしているクロヴィスに向けて、俺は「先の取り決め」について改めて確認した。
「冒険者が狩った魔物は、冒険者の取り分にしてよい。――そうでしたね」
俺の言葉を受けた老騎士は、見る間に目の色を変えた。
「い、イスミよ! それはいくらなんでも傲慢すぎる!」
え~? でもそういう約束でしたしぃ~? と言わんばかりに首を傾げる俺に、老騎士はなおも「功労は十分に労うから! 分をわきまえなさい!」と言い募る。まあそうですよね。閃光騎士団の面子を潰す所業だし、ドラゴンまるまる一体から得られる素材の利益は国家予算並みだ。しかし俺は一歩も譲らない。
そんな俺たちの様子を見て、クロヴィスは豪快に笑った。
「――ははは!」
激戦の爪痕が残る荒地にクロヴィスの笑い声が高らかに響く。周囲にいた騎士たちも動きを止めてこちらを注視している。王族の馬鹿笑いなんてそうそう聞けるものではない。
クロヴィスは豪快に笑ってから、改めて俺に向き直った。
「そなたの言う通りだ。ブルードラゴンは冒険者であるそなたが狩った。そなたたちの獲物を我らが横取りしてはならぬな」
「クロヴィス様! しかしですぞ! ブルードラゴン討伐は我らの任務、これでは閃光騎士団の名折れというもの――」
「いいのだ、爺よ。彼がいなかったら、我らは敗走を余儀なくされていただろう」
しかし、とさらに言い募る老騎士をなだめながら、クロヴィスは俺に目を向けた。
「いやまったく。面白い人物だな、君は」
そう呟いたクロヴィスの眼差しが親しみにあふれていて、驚く。戸惑う俺に背を向けて、クロヴィスは騎士たちに命じた。
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