【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

文字の大きさ
39 / 96
二章

39 指輪

しおりを挟む
 その後。滝壺に引きずり込まれた騎士たちは全員回収され、蘇生魔法で命をとりとめた。
 同行していた冒険者たちは手のひらを返してイスミを絶賛し、その圧倒的な強さを周囲に喧伝した。逃亡していたやつまで見ていたかのように語っているのがおかしかった。
 冒険者が狩った魔物は冒険者の取り分。そしてそれは今回の先遣隊に加わった冒険者全員に分配される。彼らは実質的に土木工事をしただけで大儲けである。数年は遊んで暮らせるだろう。感謝されて当然だ。
 そうしてすべての手続きが終わる前に、イスミは領主の館へ呼び出しを受けていた。
 迎えの馬車の中でひとりため息をつく。ブルードラゴンを倒した直後こそクロヴィスは機嫌良くしていた。だが冷静に考えればイスミは閃光騎士団の戦いに横槍を入れたのだ。面目を潰し、あまつさえ獲物であるブルードラゴンさえも我が物とした。思い直してイスミに罰を与える――という可能性もなくはない。
 俺も俺でブルードラゴンを倒した直後は金に目が眩んでいたが、王族に目をつけられたら復讐に差し支える。俺は全力でゴマをする所存で領主の館へと乗り込んだ。

 前回ギルマスと共に訪ったときは通用口に通されたが、今回は正面から堂々と、賓客待遇で迎え入れられる。俺を待ち構えていた老騎士の表情も柔らかい。

「よく参ったな、イスミよ。今回貴殿を招いたのは、此度の働きを労うためだ。楽にしなさい」
「はっ、ご高配に感謝いたします」

 とりあえずお叱りではなかったのでほっとする。
 案内された先は応接室。クロヴィスをはじめとした重鎮が顔を揃えていた。集まった面々から労いの言葉を賜る。閃光騎士団の大隊長に文官、領主までもが俺に握手を求めた。まだ油断はできないが、糾弾される雰囲気ではなくてなによりだ。

「今回呼び出したのは、改めて礼を言いたくてな。ありがとう。そなたのおかげで被害を防げた」
「――もったいないお言葉です」

 クロヴィスから直々に礼を言われて膝をつく。まさか王族が冒険者風情に礼を言うとは思わなかった。それも他者の目がある前で。クロヴィスは跪いた俺の肩に手を当てて、立ち上がるように促した。
 
「差し支えなければ、そなたの武器を見せてもらえまいか」
「もちろんでございます」

 領主の館に入る前にボディチェックを受けて、武器類は預けてある。俺のドラゴンキラーを携えた小姓が進み出て、恭しくクロヴィスに手渡した。クロヴィスは鞘から剣を抜き、しげしげと刃を眺めた。

「なるほど……これはなかなかの逸品だ。これを使いこなすそなたの腕も相当のものだ」
「過分にございます」

 念入りに手入れをした銀色の刃が、室内照明の灯りを受けて輝く。もしかして献上しないとダメな流れかな? と思ったけれど、クロヴィスはじっくりと鑑賞してからドラゴンキラーを鞘に収め、小姓の手に戻した。

「して、イスミよ。改めて話がある。これは、私が個人的に依頼したいことだ」
「――はっ。なんなりと」

 王族からの個人依頼。これでクロヴィスの覚えがめでたくなれば、貴族社会への足がかりになる。そうなれば復讐へまた一歩近づく。
 クロヴィスが人払いをする。応接室に二人だけになるのを待ってから、クロヴィスは左手の中指にはめていた指輪を取り、俺に差し出した。

「これをニールに届けて欲しい」
 
 ――まあ口から心臓飛び出たよね。
 動揺のあまり〔形態変化+++〕が解けそうになるが、なんとか持ちこたえる。
 まだ、イスミ=ニールだとばれたわけではない。ばれる要素がない。

「ニールは、気高く美しい人だ。高潔な魂を持っている」

 クロヴィスは俺をまっすぐに見据えて語る。その瞳にこもった熱には覚えがあった。一晩を共に過ごしたときの、甘い表情にも。

「指輪を渡して、伝えてほしい。複雑な事情を抱えているのだろうが、君が望むのならばできうる限りの力添えをしよう。いつでも王都を尋ねてほしい。この指輪はその際の証となるだろう」

 ニールについては説明不要だろう。そう言わんばかりに微笑むクロヴィスには、俺の正体はお見通しのようだった。
 完全にばれている。動揺しながらも、俺はなんとか声を絞り出す。

「……ニールという者が受け取らなかったら?」
「そのときはそなたの好きなようにしてもらって構わない。咎めることもしない」

 沈黙が続く。クロヴィスは急かすこともなく俺に向かって指輪を差し出している。
 俺は観念して指輪を受け取った。

「ご依頼、謹んでお受けいたします」



 領主の館から宿に戻った俺は、茫然自失だった。
 ――イスミ=ニールだということが知られてしまった。
 それも、よりによって王族だなんて、口封じの難しい相手に。
 なぜ。どのタイミングで、どういう理由で悟られたのか全然わからない。ごっついイスミとかわいいニールちゃんに共通点なんてねえだろ。
 それでもクロヴィスはイスミとニールが同一人物であると断定していた。つまりは、〔形態変化〕を見破る方法があるということ。
 なぜクロヴィスだけが俺の正体を看破できたのか。それとも、クロヴィスだけではなく、他にも〔形態変化〕を見破れる能力を持った者がいるのだろうか。いくら考えてもわからない。
 王家の紋章が刻まれた指輪をいただいたのだから、ニールとして会いに行って、答えを直接聞くのもいいかもしれない。
 だが、この指輪を渡されたこと自体、罠かもしれない。本当は確信がないから、試すつもりでこの指輪を託したのだとしたら。
 人間が扱える魔法の中には、姿を変える効果のものはない。魔性のものだと思われる確率の方が高い。――レオがそう思ったように。

 しばらく思い悩んでから、俺は腹を決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界魔物大図鑑 転生したら魔物使いとかいう職業になった俺は、とりあえず魔物を育てながら図鑑的なモノを作る事にしました

おーるぼん
ファンタジー
主人公は俺、43歳独身久保田トシオだ。 人生に疲れて自ら命を絶とうとしていた所、それに失敗(というか妨害された)して異世界に辿り着いた。 最初は夢かと思っていたこの世界だが、どうやらそうではなかったらしい、しかも俺は魔物使いとか言う就いた覚えもない職業になっていた。 おまけにそれが判明したと同時に雑魚魔物使いだと罵倒される始末……随分とふざけた世界である。 だが……ここは現実の世界なんかよりもずっと面白い。 俺はこの世界で仲間たちと共に生きていこうと思う。 これは、そんなしがない中年である俺が四苦八苦しながらもセカンドライフを楽しんでいるだけの物語である。 ……分かっている、『図鑑要素が全くないじゃないか!』と言いたいんだろう? そこは勘弁してほしい、だってこれから俺が作り始めるんだから。 ※他サイト様にも同時掲載しています。

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

辺境伯は嵌められた元令息から目が離せない

コムギ
BL
冤罪により、辺境の地へ追いやられた元侯爵令息ユベール。 だが彼は、あまりのことに気を病んで――はいなかった。 野山を駆け回り、虫を捕まえ、草花をスケッチし、のんびり釣りをする。 それはすべて、侯爵家の令息として縛られていた頃には許されなかった自由だった。 そんな生活から一年。 冤罪を証明できそうだと、幼なじみの王太子から報せが届く。 ――王都へ戻れる。 それは同時に、あの窮屈で冷たい場所へ戻るということでもあった。 迷うユベールの前に現れたのは、これまで静かに見守るだけだった辺境伯ラドヴァン。 「ならば、ずっとここにいろ」 「俺と婚約すればいい」 不器用に、しかし真っ直ぐに差し伸べられた手。 優しく(時に暑苦しく)包囲してくる辺境伯と、元侯爵令息の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

処理中です...