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三章
40 聖剣
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クロヴィスに指輪を託されてから数日後。俺はミッドランド王都の北側に位置する雪山の山頂――聖剣が祀られているダンジョンにやってきていた。
ゲームだと出発地点であるミッドランド城を出てすぐ、北側にダンジョンの入り口が見えている。だが侵入不可エリアである高い山に阻まれて入ることはできない。旅を続け、迂回して、ようやくこのダンジョンにたどり着いたときは感慨深かった。
この世界でも、聖剣が祀られているダンジョンへ向かうためには山脈を迂回するしかない。とても人間の力では踏破できない、急峻な地形が連なっている。だが俺はブリザードウルフの姿になって一気に山を駆け上った。
ブリザードウルフの体幹とモフモフの毛皮さえあれば雪山登山も苦ではなかった。魔物たちも仲間だと思っているのか、襲いかかってくることはない。
そうして悠々とダンジョンにたどり着き、ブリザードウルフの姿のまま侵入する。
ゲームではホワイトドラゴンを倒さないと聖剣が祀られている部屋に入ることができない。しかしホワイトドラゴンは深い眠りについていた。俺が脇を通ったときだけちらりと目を開けたが、魔物は警戒の対象外らしい。すぐにまた眠りについた。
このダンジョンは人里から遠い。ホワイトドラゴンのせいで滅びる村や町はなさそうだった。スキルをいただきたいという気持ちも多少あるが、今は聖剣の確認が先決。ここはスルーさせてもらう。
装飾の施された扉を獣の手でそっと押し開けて、俺は中に忍び込んだ。
扉が閉まると同時に、壁にかけられた松明に火が灯る。
「よし……ここまでくれば、もういいか」
〔形態変化〕を解いて人の姿に戻る。
松明に照らされた部屋は、テニスコート一面分ぐらいの広さだった。ここにたどり着くまでは剥き出しの岩肌だったが、聖剣が祀られている部屋には装飾が施されている。
その最奥に鎮座しているのは、台座に刺さった聖剣――アルティメット・ドラゴンだ。
奥まで進んで手を伸ばすと、静電気のようなものに指先をぱちりと弾かれた。抜くことができない以前に、触れることすらできない。
「う~ん……俺には無理か……」
まあ、手に入れられる可能性は低いと最初から分かってはいたのだが。
この聖剣を手にできるのは、アルドラの主人公であるミッドランドの王子――勇者だけ。それでも存在だけでも確認しておきたかった。
ミッドランド王に「魔王が復活した」と告げられた王子は、勇者として魔王討伐に向かう。旅をしながら魔物を倒し、共に戦う仲間を得る。途中でいくつかのイベントをこなして聖剣を手に入れ、魔境に行って魔王を倒せばハッピーエンドだ。
魔境には邪悪な力が満ちており、人間である勇者一行は本来の力を発揮することができない。だが聖剣さえあれば魔境でも十全に戦えるようになる。
アルドラの重要アイテムである聖剣はこうして実在している。各地のダンジョンを護るドラゴンも活性化してその姿を現しつつある。これは近いうちに魔王が復活して、ゲームが開始されるという予兆なのかもしれない。
今までの俺は、ゲームの筋書きには興味がなかった。勇者も魔王も勝手にすればいい。俺の最優先事項は復讐。それ以外はどうでもいい。復讐のためだけに力を蓄え、刃を研いできた。
だが、俺の能力を――ニールとイスミが同一人物であるとクロヴィスに知られてしまった今、計画の見直しを迫られていた。
なぜクロヴィスが俺の能力を見破ったのか、俺についてどこまで知られてしまったのか、わからない。クロヴィスから新たに得た魔法やスキルの中にも、〔形態変化〕を見破れそうなものはなかった。
王族の特殊能力なのだろうか。それともクロヴィスだけが特別なのだろうか。俺だって他者の能力をコピーできる〔特性:収集〕という、ゲームには存在しなかった能力を持っている。クロヴィスが別種の特性の持ち主である可能性は否定できない。
――そもそも、〔特性〕とはなんなのだろう。
俺の〔特性:収集〕は、性行為をするのではなく、相手を喰うことを前提とした能力なのだと思う。対象の一部を摂取することで能力をコピーし、魔力やMPがなくても最大火力で魔法を放つことができる、不思議な力。
復讐に役立つから便利に使っていたが、よく考えればおかしい。プレイヤーのようにコマンド画面を使いこなせるのも不可解だし、アルティメット・ドラゴンというゲームに似たこの世界自体があまりにも不自然だ。
この世界が何であれ、俺は復讐を果たす。でも復讐にばかり気を取られていると、思わぬところで足をすくわれる。クロヴィスに〔形態変化〕を見破られてしまったように。
復讐を成し遂げるためにも、俺はこの世界についてもっとよく知らなくてはならない。
――どこまでがゲームと同じなのか。ゲームとは違うものに、どんな意味があるのか。
少なくとも聖剣は存在する。ならば魔王も存在しているはず。魔王といえばこの世界で最強の魔物だ。周辺を調べることで、この世界について何かわかるかもしれない。
そう結論を出した俺は、次の目的地を魔境に定めた。
ゲームだと出発地点であるミッドランド城を出てすぐ、北側にダンジョンの入り口が見えている。だが侵入不可エリアである高い山に阻まれて入ることはできない。旅を続け、迂回して、ようやくこのダンジョンにたどり着いたときは感慨深かった。
この世界でも、聖剣が祀られているダンジョンへ向かうためには山脈を迂回するしかない。とても人間の力では踏破できない、急峻な地形が連なっている。だが俺はブリザードウルフの姿になって一気に山を駆け上った。
ブリザードウルフの体幹とモフモフの毛皮さえあれば雪山登山も苦ではなかった。魔物たちも仲間だと思っているのか、襲いかかってくることはない。
そうして悠々とダンジョンにたどり着き、ブリザードウルフの姿のまま侵入する。
ゲームではホワイトドラゴンを倒さないと聖剣が祀られている部屋に入ることができない。しかしホワイトドラゴンは深い眠りについていた。俺が脇を通ったときだけちらりと目を開けたが、魔物は警戒の対象外らしい。すぐにまた眠りについた。
このダンジョンは人里から遠い。ホワイトドラゴンのせいで滅びる村や町はなさそうだった。スキルをいただきたいという気持ちも多少あるが、今は聖剣の確認が先決。ここはスルーさせてもらう。
装飾の施された扉を獣の手でそっと押し開けて、俺は中に忍び込んだ。
扉が閉まると同時に、壁にかけられた松明に火が灯る。
「よし……ここまでくれば、もういいか」
〔形態変化〕を解いて人の姿に戻る。
松明に照らされた部屋は、テニスコート一面分ぐらいの広さだった。ここにたどり着くまでは剥き出しの岩肌だったが、聖剣が祀られている部屋には装飾が施されている。
その最奥に鎮座しているのは、台座に刺さった聖剣――アルティメット・ドラゴンだ。
奥まで進んで手を伸ばすと、静電気のようなものに指先をぱちりと弾かれた。抜くことができない以前に、触れることすらできない。
「う~ん……俺には無理か……」
まあ、手に入れられる可能性は低いと最初から分かってはいたのだが。
この聖剣を手にできるのは、アルドラの主人公であるミッドランドの王子――勇者だけ。それでも存在だけでも確認しておきたかった。
ミッドランド王に「魔王が復活した」と告げられた王子は、勇者として魔王討伐に向かう。旅をしながら魔物を倒し、共に戦う仲間を得る。途中でいくつかのイベントをこなして聖剣を手に入れ、魔境に行って魔王を倒せばハッピーエンドだ。
魔境には邪悪な力が満ちており、人間である勇者一行は本来の力を発揮することができない。だが聖剣さえあれば魔境でも十全に戦えるようになる。
アルドラの重要アイテムである聖剣はこうして実在している。各地のダンジョンを護るドラゴンも活性化してその姿を現しつつある。これは近いうちに魔王が復活して、ゲームが開始されるという予兆なのかもしれない。
今までの俺は、ゲームの筋書きには興味がなかった。勇者も魔王も勝手にすればいい。俺の最優先事項は復讐。それ以外はどうでもいい。復讐のためだけに力を蓄え、刃を研いできた。
だが、俺の能力を――ニールとイスミが同一人物であるとクロヴィスに知られてしまった今、計画の見直しを迫られていた。
なぜクロヴィスが俺の能力を見破ったのか、俺についてどこまで知られてしまったのか、わからない。クロヴィスから新たに得た魔法やスキルの中にも、〔形態変化〕を見破れそうなものはなかった。
王族の特殊能力なのだろうか。それともクロヴィスだけが特別なのだろうか。俺だって他者の能力をコピーできる〔特性:収集〕という、ゲームには存在しなかった能力を持っている。クロヴィスが別種の特性の持ち主である可能性は否定できない。
――そもそも、〔特性〕とはなんなのだろう。
俺の〔特性:収集〕は、性行為をするのではなく、相手を喰うことを前提とした能力なのだと思う。対象の一部を摂取することで能力をコピーし、魔力やMPがなくても最大火力で魔法を放つことができる、不思議な力。
復讐に役立つから便利に使っていたが、よく考えればおかしい。プレイヤーのようにコマンド画面を使いこなせるのも不可解だし、アルティメット・ドラゴンというゲームに似たこの世界自体があまりにも不自然だ。
この世界が何であれ、俺は復讐を果たす。でも復讐にばかり気を取られていると、思わぬところで足をすくわれる。クロヴィスに〔形態変化〕を見破られてしまったように。
復讐を成し遂げるためにも、俺はこの世界についてもっとよく知らなくてはならない。
――どこまでがゲームと同じなのか。ゲームとは違うものに、どんな意味があるのか。
少なくとも聖剣は存在する。ならば魔王も存在しているはず。魔王といえばこの世界で最強の魔物だ。周辺を調べることで、この世界について何かわかるかもしれない。
そう結論を出した俺は、次の目的地を魔境に定めた。
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