【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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三章

41 魔境

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 魔境を目指してひたすら北へと進む。
 登場する国の名前はゲームと同じ。大陸の中央に位置するミッドランド。東側にはエスト、西にメリディエース、南にスッド、北にノルトという国々が存在している。
 今回の目的は魔境の偵察なので、関所を通る必要はない。俺は魔物に姿を変えて国境を越え、十日足らずで大陸の最北端までたどり着いた。

「うお、っとっと」

 ずっと四つ足のブリザードウルフの姿でいたものだから、人間の姿に戻った途端、転びそうになってしまう。
 よろけながらも岬の先端に向かう。海峡を挟んで遠くに見えるのは、黒々とした大地。低く垂れ込めた暗雲と荒れ狂う波に挟まれた大地は、魔境と呼ぶにふさわしい様相を呈していた。

「あれが魔境か……」
 
 潮風に打たれながら、キメ顔を作ってつぶやいてみてもひとり。周囲に人の気配はなく、ただ荒廃した大地が広がるばかり。
 魔境からやってくる魔物を恐れて、北の海には誰ひとり近づかない。漁村もなく、当然港もない。
 ゲームのアルティメット・ドラゴンでは魔境にたどり着くためには船を入手しなくてはならないのだが、俺にその必要はない。俺はワイバーンに姿を変えて、悠々と大空を舞った。
 空を飛ぶのは初めてだったが、なかなか楽しい。飛行機とは違う、自力で自由に空を飛べる感覚は人間の身では味わえないだろう。最初こそはしゃいでいたが、魔境に近づくとそんな余裕もなくなった。徐々に空気が重くなっていく。体の感覚も鈍くなる。魔境に降り立ったときには肩で息をしていた。
 俺は茂みに身を隠し、周囲に魔物の気配がないことを確かめてから人間の姿に戻った。

「これは――思った以上に、しんどいな……」

 海を渡って体力を消耗したから、という理由だけではない。手足を動かすだけで、まるで水の中を泳いでいるかのような重さを感じる。魔法やスキルの発動は問題なく行えるようだったが、回復魔法を使ってもだるさが取れない。
 ゲームでも、聖剣を入手する前に魔境へ渡ると能力が半減してしまう。逆に魔物は強くなっている。攻略ルートを無視して聖剣なしで魔境に挑むことは自殺行為に等しい。
 木の根元にしゃがみ込んだ俺はため息をついた。俺は魔物の能力を使えるが、魔境では体力が減退する。ということは、やはり俺は人間なのだ。
 ――貴様は魔物なのか。
 あのとき。レッドドラゴンを倒した直後に、レオに問われた。今ならその問いかけに、明確にノーと言える。まあそれは別に今更どうでもいいんだけど。

 魔境に上陸してから、アルドラは後半戦へと突入する。
 ここから難易度がぐっと上がる。聖剣があっても、魔境に棲む魔物たちはこれまでになく強い。人間の大陸ではダンジョンのボスとして君臨していたドラゴンもフィールド上を普通にうろついている。その上セーブポイントが極端に少ない。
 村も一応存在している。村人は理性を持った人型の魔物で、魔王の支配から逃れたいがために勇者一行に協力してくれる。安全地帯だと思って油断していると、紛れ込んでいた魔王の手先に戦闘を仕掛けられるという罠も存在する。俺はまずその村をひっそりと確認することにした。
 ヘルスコーピオンというサソリ型の魔物に姿を変えて魔境を移動する。〔俊足〕というスキルを持っているだけあって素早いし、色も地味なので隠密行動にはもってこいだ。
 カサカサと移動して、遠くから村の様子を観察する。人間の大陸ほど文明は発達していないが、暮らし向きは大差ない。村人たちは穏やかに畑を耕したり、家畜の世話をしたりしている。
 人間との違いは肌の色と、角が生えていること。あとは耳の先端が尖っていることぐらいだろうか。だが〔能力鑑定+++〕を使ってみると、全員ステータスがエグいほど高かった。
 畑を耕している人型の魔物の前に、ちらっと姿をさらしてみる。人型の魔物は俺を一瞥しただけで、すぐに農作業に戻った。雑魚相手に警戒する必要もない、という感じだ。
 一通り村の様子を見てから、俺は次の目的地へ向かった。
 能力が減退している分、疲労も激しい。休憩を何度も挟みながら魔境の様子を地道に探っていく。途中で純度の高い天然石を拾うのも忘れない。これはエメラルドの原石じゃないか? こっちは貴重な薬草だ。宝の山に目が眩み、思わずぶんぶんと尻尾を振ってしまったが、やたらと疲れて我に返る。素材集めはあくまでついでだ。
 魔境は人間が住む大陸ほど広くはない。村やダンジョンの位置などがゲームと同じであることを一通り確かめて、やがて最終地点にたどり着く。クレーターのようにえぐれた低地の中心。その中央に聳えるのは、魔王城だった。
 この世界がゲーム通りならば、あそこに魔王がいるはずだ。

「ギィ……」

 う~ん、と唸ったつもりだが、今は魔物の姿。耳障りなうめき声を漏らし、ハサミをカチカチと鳴らしながら考える。
 今はまだ魔王が復活したという予言は下されていない。となれば、魔王は封印されている状態なのだろうか。
 ――だったら魔王が復活する前にそっとトドメを刺しておけばいいのでは?
 魔王、正直邪魔である。魔王が復活して魔物たちが今よりも活性化したら、俺の元家族が巻き込まれる可能性が高くなる。できるならばそんな事態は避けたい。この手で直接復讐するのだから勝手に死なれては困る。
 平和な世の中の方が都合がいい。魔王がまだ復活しておらず、力が十分ではないのなら、聖剣なしでも太刀打ちできるかもしれない。今の俺は能力が減退しているものの、魔法もスキルも使える。もしもの時は〔テレポート〕で帰還すればいい。
 このまま魔王城に忍び込んで様子を探りつつ、可能ならば魔王を排除しよう。
 そう方針を定めた直後。背後に尋常ではない気配を感じた。

「――ッ!」

 振り返った先にいたのは、男だった。豪奢な衣装を身に纏っているので一瞬人間かと思ったが、側頭部には雄山羊に似た一対の角が生えている。端整な顔立ちを彩る真紅の瞳は、俺をひたと見据えていた。
 威圧感に思わず一歩下がる。今の俺は魔物の姿をしている。警戒されてはいないはず、なのだけれど。

「ふふ……はじめまして、と言うべきかな?」

 男は笑みを浮かべて俺に語りかける。まさか〔形態変化〕を見破られたのか。動揺する俺に、男は優雅に腰を折った。

「まずは自己紹介をするとしよう。我が名はギルディラース。この魔境を統べる王だ」

 ――ギルディラース。アルティメット・ドラゴンの、ラスボスの名前。

「魔境へようこそ。待っていたぞ――異世界からの来訪者よ」
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