【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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三章

42 ギルディラースという魔王

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 異世界からの訪問者。魔王ギルディラースと名乗った男は確かにそう言った。
〔形態変化〕を見破っただけではなく、俺が異世界から転生してきたことを知っている。
 衝撃を受けている間に目の前の光景が揺らぐ。一瞬、目眩を感じたかと思ったら、見知らぬ場所に移動していた。

「……!」

 転移魔法を使われた。その上、〔形態変化〕が解けてニールの姿に戻ってしまっている。
 今度こそ戦闘になるかと身構えるが、ギルディラースは敵意を見せることなく椅子に腰掛けた。

「さあ、ニールよ。貴様も座るといい。晩餐の支度が整っている。人間の舌に合うといいのだがな」

 ――名乗ってもいないのに名前まで知られている。
 俺はギルディラースを警戒しつつ周囲に視線を巡らせた。シャンデリアが照らす広い空間。ゴシック様式の内装。ここは魔王城の内部らしい。言葉通り、長机には晩餐の支度が整っていた。
 ここまで先手を打たれていれば仕方ない。俺は覚悟を決めてギルディラースと対面する席についた。

「お招きいただきましてどうも。――どうして俺のことを知っているのか聞いても?」
「もちろんよいぞ。我が知っていることは、すべて教えてやろう」

 ワインらしき赤黒い液体が満たされたグラスをかたむけながら、ギルディラースは妖艶に微笑む。
 ゲーム画面ではラスボスの貫禄たっぷりの邪悪な化け物だけれど、今目の前にいるギルディラースは美青年だった。豊かな黒髪に、ところどころ金色のメッシュが入っている。真紅の瞳に合わせた紅い宝石がはめられた宝飾品で身を飾り、華美な衣装を大胆に着崩している。開いた胸元からは隆々とした胸筋が覗いていた。

「さて。まずはなぜ我が貴様のことを知っているかというと――この世界に貴様を呼んだのが我だからだ。そして監視していた。この魔物には貴様も見覚えがあるだろう?」

 ギルディラースが中空に手をかざすと、周囲に黒いもやが現れる。そのもやは目玉の魔物――イービルアイに姿を変えた。

「これは我の目だ。聖域には入り込めないが、貴様が旅をするようになってからはよく覗いていたよ。もっとも、すぐに気取られて潰されてしまっていたがな」

 なかなか勘がいい。そう言って嗤うギルディラースに舌打ちしそうになる。よく見かけるとは思っていたが、まさか魔王の手先だったなんて。
 しかしそれよりも。重要なのは、ギルディラースがこの世界に俺を呼んだ、という点だ。

「……この世界は、何なんだ? 何のために、どうやって俺をこの世界に呼んだんだ?」
「この世界はアルティメット・ドラゴンというゲームが生み落とした亡霊のようなものだ」

 ――アルドラの亡霊。
 ギルディラースは俺が戸惑う様子を肴にしてグラスをあおってから口を開いた。

「この世界は、異世界の人々の手によって戯れに作られたアルティメット・ドラゴンというゲームが元になっている。アルティメット・ドラゴンについては説明の必要はないな?」

 当然知っているだろう、という風に視線を投げてよこすギルディラースにうなずいてみせる。

「むしろゲームについては我よりも貴様の方が詳しいだろう。我は神によって悪戯にこの世界へ生み落とされ、囚われているに過ぎない。これから我が語ることも、檻の隙間から覗き見た断片的な情報に、我の実体験を交えたものに過ぎない。それでもいいなら説明してやろう」

 俺が頷くと、ギルディラースは滔々と語り始めた。
 多くのプレイヤーに遊ばれ、そして飽きられ、忘れられたゲーム。放棄されたアルティメット・ドラゴンはやがて自我を持ち、その自我はやがて神として振る舞うようになった。放棄されてもなお、神はプレイヤーを求め続けた。そうして神の手で作り上げられたのが、この世界。

「自我を持ったゲーム……付喪神、みたいなことか……?」
「さてな。我はツクモガミというものに関しては知らぬが、奴が神を自称していることは確かだ」

 思わず口を挟んでしまったが、ギルディラースは深々とため息をついて話を続けた。
 神はアルドラを元にこの世界を構築し、さまよえる魂をプレイヤーとして招いた。そしてプレイヤーの知識や要望を元に、この世界をプレイヤーがより好むように改変していった。より面白くなるように、詳細に。そうして魔物の姿しか持たなかったギルディラースも、プレイヤーの楽しみのために人型の姿を得た。
 現実のようにリアルに、現実以上に自由に。ここはプレイヤーのための理想の箱庭。
 アルドラの筋書きを無視するプレイヤーもいたが、いずれにしてもギルディラースや魔物たちは倒されるための存在。魔王が死ぬか、プレイヤーが寿命を迎えるか、そのどちらかで世界は再びリセットされる。

「つまり、お前は……もう何回も、プレイヤーが訪れた回数だけ、この世界を生きているということなのか……?」
「そういうことだ。百を超えたあたりから数えてはおらぬが」

 ――この世界はなんなのか。それこそが俺が知りたかったことなのだけれど、話が壮大すぎて理解が追いつかない。喉が渇いて、ワイングラスに注がれている液体に目をやる。だが謎の液体に手を伸ばしている場合ではない。疑問はまだ残っている。なんのために、俺をこの世界に呼んだのか。その問いを先読みするように、ギルディラースは口を開いた。

「貴様を呼んだのは、ゲームの筋書きから逸脱し、この無限の輪廻から解放されるためだ」

 神がこの世界にプレイヤーを招き入れる原理を真似して、何度も試した結果、ようやく俺という存在を呼び出すことに成功したのだという。

「何度も使者を送って呼び寄せようとしたのだがな。知能の高い魔物は人間たちが住む大陸では能力が大幅に減退してしまう。どうしたものかと思い煩っていたが、そちらの方から飛び込んできてくれるとは」

 くくく、と嫌味ったらしく笑うギルディラースに歯噛みする。

「それで、お前は俺をどうしたいわけ」
「――神を殺すための道具になってもらおう」

 その言葉を聞き終わる前にコマンド画面を呼び出して〔テレポート〕を選択する。何度タップしても、念じても、発動する気配はなかった。
 そんな俺の行動を見透かしたように、ギルディラースは声を立てて笑った。
 
「何を試してもよいが、魔法はすべて無効化している。大人しく従う方が身のためだぞ」
「……っ!」

 俺が席を立つ前に、ギルディラースは目にも止まらぬ速さで俺の後ろに回り込んでいた。単純に移動したわけではなく、もしかしたら瞬間移動的な能力を使ったのかもしれない。いずれにせよ、俺は完全に退路を塞がれてしまった。
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