【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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三章

46 この世界の主人公

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 魔境にたどりつくまでの道のりは数日がかりだったけれど、一度訪れた場所であれば〔テレポート〕を使って瞬時に移動できる。でも〔テレポート〕なんて希少な魔法を使うことができるのは特別な限られた者だけ。俺は夜の闇に紛れ、イスミの姿でミッドランド王都へと移動した。草木も眠る深夜。誰にも見咎められることはなかった。

「どうして我がこんな姿に……」

 一緒についてきたギルディラースは、ニャアとひと鳴きしてから文句を言った。今のギルディラースは〔変身〕のスキルを使って黒猫の姿になっている。
 
「人間の姿に化けると身元証明の手続きが面倒だから」

 あと通行税とか宿代とか、何かと金がかかる。無害なペットの猫ちゃんならタダだ。

「いいか、お前は仔猫のギルだからな。他人の目があるときは絶対に喋るなよ」
「あいわかった」

 俺の肩に乗ったギルディラースは神妙にうなずいた。
〔変身〕のスキルは〔形態変化〕の上位互換だ。〔形態変化〕の場合は自分の体積以下のものには姿を変えられない。しかし〔変身〕のスキルであればどんなサイズであっても自由自在。体重すら操作できる。今のギルディラースは1Kgぐらいだろうか。完全にかわいい仔猫にしか見えない。

「それにしても……本当に俺の家族のことを知っているんだろうな」
「もちろん。ニール様をこの世界に呼び寄せたのは我であるゆえに」

 自信満々に答えはするが、ギルディラースは俺の家族について具体的に語ることはなかった。実際に会えばわかる。その一点張りだ。俺はそれ以上深く聞かなかった。ギルディラースの言う通りだし、魔物が人間の貴族の家名などを把握するのは難しいだろう。とにかく案内さえしてくれればいい。

 一睡もできないまま野営地で夜を明かす。陽が高くなってから王都に向かうと、城門は閉ざされたままだった。
 普段ならとっくに開門されている時刻なのだろう。商隊や旅人たちが立ち往生していた。ざわめく人々の中から冒険者らしき男に目星をつけて話しかける。

「何かあったのか?」
「おっ!? お、おうよ……なんでも魔物退治に出かけた王子の一行が通るらしくてよ。俺たち平民はそれまで足止めだってさ」
「そうか……」

 男は俺の姿を見て一瞬怯んだものの、事情を説明してくれた。全身黒い鎧のいかつい騎士が肩に仔猫ちゃんを乗せていると……なんとも言えず怖いな。

「おい、あれ……」
「例のドラゴンスレイヤーか……?」

 俺の存在に気づいた他の冒険者たちがひそひそと言葉を交わす。俺は否定も肯定もせず、街道の隅に寄った。

「――ほほう。勇者が通るとは、なんとも都合がいい」
「シッ! 静かに」

 俺に注意されたギルはミャオと鳴いて答えた。
 ギルの言う通り都合がいい。ミッドランドの王子は、この世界の主人公である勇者として神に招かれた転生者だ。身分差があるので接点を作るのは難しいだろうが、事情を説明すれば同じ転生者のよしみで味方になってくれるかもしれない。
 しばらくすると周囲が騒がしくなった。凱旋する王子一行を一目見ようと、人々は街道沿いに集まっていく。俺も勇者の顔だけはしっかり覚えておこうと思いつつ、群衆に近づく。
 ラッパの音を先ぶれに、王子の一行が姿をあらわす。思っていたよりも大所帯だ。騎兵が四十名ほどだろうか。ピカピカの鎧に身を固めた騎士たちは遠目にもよく目立つ。
 勇猛な騎士たちの姿に、民衆たちがわあっと声をあげる。俺は勇者の姿を探したが――一行の先頭で旗を掲げている騎士が目に入った途端、何も聞こえなくなった。
 白馬に乗った、威風堂々とした騎士。跳ね上げた面頬から覗くその顔立ち。
 ――レオ。あの日、別れたきりの。レオがいた。

「ほうら、ニール様。あれが勇者ですよ。あの中央にいる派手な奴」

 耳元で囁くギルの声ではっと我に返る。動揺したまま、言われるがままに隊列の中央に目を向けて、そのまま凍りつく。
 驚愕で〔形態変化〕に歪みが生じる。慌てて元に戻すが、みんな王子一行に釘付けだ。見咎められることはなかった。
 ――なんで。よりによって、あいつが勇者だなんて。
 最後に見た時よりも成長しているが、面影がはっきりと残っている。
 この世界の主人公。勇者であるもうひとりの転生者は、俺に虐待の限りを尽くした兄。復讐の相手だった。
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