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三章
45 四天王
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そんなこんなでギルディラースを性的に倒した俺は、魔王城の王座でふんぞり返っていた。なかなか悪くない座り心地だ。
「まさかこの我を隷属させるとは……。まあ、神を倒すという目的で呼び出したのだからな。この我を圧倒するぐらいでなければ太刀打ちできぬ」
ギルディラースは俺の側で偉そうなことを言っているが、膝がガクガクである。ついさっきまでニュルニュルしまくっていたので仕方ない。
「横になってていいよ」
「……そうさせてもらう」
ギルディラースが合図すると、配下の魔物たちが玉座の脇に長椅子を持ってきた。四天王のうちのひとりも手を貸して、ギルディラースは気だるげに長椅子へ横たわった。
「こらっ! コキュートス! 何を悠長に手を貸しておるのだ! 魔王様に害をなす不遜な人間など捻り潰してしまえ!」
ステュクスに叱咤されたコキュートスは、気まずそうに目をそらせた。
魔王ギルディラースの配下には、四天王と呼ばれる魔物たちがいる。
――悲嘆のコキュートス。
――火炎のプレゲトーン。
――忘却のレーテー。
――猛毒のステュクス。
この四体の魔物を倒さなければ魔王の元までたどり着くことができない。
ゲームではそれぞれ強そうな魔物の姿だったが、この世界では人間に近い姿をしている。コキュートスは体格の良いパワー型の剣士。プレゲトーンは派手な赤髪の魔法使い。レーテーは線の細い僧侶。
そして。今キャンキャン吠えているステュクスは角こそ生えているが、小学生のような見た目をしていた。
「ふん、いい気になるなよ。コキュートスは我ら四天王の中でも最弱。一番強いのはこのステュクスだ! さあ! かかってこい愚かな人間よ!」
「ごめんなさいニール様、ステュクスは勘弁してやってください」
「なんだプレゲトーンまで! そろいもそろって人間なんぞに屈しおって! いったい何をされたというのだ!」
ステュクスを庇ったプレゲトーンは、死んだ目で膝を抱え込んだ。コキュートスはしくしく泣き出してしまった。レーテーはガタガタ震えている。
彼らはギルディラースの身に起こった異変を察知し、俺に襲いかかってきた。なので返り討ちにして全員ギルディラースもろともニュルニュル地獄の刑に処して隷属させた。
最後にやってきたステュクスは事態を把握できないまま、今にも俺に飛びかからんとしている。
「俺がこいつらに何をしたか教えてやってもいいけど?」
パチンと指を鳴らすと、俺の影からヘルローパーが三体這い出てきた。これは魔王からコピーしたスキル、〔魔生物生成〕の効果によるものである。任意の魔物を量産できる便利な能力だった。
「なんだ、ヘルローパーごときに……っ!?」
迫り来るヘルローパーの触手を吹き飛ばそうと手をかざしたステュクスだったが、魔法は発動しない。それよりも先に俺が〔サイレント〕を使って魔法を封じたからだ。その上、今現在俺たちがいる王座の間は〔サンクチュアリ〕の効果範囲内だ。
「あ、あれ……力が抜けて……あわわわわ!」
ステュクスはなす術なくヘルローパーに捕らわれて宙吊りになった。混乱しているステュクスに近づいて、触手に変えた右手で頬を撫でてやる。
「うっ、うぎゃあ! なにそれ! きもい!」
「うんうん、気持ち悪いよね。でも気持ち悪いのは最初だけですぐに気持ちよくなるから。仲間のみんなと同じようにメチャクチャにしてやるから覚悟キメろや」
「ぴっ! ぴえぇ……!」
何をされるのか察したステュクスは、大きな瞳からびゃっと涙を噴き出させた。そんな姿を見ていられなかったのか、ギルディラースが口を挟む。
「ステュクスよ。ニール様はこの我を打ち倒し、死よりも恐ろしい快楽を与えてくださったお方だ。悪いことは言わん、貴様も隷属するがよい」
「……まっ、魔王様がそう仰るのならば仕方ないな! このステュクスも隷属してやろう!」
「別に俺はお前が隷属しようが逆らおうがどっちでもいいんだけど。どうする? ニュルっとく?」
「隷属させてくださいお願いしますニール様」
「素直でよろしい」
ステュクスにスキルを使うと、すでに心が折れていたのかあっさり隷属させることができた。
これで魔王側の勢力は制圧完了だ。ギルディラースに遭遇したときは詰んだかと思ったが、なんとかなってよかった。なんだか俺は命懸けの綱渡りをしてばかりのような気がするが、結果的にヨシとする。
一段落したところで、この世界について改めてギルディラースに問いただす。
ここはアルティメット・ドラゴンを元にして生み出された世界。すっかり廃れて遊ばれなくなったアルドラというゲームが意思を持ち、神としてふるまい、この世界にプレイヤーを招いている。
招かれるプレイヤーは、おそらく俺と同じく不意に命を落とした者。どのような基準で選ばれるのかはわからない。
これまで数え切れないほどの人数が招かれ、プレイヤーの希望通りに設定が追加されていった。元々のアルドラの世界観を崩さない程度にスキルという項目が加わり、ディテールもより細かくなっていった。ギルディラースたちが現在人間に近い姿をしているのもその影響だ。
「最初は我にもなんの感情もなかったのだ。ただ、本能のままに戦う。それだけだったが……何百回と繰り返すうちに、自我というものが生まれた。四天王たちも同じだ」
ギルディラースが気怠げに四天王に目を移す。俺もギルディラースの視線を追う。俺と目があったステュクスは素早くコキュートスの影に隠れた。
「魔王様の仰る通りです。神がプレイヤーを招く。我らは戦う。そして倒され――新たなプレイヤーがこの世界に生まれ落ちると、我らもまた再生される」
コキュートスはそう語って、悲壮なため息をついた。
訪れるのは毎回違うプレイヤー。しかしギルディラースや四天王たちは殺された回数だけ記憶が蓄積されている。アルドラの設定として、魔王が「復活」しているからだ。
「今はこうして平静を保っていられるが、ゲームがはじまってしまえば、我らは自分の意思では動けなくなる」
再びギルディラースが口を開く。アルドラが開始されるのは主人公であるプレイヤーが二十歳になったとき。ミッドランドの王が「魔王が復活した」という啓示を受け、息子である王子を魔王討伐の旅に送り出す。
「我らはこれまでに何度も殺され続けてきた……しかし今はニール様という特異点を得た。ニール様はレッドドラゴンとブルードラゴンを倒し、すでに神の筋書きに干渉している」
「おお! それはつまり!」
「この呪わしい世界から解き放たれるときが来たということだ」
「それではついに、我らの宿願が叶うのですね!」
「今こそ神を打ち倒し、呪われし運命に抗うのだ!」
ギルディラースと四天王たちが盛り上がっているが、俺は遠慮なく水を差した。
「いや、俺は神とか知らんからね」
「そこは勢いで流されてはくれまいか」
「流されねえよ。俺の最優先事項は復讐だから。神だなんて得体の知れない存在と戦う理由はない」
触らぬ神に祟りなし、という言葉もあるぐらいだ。たとえギルディラースの言うことが正しいのだとしても、神に敵対して復讐に支障が出たら困る。
「ほう、復讐とは」
俺の言葉に興味を示したギルディラースに、事情をかいつまんで説明してやる。貴族の家に生まれたにも関わらず魔力を持たずに生まれてきたこと。そのせいで家族に虐待され、殺されかけたこと。今は復讐を果たすためだけに生きていること。
ひと通り話を聞き終えたギルディラースは、深々とうなずきながら美しい顔立ちに笑みを浮かべた。
「――ああ、なるほど。それならば、我はこの上なくニール様のお役に立てるはずだ」
「まさかこの我を隷属させるとは……。まあ、神を倒すという目的で呼び出したのだからな。この我を圧倒するぐらいでなければ太刀打ちできぬ」
ギルディラースは俺の側で偉そうなことを言っているが、膝がガクガクである。ついさっきまでニュルニュルしまくっていたので仕方ない。
「横になってていいよ」
「……そうさせてもらう」
ギルディラースが合図すると、配下の魔物たちが玉座の脇に長椅子を持ってきた。四天王のうちのひとりも手を貸して、ギルディラースは気だるげに長椅子へ横たわった。
「こらっ! コキュートス! 何を悠長に手を貸しておるのだ! 魔王様に害をなす不遜な人間など捻り潰してしまえ!」
ステュクスに叱咤されたコキュートスは、気まずそうに目をそらせた。
魔王ギルディラースの配下には、四天王と呼ばれる魔物たちがいる。
――悲嘆のコキュートス。
――火炎のプレゲトーン。
――忘却のレーテー。
――猛毒のステュクス。
この四体の魔物を倒さなければ魔王の元までたどり着くことができない。
ゲームではそれぞれ強そうな魔物の姿だったが、この世界では人間に近い姿をしている。コキュートスは体格の良いパワー型の剣士。プレゲトーンは派手な赤髪の魔法使い。レーテーは線の細い僧侶。
そして。今キャンキャン吠えているステュクスは角こそ生えているが、小学生のような見た目をしていた。
「ふん、いい気になるなよ。コキュートスは我ら四天王の中でも最弱。一番強いのはこのステュクスだ! さあ! かかってこい愚かな人間よ!」
「ごめんなさいニール様、ステュクスは勘弁してやってください」
「なんだプレゲトーンまで! そろいもそろって人間なんぞに屈しおって! いったい何をされたというのだ!」
ステュクスを庇ったプレゲトーンは、死んだ目で膝を抱え込んだ。コキュートスはしくしく泣き出してしまった。レーテーはガタガタ震えている。
彼らはギルディラースの身に起こった異変を察知し、俺に襲いかかってきた。なので返り討ちにして全員ギルディラースもろともニュルニュル地獄の刑に処して隷属させた。
最後にやってきたステュクスは事態を把握できないまま、今にも俺に飛びかからんとしている。
「俺がこいつらに何をしたか教えてやってもいいけど?」
パチンと指を鳴らすと、俺の影からヘルローパーが三体這い出てきた。これは魔王からコピーしたスキル、〔魔生物生成〕の効果によるものである。任意の魔物を量産できる便利な能力だった。
「なんだ、ヘルローパーごときに……っ!?」
迫り来るヘルローパーの触手を吹き飛ばそうと手をかざしたステュクスだったが、魔法は発動しない。それよりも先に俺が〔サイレント〕を使って魔法を封じたからだ。その上、今現在俺たちがいる王座の間は〔サンクチュアリ〕の効果範囲内だ。
「あ、あれ……力が抜けて……あわわわわ!」
ステュクスはなす術なくヘルローパーに捕らわれて宙吊りになった。混乱しているステュクスに近づいて、触手に変えた右手で頬を撫でてやる。
「うっ、うぎゃあ! なにそれ! きもい!」
「うんうん、気持ち悪いよね。でも気持ち悪いのは最初だけですぐに気持ちよくなるから。仲間のみんなと同じようにメチャクチャにしてやるから覚悟キメろや」
「ぴっ! ぴえぇ……!」
何をされるのか察したステュクスは、大きな瞳からびゃっと涙を噴き出させた。そんな姿を見ていられなかったのか、ギルディラースが口を挟む。
「ステュクスよ。ニール様はこの我を打ち倒し、死よりも恐ろしい快楽を与えてくださったお方だ。悪いことは言わん、貴様も隷属するがよい」
「……まっ、魔王様がそう仰るのならば仕方ないな! このステュクスも隷属してやろう!」
「別に俺はお前が隷属しようが逆らおうがどっちでもいいんだけど。どうする? ニュルっとく?」
「隷属させてくださいお願いしますニール様」
「素直でよろしい」
ステュクスにスキルを使うと、すでに心が折れていたのかあっさり隷属させることができた。
これで魔王側の勢力は制圧完了だ。ギルディラースに遭遇したときは詰んだかと思ったが、なんとかなってよかった。なんだか俺は命懸けの綱渡りをしてばかりのような気がするが、結果的にヨシとする。
一段落したところで、この世界について改めてギルディラースに問いただす。
ここはアルティメット・ドラゴンを元にして生み出された世界。すっかり廃れて遊ばれなくなったアルドラというゲームが意思を持ち、神としてふるまい、この世界にプレイヤーを招いている。
招かれるプレイヤーは、おそらく俺と同じく不意に命を落とした者。どのような基準で選ばれるのかはわからない。
これまで数え切れないほどの人数が招かれ、プレイヤーの希望通りに設定が追加されていった。元々のアルドラの世界観を崩さない程度にスキルという項目が加わり、ディテールもより細かくなっていった。ギルディラースたちが現在人間に近い姿をしているのもその影響だ。
「最初は我にもなんの感情もなかったのだ。ただ、本能のままに戦う。それだけだったが……何百回と繰り返すうちに、自我というものが生まれた。四天王たちも同じだ」
ギルディラースが気怠げに四天王に目を移す。俺もギルディラースの視線を追う。俺と目があったステュクスは素早くコキュートスの影に隠れた。
「魔王様の仰る通りです。神がプレイヤーを招く。我らは戦う。そして倒され――新たなプレイヤーがこの世界に生まれ落ちると、我らもまた再生される」
コキュートスはそう語って、悲壮なため息をついた。
訪れるのは毎回違うプレイヤー。しかしギルディラースや四天王たちは殺された回数だけ記憶が蓄積されている。アルドラの設定として、魔王が「復活」しているからだ。
「今はこうして平静を保っていられるが、ゲームがはじまってしまえば、我らは自分の意思では動けなくなる」
再びギルディラースが口を開く。アルドラが開始されるのは主人公であるプレイヤーが二十歳になったとき。ミッドランドの王が「魔王が復活した」という啓示を受け、息子である王子を魔王討伐の旅に送り出す。
「我らはこれまでに何度も殺され続けてきた……しかし今はニール様という特異点を得た。ニール様はレッドドラゴンとブルードラゴンを倒し、すでに神の筋書きに干渉している」
「おお! それはつまり!」
「この呪わしい世界から解き放たれるときが来たということだ」
「それではついに、我らの宿願が叶うのですね!」
「今こそ神を打ち倒し、呪われし運命に抗うのだ!」
ギルディラースと四天王たちが盛り上がっているが、俺は遠慮なく水を差した。
「いや、俺は神とか知らんからね」
「そこは勢いで流されてはくれまいか」
「流されねえよ。俺の最優先事項は復讐だから。神だなんて得体の知れない存在と戦う理由はない」
触らぬ神に祟りなし、という言葉もあるぐらいだ。たとえギルディラースの言うことが正しいのだとしても、神に敵対して復讐に支障が出たら困る。
「ほう、復讐とは」
俺の言葉に興味を示したギルディラースに、事情をかいつまんで説明してやる。貴族の家に生まれたにも関わらず魔力を持たずに生まれてきたこと。そのせいで家族に虐待され、殺されかけたこと。今は復讐を果たすためだけに生きていること。
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