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四章
54 予言の勇者(アーサー視点)
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この国の成人年齢は十五歳。はれて大人の仲間入りをした俺は、王子としての暮らしに飽きていた。贅沢はできるけれど、行動は制限されるし、王子としての体面を保つのが面倒だった。
早く魔王を倒す旅に出たい。そう申し出ても、国王である父は頑なだった。
「いずれ神より予言が下される。その時まで大人しくしているように」
何を言ってもこればかり。そもそも予言とは何ですか? アルティメット・ドラゴンって知ってます? いろいろ聞いたけど無駄だった。感情が抜け落ちた父の表情は蝋人形めいていて不気味だった。
「魔王が復活すれば、息子を勇者として旅立たせる宿命。もうそれを……何度も繰り返し、繰り返し……」
問い詰めるたびに、父は意味のよくわからないことをブツブツと呟くようになった。無表情で同じことばかり言う父はゲームのNPCみたいだ。他の人間はそんなことないのだけれど。
俺はゲームが始まるまでの退屈な時間を有意義に使うため、王都のはずれに闘技場を作らせた。生け捕りにした魔物を奴隷と戦わせるイベントを企画すると、観戦のために貴族や金持ちの平民たちが詰めかけ、大流行した。
それでも全員が俺を支持しているわけではない。俺のことを残虐だと非難する派閥も存在した。
――まあ、自分がちょっと歪んでいるなという自覚はある。でもそれは俺のせいではなくて、前世で大変な思いをしてきたせいだ。なまじいい家に生まれてきたもんだから、幼稚園からお受験が始まって勉強漬け、その上習い事もしなきゃいけなくて。漫画もゲームもネットも禁止。ストレスが溜まる一方。性格が多少歪んでも仕方ない。
子供の頃は祖父母が元気だったからまだよかった。長期休暇の時は祖父母の家に預けられて、その間はゲームをやらせてもらえた。といっても親戚のお古のレトロゲームだったけど。
その中にあったのがアルドラだった。そこまで思い入れがあったわけじゃないけど、この世界に生まれたということは、何かの縁があったのかもしれない。
だから誰に何を言われようが、ここは勇者である俺が主人公の世界なので心配ない。神様が俺を勇者としてこの世界に生まれ変わらせたんだから、何やってもいいってことじゃん。
レナードだって、最終的には俺の元に帰ってきた。
✧
二十歳の誕生日。王座の間に集まった重鎮たちが見守る中、俺は王による予言を聞かされた。いよいよ旅立ちの時だ。
「我が息子アーサーよ。魔王が復活したとの予言があった。世界を守る勇者として、か弱い民衆を魔族の手から助けるために、旅立つが良い」
ゲームと寸分違わないセリフだったから吹き出しそうになったけれど、俺は厳粛な空気を壊さないよう、王の命令を粛々と受け入れた。
大臣から旅の支度金と装備品を渡される。ここはさすがにゲームとは違って、大国の王子に見合った最強クラスの武器防具だった。ゲームだとたった百ゴールドのはした金を渡されて、城下町の武器防具屋で最弱武器をそろえる羽目になる。まあ王子が銅の剣とか革鎧とかを装備するのはおかしいから、この辺の変更はいいとして。
レナードの態度は少し気に食わなかった。
「聖騎士レナードよ。そなたも勇者と共に旅立ち、魔王を討ってまいれ」
「――拝命いたしました」
俺の後方に控えていたレナードは王命を受けて、膝をついたまま深々と頭を下げた。俺には特に何もなし。ゲームだと「命に変えても勇者様を守ります!」みたいなセリフがあったはずなんだけどな。
レナードは生まれたときから勇者の仲間として共に旅立つという予言を受けていた。だから俺は子供の頃からレナードにだけは目をかけてやっていた。なのに俺より四歳年上のレナードは、成人を迎えると同時に王国を出奔してしまった。
レナードの父親から「息子は武者修行の旅に出ました」と聞かされたときは正直焦った。盾役のレナード抜きで魔王を倒すのは流石にきつい。
でも結局ゲームが開始される前に修行の旅から戻ってきた。俺は安心したけれど、レナードは正義感の強い聖騎士。闘技場の存在にはいい顔をしなかった。敬意を払いはするが、態度は硬い。
レナードの前ではいい子にしていたつもりだが、俺が家来に侍女を襲わせていたことや、そのほかのちょっとした悪戯のことを耳にしているのかもしれない。もしかしたら本心では俺の事気に入らないのかも。
「よろしく。頼れるのはレナードだけだよ」
「尽力いたします」
仕方ないので俺の方から声をかけてやると、こわばっていたレナードの表情も少し和らいだようだった。
レナードはかなり使えるキャラクターだ。これから一緒に旅をするわけだし、仲良くしておかないとね。
王家直轄の騎士団によるパレードが行われ、俺たちは華々しく王都を出発した。街道を半ばまで行って、そこから先はレナードとの二人旅になる。なんなら騎士団丸ごと魔王に向かっていけばよくない? その方が俺も楽だし、と思ったけれど、魔王に立ち向かえるのは勇者と選ばれし仲間たちだけだと予言で定められてるらしい。まあべつにいいけど。
なにはともあれ、ようやくゲーム開始だ。
早く魔王を倒す旅に出たい。そう申し出ても、国王である父は頑なだった。
「いずれ神より予言が下される。その時まで大人しくしているように」
何を言ってもこればかり。そもそも予言とは何ですか? アルティメット・ドラゴンって知ってます? いろいろ聞いたけど無駄だった。感情が抜け落ちた父の表情は蝋人形めいていて不気味だった。
「魔王が復活すれば、息子を勇者として旅立たせる宿命。もうそれを……何度も繰り返し、繰り返し……」
問い詰めるたびに、父は意味のよくわからないことをブツブツと呟くようになった。無表情で同じことばかり言う父はゲームのNPCみたいだ。他の人間はそんなことないのだけれど。
俺はゲームが始まるまでの退屈な時間を有意義に使うため、王都のはずれに闘技場を作らせた。生け捕りにした魔物を奴隷と戦わせるイベントを企画すると、観戦のために貴族や金持ちの平民たちが詰めかけ、大流行した。
それでも全員が俺を支持しているわけではない。俺のことを残虐だと非難する派閥も存在した。
――まあ、自分がちょっと歪んでいるなという自覚はある。でもそれは俺のせいではなくて、前世で大変な思いをしてきたせいだ。なまじいい家に生まれてきたもんだから、幼稚園からお受験が始まって勉強漬け、その上習い事もしなきゃいけなくて。漫画もゲームもネットも禁止。ストレスが溜まる一方。性格が多少歪んでも仕方ない。
子供の頃は祖父母が元気だったからまだよかった。長期休暇の時は祖父母の家に預けられて、その間はゲームをやらせてもらえた。といっても親戚のお古のレトロゲームだったけど。
その中にあったのがアルドラだった。そこまで思い入れがあったわけじゃないけど、この世界に生まれたということは、何かの縁があったのかもしれない。
だから誰に何を言われようが、ここは勇者である俺が主人公の世界なので心配ない。神様が俺を勇者としてこの世界に生まれ変わらせたんだから、何やってもいいってことじゃん。
レナードだって、最終的には俺の元に帰ってきた。
✧
二十歳の誕生日。王座の間に集まった重鎮たちが見守る中、俺は王による予言を聞かされた。いよいよ旅立ちの時だ。
「我が息子アーサーよ。魔王が復活したとの予言があった。世界を守る勇者として、か弱い民衆を魔族の手から助けるために、旅立つが良い」
ゲームと寸分違わないセリフだったから吹き出しそうになったけれど、俺は厳粛な空気を壊さないよう、王の命令を粛々と受け入れた。
大臣から旅の支度金と装備品を渡される。ここはさすがにゲームとは違って、大国の王子に見合った最強クラスの武器防具だった。ゲームだとたった百ゴールドのはした金を渡されて、城下町の武器防具屋で最弱武器をそろえる羽目になる。まあ王子が銅の剣とか革鎧とかを装備するのはおかしいから、この辺の変更はいいとして。
レナードの態度は少し気に食わなかった。
「聖騎士レナードよ。そなたも勇者と共に旅立ち、魔王を討ってまいれ」
「――拝命いたしました」
俺の後方に控えていたレナードは王命を受けて、膝をついたまま深々と頭を下げた。俺には特に何もなし。ゲームだと「命に変えても勇者様を守ります!」みたいなセリフがあったはずなんだけどな。
レナードは生まれたときから勇者の仲間として共に旅立つという予言を受けていた。だから俺は子供の頃からレナードにだけは目をかけてやっていた。なのに俺より四歳年上のレナードは、成人を迎えると同時に王国を出奔してしまった。
レナードの父親から「息子は武者修行の旅に出ました」と聞かされたときは正直焦った。盾役のレナード抜きで魔王を倒すのは流石にきつい。
でも結局ゲームが開始される前に修行の旅から戻ってきた。俺は安心したけれど、レナードは正義感の強い聖騎士。闘技場の存在にはいい顔をしなかった。敬意を払いはするが、態度は硬い。
レナードの前ではいい子にしていたつもりだが、俺が家来に侍女を襲わせていたことや、そのほかのちょっとした悪戯のことを耳にしているのかもしれない。もしかしたら本心では俺の事気に入らないのかも。
「よろしく。頼れるのはレナードだけだよ」
「尽力いたします」
仕方ないので俺の方から声をかけてやると、こわばっていたレナードの表情も少し和らいだようだった。
レナードはかなり使えるキャラクターだ。これから一緒に旅をするわけだし、仲良くしておかないとね。
王家直轄の騎士団によるパレードが行われ、俺たちは華々しく王都を出発した。街道を半ばまで行って、そこから先はレナードとの二人旅になる。なんなら騎士団丸ごと魔王に向かっていけばよくない? その方が俺も楽だし、と思ったけれど、魔王に立ち向かえるのは勇者と選ばれし仲間たちだけだと予言で定められてるらしい。まあべつにいいけど。
なにはともあれ、ようやくゲーム開始だ。
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