【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

文字の大きさ
62 / 96
四章

62 移民の村

しおりを挟む
 人間が暮らす大陸のうち、最も魔境に近い岬。かつては魔物が跋扈し、人々は恐れて近づかなかった場所。俺はそこに村を作った。
 主な住人は元奴隷。それに虐げられて暮らしていた平民の女性や子供たち。そして、知性を持った魔物――妖精族と新たに名付けた者たちが共に暮らしている。
 結界石は存在しない。代わりに妖精族が魔物や害獣から村を守っている。
 この大陸では妖精族の力が半減してしまうが、元々のステータスが高い。聖域の外であれば十分に戦える。人間たちは彼らに守られながら田畑を耕し、魔境から持ち込んだ素材の加工などの仕事に勤しみ、平穏に暮らしている。

「ギルディラース様!」

 俺たちが〔テレポート〕で移動してくると、見張をしていたステュクスがすぐさま駆け寄ってきた。四天王であるステュクスはギルディラースに心酔している。〔隷属〕のスキルで強制的に忠誠を誓わせているが、俺の方には一瞥をくれて舌打ちをしただけだった。そんなステュクスに俺はにこにこと微笑んで、影からヘルローパーを出した。

「ニール様! ようこそおいでくださいましたニール様っ! それにお連れの方もようこそ!」

 態度を急変させて最敬礼するステュクスに、俺はうんうんと頷いてみせた。素直でよろしい。
 不在の間の出来事を、ステュクスがまとめてギルディラースに報告する。俺はその間にクロヴィスを案内することにした。
 この村を作ってからまだ一年もたっていない。それでも今のところうまくいっている。大人たちにはまだ戸惑いが見られるが、子供たちはすでに馴染んでいて、種族入り乱れて遊びに興じていた。
 この村を興したばかりのときは、移民を募っても不審がられるばかりだった。なにせ魔境のすぐ近く。妖精族という未知の種族を受け入れがたい気持ちも強かったのだろう。最初は冒険者イスミが助けた奴隷の中から、移民を希望する者たちだけを集めた。
 待ち受けているのは手付かずの豊かな土地。開墾は手間だが実りは多く、稼げる仕事は数多ある。手に職をつけられる職業訓練を実施し、読み書きや簡単な計算などの学びも得られる。しかも衣食住の保証つき。
 そうして村としての体裁が整う頃には、噂を聞きつけた移民が向こうからやってくるようになった。
 ――というか「飢えや貧困と無縁の素晴らしい村がある」と噂をばら撒いたのは旅商人ニールとしての俺なのだが。貧困層や、虐待を受けていた女子供はこぞって移民を希望した。
 村としてまだまだ至らないところはあるし、種族の違いから誤解が生まれて、いさかいが起こることもある。だがそこも含めてクロヴィスに見てもらう。
 一通り見学して、村のはずれまでやってくる。岬から見える魔境の様子は相変わらずおどろおどろしい。でも振り返れば、手入れの行き届いた田畑と、活気ある村の様子が見えた。

「やはり、ニールを信じてよかった」

 村の様子にクロヴィスは感銘を受けた様子だった。特に福祉という概念はクロヴィスにとって目新しく映ったようだった。
 生活の安定や健康の確保は当然。不慮の事故などで怪我を負っても治療や支援を受けられる。財源は今のところ俺の稼ぎだが、魔境産の素材や加工品を流通させられるようになれば、採算はとれる。

「王族のクロヴィスから見たら笑えるんじゃない? この村は、綺麗事の集大成だから」
「笑いなどするものか」

 クロヴィスは大真面目な顔をして俺に向き直った。
 
「確かに王道ではない。だが、この村のあり方はその先をゆく治世だ」

 再び村の様子に目をやる。潮風に打たれながらしばらく村の様子を眺めていたクロヴィスは、ぽつりと言葉をもらした。

「ニールは王位を継ごうとは思わないのか」

 一瞬何を尋ねられたかわからなかった。王位――そういえば俺はミッドランドの王子だったのだ。考えもしなかった可能性を示された俺は肩をすくめた。

「いくら元々の生まれが王族だったからって、俺は国を治められるような器じゃないよ。この村を作ったのだって、魔物と人間がうまく交流できるかどうかの実験みたいなものだし。これも復讐の延長みたいなものだから」

 これがうまくいけば、魔物と人族の対立構造をなくせる。アーサーを排して、アルティメット・ドラゴンのストーリーに支配されない、新たな世界を作ることができる。

「でも、王族の地位が欲しいとは思わないけど……クロヴィスが、俺を甥だって認めてくれたのは、家族ができたみたいで嬉しかったな……」

 そう付け加えると、クロヴィスは潮風から遮るように俺を抱きしめた。

「ニールが望んでくれるなら、家族以上に、もっと親密な関係を築きたいと思っている」
「それは……嬉しいけど、今はまだ」
「そうだな。ニールには成さねばならぬことがあるのだから」

 ――でも、その後でなら。
 低く心地よい声で、耳元で囁かれる。
 復讐を果たした後で。俺は、どうなるのか。どうなりたいのか。クロヴィスと共に生きていく未来が、あり得るのだろうか。
 温かな腕の中で、不意にレナードの顔が過ぎる。そして、アーサーの顔が。
 未来のことは、まだいい。優先事項はあくまで復讐。これから先、アーサーはどう出るだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界魔物大図鑑 転生したら魔物使いとかいう職業になった俺は、とりあえず魔物を育てながら図鑑的なモノを作る事にしました

おーるぼん
ファンタジー
主人公は俺、43歳独身久保田トシオだ。 人生に疲れて自ら命を絶とうとしていた所、それに失敗(というか妨害された)して異世界に辿り着いた。 最初は夢かと思っていたこの世界だが、どうやらそうではなかったらしい、しかも俺は魔物使いとか言う就いた覚えもない職業になっていた。 おまけにそれが判明したと同時に雑魚魔物使いだと罵倒される始末……随分とふざけた世界である。 だが……ここは現実の世界なんかよりもずっと面白い。 俺はこの世界で仲間たちと共に生きていこうと思う。 これは、そんなしがない中年である俺が四苦八苦しながらもセカンドライフを楽しんでいるだけの物語である。 ……分かっている、『図鑑要素が全くないじゃないか!』と言いたいんだろう? そこは勘弁してほしい、だってこれから俺が作り始めるんだから。 ※他サイト様にも同時掲載しています。

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

辺境伯は嵌められた元令息から目が離せない

コムギ
BL
冤罪により、辺境の地へ追いやられた元侯爵令息ユベール。 だが彼は、あまりのことに気を病んで――はいなかった。 野山を駆け回り、虫を捕まえ、草花をスケッチし、のんびり釣りをする。 それはすべて、侯爵家の令息として縛られていた頃には許されなかった自由だった。 そんな生活から一年。 冤罪を証明できそうだと、幼なじみの王太子から報せが届く。 ――王都へ戻れる。 それは同時に、あの窮屈で冷たい場所へ戻るということでもあった。 迷うユベールの前に現れたのは、これまで静かに見守るだけだった辺境伯ラドヴァン。 「ならば、ずっとここにいろ」 「俺と婚約すればいい」 不器用に、しかし真っ直ぐに差し伸べられた手。 優しく(時に暑苦しく)包囲してくる辺境伯と、元侯爵令息の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

処理中です...