【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

文字の大きさ
75 / 96
五章

75 守りたいもの

しおりを挟む
 復讐の妨げになるものはすべて排除する。例外はない。でもレナードは俺が攻撃を放つ前に、剣を鞘に収めてしまった。
 戦意を失った紺色の瞳が、ひたと俺に向けられる。

「アーサーを守るんじゃないの?」
「私が守りたいのは、君だ」
「――は? 何言ってんの、俺より弱いくせに」
「そうだな……情けないことに、今の私は、まだ弱い」

 レナードはうつむいて、自分の手のひらを見つめた。

「幼い頃から、アーサー殿下が残虐な行いをしていることを知っていた。私は近くにいたにもかかわらず、それを止めることができなかった。神に選ばれた勇者だから仕方ないのだと、無理やり自分に言い聞かせて、見過ごした。そうしてアーサー殿下に虐げられた人々を助けもせずに、逃げてしまった」

 逃げた先が、冒険者としてのレオだった。手にした自由と引き換えに掴み損ねてしまったものを探すように、瞳が揺れる。

「私がアーサー殿下を諫めなければならなかった。復讐の刃が向くような事態を避けるよう、身を挺して止めるべきだった。だから、それができなかった私にも罪がある。君を傷つけ、君の大切な人を殺したアーサー殿下の罪は、私の罪でもある。アーサー殿下に罰を与えるというなら、私も同じ罰を受ける」

 レナードは拳を握りしめて、決然と俺を見つめた。
 ――罰を受ける、と言われても。

「いや……レナードは別に関係ないから」
「関係ないはずがない」

 即座に反論するが、その声音は優しい。何を根拠に、と問い詰める前に、レナードは胸元からペンダントを取り出した。

「私はあのとき、聖剣が眠る遺跡で、アーサー殿下に殺されて死んでいるはずだった。蘇生させてくれたのは、ニール……やっぱり君だったんだな」

 今度は俺の方が言葉に詰まってしまう。
 レナードの手元で、紺碧の宝石を銀細工で装飾したペンダントが輝く。宝石と同じ色をしたレナードの瞳は、もう惑うことはなかった。
 
「ニール。君は優しい人だ。私のことだって救ってくれた。事情はわからないけれど、復讐のために他者を傷つけることに葛藤があるはずだ。アリスとソフィの遺体を口にしたことも、自分の欲望のためにしたことじゃない。そうだろう?」
「……なにを、勝手に決めつけて……」
「アーサー殿下の指を切り落としたとき、気が晴れたか?」

 俺の足元には切り落としたアーサーの指が転がっている。まだ、足りない。全部切り落としてやらなくては。決意を新たに、ナイフの柄を強く握りしめる。刃は重く、滴る血は錆臭い。

「アーサー殿下は、遊び感覚で人を苦しめて殺すことができる人だ。そこに罪悪感など欠片もない。でも君は違う。どんなに恨みを抱いている相手でも、傷つけることによって自分が傷ついてしまう。復讐を果たしたとしても、君自身が新たに傷を負って、苦しみが増すだけだ」
「――うるせえな! 知ったような口を利くな!」

 復讐してもしなくても一生苦しいに決まっている。過去は変わらず、取り戻せるものは何もなく。それでも、俺は俺のために復讐を果たさなくてはならない。同じ地獄ならば、堕ち方は俺が決める。
 俺が激昂しても、レナードは冷静だった。

「今まで、世界を救うとはどのようなことか、具体的に考えたことはなかった。ただ予言に従い、魔王を倒せばそれで世界は平和になるのだと信じ込んでいた。でも、そうではなかった。自らの力で考えることを放棄した先にある未来では、何も守れない」

 穏やかな眼差しのまま、レナードは無防備に俺の間合いに入って、片膝を折る。

「ニール、すまなかった。今度は邪悪だと決めつけたりしない。だから、どうか君のことを教えてくれ。君を守りたいんだ。君の柔らかく、美しい心根が、これ以上傷つかないように。――もう離れない。君のそばにいて、必ず守る」

 俺を見上げる曇りのない眼差しが。レナードの優しい言葉のひとつひとつが、煩わしい。
 差し伸べられる手なんて掴まない。他人に身を委ねた先で待ち受けるものに期待なんてしない。自分の意思で行くべき道を決めて、自分の足で歩かなくては、本当の意味で救われることなんかない。

「ンッフフ……」

 不意に横から気の抜けた笑い声が聞こえてくる。顔を向ければ、ギルディラースがにやにやと笑っていた。

「ニール様もやはり人間というか、なるほど、そういう……だからわざわざ蘇生させて……ンフフフフ」

 ギルディラースは歯噛みする俺の様子を見て、明らかに喜んでいた。

「良いではないか。我はその小童を憎いと思うが、この感情もまた神の意志に過ぎず。ニール様がその小童と番いたいなら好きにするがいい」
「お前もうるせえな! あー! もう! 調子が狂う!」

 レナードが関わるといつもこうだ。自分のペースを乱される。大体なんでレナードと話をしてるんだ俺は。レナードなんかどうでもいい。俺は〔痺れ蔦〕のスキルを発動させてレナードをその場に拘束した。

「――っ! ニール……!」
「もういい、行こう。クロヴィスが待ってる」
 
 最初からこうしておけばよかった。「おやおや、よいのか?」とニヤつくギルディラースの脇に肘鉄を喰らわせて、レナードに背を向けた、そのとき。アーサーが叫び出した。

「くっそ! まじ使えねえなレナードも! もういい! リセットだ!」

 いつの間にかアーサーは目覚めていたらしい。

「なんか知らねえけど! 俺をこの世界に呼んだ神なんてのがいるなら、リセットしてくれよ! てゆうかやめてやるこんなクソゲー! ふざけんじゃねえよ!」

 ギャアギャア騒ぐアーサーをもう一発殴って気絶させようとした瞬間。まばゆい光が周囲に満ちた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界魔物大図鑑 転生したら魔物使いとかいう職業になった俺は、とりあえず魔物を育てながら図鑑的なモノを作る事にしました

おーるぼん
ファンタジー
主人公は俺、43歳独身久保田トシオだ。 人生に疲れて自ら命を絶とうとしていた所、それに失敗(というか妨害された)して異世界に辿り着いた。 最初は夢かと思っていたこの世界だが、どうやらそうではなかったらしい、しかも俺は魔物使いとか言う就いた覚えもない職業になっていた。 おまけにそれが判明したと同時に雑魚魔物使いだと罵倒される始末……随分とふざけた世界である。 だが……ここは現実の世界なんかよりもずっと面白い。 俺はこの世界で仲間たちと共に生きていこうと思う。 これは、そんなしがない中年である俺が四苦八苦しながらもセカンドライフを楽しんでいるだけの物語である。 ……分かっている、『図鑑要素が全くないじゃないか!』と言いたいんだろう? そこは勘弁してほしい、だってこれから俺が作り始めるんだから。 ※他サイト様にも同時掲載しています。

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

辺境伯は嵌められた元令息から目が離せない

コムギ
BL
冤罪により、辺境の地へ追いやられた元侯爵令息ユベール。 だが彼は、あまりのことに気を病んで――はいなかった。 野山を駆け回り、虫を捕まえ、草花をスケッチし、のんびり釣りをする。 それはすべて、侯爵家の令息として縛られていた頃には許されなかった自由だった。 そんな生活から一年。 冤罪を証明できそうだと、幼なじみの王太子から報せが届く。 ――王都へ戻れる。 それは同時に、あの窮屈で冷たい場所へ戻るということでもあった。 迷うユベールの前に現れたのは、これまで静かに見守るだけだった辺境伯ラドヴァン。 「ならば、ずっとここにいろ」 「俺と婚約すればいい」 不器用に、しかし真っ直ぐに差し伸べられた手。 優しく(時に暑苦しく)包囲してくる辺境伯と、元侯爵令息の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

処理中です...