【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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五章

74 本当の姿

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「魔王……? 違う、ニールは魔王ではない。魔王は魔境にいて……」

 俺の言葉に混乱しているレナードの間合いに飛び込んで、ナイフで突きを繰り出す。レナードは避けたが、俺が次々と攻撃を繰り出しても反撃する様子はない。

「ほらほら、どうしたの? 勇者の仲間の聖騎士は、魔王を倒すために旅立ったんじゃないの? その魔王が目の前にいるんだよ?」

 防戦一方のレナードから一度距離をとって、こてんとあざとく首を傾げてみせる。レナードは俺のこの仕草に弱い。誘惑に負けじとかぶりを振って、レナードは毅然と俺に向かって吠えた。

「このっ、卑怯者め! 魔王ならば邪悪な本来の姿があるはずだろう! 本当の姿を見せろ!」
「本当の姿……か」

 少し悩んでから、俺は〔形態変化+++〕を使って姿を変えた。
 黒髪に、黒い瞳。中肉中背。不細工というわけではないけれど、取り立てて特徴のない、平凡な顔立ち。記憶が薄れているから正確ではないかもしれないけれど。
 これが、前世で殺される前の俺の姿だ。

「それが……本当の姿、なのか……?」

 レナードは棒立ちになって俺の姿を見つめた。ニールのように、レナードを魅了するだけの美貌は持ち合わせていない。前世ではごく普通のカジュアルな服装は、レナードにとって違和感があるだろう。でもそれ以外は、どこからどう見ても無害な一般人だ。

「強いていえば、これが本当の姿……と言えるのかな。どう? これでも戦いにくい? それなら、もっと醜い魔物の姿になってあげようか。肌の色が違って、巨漢で、角が生えてて、牙も爪も鋭くて。あ、ドラゴンの姿がいいかな? レナードはどう思う? どんな姿なら敵だと思える? どんな外見なら殺していいと思う?」

 俺の問いに、レナードは言葉を詰まらせた。

「……違う、私は……外見で、敵を判断しているわけでは……私が、討つべきなのは……」

 視線こそ俺から逸らさないが、レナードは戦意を削がれたようだった。
 不意に闘技場の内部から一段と大きな声が上がる。それにもレナードは反応しない。
 闘技場の方は始末がついたようだけれど。この困った聖騎士様をどう片付けようか。迷っているうちに、俺の影からギルディラースがするりと姿をあらわした。

「滞りなく制圧が完了しました」

 先ほど上がった声は、思った通り、勝鬨だった。クロヴィスが妖精族たちと共闘して、アーサーに味方する家臣たちを討ち取ったのだ。
 
「ご苦労様。こっちも標的は捕らえたよ。あとは手筈通り、一度クロヴィスに引き渡してから――」
「おやおや、この姿も愛らしいですね」

 抱きしめてくるギルディラースを振り払ってニールの姿に戻る。
 今のギルディラースは猫ではなく人型になっている。正装をしているので、角が生えているという点を除けば人間の貴族とそう変わりない。そんなギルディラースの姿を見て、呆然としていたレナードがようやく我に返った。

「――貴様は、まさか……!?」
「ふん。忌まわしい小僧め。少しは我のことを覚えていると見える」
「魔王……ギルディラース!」

 戦意を取り戻して剣を構えたものの、レナードは困惑した表情を隠せないでいる。なぜ自分がギルディラースの姿を知っているのかわからない、といった様子だ。
 人型のギルディラースと対面したことがあるのは、今のレナードではない。他のプレイヤーのために用意されたレナードだ。ギルディラースのように毎回ごとの完全な記憶が残っている様子はないが、既視感はあるらしい。

「なぜ、私は、貴様を知って……いや、これも神の天啓か! 貴様がニールをたぶらかしているのか!」
「どちらかというと、たぶらかされたのは我だな」

 剣を向けるレナードに向けて、ギルディラースは挑発するように笑う。それを合図にレナードが斬りかかる。
 この大陸にいる限り、ギルディラースは本来の力を発揮することができない。俺は〔ホーリーシールド〕を使ってギルディラースを守ってやった。

「くっ……! ニール、騙されてはいけない! 魔王から離れるんだ!」

 ファイアブレスまで吐いてやったのに、まだ俺が騙されていると思っている。物分かりの悪いレナードに、俺はため息をつきながら説明してやった。

「レナードはどこまで知ってる? アーサーは魔王を倒したと嘘をついて無理やり王位についた。真相を知ったクロヴィスがアーサーに反旗を翻して幽閉されていた先王を救出した。王都も制圧済み。闘技場に集まっていたアーサーの支持勢力も、たった今制圧が完了したところ」
「そうか……王都に戒厳令が敷かれていたのは、クロヴィス閣下が……」

 レナードは俺の言葉に納得したようだった。古代遺跡からミッドランドまで帰りついたものの、王都の様子がおかしい。闘技場の異変を察したからこそ、レナードはアーサーの身を案じて王族用の逃走路までやってきたのだろう。そして俺がアーサーを痛めつけているところに出くわした。
 
「これからはクロヴィスがミッドランド国王になる。クロヴィスは奴隷制を撤廃して、ここにいる妖精王ギルディラースが従える妖精族とも交流し、平和的に共栄共存する」
「そんな、嘘だ! 魔王ギルディラースは邪悪な存在で……人類を脅かす、悪なるもの……!」

 再び戦意をみなぎらせるレナードに、ギルディラースが鼻で笑う。
 
「ほう、我が何をしたと?」
「それは、これから……!」
「これから悪事を働くはずだから倒すの? まだ何もしていないのに?」

 俺の言葉に、レナードは声を詰まらせる。俺はさらに追い打ちをかける。
 
「俺は――イスミの姿をしていた俺は、たしかにアリスとソフィーの死体を喰らった。それも悪事だけれど、俺が二人を殺したわけじゃない。罪のない人々を殺した数なら、圧倒的にこいつの方が多いんじゃない?」

 気絶したままのアーサーをナイフの刃先で指し示す。

「こいつは、なんの罪もない、俺の母親同然の人を残虐にいたぶって殺した。それだけじゃない。エミリアを殺して、ラパス村の人たちを虐殺した」
「――! そ、それは……」

 本当なのか、とは口にしなかった。
 ――アーサーならやりかねない。顔にそう書いてある。レナードは忠誠を誓うべき勇者を信じきれないことに葛藤を抱えているようだったが、そんな事情は関係ない。

「レナードがあくまでアーサーに忠誠を誓うというなら、好きにすればいい。でも、わかるよね、俺たちに勝てるわけないって。力が半減しているとはいえギルディラースもいる。クロヴィスも俺の味方だ。世界は今よりも平和になるんだから、戦う必要なんてない。このクソ野郎さえ差し出せばね」

 レナードはギルディラースを警戒したまま、ヘルローパーに拘束されたアーサーへ目を向けた。

「これが最後の忠告だよ、レナード。俺はアーサーに復讐する。邪魔をするなら――殺す」

 作り笑いはしなかった。レナードをまっすぐに見据えて、ナイフの切先を向ける。
 アーサーに視線を留めたまま沈黙していたレナードは、俺の殺意を押し除けるように口を開いた。

「私は、アーサー殿下に忠誠を誓った」
「――そっか。なら仕方ないね」
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