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五章
73 聖騎士レナードVS魔王ニール
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声の方を振り向くと、そこには少しやつれたレナードがいた。構えた剣を下ろして、俺の姿を見て目を丸くしている。
どのような目的であれ、死の淵から蘇ったレナードがミッドランド王都に戻ってくる可能性は考えていた。それがこのタイミングだとは思わなかったけれど。
俺が口を開くよりも先にアーサーが喚き散らした。
「れ、れ、レナード! レナードぉ! 助けて! 助けてくれぇえ!」
これには俺も流石に引いた。自分が殺したはずの相手が現れたというのに「助けて」と言える神経。俺は一瞬だけ怯んでしまったものの、アーサーの頭を思い切り殴って黙らせた。
「ニール……本当に、君なのか……」
ミッドランド国王であるアーサーへの暴力。それに、ヘルローパーに怯えるどころか従えている様子の俺に、レナードは驚きを隠せない様子だった。
俺はかつて冒険者のレオに対してそうしていたように、甘く微笑んだ。
「久しぶりだね、レオ。ああ……でも今のレオは冒険者じゃなくて、貴族の聖騎士様だから、レナード様って呼ばないとだめかな?」
「いや、レオで構わない……のだけれど」
レナードは俺の態度に頬を緩ませたが、すぐに表情を引き締めてアーサーに視線を投げかけた。
「その、どのような状況なのかわからないが、動けるようなら早くこちらへ! その魔物を倒して、アーサー殿下をお助けしなくては……!」
「わあ。すごいねレナード、さすが聖騎士様。レナードはこいつに背中から刺されたんだよ? それなのに助けようとしてるの?」
「なぜ、ニールがそれを知って――」
「っ、違う、俺が殺したんじゃない、魔物、そう、魔物がいたんだ。そいつがレナードを殺したんだ!」
「お前は黙ってろ」
ぎゃんぎゃんわめくアーサーの頭をナイフの柄でぶん殴る。アーサーは「ぎゃふ」と悲鳴をあげて気絶した。
改めてレナードに向き直る。
「レナード。こいつを助けるつもりなら、俺はレナードとも戦わなくちゃならない。できれば諦めて欲しいな」
「どうして、君が、アーサー殿下を……」
「俺はこいつに復讐するために生きてきた。理由は――詳細は省くけど、俺はこいつに虐待されて、母親も同然の人を殺されたんだ。だから復讐する」
俺の言葉に驚きはしたものの、レナードは言葉を詰まらせて悲しげに目を伏せた。アーサーが復讐の対象になるような生き方をしてきたことを、家臣の身であっても否定できないのだろう。それでも毅然と俺に向き直る。
「ニール、君が恨みを抱くのも無理はない。だが、今はどうか、俺に免じて怒りをおさめてくれないだろうか。その方にはきちんと罪を償っていただく。君が手を汚すことはない。きっと心を入れ替えてくださるはずだ」
レナードはこの期に及んで、アーサーを改心させられる可能性があると思っているらしい。
「心を入れ替える、ねえ……。まあ、死ぬより辛い目にあわせれば、こいつみたいなクズでも更生するかもね」
「……君はそんな残酷なことができる人じゃない」
まっすぐに見つめられる。レナードはどこまでも聖人君子で――笑ってしまう。
「俺のことなんて、何も知らないくせに」
「そうだな……俺は、君の苦しみも、辛さも、何もわかっていなかった。だから教えて欲しい。その――魔物のことも。君には無害なのか……?」
アーサーを捕らえているヘルローパーを、俺が操っているとは少しも思っていないらしい。それはそうだ。レナードの知っている俺は、無力な平民商人のニールでしかない。
「いいよ。全部教えてあげる」
俺は〔形態変化+++〕のスキルを使ってイスミの姿に変身した。レナードの瞳が驚愕で見開かれる。
「――な! 貴様は、イスミ!」
レナードは一足飛びに間合いを取り、素早く抜剣した。
「ニールに化けていたのか!? まさか、本物のニールに危害を加えてはいないだろうな!」
「俺が本物のニールだよ?」
「嘘をつくな! 貴様がニールであるはずない! ニールが、あんな邪悪な存在であるものか……!」
――そう。イスミは魔物に変身して、人の死体から血を搾り取った。レナードにとっては許し難い行為なのだろう。
レナードは迷わず踏み込み、俺に切り掛かってきた。剣戟は鋭く、受け流すだけで精一杯だ。俺の方がレベルは上だが、ゲームのシステムでは表しきれない経験の差がある。剣での戦いは圧倒的に俺の不利だ。
大味な俺の斬撃を交わし、レナードが素早く俺の死角に回り込む。やはり真っ当に勝負したら負ける。これ以上かわし切れない、というタイミングでイスミの姿からニールの姿に戻ると、レナードの動きがぴたりと止まった。俺はガラ空きになったレナードの鳩尾に蹴りを喰らわせた。
「ぐっ!」
レナードはよろけたが、すぐさま体勢を立て直して俺に剣を向けた。
「卑怯者め! その姿をやめろ!」
「ひどいよレオ。僕のことまだ偽物だと思ってるの?」
俺は両手を口元に当てて、きゅるるっとかわいい上目遣いをぶちかました。そんなわざとらしいかわい子ぶりっこにも、レナードは一々反応して頬を赤らめた。
「一緒にたくさん出かけたよね。レオが入れてくれたお茶、美味しかったな。山から見た景色は本当に綺麗だった」
「まさか、本当に……」
信じがたい、と言った様子で剣を下ろしてしまったレナードに、俺は無防備に近づいていく。
「どうしてレオに近づいたか、教えてあげようか」
俺はナイフを構えて、〔セイクリッドソード〕を発動させた。なんの変哲もないナイフが魔法の効果でまばゆく輝く。これは死霊系の魔物に大ダメージを与える、聖騎士固有の魔法だ。
「――! なぜ、ニールがその魔法を……!」
「俺はね、体液を摂取することで相手の能力を手に入れることができるんだよ」
「何を馬鹿なことを……っ!」
「信じられない? それなら……今からレッドドラゴンのブレスを吐くから、受け止めてね♡」
「な、何……!?」
俺はすうっと息を吸った。コマンドを呼び出してスキルの一覧から〔ファイアブレス〕を選択する。途端に俺の吐息は灼熱の炎と化してレナードに襲いかかった。
「――くっ!」
レナードは〔ホーリーシールド〕を発動させてブレスをしのいだようだったが、勢いに押されて地面に片膝をついた。
炎が消え去った後で、レナードは愕然と俺を見つめていた。
「すごいでしょ。相手が人間でも魔物でも、体液さえ摂取できれば相手の能力を得ることができる。レオも、俺にたっぷりくれたよね。ありがとう♡」
可愛らしくお礼を言う俺に、レナードは頬を染めることはなかった。呆然としたまま口を開く。
「ニール……君は、何者なんだ」
「俺はね、魔王だよ。人の血をすすって能力を得て力を蓄え、この世界のくそったれた筋書をぶち壊す魔王だ」
どのような目的であれ、死の淵から蘇ったレナードがミッドランド王都に戻ってくる可能性は考えていた。それがこのタイミングだとは思わなかったけれど。
俺が口を開くよりも先にアーサーが喚き散らした。
「れ、れ、レナード! レナードぉ! 助けて! 助けてくれぇえ!」
これには俺も流石に引いた。自分が殺したはずの相手が現れたというのに「助けて」と言える神経。俺は一瞬だけ怯んでしまったものの、アーサーの頭を思い切り殴って黙らせた。
「ニール……本当に、君なのか……」
ミッドランド国王であるアーサーへの暴力。それに、ヘルローパーに怯えるどころか従えている様子の俺に、レナードは驚きを隠せない様子だった。
俺はかつて冒険者のレオに対してそうしていたように、甘く微笑んだ。
「久しぶりだね、レオ。ああ……でも今のレオは冒険者じゃなくて、貴族の聖騎士様だから、レナード様って呼ばないとだめかな?」
「いや、レオで構わない……のだけれど」
レナードは俺の態度に頬を緩ませたが、すぐに表情を引き締めてアーサーに視線を投げかけた。
「その、どのような状況なのかわからないが、動けるようなら早くこちらへ! その魔物を倒して、アーサー殿下をお助けしなくては……!」
「わあ。すごいねレナード、さすが聖騎士様。レナードはこいつに背中から刺されたんだよ? それなのに助けようとしてるの?」
「なぜ、ニールがそれを知って――」
「っ、違う、俺が殺したんじゃない、魔物、そう、魔物がいたんだ。そいつがレナードを殺したんだ!」
「お前は黙ってろ」
ぎゃんぎゃんわめくアーサーの頭をナイフの柄でぶん殴る。アーサーは「ぎゃふ」と悲鳴をあげて気絶した。
改めてレナードに向き直る。
「レナード。こいつを助けるつもりなら、俺はレナードとも戦わなくちゃならない。できれば諦めて欲しいな」
「どうして、君が、アーサー殿下を……」
「俺はこいつに復讐するために生きてきた。理由は――詳細は省くけど、俺はこいつに虐待されて、母親も同然の人を殺されたんだ。だから復讐する」
俺の言葉に驚きはしたものの、レナードは言葉を詰まらせて悲しげに目を伏せた。アーサーが復讐の対象になるような生き方をしてきたことを、家臣の身であっても否定できないのだろう。それでも毅然と俺に向き直る。
「ニール、君が恨みを抱くのも無理はない。だが、今はどうか、俺に免じて怒りをおさめてくれないだろうか。その方にはきちんと罪を償っていただく。君が手を汚すことはない。きっと心を入れ替えてくださるはずだ」
レナードはこの期に及んで、アーサーを改心させられる可能性があると思っているらしい。
「心を入れ替える、ねえ……。まあ、死ぬより辛い目にあわせれば、こいつみたいなクズでも更生するかもね」
「……君はそんな残酷なことができる人じゃない」
まっすぐに見つめられる。レナードはどこまでも聖人君子で――笑ってしまう。
「俺のことなんて、何も知らないくせに」
「そうだな……俺は、君の苦しみも、辛さも、何もわかっていなかった。だから教えて欲しい。その――魔物のことも。君には無害なのか……?」
アーサーを捕らえているヘルローパーを、俺が操っているとは少しも思っていないらしい。それはそうだ。レナードの知っている俺は、無力な平民商人のニールでしかない。
「いいよ。全部教えてあげる」
俺は〔形態変化+++〕のスキルを使ってイスミの姿に変身した。レナードの瞳が驚愕で見開かれる。
「――な! 貴様は、イスミ!」
レナードは一足飛びに間合いを取り、素早く抜剣した。
「ニールに化けていたのか!? まさか、本物のニールに危害を加えてはいないだろうな!」
「俺が本物のニールだよ?」
「嘘をつくな! 貴様がニールであるはずない! ニールが、あんな邪悪な存在であるものか……!」
――そう。イスミは魔物に変身して、人の死体から血を搾り取った。レナードにとっては許し難い行為なのだろう。
レナードは迷わず踏み込み、俺に切り掛かってきた。剣戟は鋭く、受け流すだけで精一杯だ。俺の方がレベルは上だが、ゲームのシステムでは表しきれない経験の差がある。剣での戦いは圧倒的に俺の不利だ。
大味な俺の斬撃を交わし、レナードが素早く俺の死角に回り込む。やはり真っ当に勝負したら負ける。これ以上かわし切れない、というタイミングでイスミの姿からニールの姿に戻ると、レナードの動きがぴたりと止まった。俺はガラ空きになったレナードの鳩尾に蹴りを喰らわせた。
「ぐっ!」
レナードはよろけたが、すぐさま体勢を立て直して俺に剣を向けた。
「卑怯者め! その姿をやめろ!」
「ひどいよレオ。僕のことまだ偽物だと思ってるの?」
俺は両手を口元に当てて、きゅるるっとかわいい上目遣いをぶちかました。そんなわざとらしいかわい子ぶりっこにも、レナードは一々反応して頬を赤らめた。
「一緒にたくさん出かけたよね。レオが入れてくれたお茶、美味しかったな。山から見た景色は本当に綺麗だった」
「まさか、本当に……」
信じがたい、と言った様子で剣を下ろしてしまったレナードに、俺は無防備に近づいていく。
「どうしてレオに近づいたか、教えてあげようか」
俺はナイフを構えて、〔セイクリッドソード〕を発動させた。なんの変哲もないナイフが魔法の効果でまばゆく輝く。これは死霊系の魔物に大ダメージを与える、聖騎士固有の魔法だ。
「――! なぜ、ニールがその魔法を……!」
「俺はね、体液を摂取することで相手の能力を手に入れることができるんだよ」
「何を馬鹿なことを……っ!」
「信じられない? それなら……今からレッドドラゴンのブレスを吐くから、受け止めてね♡」
「な、何……!?」
俺はすうっと息を吸った。コマンドを呼び出してスキルの一覧から〔ファイアブレス〕を選択する。途端に俺の吐息は灼熱の炎と化してレナードに襲いかかった。
「――くっ!」
レナードは〔ホーリーシールド〕を発動させてブレスをしのいだようだったが、勢いに押されて地面に片膝をついた。
炎が消え去った後で、レナードは愕然と俺を見つめていた。
「すごいでしょ。相手が人間でも魔物でも、体液さえ摂取できれば相手の能力を得ることができる。レオも、俺にたっぷりくれたよね。ありがとう♡」
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