【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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五章

72 復讐

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 ――ようやく復讐を果たすときが来た。
 嬉しくてつい笑ってしまう。何を勘違いしたのか、いぶかしげな顔をしていたアーサーはほっと息を吐いて俺に命令した。

「なんだっけな、お前、見たことはあるような気がするが――まあいい。今の状況はわかってるか? 追手を食い止めろ」
「なんでお前死なないの? 生きてる価値ないのに」

 俺の言葉に、アーサーはぽかんと口を開けて間抜け面を晒した。
 幼い頃、軟禁されていた俺に向かって、アーサーが放った言葉だ。しばらく状況を飲み込めないでいたようだったが、アーサーは顔を歪めて激昂した。

「てっめえ! 俺が誰だかわかってんのか!?」
「そっちこそ。俺が誰だかわからない?」

 アーサーはもたついた動作で剣の柄に手を伸ばした。遅い。俺は一足飛びにアーサーの懐に飛び込む。アーサーが抜剣する前に、俺が手にしたナイフはアーサーの指を切りつけた。

「――ぎゃあ!」

 濁った悲鳴と共に、アーサーの右手の指が三本飛ぶ。俺もまだまだだな。一本ずつ切断してやる予定だったのに。

「最初は指だった。手の指。それから足の指。耳。鼻」

 俺を大切に養育してくれていた、乳母のマリア。彼女が連れ去られてから、俺のもとには切断された体の一部が毎日届けられた。
 なぜそんなことをする必要があったのか、尋ねるまでもない。こいつは楽しんでいた。ただ自分の嗜虐心を満たすためだけに、マリアを残虐にいたぶって殺した。
 
「両手と両足を切断して――最後は首を落とした。残酷なことをするよね、兄さん」
「ま、まさか、まさか、お前ぇ! お前はぁ!」

 そこまで説明してやって、ようやく俺の存在を思い出したらしい。
 アーサーは右手をかばい、〔ヒーリング〕を発動させようとしている。だが魔法は使えない。闘技場に潜伏していたレーテーが〔サイレント〕をかけて、魔法の発動を阻害していたからだ。〔テレポート〕を使って逃げられるわけにはいかない。

「くそっ、出てこい!」

 アーサーがゴブリンを数体召喚する。〔サイレント〕を使っていても、〔特性:召喚〕は発動する可能性があった。だから俺はすでにヘルローパーを影に潜ませていた。ヘルローパーたちはゴブリンを瞬殺してアーサーを包囲する。
 抵抗の手段をすべて奪われたのだと悟ったアーサーは顔を青ざめさせて、みっともなく喚き散らした。

「ち、違うんだよ! あのときは俺だって子供だったし、仕方なかったんだ! そう、父だ、父が悪い! あいつが俺にやれって命令したんだ!」

 止まらない出血に焦りながら右手を庇うアーサーに〔ヒーリング〕をかけてやる。切り捨てた指が生えてくるわけではないが、傷口はふさがって出血が止まる。

「あ……あ……指……俺の指が……」

 指を欠損して動揺するアーサーに追い打ちを喰らわせる。アーサーは避けようと後ずさる仕草を見せたが、遅すぎる。ナイフを振るい、今度は左手の親指だけを切り飛ばす。

「ぎゃああ! ひぎっ、いたい、いたいぃいいい!」

 痛みを感じるのに、どうして他人の痛みはわからないのだろう。いや、わかっているから楽しいのか。〔ヒーリング〕と〔サイレント〕を重ねがけしてやりながら一歩踏み出す。
 ――生きながらに切り刻まれる。自分がどんな目に遭うのかようやく察したのだろう。アーサーは顔を青ざめさせて懇願した。

「た、頼む、許してくれ! 違うんだ、本当に俺のせいじゃないんだ! 誤解なんだよ!」

 あれだけのことをしてきて、どうしてこんなにも被害者面ができるのか不思議で仕方ない。何も悪いことをしていないのに、理不尽な目に遭わされているという顔をしている。
 俺はヘルローパーに命じて、アーサーを拘束させた。

「ギャッ! ぎゃあああっ!」

 触手で両腕ごと胴体を縛り上げて、頭を下にした状態で宙吊りにする。ちょうど俺の視線の高さに、逆さまになったアーサーの顔が見える。
 
「神のことはわかるか」
「は、はあ、神……?」
「この世界に転生したとき、接触しただろう」
「――え? なに? お前も転生者? アルドラ、知ってんの?」

 俺に媚びへつらうように、へらへらと笑うアーサーの鼻にナイフの刃先を向ける。アーサーがひゅっと息を呑む。

「鼻を切り落とされたくなかったら、俺が聞いたことにだけ答えろ」

 ついさっき指を切断してやったばかりだ。充分に脅しが効いたのか、アーサーは血相を変えて口を開いた。

「か、神とか、知らないけど! 俺は、前世で、言いがかりをつけられて殺されて……」

 死んだはずだと思ったら、アルティメット・ドラゴンのオープニング曲が流れてきた。唐突に現れた「ゲームを開始しますか?」という選択肢に「Yes」と答えたら、この世界に転生していた。ゲームのシステムらしきものに干渉した機会は、たったそれだけ。

「その選択肢だけか? 神と名乗る者がお前に接触してきたことはあるか?」
「な、ない! 知らない! 神とか、そういう存在には会ってない。会い方もわからない。俺は知らない。本当なんだ」
「神の予言についてはどれだけ知っている」
「予言……あ、ああ! そう、父だ! 父が神の預言を受けたとか言って、俺に勇者になれって命令したんだ! だから、父に聞けばなにかわかるかも……」

 アーサーに言われるまでもない。今頃、俺たちの父はクロヴィスの保護下にある。もちろんそちらからも神について聴取する予定だ。

「ぐ……あ、頭が痛い……頼む、おろしてくれ、逃げないし逆らわないから……」

 逆さ吊りにしたアーサーは顔を真っ赤にして訴えたが、引き続きそのままにしておく。
 アーサー自身は神について何も知らない。それが本当かどうかは、拷問してじっくり聞き出せばいい。そのために集めた能力だ。片っ端から使ってやる。
 まずはクロヴィスにアーサーの身柄を引き渡して、王位交代を確実なものとする。復讐も、神に抗う方法を本格的に探るのも、それからだ。
 アーサーを捕らえたまま、王族専用の逃走経路に足を進める。そんな俺の背後から、一人の気配が近づいてくるのがわかった。
 
「――ニール!」

 俺の名を呼ぶ懐かしい声に。ほんの一瞬だけ、体がすくんだ。
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