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五章
71 クーデター(アーサー視点)
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「なっ……! 何でお前が聖剣を持ってるんだよ!」
俺の言葉に、クロヴィスは顔をあげて微笑んだ。
「ええ、陛下がお認めになられた通り、これは古代遺跡に祀られていた聖剣です」
聖剣はレナードの死体と一緒にダンジョン放置してきた。それをクロヴィスが回収したということか? じゃあ俺がレナードを殺したことも知っているのか!?
「勇者だけが装備できる、魔王を倒すために必要な唯一の武器。それを勇者であるアーサー陛下が振るわれるお姿を、国民たちへ存分に見せてやり、勇者としての力をお示しになればよろしいでしょう」
「い、いや……だって、それは……」
遅れて失言に気づく。今しがた、家臣たちが見守る前で、この剣が聖剣であることを俺が認めてしまった。その聖剣を、俺が装備できないどころか、触れることすらできないと知られてしまったら――。
クロヴィスは立ち上がり、両手で剣を捧げ持ったまま、俺に向かって一歩足を踏み出す。俺は思わず後ずさってしまった。その様子を見ていた家臣たちに動揺が走る。
「偽勇者! ミッドランド国王は聖剣に触れることすらできない偽物だ!」
「魔王などこの世界にいない! すべてミッドランド国王の虚言だ!」
「この偽物め!」
タイミングを見計らったように、魔物たちが再び騒ぎ出す。
――まさか。これは全部。
「お前の仕込みかクロヴィス!」
「何を仰います、私はただ勇者様の前に聖剣をお持ちしただけです。――さあ、受け取るがいい」
クロヴィスが俺に向かって聖剣を投げ出す。俺の体に触れた途端、聖剣は白い雷を放った。
「ぐっ! 痛ぇッ!」
俺にぶつかって地面に落ちた聖剣を、クロヴィスが手ずから拾い上げる。そして観衆に見せつけるように、白銀に輝く剣身を掲げて見せた。
「おお! 聖剣だ!」
「勇者様! クロヴィス様こそが本当の勇者様だ!」
「お助けください、勇者様!」
わめく魔物たちに呼応するように、観衆たちにもどよめく。
俺は動揺を抑えて家臣に命じた。
「そっ、それは偽の聖剣だ! クロヴィスが魔物を焚きつけて反逆を起こそうと目論んでいる! クロヴィスを捕えろ!」
今この場に、閃光騎士団の団員は数人しかいない。闘技場を守らせている家臣たちは俺の手駒である王家直轄の騎士団だし、観客席も俺を支持する貴族たちばかりだ。クロヴィスさえ捕らえてしまえばどうにでもなる。しかし父を捕らえたときとは違って、誰もすぐには動かなかった。
周囲に威圧を放ったまま、クロヴィスは不敵に微笑む。
「ようやく気づいたか。まあ、すでに手遅れだがな」
「な、何……」
手遅れ、という言葉の意味を考える前に、遠くから不意に破裂音が鳴り響いた。
「な、なんだ? なにが爆発した!?」
俺に答える者はいない。俺の側近たちもうろたえている。
続けてぱん、ぱんと爆ぜる音――王城の方角から聞こえる。視線を巡らせると、狼煙が上がっていた。
「総長閣下に報告! 王城を完全に制圧、離宮に囚われていた先王陛下の救出に成功!」
「ご苦労だった」
家臣から報告を受けたクロヴィスが重々しく頷く。そうしてクロヴィスは俺に剣先を向けた。
「偽りの予言を流布し、魔王を倒した勇者だと虚言を吐く愚か者よ。非道の限りを尽くす貴様は王として相応しくない。聖剣を戴くこの私、クロヴィス・エリル・トエ・ミドルワースが成敗してくれよう」
「は、はあ!? ふざけるな反逆者め! お前ら! 罪人を捕えろ!」
クロヴィスと周囲の取り巻きたちが剣を抜くのを見て、俺の味方の騎士たちもようやく柄に手をかける。じりじりとクロヴィスを取り囲んでいくが、その包囲網の一端がいきなり吹っ飛んだ。
「ハアッ!? 今度はなんだ!?」
ヒュオ! と鋭く風を切る音がすると同時に、再び俺の騎士たちが吹っ飛ぶ。
ガキの姿をした魔物が鎖を振り回している。鎖は変幻自在に動き、騎士たちを次々と吹っ飛ばしていく。
見れば、魔物たちを拘束していた鎖は消えていた。それぞれ隠し持っていた武器をふるい、俺の配下たちに立ち向かう。
「――くそっ、あの魔物ども……っ!」
魔物たちはクロヴィスと共謀して、最初から捕らえられたフリをしていたのか。舌打ちする俺に、クロヴィスが高らかに宣言する。
「王城はすでに制圧した! 大人しく投降すれば命も身分も保証する!」
観客席から怒号が鳴り響く。閃光騎士団がいつの間にか包囲していたらしく、無防備な貴族たちは次々と制圧されていく。
王家直轄の騎士団が俺を守ってはいるが、大半はすでに剣をおさめてクロヴィスに恭順を示している。完全に俺が不利だった。
今は逃げるしかない。俺は素早く〔テレポート〕を発動させた、はずだった。なのに一向に効果がない。
「な――!? くっそ、なんでだよ! お前ら、時間を稼げ!」
俺は数少ない味方にその場を任せ、王族用の逃走経路に向かった。闘技場を作る際に、念のため用意させていた秘密の通路だ。万が一魔物が暴走して危機に陥ったときのために仕込んでいたのだが、まさかこんな形で使う日が来るとは。
ゲームには名前すら出てこなかったモブキャラに陥れられるなんて、悔しさで頭がどうにかなりそうだが、今は逃げなければ。
闘技場は魔物が暴れられるようにと聖域の外に作ったが、王都の中なら安全だ。クロヴィスが連れてきたあのクソ魔物たちも入り込めない。でも王城は閃光騎士団に制圧されてしまった。
「クソッ、畜生! クソゲーすぎだろ! なんだよこの展開!」
俺は何も悪いことをしていないのに。冒険を楽しめなかった上に、なんでこんな酷い目に遭わないといけないんだ。
どこへ逃げたらいいのかもわからないまま隠し通路を走り抜け、出口付近にたどり着く。周囲の様子をうかがうが、騎士の姿はない。閃光騎士団もこの通路のことは知らないに違いない。
〔テレポート〕さえ使えればどこへでも逃げられるのに。惨めな気持ちを引きずりながら再び駆け出そうとすると、死角から人影が現れた。
「――っ!」
騎士、ではない。漆黒の衣装に身を包んだ少年――いや、青年だ。俺と同じ歳ぐらいだろうか。黒髪。青みがかったグレーの瞳。その顔立ちは、どこかで見たような気がするが。
青年は戸惑う俺を見て、にっこりと微笑んだ。
俺の言葉に、クロヴィスは顔をあげて微笑んだ。
「ええ、陛下がお認めになられた通り、これは古代遺跡に祀られていた聖剣です」
聖剣はレナードの死体と一緒にダンジョン放置してきた。それをクロヴィスが回収したということか? じゃあ俺がレナードを殺したことも知っているのか!?
「勇者だけが装備できる、魔王を倒すために必要な唯一の武器。それを勇者であるアーサー陛下が振るわれるお姿を、国民たちへ存分に見せてやり、勇者としての力をお示しになればよろしいでしょう」
「い、いや……だって、それは……」
遅れて失言に気づく。今しがた、家臣たちが見守る前で、この剣が聖剣であることを俺が認めてしまった。その聖剣を、俺が装備できないどころか、触れることすらできないと知られてしまったら――。
クロヴィスは立ち上がり、両手で剣を捧げ持ったまま、俺に向かって一歩足を踏み出す。俺は思わず後ずさってしまった。その様子を見ていた家臣たちに動揺が走る。
「偽勇者! ミッドランド国王は聖剣に触れることすらできない偽物だ!」
「魔王などこの世界にいない! すべてミッドランド国王の虚言だ!」
「この偽物め!」
タイミングを見計らったように、魔物たちが再び騒ぎ出す。
――まさか。これは全部。
「お前の仕込みかクロヴィス!」
「何を仰います、私はただ勇者様の前に聖剣をお持ちしただけです。――さあ、受け取るがいい」
クロヴィスが俺に向かって聖剣を投げ出す。俺の体に触れた途端、聖剣は白い雷を放った。
「ぐっ! 痛ぇッ!」
俺にぶつかって地面に落ちた聖剣を、クロヴィスが手ずから拾い上げる。そして観衆に見せつけるように、白銀に輝く剣身を掲げて見せた。
「おお! 聖剣だ!」
「勇者様! クロヴィス様こそが本当の勇者様だ!」
「お助けください、勇者様!」
わめく魔物たちに呼応するように、観衆たちにもどよめく。
俺は動揺を抑えて家臣に命じた。
「そっ、それは偽の聖剣だ! クロヴィスが魔物を焚きつけて反逆を起こそうと目論んでいる! クロヴィスを捕えろ!」
今この場に、閃光騎士団の団員は数人しかいない。闘技場を守らせている家臣たちは俺の手駒である王家直轄の騎士団だし、観客席も俺を支持する貴族たちばかりだ。クロヴィスさえ捕らえてしまえばどうにでもなる。しかし父を捕らえたときとは違って、誰もすぐには動かなかった。
周囲に威圧を放ったまま、クロヴィスは不敵に微笑む。
「ようやく気づいたか。まあ、すでに手遅れだがな」
「な、何……」
手遅れ、という言葉の意味を考える前に、遠くから不意に破裂音が鳴り響いた。
「な、なんだ? なにが爆発した!?」
俺に答える者はいない。俺の側近たちもうろたえている。
続けてぱん、ぱんと爆ぜる音――王城の方角から聞こえる。視線を巡らせると、狼煙が上がっていた。
「総長閣下に報告! 王城を完全に制圧、離宮に囚われていた先王陛下の救出に成功!」
「ご苦労だった」
家臣から報告を受けたクロヴィスが重々しく頷く。そうしてクロヴィスは俺に剣先を向けた。
「偽りの予言を流布し、魔王を倒した勇者だと虚言を吐く愚か者よ。非道の限りを尽くす貴様は王として相応しくない。聖剣を戴くこの私、クロヴィス・エリル・トエ・ミドルワースが成敗してくれよう」
「は、はあ!? ふざけるな反逆者め! お前ら! 罪人を捕えろ!」
クロヴィスと周囲の取り巻きたちが剣を抜くのを見て、俺の味方の騎士たちもようやく柄に手をかける。じりじりとクロヴィスを取り囲んでいくが、その包囲網の一端がいきなり吹っ飛んだ。
「ハアッ!? 今度はなんだ!?」
ヒュオ! と鋭く風を切る音がすると同時に、再び俺の騎士たちが吹っ飛ぶ。
ガキの姿をした魔物が鎖を振り回している。鎖は変幻自在に動き、騎士たちを次々と吹っ飛ばしていく。
見れば、魔物たちを拘束していた鎖は消えていた。それぞれ隠し持っていた武器をふるい、俺の配下たちに立ち向かう。
「――くそっ、あの魔物ども……っ!」
魔物たちはクロヴィスと共謀して、最初から捕らえられたフリをしていたのか。舌打ちする俺に、クロヴィスが高らかに宣言する。
「王城はすでに制圧した! 大人しく投降すれば命も身分も保証する!」
観客席から怒号が鳴り響く。閃光騎士団がいつの間にか包囲していたらしく、無防備な貴族たちは次々と制圧されていく。
王家直轄の騎士団が俺を守ってはいるが、大半はすでに剣をおさめてクロヴィスに恭順を示している。完全に俺が不利だった。
今は逃げるしかない。俺は素早く〔テレポート〕を発動させた、はずだった。なのに一向に効果がない。
「な――!? くっそ、なんでだよ! お前ら、時間を稼げ!」
俺は数少ない味方にその場を任せ、王族用の逃走経路に向かった。闘技場を作る際に、念のため用意させていた秘密の通路だ。万が一魔物が暴走して危機に陥ったときのために仕込んでいたのだが、まさかこんな形で使う日が来るとは。
ゲームには名前すら出てこなかったモブキャラに陥れられるなんて、悔しさで頭がどうにかなりそうだが、今は逃げなければ。
闘技場は魔物が暴れられるようにと聖域の外に作ったが、王都の中なら安全だ。クロヴィスが連れてきたあのクソ魔物たちも入り込めない。でも王城は閃光騎士団に制圧されてしまった。
「クソッ、畜生! クソゲーすぎだろ! なんだよこの展開!」
俺は何も悪いことをしていないのに。冒険を楽しめなかった上に、なんでこんな酷い目に遭わないといけないんだ。
どこへ逃げたらいいのかもわからないまま隠し通路を走り抜け、出口付近にたどり着く。周囲の様子をうかがうが、騎士の姿はない。閃光騎士団もこの通路のことは知らないに違いない。
〔テレポート〕さえ使えればどこへでも逃げられるのに。惨めな気持ちを引きずりながら再び駆け出そうとすると、死角から人影が現れた。
「――っ!」
騎士、ではない。漆黒の衣装に身を包んだ少年――いや、青年だ。俺と同じ歳ぐらいだろうか。黒髪。青みがかったグレーの瞳。その顔立ちは、どこかで見たような気がするが。
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