【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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五章

77 神との対話2

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「お前のことはとりあえずアルルって呼ぶけど……お前はこの世界の神、なんだよな」
「多分そうだと思う。納得できない?」
「納得できないというか……客に顔射されて結膜炎になったり、尻を叩かれすぎて真っ赤に腫れて座れなくて涙目になったりしていた奴が神っていうのがなんか結びつかなくて」
「あー……あれは大変だったなあ……」

 アルルはしみじみと唸った。その様子はやはり神などという超常的な存在には思えない。

「どうして神がわざわざ男娼をやってたんだ?」
「男娼だけじゃないよ。僕はいつもニールの近くにいた。虫の姿だったり、鳥の姿だったり。この人間の姿もそのうちのひとつなんだ」
「――俺を監視するために?」
「ううん。単純に好奇心」

 俺が睨んで見せても、アルルはにこにこ微笑んでいる。内心が読めない不思議ちゃんぶりは相変わらずだ。アルルは俺の様子に構わず話を続ける。

「君がこの世界にやってきたことをきっかけに、僕は初めてこの世界に、肉体を持って干渉してみた。僕にそんなことができるなんて、やってみるまで知らなかった。いやあ、見るのと実践してみるのとじゃ、全然違うねえ。死ぬのも苦しくてびっくりした」

 アルルは腕組みをしてうんうん頷く。その様子を見たギルディラースが殺気立つのを感じる。それはそうだろう。ギルディラースはこれまでに数えきれないほど殺されているのだ。
 アルルはギルディラースの殺意に構うことなく、にっこりと笑って両手を広げた。
 
「この世界については、僕にもわからないことが多いんだ。だから推測も混ざるけど、それでもよければ説明するよ。でもその前に――」

 不意にめまいを感じる。〔テレポート〕を使ったときと同じ、軽い酩酊感。次の瞬間には周囲の景色が変わっていた。
 そこは魔王城の「鏡の間」だった。イービルアイにアーサーを監視させていたときに使っていた部屋。

「真っ白なままじゃ落ち着かないでしょ? この部屋ならちょうどいいし。きっと長い話になるだろうから、どうぞ座って」

 アルルはそう言いながら、我が物顔でソファに座った。

「よくも我が城でくつろげるものだな、忌々しい……」

 そう唸ったギルディラースはいつの間にか人型になっていた。
 俺はギルディラースに同情してしまう。アルルはこの世界を作った神で、ギルディラースの個人的な空間だろうと自由自在に干渉できてしまう。親が子供の意思を無視して一方的に干渉してくる不快さなら、俺にもわかる。

「簡単に言うとねえ、ニールが予測していた通り、僕はアルティメット・ドラゴンというゲームの付喪神みたいなものなんだ」

 アルルが語り出したので、俺はギルディラースをなだめつつ対面のソファに座った。ギルディラースもしぶしぶ俺の隣に座る。一緒に連れてこられた父は俺たちの斜め後ろ、絨毯の上に座り込んで項垂れたままだ。

「最初はアルティメット・ドラゴンという普通のゲームだった。何千本も作られて、何万人もの人々に愛されて、くりかえしプレイされることによって、ゲームそのものに自我が芽生えた。その自我が僕」

 ゲームに芽生えた自我。ゲームの付喪神。この時点でよくわからなくて首を傾げるが、アルルもまた首を傾げていた。

「最初はね、よくわからなかったんだ。今でもわかんないことは多いけど、でも僕はゲーム。ゲームはプレイヤーのために作られている。だからプレイヤーを呼んだんだけど、みんなすぐゲームをやめちゃうんだよ~。それでも楽しんでもらいたいからプレイヤーの記憶を参考にしてね、色々改造していったんだ。そうしたらみんな楽しんでくれるようになったのさ」
「…………うん、なるほどな」
 
 えへん、と胸を張るアルルの言葉に、俺は深く頷いた。このままアルル主導で話をさせておいても何もわからないということがよくわかった。
 表現が抽象的な上、すぐ脱線するアルルに辛抱強く質問を重ねて、話を整理する。
 まずはこの世界について。「アルティメット・ドラゴンというゲームの付喪神」というアルルの言葉が正しいのなら、創作物の数だけ世界が存在することになるが、今はそこについて深追いしても仕方ない。少なくともここは、アルティメット・ドラゴンから派生した世界だということ。
 意思を持ち始めたアルルは、プレイヤーを呼び込んだ。アルルがこの世界に呼ぶことができるのは、肉体から分離した魂。死亡するか、意識不明になった人物。条件としては、現実世界のアルティメット・ドラゴンをプレイした経験のある人物に限る。
 そうしてアルルはプレイヤーを招待したが、なにせ元がレトロゲームだ。ドット絵の世界に放り込まれて、同じセリフしか繰り返さないキャラクターに囲まれる。悪夢だ。「みんなすぐゲームをやめちゃう」というのはそういうことだろう。

「その反省を活かして、アルルはプレイヤーにこの世界をより楽しんでもらうために、世界を改変していった」
「そう! ファンタジックな冒険の世界! 没入感を得られるリアルな設定! みんなが好きなものを集めて形にしたんだよ」

 笑顔で両手を広げるアルルに、ギルディラースが舌打ちをする。みんなが好きなものが今のギルディラースの姿なわけだ。

「つまりアルルは……プレイヤーと接触することなく、プレイヤーの記憶や要望を把握できるということなのか?」
「そう」
「――つまり、俺の思考を読めるのか」
「ううん。遡って見ることができるのはログだけ。記憶がぼんやり見える感じ。でも記憶を見ることができても僕には理解できないことの方が多いよ。なんで自分の子供を殴ったり、殺そうとしたりするのかな?」
「それは……まあ、お前も似たようなことをしているけどな」

 俺の言葉にアルルは「う~ん?」と唸って首を傾げる。ギルディラースを筆頭に、この世界にいる者たちはすべて神の作った存在。アルルの子供のようなものではないかと思うのだが、アルル本人にその感覚はないらしい。

「人間の言動って、僕にはあんまりよく理解できないんだよね。でもゲームのことならわかる。だからプレイヤーの記憶にある他のゲームの設定や世界観を移植したんだ」

 アルルはプレイヤーの記憶を頼りに世界のリアリティを追求した。〔スキル〕の存在もその一環。この世界により説得力を持たせるために、設定を補強していった。

「そうして出来上がったのが、この世界か……」

 俺は娼館で魔法を暴発させるまで、この世界がアルティメット・ドラゴンだとは思いもしなかった。それほど精巧に作り込まれた世界。
 アルルは没入感を深めるために、人口を飛躍的に増やした。それぞれをひとりひとり作り込んだわけではない。ランダムに生成した。そんな中で、クロヴィスのような特定の力を持った存在――魂の色を見ることのできる人間も稀に生まれるようになったらしい。

「あっ! 大事なこと忘れてた!」

 アルルが素っ頓狂な声をあげる。何事かと思えば、テーブルの上にばばんとアフタヌーンティーの支度が整った。

「お茶だよ~。喉かわいたでしょ? 生物は飲んだり食べたりしなくちゃいけなくて大変だよね」

 隣からギリギリと尋常ではない音がした。目をやると、ギルディラースが苛立った表情で歯軋りをしていた。アルルの自由奔放さに翻弄されているようだ。

「まあ、確かに喉はかわいたけどな……」

 俺はギルディラースをなだめつつティーカップに手を伸ばした。紅茶の味は悪くなかった。温度もちょうどいい。
 一息ついてから、俺は改めて切り出した。

「この世界にとって、俺は一体なんなんだ?」
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