【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

文字の大きさ
80 / 96
五章

80 帰還

しおりを挟む
「――やはり、ニールは帰ってしまうのか」
「うん。クロヴィスと離れるのは寂しいけど、元の世界でやらなくちゃいけないことがあるから」

 俺がそう言うと、クロヴィスは俺をきつく抱擁した。
 魔王城でアルルと話し合った後で、俺たちはミッドランド王都に戻ってきていた。
 アーサーが消えた理由を説明するためにも、俺はクロヴィスにすべてを話した。さすがのクロヴィスもアルルの存在には面食らっていたが、クロヴィス自身にもこれまで輪廻した世界の記憶がわずかながら蓄積されている。戸惑いながらも柔軟に受け入れていた。
 抱擁を解いて、クロヴィスは俺の額に口付けた。俺もクロヴィスの頬に口付ける。このままいい感じでお別れしたいが、まだ少しばかりやることが残っている。
 俺たちが今いるのは、王城の一室。これまで元国王が使っていた私室だ。豪華なソファにもたれたまま自失している父に向かって、俺は猛ビンタを繰り出した。ソファの上に力なく倒れ込んだ父の襟首を掴んで起こし、がくがくと揺さぶる。

「おいくそじじい、しっかりしろ。次で最後だ」
 
 俺がこの世界から現実世界へと戻ると同時に、この世界はリセットされて、新しい世界――アルルが新たに構築した、アルティメット・ドラゴン2が始まる。そこで生きるすべての人々は輪廻から解放され、死を得ることになる。
 片頬を赤くした父の瞳に、光が戻る。

「私は――死ねるのか」
「そうだよ。勝手に生きて勝手に死ね」

 俺がそう言うと、父は子供のように声をあげて泣き出してしまった。クロヴィスは隣に腰掛けて、泣きじゃくる父の背中を撫でてやっている。幼い俺を軟禁して放置した挙句に殺そうとしたことを考えるとビンタだけでは生ぬるい気もするが、クロヴィスに免じてこれで許してやることにする。

「ありがとう、ニール様」

 それまで静かに成り行きを見守っていたギルディラースが、俺の側にやってきて片膝をつく。

「無理やり捕らえて無体を強いたことを、改めて謝罪する。申し訳なかった。それでも我らがために世界を改変してくれたことに、至上の感謝を。世界が如何様に変わろうとも、我はあなた様のことを決して忘れないであろう」
「いいよ、そんなにかしこまらなくても。俺も触手でニュルったりしちゃったし」
「それは一刻も早く忘れたい」

 ギルディラースがぶるりと震える。まあ普通にトラウマですよね。ちょっとやりすぎたなと反省しながら、俺はギルディラースの肩をぽんぽんと叩いた。
 
「元気でいろよ。寿命も千年ぐらいあるわけだし、今まで辛い思いをした分、楽しく過ごせるといいな」
「ふふ、そうだな。――未来に期待するのは初めてだ」

 立ち上がったギルディラースと抱擁を交わす。これから先の世界がどうなるかは、アルル次第だ。

「ニールは本当に帰っちゃうの?」

 アルルが近づいてくると、ギルディラースは俺から離れた。忌々しそうな視線をアルルに送っている。未来に期待できるようになっても、積年の恨みが晴れるかどうかは別問題だ。

「ああ。この世界で俺ができることは全部やったし……アルルともお別れだな」
「え~本当に? 本当の本当に帰っちゃうの?」
「アーサーはあっさり帰したくせに、やけにしつこいな……」
「だって心残りがあるよね?」

 心残りなんて、ない。そう答えようと思ったのに、アルルは何もかも見透かしているような顔で俺を見ていた。

「会いたいなら呼んであげるよ?」
 
 思い浮かぶのは、レオの顔だ。クロヴィスの話によれば、アーサーに忠誠を誓っていたレナードにはひとまず屋敷で待機するように命じたらしい。
 会おうと思えば、会える。でも俺はレオに会いたくなかった。
 レオに会ったら、俺はきっと帰れなくなる。

「――帰らなきゃ」
「うん……わかった。さみしいけど、お別れだね」

 アルルが俺の両手を握る。繋いだ手の先からまばゆい光が放たれて、視界が白く焼けていく。俺を見送るクロヴィスとギルディラースに微笑んで、目を閉じた。
 この世界で過ごした日々を思い返す。苦難があった。悲しみがあった。それでも必死に生きた。悔いはない。ただ――レオと一緒にいたときだけ、この世界は美しかった。
 どうか、新しい世界で、レオが幸せでありますように。思い残すのは、ただそれだけ。

「多分大丈夫だと思うけど、失敗したらごめんね」
「えっ」

 のほほんとしたアルルの声に、過去に思いを馳せていた俺は目を開けた。そこにはもはや何もない、ただ白い空間が広がっているだけだった。アルルと繋いでいたはずの手の感覚もない。かろうじて人の形に見える光の塊から、アルルの声がする。

「ほら、ニールはイレギュラーだからさ、ちゃんと全部現実世界に帰せるかどうか自信がなくて。セーブデータとして残してないから、この世界で過ごした記憶はなくなると思うけど、魂の半分がどっか行っちゃったりしたらごめんね?」
「いやバカお前そんな大事なことを今更――!」

 その叫びを最後に、俺の意識はぷつりと途切れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界魔物大図鑑 転生したら魔物使いとかいう職業になった俺は、とりあえず魔物を育てながら図鑑的なモノを作る事にしました

おーるぼん
ファンタジー
主人公は俺、43歳独身久保田トシオだ。 人生に疲れて自ら命を絶とうとしていた所、それに失敗(というか妨害された)して異世界に辿り着いた。 最初は夢かと思っていたこの世界だが、どうやらそうではなかったらしい、しかも俺は魔物使いとか言う就いた覚えもない職業になっていた。 おまけにそれが判明したと同時に雑魚魔物使いだと罵倒される始末……随分とふざけた世界である。 だが……ここは現実の世界なんかよりもずっと面白い。 俺はこの世界で仲間たちと共に生きていこうと思う。 これは、そんなしがない中年である俺が四苦八苦しながらもセカンドライフを楽しんでいるだけの物語である。 ……分かっている、『図鑑要素が全くないじゃないか!』と言いたいんだろう? そこは勘弁してほしい、だってこれから俺が作り始めるんだから。 ※他サイト様にも同時掲載しています。

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

辺境伯は嵌められた元令息から目が離せない

コムギ
BL
冤罪により、辺境の地へ追いやられた元侯爵令息ユベール。 だが彼は、あまりのことに気を病んで――はいなかった。 野山を駆け回り、虫を捕まえ、草花をスケッチし、のんびり釣りをする。 それはすべて、侯爵家の令息として縛られていた頃には許されなかった自由だった。 そんな生活から一年。 冤罪を証明できそうだと、幼なじみの王太子から報せが届く。 ――王都へ戻れる。 それは同時に、あの窮屈で冷たい場所へ戻るということでもあった。 迷うユベールの前に現れたのは、これまで静かに見守るだけだった辺境伯ラドヴァン。 「ならば、ずっとここにいろ」 「俺と婚約すればいい」 不器用に、しかし真っ直ぐに差し伸べられた手。 優しく(時に暑苦しく)包囲してくる辺境伯と、元侯爵令息の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

処理中です...