救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

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第11話 特別訓練のお時間です。

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 翌朝。街外れの空地には、またしても“ちいさな修行者”の姿があった。

 マールは両手を胸の前で軽く組み、深呼吸を一つ。紫がかった髪が朝風にふわりと揺れる。

(……きょうも、がんばる……!)

 昨日、初めて結界を成功させた。レグルスたちが驚くほどきれいな結界だったけれど──あれは“平常時に時間をかけて張れた非実用的な産物”でもあった。

 だからこそ、今日は“実用的な結界”を目指すための訓練だ。


 ◆

「さて……まずは実験の時間です、マール」

 気だるげな声とともに、黒衣の青年──ドクペインが登場した。手には怪しげに光る小瓶が数本。

「これを飲んでください。魔力の流れを可視化する薬です」
「の、のむの……?」
「大丈夫ですよ。死にません。……たぶん」
「たぶん!?!?」

 フリッツがすかさずツッコむ。

「おい脅かすな!! マールが怯えてんだろ!!」

 だが当のマールは、逆にコクリと頷いた。

「……のむ」
「えっ、飲むの!?」

 マールが覚悟を決めて薬を口に含むと──身体の周囲にふわっと紫色の光が浮かび上がった。毛細血管のように細かい魔力の流れがゆっくり巡り、外からでもはっきりと視認できる。

「ふむ……面白い魔力回路ですね」

 ドクペインが目を輝かせ、マールの周囲をぐるぐる回る。

「感情変動で魔力が乱れやすい。特に“緊張”が強いと結界が薄くなりますね」
「き、緊張……」
「あと……驚くと魔力が跳ねて制御不能になりやすいです。そのあたりを改善していきましょう」

 ドクペインがさらりと言った瞬間──


「じゃあ、次は俺の出番っすね」

 フリッツがマールの背後からぬっと現れた。

「ひゃっ!?!?」
「はい結界!! 驚いたらすぐ張る!!」

 マールが慌てて指を組むような仕草をした瞬間、薄い膜がふわりと展開……したが、さっきよりずいぶん薄い。

「弱い弱い、そんなのじゃ森で即死っすよ」
「し、しぬのはやだ……!」
「じゃあ何度でもやるぞ。はい、次──」

 ぱんっ! と手を鳴らしたり、物影から急に声を出したり、遠くから木の枝を投げてみたり(当てはしない)。

「ひゃっ……!」
「は、はい結界!!」
「ひぃ……!?」
「ほら結界!!」

 数時間後。
 少々過酷な不意打ち訓練のおかげで、マールはフリッツの顔を見ただけで結界を張れるようになった。


「なんだか思ってた成果と違うんすけど……」
「じゃあ、次は耐久テストいくぞ」

 大きな影が近づく。アッポロだ。
 巨体を揺らしながら、マールの結界の前に立った。

「お、お手柔らかに……?」
「いや……俺、加減できないんだよなぁ……」
「できないのかい!!」

 フリッツの鋭いツッコミが飛ぶ。

 アッポロが軽く拳を構え──ほんの“軽い”打撃を結界へ落とす。

 どんっ!!
 地面が揺れた。

「きゃっ……!!」

 膜がぐらりと波打ち、辛うじて形を保った。

「アッポロ……お前マールを殺す気か!?」
「お、おう……でも……」

 アッポロが後頭部を掻きながら視線をそらす。

 そんな中──。
 マールが、おそるおそる手を挙げた。

「……あの……もう一回お願いします!」

 アッポロが固まった。

「……お前、すげぇな。怖くないのか?」

 その言葉には、純粋な尊敬がにじんでいた。


 彼らの様子を、レグルスは少し離れた場所で見守っていた。腕を組み、金の瞳を細める。

(昨日より……ずっと成長している。いささか成長が早すぎる気もするが……)

 嬉しさと、保護者としての心配が入り混じった複雑な表情。レグルスは静かに歩み出た。地面に落ちていた細い枝を拾い、軽く指先で回す。

「アッポロ、交代だ。俺が相手する」

 その声に、マールの背筋がぴんと伸びる。反射的に“気をつけ”の姿勢になるのが、なんとも健気だった。


 フリッツがひそひそ声で言う。

「いやあれ……自分だけ仲間外れにされるのが嫌なだけっすよね?」
「隊長、分かりやす過ぎ……」
「さっきからずっとソワソワしていましたしね」

 アッポロとドクペインも小声で同意する。

 そんな三人の視線をよそに、レグルスの集中はマール一点に向けられていた。

「いくぞ、マール……構えろ」
「……う、うん!」

 レグルスが枝を軽く振った──ただし本当に“軽く”。
 すぐに結界が展開し、枝先はふわりと弾かれる。

「いい反応だ」

 低く褒める声。
 その瞬間、マールの顔がぱっと明るくなった。

「……すごいって、おじさんに言ってもらえた! おじさんも、かっこ良かったよ!」

 その無邪気な喜びに、レグルスの耳がかすかに赤く染まる。

「……別に、大したことではない」

 そっぽを向きながら言うが、耳だけは誤魔化せていなかった。

「隊長……耳、赤いっすよ」
「言うな」

 フリッツがぼそりと言い、レグルスが無言で睨む。アッポロは肩を震わせ、ドクペインは横を向いて笑いをこらえていた。


 ◆

 そんな実戦形式の練習を数日こなすと、マールの結界は見違えるほど安定していた。

 驚かされても、転びかけても、足元に蛇が通っても(※ドクペインが放した)結界は乱れない。

「……これはもう完璧に近いですね」
 ドクペインが満足げに腕を組む。

「よくここまで来たな」
 珍しくフリッツも褒めた。声がやわらかい。

「ちび……すげぇぞ!!」
 アッポロは両手をぶんぶん振って大喜びだ。マールは、はにかむように笑って……すぐ、レグルスの方を見る。


「レグルスおじさん……どう、かな……?」

 レグルスは腕を組んだまま、少しだけ目を細めた。

「……この程度なら、浅い森なら問題ない」

 その言葉が落ちた瞬間、マールの瞳がぱあっと輝いた。

(これで……また森に行ける……?)

 胸の奥がじんわり温かくなり、自然と口元が綻ぶ。


「油断はするな……魔獣討伐はまだ早い。採取依頼で徐々に慣らしていくぞ」

 レグルスの条件は厳しいようでいて、マールにとって十分すぎるほど嬉しいものだった。

 もう“守られるだけの子供”ではいたくなかった。

(もっともっと努力して、おじさんたちをマールが守れるようになる……!)

 この日、マールは隊の一員として、自分の足で前に進む幼女へと成長した。


 ◆

 その頃。
 魔の森の奥深く──。

 眠っていた“何か”が目を開く。巨大な木々がざわりと震え、森の底で不穏な魔力が脈打った。

 ギルドにこんな噂が流れ始めていた。

「最近、魔獣が妙に活発らしい」
「浅層にまで強いのが出始めてるってよ」

 誰もまだ知らない。
 幼い少女の芽生えが、世界の均衡をそっと揺らし始めていることを──。

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