救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

文字の大きさ
11 / 16

第11話 特別訓練のお時間です。

しおりを挟む

 翌朝。街外れの空地には、またしても“ちいさな修行者”の姿があった。

 マールは両手を胸の前で軽く組み、深呼吸を一つ。紫がかった髪が朝風にふわりと揺れる。

(……きょうも、がんばる……!)

 昨日、初めて結界を成功させた。レグルスたちが驚くほどきれいな結界だったけれど──あれは“平常時に時間をかけて張れた非実用的な産物”でもあった。

 だからこそ、今日は“実用的な結界”を目指すための訓練だ。


 ◆

「さて……まずは実験の時間です、マール」

 気だるげな声とともに、黒衣の青年──ドクペインが登場した。手には怪しげに光る小瓶が数本。

「これを飲んでください。魔力の流れを可視化する薬です」
「の、のむの……?」
「大丈夫ですよ。死にません。……たぶん」
「たぶん!?!?」

 フリッツがすかさずツッコむ。

「おい脅かすな!! マールが怯えてんだろ!!」

 だが当のマールは、逆にコクリと頷いた。

「……のむ」
「えっ、飲むの!?」

 マールが覚悟を決めて薬を口に含むと──身体の周囲にふわっと紫色の光が浮かび上がった。毛細血管のように細かい魔力の流れがゆっくり巡り、外からでもはっきりと視認できる。

「ふむ……面白い魔力回路ですね」

 ドクペインが目を輝かせ、マールの周囲をぐるぐる回る。

「感情変動で魔力が乱れやすい。特に“緊張”が強いと結界が薄くなりますね」
「き、緊張……」
「あと……驚くと魔力が跳ねて制御不能になりやすいです。そのあたりを改善していきましょう」

 ドクペインがさらりと言った瞬間──


「じゃあ、次は俺の出番っすね」

 フリッツがマールの背後からぬっと現れた。

「ひゃっ!?!?」
「はい結界!! 驚いたらすぐ張る!!」

 マールが慌てて指を組むような仕草をした瞬間、薄い膜がふわりと展開……したが、さっきよりずいぶん薄い。

「弱い弱い、そんなのじゃ森で即死っすよ」
「し、しぬのはやだ……!」
「じゃあ何度でもやるぞ。はい、次──」

 ぱんっ! と手を鳴らしたり、物影から急に声を出したり、遠くから木の枝を投げてみたり(当てはしない)。

「ひゃっ……!」
「は、はい結界!!」
「ひぃ……!?」
「ほら結界!!」

 数時間後。
 少々過酷な不意打ち訓練のおかげで、マールはフリッツの顔を見ただけで結界を張れるようになった。


「なんだか思ってた成果と違うんすけど……」
「じゃあ、次は耐久テストいくぞ」

 大きな影が近づく。アッポロだ。
 巨体を揺らしながら、マールの結界の前に立った。

「お、お手柔らかに……?」
「いや……俺、加減できないんだよなぁ……」
「できないのかい!!」

 フリッツの鋭いツッコミが飛ぶ。

 アッポロが軽く拳を構え──ほんの“軽い”打撃を結界へ落とす。

 どんっ!!
 地面が揺れた。

「きゃっ……!!」

 膜がぐらりと波打ち、辛うじて形を保った。

「アッポロ……お前マールを殺す気か!?」
「お、おう……でも……」

 アッポロが後頭部を掻きながら視線をそらす。

 そんな中──。
 マールが、おそるおそる手を挙げた。

「……あの……もう一回お願いします!」

 アッポロが固まった。

「……お前、すげぇな。怖くないのか?」

 その言葉には、純粋な尊敬がにじんでいた。


 彼らの様子を、レグルスは少し離れた場所で見守っていた。腕を組み、金の瞳を細める。

(昨日より……ずっと成長している。いささか成長が早すぎる気もするが……)

 嬉しさと、保護者としての心配が入り混じった複雑な表情。レグルスは静かに歩み出た。地面に落ちていた細い枝を拾い、軽く指先で回す。

「アッポロ、交代だ。俺が相手する」

 その声に、マールの背筋がぴんと伸びる。反射的に“気をつけ”の姿勢になるのが、なんとも健気だった。


 フリッツがひそひそ声で言う。

「いやあれ……自分だけ仲間外れにされるのが嫌なだけっすよね?」
「隊長、分かりやす過ぎ……」
「さっきからずっとソワソワしていましたしね」

 アッポロとドクペインも小声で同意する。

 そんな三人の視線をよそに、レグルスの集中はマール一点に向けられていた。

「いくぞ、マール……構えろ」
「……う、うん!」

 レグルスが枝を軽く振った──ただし本当に“軽く”。
 すぐに結界が展開し、枝先はふわりと弾かれる。

「いい反応だ」

 低く褒める声。
 その瞬間、マールの顔がぱっと明るくなった。

「……すごいって、おじさんに言ってもらえた! おじさんも、かっこ良かったよ!」

 その無邪気な喜びに、レグルスの耳がかすかに赤く染まる。

「……別に、大したことではない」

 そっぽを向きながら言うが、耳だけは誤魔化せていなかった。

「隊長……耳、赤いっすよ」
「言うな」

 フリッツがぼそりと言い、レグルスが無言で睨む。アッポロは肩を震わせ、ドクペインは横を向いて笑いをこらえていた。


 ◆

 そんな実戦形式の練習を数日こなすと、マールの結界は見違えるほど安定していた。

 驚かされても、転びかけても、足元に蛇が通っても(※ドクペインが放した)結界は乱れない。

「……これはもう完璧に近いですね」
 ドクペインが満足げに腕を組む。

「よくここまで来たな」
 珍しくフリッツも褒めた。声がやわらかい。

「ちび……すげぇぞ!!」
 アッポロは両手をぶんぶん振って大喜びだ。マールは、はにかむように笑って……すぐ、レグルスの方を見る。


「レグルスおじさん……どう、かな……?」

 レグルスは腕を組んだまま、少しだけ目を細めた。

「……この程度なら、浅い森なら問題ない」

 その言葉が落ちた瞬間、マールの瞳がぱあっと輝いた。

(これで……また森に行ける……?)

 胸の奥がじんわり温かくなり、自然と口元が綻ぶ。


「油断はするな……魔獣討伐はまだ早い。採取依頼で徐々に慣らしていくぞ」

 レグルスの条件は厳しいようでいて、マールにとって十分すぎるほど嬉しいものだった。

 もう“守られるだけの子供”ではいたくなかった。

(もっともっと努力して、おじさんたちをマールが守れるようになる……!)

 この日、マールは隊の一員として、自分の足で前に進む幼女へと成長した。


 ◆

 その頃。
 魔の森の奥深く──。

 眠っていた“何か”が目を開く。巨大な木々がざわりと震え、森の底で不穏な魔力が脈打った。

 ギルドにこんな噂が流れ始めていた。

「最近、魔獣が妙に活発らしい」
「浅層にまで強いのが出始めてるってよ」

 誰もまだ知らない。
 幼い少女の芽生えが、世界の均衡をそっと揺らし始めていることを──。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

【完結】妹は庶子、文句があるか? 常識なんてぶっ飛ばせ!

青空一夏
ファンタジー
(ざまぁ×癒し×溺愛) 庶子として公爵家に引き取られたアメリアは、 王立学園で冷たい視線に晒されながらも、ほんの少しの希望を胸に通っていた。 ――だが、彼女はまだ知らなかった。 「庶子」の立場が、どれほど理不尽な扱いを受けるものかを。 心が折れかけたそのとき。 彼女を迎えに現れたのは、兄――オルディアーク公爵、レオニルだった。 「大丈夫。……次は、俺が一緒に通うから」 妹を守るためなら、学園にだって入る! 冷酷なはずの公爵閣下は、妹にだけとことん甘くて最強です。 ※兄が妹を溺愛するお話しです。 ※ざまぁはありますが、それがメインではありません。 ※某サイトコンテスト用なので、いつもと少し雰囲気が違いますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

愛を騙るな

篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」 「………」 「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」 王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。 「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」 「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」 「い、いや、それはできぬ」 「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」 「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」 途端、王妃の嘲る笑い声が響く。 「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」

処理中です...