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捨てる男あれば拾う男あり①


「え……?」

「魔力硬化症の薬は完成したことだし、私の愛する人もじきに元気になるだろう。そうなればお飾りの妻であるキミは、もう用無しだ」

 何を言われたのか分からず、私は呆然とする。


「ま、待ってください! それでは話が違います!」

「さぁ、荷物を纏めて我が家から出て行ってくれ。……と言いたいところだが、私にも人としての情がある。キミをこの屋敷の専属魔法薬師として雇ってあげるよ」

 そしてシャーレ様は、追い打ちをかけるかのようにこう言った。

「キミには研究室への立ち入りのみを許可する。代わりに妻としての務めはすべて放棄。我がリケット男爵家への生涯を懸けた奉公だと思って、研究を頑張ると良い」

「そんな非道なことが……神がお許しになるはずが……」

 だって私たちは神の前で夫婦になることを誓い合ったじゃない。生涯愛し続けるといったのは、嘘だったというの!?


「キミが魔力硬化症の特効薬になる素材を持っていると、運よく耳に入ってね。だから仕方なくキミを妻にすることにしたんだ」

「では最初から私を利用するつもりで!?」

「真実の愛のためには、ときに嘘も必要になる。神もお許しになるさ」

 シャーレ様は、まるで女神のような慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

 その笑顔を見た瞬間、私は全身の力が抜けてしまったかのように、その場でへたり込んでしまった。


「あぁ、キミのお母さんを我が家に呼ぶというのは本当だよ。使用人として、キミと一緒に働かせてあげよう」

「それは私の母を人質にとる、ということですか」

「ははは、人を悪魔みたいに言わないでくれ。これは私からの温情だ」

 そう言って彼は肩をすくめた。


「じゃあそういうことで。せいぜい頑張ってくれ」

 もう貴方は、私の名前も呼んでくれないのね……。

 私を一瞥することなく、彼は席を立って食堂から出ていこうと歩き始めた。

「待って! お願い、待ってください!」

 私は彼の背中に向かって呼びかけたが、彼は振り返ることもない。そんな彼の元へ、執事のコッヘルさんが焦ったように駆けつけてきた。


「どうした、コッヘル。何かあったのか?」

「は、はい! 今しがた旦那様にお客様がいらっしゃったのですが……」

 コッヘルさんの言葉を聞いて、シャーレ様は眉をひそめた。

「……なんだって? 私は何も聞いてはいないが」

「はい……ただ、門前払いにするのも失礼かと。こうしてお伺いに」

 そんな二人の会話を聞きながら、私は床に座り込んだまま動けずにいた。

「いったい誰なんだ、約束もなく会いに来る無礼者は?」

「は、はい。それが……」

 コッヘルさんは困ったように言いよどんでいたが、彼が最後まで答える前にその人物がこの場にやってきた。


「突然の訪問、失礼する」

「あ、貴方は!?」

 シャーレ様が驚くのも無理はない。私もその人物を見て、開いた口が塞がらなくなっていた。

「ど、どうしてローグ君が!?」

 突然現れたのは――お母様の元に帰省しているはずの後輩、ローグ君だった。
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