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捨てる男あれば拾う男あり③
「おいおい、私の妻を奪うつもりかね?」
「……その通り。彼女は貴方に相応しくない」
「ほう? それはキミが決めることではないと思うが?」
「貴方には、彼女を幸せにする力はない。……そう判断しました」
ローグ君は私の手を取ったまま、シャーレ様に向かってそう宣言した。
「残念だが、キミも知っている通り貴族に離婚は許されていない。あぁ、もしかすると平民のディアナは知らなかったかな?」
……それは私でも知っている。
神に愛を誓った夫婦は正当な理由なしに離れることはできない。もしそうするならば、神の許しを得るという名目で教会に多額の喜捨を払う必要がある。
さらにはシャーレ様に対する賠償も必要。
その中には、私を嫁として迎えるのに使った費用も含まれるだろう。きっと研究用の施設も。
もちろん、ただの平民である私にそこまでのお金はない。それもあって、私はシャーレ様から離れることができないのだ。
「どうかな? もし払えるなら手放してあげよう」
「そ、それは……」
分かっていてわざと煽るように言い放つシャーレ様に、ローグ君はハッキリと答えた。
「離婚など、する必要はない」
「は?」
予想外の返答に、シャーレ様は目を丸くしていた。たぶん、私も同じ顔をしていると思う……。
「ディアナは、そんな無駄なお金を払う必要は無い」
「ほう? ならその理由を訊かせてもらおうか?」
「理由は簡単だ」
彼は私を振り返りながらこう言った。
「貴族の離婚は許されない。だが貴族の間でパートナーを譲ることはできる」
ローグ君の言葉に、シャーレ様は目をパチクリさせる。
私もだ。今、なんて言ったの?
「ここで今、僕はその権利を行使させてもらおう」
「……確かにそんな法律はある。だがそれでも、多額の金を払う必要があって――まさかっ!?」
シャーレ様の反応を見て、ようやく私も気付いた。すぐに彼を止めようとしたけれど……もう遅かった。
「僕がディアナの夫になる。必要な金も用意した」
「ッ!!??」
「下に馬車で運ばせてある。疑うのなら、自分の目で確認するといい」
ローグ君の宣言に、シャーレ様は言葉を失っていた。私もあまりのことに驚いて何も言えず、ただ呆然としていた。
そんな私たちを気にすることもなく、彼はニッコリと微笑む。
「これで文句は無いはずだ」
「そ、そんなまさか……」
「さっき貴方は、金を払えばディアナを手放すと言ったね? 貴族としての誇りがあるのなら、吐いた言葉は戻せないよ」
そう言ってスタスタと私の元へ歩み寄ったローグ君は、そのまま私の手を取った。
「さぁ、行こう!」
「え? いや……でも……」
私はしどろもどろになりながら戸惑うが、ローグ君はそんな私に力強く頷きながらこう言った。
「大丈夫! 僕と一緒に夢を叶えにいくだけですよ」
夢……?
「えぇ、先輩が僕に言ったんでしょう? 人々の役に立つ魔法薬師になりなさいって。同じ夢を見させておいて、自分だけ勝手に諦めるなんて許さないですよ?」
そんな彼の言葉を聞いた途端、私の頭の中で何かが弾けたような気がした。
「その夢を、私はこれからも見続けていいの……?」
「当然ですよ、先輩」
ずっと誰かに言って欲しかった言葉……それが今は彼の口から紡ぎ出されている。
その喜びを嚙みしめるように目頭が熱くなるのを感じ――気がつけば彼の手をギュッと握りしめていた。そして私の口からは自然と言葉が飛び出していた。
「私を、ここから連れ出して!」
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