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◆アクテリア王国編

第18話 モンスターの大群VS勇者

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 港の側に集まると、遠く海の彼方から、うねりをあげて波が襲ってくるのが見えた。
 いや、違う。
 大量のモンスターの群れが、津波の如くこちらに向かってきているのだ。


「来たぞー!! モンスターの大群がウジャウジャ来やがったぁぁあ!!」

「奴ら、泳ぐだけじゃねぇ! 空を飛んでやがる!」

 え、なんじゃそりゃ。
 海のモンスターなのに空を飛べるのか!?

「アレはピギールというモンスターじゃな」
「ピギール? ってあなたは!?」
「……ふむ。この街に来たのは八十年振りかの」

 俺たちの背後に突然現れた人物。
 180cmを越える長身に、足首ほどまであるスカイブルーの長髪。
 身体はスレンダーで、肘や足首に特徴的な薄いヒレがついている。

 局部には自前なのか、鱗でできた部分鎧のようなもので覆われている。不思議な気品さがあるおかげで、肌の露出が多いのにイヤらしさはまったく感じられない。


「我はマーレ族の族長、レジーナ=クーラブじゃ。そこらで騒がれておる勇者じゃな」

 彫刻のような整った顔と切れ長の目で、慌てふためく街人を見つめるレジーナさん。


「へ? じゃあ貴方が勇者カニ男……いや、そもそも男??」

「お主はいったいナニを指差しておる。初対面なのに失礼じゃぞ?」

 い、いやだって……股間にナニが無いからどっちなのかなって……。

 って待てよ?
 情報として聞いていたマーレ族って、この人たちのことだったのか!?
 なんだ、人魚じゃなかったのか……。

「我らマーレ族は繁殖時にのみ性別が現れるからな。今は男っぽく見えるだけじゃ。……それより其方。その身体に神器を宿しておるな? 女神が召喚した本物の勇者であろ?」

「えっ、どうしてそのことを!?」

「我もそれなりに長生きなのでな。ある程度の神の気なら感じ取れるのじゃ」

 レジーナさんは俺に近寄ると、耳元で中性的なボイスで耳元にささやいてきた。
 なんだろう、すっごくゾクゾクする。今のレジーナさんが魅力的すぎて、どっちの性別かなんてどうでもよくなってくる。


「あ、あの……さっきの言い方だと、レジーナさんは街の人に呼ばれて来たってことですよね?」

「いや、仲間が海でピギールの大群を見つけての。このままでは街へ押し寄せそうじゃったので、我はその警告にきたのじゃが……少し遅かったようじゃの」

 え、それじゃあ街の人の儀式は?
 あのヘンテコな踊りは関係なかったってこと?

 俺が戸惑っていると、隣にいたロロルがレジーナさんに声を掛けた。

「ちなみにそのピギールって、どういうモンスターなんですか?」

「ピギールは、海神リーヴィアの肉片より生まれたとされるモンスターじゃ。普段は深海で大人しくしておるのじゃが……突如何かに引き寄せられるように陸へ向かいはじめてな。何が原因なのか、我にも分からぬのだが……」

 じゃあ街の人も普段は見掛けないモンスターなのか。しかしあんな大量に押し寄せてくるって、なにごとなんだろうか。

「あのモンスターは太く大きく、ヌルヌルウネウネしておっての。マーレ族の得意とする槍でも中々刺さらん」
「物理が駄目なら、魔法でどうにかならないんですか?」
「魔法も粘膜を剥がすまでは中々効かぬ。敵対すると本当に厄介な奴なのじゃ……」

 フォークのような三叉槍を握りしめながら、悔しそうに歯噛みするレジーナさん。歴戦の彼(彼女?)でも倒せないほどのモンスター。それも大群となると、中々にマズそうだ。
 
 と、そんな話をしているうちに敵の第一陣がやってきた。


「「「ぴぎぃ! ひっぎぃいぃいいい!!!」」」

 ピギールらしきモンスターが、港の目前までやってきた。
 俺の肉眼でも見える距離なのだが……とにかく見た目がキモイ。
 豚のような鼻を持ち、太く長くて黒光りしている。それが大量に、ヌメヌメとしながら陸へとジャンプしてきた。

「本当に飛んだ!?」

「なんかすっごく戦いたくないんだけど……」

「うえぇ、気持ち悪いですぅ……」

「くっ! 我が時間を稼ぐ! お主らは逃げるのじゃ!!」

 カニ男改め、麗しの海の勇者であるレジーナさんが槍を回転させながら、果敢にもピギールに立ち向かう。

 なんだろう、彼なら勝てそうな強者のオーラがある。思わず俺は期待の眼差しで彼の行く末を見守ってしまっていた。

ひぎぃぃい!お前ら! ぴぎぃひぎぃいい!獲物が来たぜ!

ぴぎぃ!上者だ! ひぎぃぃっ!やっちまえ!


「くっ! まとわりつくなぁあ! やめっ! ちょっ、入ってこないで! あっ!」


 そしてピギールの大群に飲み込まれて消えた。

「…………」
「…………」

 ちょっ! レジーナさぁぁあん!?

 ウネウネと山のような塊をつくるピギールたちに囲まれ、彼の姿は完全に見えなくなってしまった。
 俺たちは思わず呆然としていると、そのピギールの山からぺいっ!と弧を描いてドサッと何かが落ちてきた。

「ふ、ふえぇっ……、ヌメヌメこわいよぉぉ」

 ま、マズいぞ……!!
 レジーナさんが、ヌメヌメ地獄で精神崩壊してしまっている……!!

「や、やばいぞ! 勇者様でも敵わないなんて!」

「に、逃げろぉおお!!」

 最初こそ勇者レジーナさんと共に戦おうとしていた街の兵達も、彼の敗北を見て僅かばかりを残して逃げ出してしまった。まぁそれも仕方ないだろう。こんな粘液まみれにされたら怖いもんな。


「大丈夫ですか、レジーナさん!」

「うっぐ、ひっぐ。わたち、けがされちゃったぁ……うえぇ」

「ダメね、幼児退行してしまったわ」

「あのヌメヌメはキョーイです! どうにかしないと、ボク達もアレにヤられてしまうですよ!!」

 うっ……取り敢えずダメ元でもやってみるしかないな!

「やっぱ水棲生物には雷魔法だろう! クード・フードル!!運命の戯れ

 呪文を唱えると、左手に集めた魔力球からピギール達へ、蜘蛛の巣のような雷がほとばしった。

「――やったか!?」

「そんなフラグ建てるんじゃないわよ!」

 いやでも、結構な魔力を込めたし、少しぐらいはダメージを与えているんじゃ……。

 そんな淡い希望を持ってピギールたちを見てみるが、1匹たりとも倒せてはいなかった。くそう、マジで粘液で魔法をガードしてやがるのか。


「はっ! ココは!? ピギールはどうした!」

「あ、レジーナさんおかえりなさい。今俺が雷魔法撃ったんですが、全く効かなかったんですよ……」

「そ、そんな。このままでは、余はまた陵辱されてしまうのじゃ! イヤじゃイヤじゃぁ! またねばねばヌルヌルをぶっかけられるのはイヤじゃぁ!!」


 イヤらしい体液まみれにされて、クールさのカケラも無くなってしまったレジーナさん。さすがに哀れに思ったのか、あのドSなリタがタオルで身体を拭いてあげていた。

「とにかく、あの粘液をどうにかしないと……」

 魔法も駄目、武器も駄目。
 ならどうするか。

 俺が打てる手は他に……そうだ、化学だ。

「粘膜……魚……も、もしかして!」

 アレがあればなんとかなるかもしれない。

 俺は戦場を離れ、とある場所へ向けて走り出した。
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