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◆アクテリア王国編
第19話 化学で討伐!
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「アンタ、酒樽をそんなに持ってきてどうするのよ。ヤケ酒でも始める気なの!?」
荷台に大量の樽を載せて帰ってきた俺を見て、ロロルは呆れた表情でそう言った。
「あははは! 我も飲むぞ! もうヤケだ!!」
「違いますよ! まぁ見ててくださいよ! アンさん! 頼みます!」
「くぅ? くっくくぅー!」
俺に呼ばれたアンさんは次々と酒樽に取り付き、中身を飲み干していく。それを見た俺は両手を前に突き出し、魔法を唱える。
「ハァァァ!! シエル・ラールム!!」
「ロロルさん、あの人はなにをしようとしているです?」
「さあ? まぁ逃げる準備だけはしておこうかしら」
まるで期待されていないのはともかく、巨大な水球を作り出した。
そしてそれをピギールではなく――アンさんに放った。
「くぅううっ!」
既に酒樽の中身を吸収し巨大化していたアンさんは、更に水球をも飲み込んだ。
そして一瞬発光すると、飲み込んだ全ての液体を猛烈な勢いでピギールに吐き出した。
「ひぎっ!? ひぎぃいいいい!!!!」
「くぅーーー!!!」
「よっし! これで聖剣クラージュの御披露目ができるぜ! おらぁぁあ!」
放水が止まると、俺はのたうち回るピギールを片っ端から切り捨てていく。
「おら、みんな! 俺の拙い剣技でも通用するんだ。全員で戦おうぜ!!」
「お、おおっ……??」
「剣が通用してる?」
「なら俺達でも戦えるぜ!!」
こちらを呆然と見ていた、周囲の冒険者や兵隊、そしてレジーナ。彼らも俺の声にハッとなり、次々と参戦していった。
「我のッ! 我のォ! 貞操の恨みぃいい!」
「はーい。怪我した人はこっちよー! ほーい、痛いの痛いのとんでけ~!」
「ていっ! おりゃ! ボクの必殺の棒術を喰らうですっ!」
「あの神官さんヤベェぞ! 釘の生えた木棒でメッタ打ちにしてやがる!」
「お前ェさんのカミさんだって包丁で三枚下ろしにしまくってるじゃねぇか! 十分怖ぇよ!! ……俺はあの可愛いロロルさんに癒して欲しいぜ」
レジーナは泣きながら槍を振るい、ロロルが怪我人を癒す。
そしてリタはどこから持ち出したのか、釘バットでボッコボコにしていた。
リタの狂乱ぶりに触発されたのか、途中から様子を見に戻ってきた街の住人まで戦闘に参戦し、夜になった頃にようやくピギールの大群はすべて討伐された。
「はーっ、はーっ、はぁっ……! つ、疲れたぁぁ!!」
「わ、我も……も、もう動けにゅぅ」
「あーっはっはっはぁぁ! もう居ないですか!? ボクに逝かせて欲しい奴はもっともっと、かかってくるですぅ!」
「なんでリタはそんなに元気なのよ……私はもう寝たい……」
「ロ、ロロルもお疲れ……あのさ。多分だけど、コイツらの返り血ついたままだとかぶれるかもしれないし、身体を綺麗にしてから帰ろうか……リタはほっておいて。」
魔法で水球を出す魔力は残っていなかったので、近くの住民に水を貰い、みんなで汚れを綺麗に洗い流した。
その頃には街も落ち着きを取り戻し、体力のある漁師たちは宴会を始めていた。
それを横目に、俺たちは足を引きずるようにして宿へ帰り、食事も摂らず眠りについた。
◆◆◇◇
「――それで? 疲れて寝ているところを叩き起こした理由は、キチンと説明してくれるのよね?」
「わ、我はもうヌメヌメは嫌じゃぁ! もぅおうちかえりたい! かえるのじゃあ!」
ピギール戦のあと、俺たちは宿に戻って爆睡していた。
しかし数時間後にやって来た渡航船組合長達に叩き起こされ、全員が繁華街に連行されていた。そこには勇者()のレジーナさんもいる。
「いやぁ、まさかと思ったが、お前さん達が女神様が呼んだっつぅホンモノの勇者サマだったとはな! お陰でトリメアは救われたぜ! ガハハハ!!」
組合長の言う通り、幸いにして街は思ったほどの被害はなく、繁華街も今は普段通りの人混みが見られるほどにまで回復していた。
……但し、魚市場さながらのように床一面にピギールが並べられているこの光景を除いて、だ。
「ロロルもそう不機嫌にならないでくれよ~」
いやさ、組合長さんに言われるまですっかり忘れてたんだけど、俺がピギール討伐の為に途中で持ってきた酒樽があったじゃない?
「アレ、実は繁華街で借りてきた"酢"だったんだよね~」
「「「す、酢ぅ!?」」」
そう、あのお酢だ。
アルコールの発酵の過程で生まれる簡単なお酢である。
「おぅ! 俺っちのカミさんが繁華街の食堂やってるから聞いたんだけどよ。お前さん、料理用の酢を使ってアイツらを倒したんだって!? まぁ戦闘に使った酢は街長に請求すっから気にしなくていいんだが、討伐したピギールの処理にはどうしても困っちまってよ~。それで、何か良い案がねぇか相談したかったんだよ」
地球でも勿論そうだが、一般的な魚というのはご存知の通りヌメヌメしている。釣ったばかりの魚をうまく掴めず海へ落としてしまう、そんなエピソードもよく聞く話だ。
このヌメヌメというのは、ムチンと言われる糖タンパク質の一種だ。
このムチンはヒトの粘液など多くのヌルヌルにみられるのだが、酢を掛けられると変性が起こり、粘りや滑りが無くなってしまうのである。
コレを利用すれば、魚のヌメりや生臭さを取りやすいので、気になる人は酢で洗ってみるのがオススメだ!
ちなみに納豆や野菜の一部のヌルヌル系の栄養なんかも壊れる可能性があるので、注意は必要だが。
「それでまぁ使った酢の代金の代わりに、何かピギールを使ったレシピを考えてみようかなって思ったんだけど。このピギールっていうモンスター……やっぱりウナギの類だよなぁ」
泣き声は豚野郎そのものだったが、捌いてみるとその身はもはや肉厚のウナギと言っても差し支えがなかったのである。
ちなみにウナギの本当の旬は土用の丑の日がある夏ではなく、脂肪を溜め込む冬だと言われている。
しかし、ピギールには季節など関係が無かったようだ。
捌かれた身には上質な豚の甘味がある脂が綺麗に入っており、キラキラと宝石の様に光り輝いている。
……こんなのを見てしまったら、日本人として蒲焼きにして美味しく食べないワケにはいかないだろう!
幸運なことに、今はアンさん謹製の代用醤油もある。
……うん。そうと決まれば、なんちゃって蒲焼きウナギパーティーの開催だ!!!!
荷台に大量の樽を載せて帰ってきた俺を見て、ロロルは呆れた表情でそう言った。
「あははは! 我も飲むぞ! もうヤケだ!!」
「違いますよ! まぁ見ててくださいよ! アンさん! 頼みます!」
「くぅ? くっくくぅー!」
俺に呼ばれたアンさんは次々と酒樽に取り付き、中身を飲み干していく。それを見た俺は両手を前に突き出し、魔法を唱える。
「ハァァァ!! シエル・ラールム!!」
「ロロルさん、あの人はなにをしようとしているです?」
「さあ? まぁ逃げる準備だけはしておこうかしら」
まるで期待されていないのはともかく、巨大な水球を作り出した。
そしてそれをピギールではなく――アンさんに放った。
「くぅううっ!」
既に酒樽の中身を吸収し巨大化していたアンさんは、更に水球をも飲み込んだ。
そして一瞬発光すると、飲み込んだ全ての液体を猛烈な勢いでピギールに吐き出した。
「ひぎっ!? ひぎぃいいいい!!!!」
「くぅーーー!!!」
「よっし! これで聖剣クラージュの御披露目ができるぜ! おらぁぁあ!」
放水が止まると、俺はのたうち回るピギールを片っ端から切り捨てていく。
「おら、みんな! 俺の拙い剣技でも通用するんだ。全員で戦おうぜ!!」
「お、おおっ……??」
「剣が通用してる?」
「なら俺達でも戦えるぜ!!」
こちらを呆然と見ていた、周囲の冒険者や兵隊、そしてレジーナ。彼らも俺の声にハッとなり、次々と参戦していった。
「我のッ! 我のォ! 貞操の恨みぃいい!」
「はーい。怪我した人はこっちよー! ほーい、痛いの痛いのとんでけ~!」
「ていっ! おりゃ! ボクの必殺の棒術を喰らうですっ!」
「あの神官さんヤベェぞ! 釘の生えた木棒でメッタ打ちにしてやがる!」
「お前ェさんのカミさんだって包丁で三枚下ろしにしまくってるじゃねぇか! 十分怖ぇよ!! ……俺はあの可愛いロロルさんに癒して欲しいぜ」
レジーナは泣きながら槍を振るい、ロロルが怪我人を癒す。
そしてリタはどこから持ち出したのか、釘バットでボッコボコにしていた。
リタの狂乱ぶりに触発されたのか、途中から様子を見に戻ってきた街の住人まで戦闘に参戦し、夜になった頃にようやくピギールの大群はすべて討伐された。
「はーっ、はーっ、はぁっ……! つ、疲れたぁぁ!!」
「わ、我も……も、もう動けにゅぅ」
「あーっはっはっはぁぁ! もう居ないですか!? ボクに逝かせて欲しい奴はもっともっと、かかってくるですぅ!」
「なんでリタはそんなに元気なのよ……私はもう寝たい……」
「ロ、ロロルもお疲れ……あのさ。多分だけど、コイツらの返り血ついたままだとかぶれるかもしれないし、身体を綺麗にしてから帰ろうか……リタはほっておいて。」
魔法で水球を出す魔力は残っていなかったので、近くの住民に水を貰い、みんなで汚れを綺麗に洗い流した。
その頃には街も落ち着きを取り戻し、体力のある漁師たちは宴会を始めていた。
それを横目に、俺たちは足を引きずるようにして宿へ帰り、食事も摂らず眠りについた。
◆◆◇◇
「――それで? 疲れて寝ているところを叩き起こした理由は、キチンと説明してくれるのよね?」
「わ、我はもうヌメヌメは嫌じゃぁ! もぅおうちかえりたい! かえるのじゃあ!」
ピギール戦のあと、俺たちは宿に戻って爆睡していた。
しかし数時間後にやって来た渡航船組合長達に叩き起こされ、全員が繁華街に連行されていた。そこには勇者()のレジーナさんもいる。
「いやぁ、まさかと思ったが、お前さん達が女神様が呼んだっつぅホンモノの勇者サマだったとはな! お陰でトリメアは救われたぜ! ガハハハ!!」
組合長の言う通り、幸いにして街は思ったほどの被害はなく、繁華街も今は普段通りの人混みが見られるほどにまで回復していた。
……但し、魚市場さながらのように床一面にピギールが並べられているこの光景を除いて、だ。
「ロロルもそう不機嫌にならないでくれよ~」
いやさ、組合長さんに言われるまですっかり忘れてたんだけど、俺がピギール討伐の為に途中で持ってきた酒樽があったじゃない?
「アレ、実は繁華街で借りてきた"酢"だったんだよね~」
「「「す、酢ぅ!?」」」
そう、あのお酢だ。
アルコールの発酵の過程で生まれる簡単なお酢である。
「おぅ! 俺っちのカミさんが繁華街の食堂やってるから聞いたんだけどよ。お前さん、料理用の酢を使ってアイツらを倒したんだって!? まぁ戦闘に使った酢は街長に請求すっから気にしなくていいんだが、討伐したピギールの処理にはどうしても困っちまってよ~。それで、何か良い案がねぇか相談したかったんだよ」
地球でも勿論そうだが、一般的な魚というのはご存知の通りヌメヌメしている。釣ったばかりの魚をうまく掴めず海へ落としてしまう、そんなエピソードもよく聞く話だ。
このヌメヌメというのは、ムチンと言われる糖タンパク質の一種だ。
このムチンはヒトの粘液など多くのヌルヌルにみられるのだが、酢を掛けられると変性が起こり、粘りや滑りが無くなってしまうのである。
コレを利用すれば、魚のヌメりや生臭さを取りやすいので、気になる人は酢で洗ってみるのがオススメだ!
ちなみに納豆や野菜の一部のヌルヌル系の栄養なんかも壊れる可能性があるので、注意は必要だが。
「それでまぁ使った酢の代金の代わりに、何かピギールを使ったレシピを考えてみようかなって思ったんだけど。このピギールっていうモンスター……やっぱりウナギの類だよなぁ」
泣き声は豚野郎そのものだったが、捌いてみるとその身はもはや肉厚のウナギと言っても差し支えがなかったのである。
ちなみにウナギの本当の旬は土用の丑の日がある夏ではなく、脂肪を溜め込む冬だと言われている。
しかし、ピギールには季節など関係が無かったようだ。
捌かれた身には上質な豚の甘味がある脂が綺麗に入っており、キラキラと宝石の様に光り輝いている。
……こんなのを見てしまったら、日本人として蒲焼きにして美味しく食べないワケにはいかないだろう!
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