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◆アクテリア王国編

第20話 異世界ウナギ大宴会

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 そうと決まれば、大量のピギールが傷む前に調理開始である。
 先ずは、組合長の奥さんをはじめとした繁華街の飲食店員さん達に、町の広場に必要な器具などの設営をしてもらった。
 やっぱり蒲焼きと言えば、炭焼きにしたいしね。

 火を熾してもらっている間に、俺は手の空いた人達と一緒にどんどんピギールを捌いていく。

 日本では関東は背開き、関西腹開きと言われている。
 俺は関東人だったが、捌き方は正直どっちでも良いと思っている。


「腹開きは切腹を連想するって言うけど、他の魚は普通に腹開きなんだよね。背開きの方が背ビレを取りやすいし、蒸してから焼く時が崩れにくくて楽っていう理由の方が俺は大きいと思うんだ」


 手を進めながらおばちゃん達にいろいろと説明すると、ピギールはあっという間にさばかれ、串打ちされてしまった。さすが本職というか、慣れている。

 そして聖都の"女神まん"でこの世界に蒸し器があったのは知っていたので、それらを使って一気に蒸し上げていく。

「よし、蒸し作業の合間には、ピギールの取った頭や骨を火魔法で焼こう。そのあとは鍋で煮立たせた酒の中へ投入して、タレに使っていくぞ」

 もうこの時点で香ばしい匂いが立ち込め、脂が炭に落ちてパチパチと楽しげな音楽を奏でている。

 ちなみに頭や骨を使う理由は、ウナギの出汁がじゅわぁっと染み込んで、お店で食べるような伝統のタレに近付くためだ。
 仕上げに更に砂糖、醤油を入れ、弱火でじっくりじっくりと煮詰めていく。


「ふぁぁぁあ! なんですか! なんなんですかこの匂いは!! すっごく食欲をそそる匂いですぅ! ボク、このタレだけでいくらでもパンが食べられるです!!」

「ほ、ほぉん? 我も知らぬ料理とはやるではないかアキラよ。と、特別に我のつがいにしてやらんでもないぞ? そうすれば毎日美味しい食い物が……じゅるり……」

「ハハハ、やっぱりこの匂いは世界が違っても、食欲をガンガン刺激させるのは共通だな!」

 まったく、お米が無いのが残念で仕方がないぜ。

「ん? 勇者サマが言ってるのは穀物の米かい? ありゃあ隣国ヘリオスの特産物だから、この港街にも幾らか入ってんぞ? なんだ、要るのか?」

 米!!!
 あるんですか!?

「それは僥倖だ!! 組長さん、ソレは絶対に必要なんで、あるだけ用意してください! はやく!!!」

「お、おう? だから組長じゃなくて組合長だって……わ、分かった、分かったからその串をコッチに向けんじゃねぇ!! お前ッ目がキマってて怖ェんだよっ!!」


 思わぬところで米が食べられるとあって、俺のテンションも爆上がりだ。ウキウキの状態でピギールに串を打っていく。

 初めに打つ串は三本にする。
 蒸して焼いていく過程で、身が反り返って固まらないように、少しずつ少しずつ刺す本数を増やしていくのだ。
 皮から焼いて、ひっくり返し、またひっくり返して余分な脂を落としながら焼いていく。

 ……正直俺は素人もいいところなので、かなり適当だし、あまり上手な出来栄えとは言えない。
 それでもタレをつけてまた焼き始めると、脂とタレが滴り落ち、それが炭で焦げた匂いが漂ってくれば――

『『『ぐぅうう~!』』』

 その場に居た全員が、辛抱たまらんと胃袋の大合唱を始めていた。


「きゃーっ! ちょっと、はやくはやく!! その立派なヤツを私の口の中に頬張らせてよ!!」

「もう我慢できないですぅ! ほしいほしいほしいです!」

「お前たち、ワザとイヤらしい言い方するのをやめろ! 子供も見とるんだぞ!!」

 なんだか外野がくだらない事でギャーギャー言っているが、ようやく異世界版のうな重改め、"ピギール重"は完成した。


「はわわわわ!! カリッ!ふわっ!じゅわっ! 甘辛いタレと脂が頭を蕩けさせるわぁ~! むぐっ! 止まらない! あぁ……こんなにも美味しいなんて!! ん~ッ!!」

「おいひすぎて幸せでしゅ~! グビッ! グビビッ!」

「んあぁっ! なんてことじゃ! あぁ~、すごいのじゃぁ……こんなに旨いモノがあったのに我は今まで何のして生きとったのじゃ……まったく、こんなに美味しいのなら、一族総出で狩り尽くしとったのに……」

「ハハハ、俺がいた国ではまさに絶滅するまで食べ尽くしそうだったけどね。みんな凄い食べっぷりだね。ホラ、アンさんには白焼きも作ったぞ~。たんとお食べ~?」

「うちのカミさんも大喜びだったぜ! これはこの街の名物になるって叫ぶほどにな! それになんだか肌がツヤツヤしてやがったよ! お前さん魔法でも使ったんじゃないか!? ガハハハ!」

「んぐっ!! ツヤツヤね……そ、それは良かった……頑張ってくださいね、いろいろと。……特に夜とか」


 最後の方はボソっと言ったので、組合長には聞こえていなかったようだ。
 昼食会として始められたピギール重パーティーは大勢の人々が押し寄せ、そのまま街をあげての大宴会と移行した。

 その後やって来た街長や住人達に感謝の言葉をかけられ、酒もどんどん飲まされた俺はモンスターと戦った時よりフラフラとなり、逃げるように独り宿へ帰ったのであった。








「……で、ロロルさんは何で俺の部屋にいるんですかね?」

「あら? 同じ旅の仲間でしょう? つれないことを言うのね」


 持ち込んだのだろう赤ワインを飲みながら、妖艶に言葉を返してきた。
 机にある唯一の光源であるロウソクの炎が、彼女の頬にユラユラと赤く照らされている。
 立ったままだった俺を隣の椅子に座るよう誘うと、テーブルの上の空いているグラスにワインをトクトクと注ぎ――こちらへと差し出した。


「いやもうお酒はいいんだけど……」

「せっかくの討伐祝いよ? 乾杯しましょ?」


 チン……と軽くグラスを当てると、そのまま一気に飲み干した。

 ――俺以外は、だが。


「で、アンタは誰なんだ? ワザワザ俺が一人になった時を狙って来たんだろ? 自己紹介ぐらいはしてくれよ」

「あら、ビックリ。どうしてもうバレちゃったのかしら? コレでも変装のプロのつもりだったんだけれど」


 目の前の女はロロルと全く同じ顔で、ニッコリと笑った。



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