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◆アクテリア王国編

第21話 侵入者の正体

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「確かに外見も仕草もそっくりだよ。その真っ白な柔肌も、もっちりスベスベな太もももな! だがアンタは致命的な間違いを犯した!」

 ロロルそっくりの顔をした真夜中の侵入者に向け、俺は名探偵のノリで人差し指をシュピッと向ける。

「……貴方ってかなりの危険人物じゃない? ド変態なの?」

 うるさいな、侵入者に危険人物扱いされたくないわ!

「アンタが乾杯し、飲み干したそのグラスの手! お前は右手で持っていたが……ロロルは左手利きなんだよ!!」

「は? 私もプロを自称するからには、変装元の観察は当然するわ。彼女はフォークもペンも、パンツを履く時の足さえも右よ!?」

「ちょっとその最後辺りの話を詳しく聞かせ……ゴホン。確かにロロルは、ほぼ右手を使って生活をしている! しかし本来、彼女は両利きなんだ」

 たしかにロロルは普段、右しか使わない。だがズボラな性格の彼女はメシを右手で食べながら、左手で飲み物を飲む癖が付いてしまった。

「ゆえに、ジョッキやグラスは必ず左手で持つようになったんだ」

 ……もしこの世界にスマホが有ったら、それも左手で持ちながら右手でメシを食うような物臭タイプだろうな。
 
「……今回は私の調査が足りなかったようね。不覚だわ」
「ほう? あんがい素直に認めるんだな」
「まぁね。でも安心して。私は別に貴方を害する為に来たんじゃないから」

 ビリビリビリ、と自らの顔の皮を剥ぐようにめくると……にっこりとした笑顔の、金髪の美しい女が出てきた。
 だが、その笑顔はまるで仮面の様に貼り付いた表情で、本心から笑っているようには見えない。

 それがかえって異様な不気味さを醸し出し、俺は危機感を高めた。


「ふふふ。警戒しないで? この笑顔はね、昔の育ての親に『絶対に泣くな、相手を油断させる為に常に笑顔でいろ』って厳しく躾けられてね。それからずっとこの顔なの」
「えぇ……? それって洗脳って言うんじゃ」
「……同情はしなくていいのよ? 私、この仕事がとても気に入っているし。それに、訓練で磨き上げられたこの見事なボディは、100%私のモノだしね?」

 本心をうかがわせない笑顔で、身体をクネらせておどける女。


「……そうか。まぁ身の上話は置いておいて、ここへ来た用件を聞こうか?」

「えぇ、そうしてくれると助かるわ。あぁ、自己紹介がまだだったわね。私の名前はフィムラフ。外国の言葉で"笑顔"って意味らしいけど、フィムって呼んでくれて構わないわ。そしてお仕事は、とある国の諜報員ってところかしら」

 あーやっぱりか。まぁ国家があれば、そういう人や機関もあるとは思ったけど。

「……それで? その諜報員さんが俺に接触した理由は?」

「すんなり理解してくれて助かるわ。私がこうして接触したのは、貴方が"勇者だから"よ」


 各地で猛威を振るう魔王。
 その魔王に対抗するため、女神が召喚した強大な力を持つ勇者。
 だが、いくら女神が呼んだとはいえ、勇者も人間だ。
 心を惑わせ、その力を魔王ではなく味方の人間に振るうようになってしまったら。
 それはもう、第二の魔王の誕生である。

 まだ勇者の詳細な情報が見えない各国が、自国の脅威とならないかを調査するのは至極当然だ。
 むしろ、そんな危機感を持たない国は危機管理がしっかり出来ていない証拠だ。


「まぁそんなワケで、この街で勇者アキラを調査してたってこと」

「へぇ……?」

 こうしてご丁寧に俺の前に出てきたってことは、勇者として合格と取って良いのかな?

「んー、そうね。無闇に力をふるって、街や人に被害を与えるような行為は無かったし……洞察力や頭の回転もそう悪くない。いろいろと察しが良い男で助かったわ」

「(ペラペラと喋っているが……もし勇者として俺が不適格だったらどうするつもりだったんだろうな)」

 情報を集める為の諜報員だとうそぶいてはいるが、それだけじゃない。椅子に座っているにもかかわらず、隙なんて一切見られない。

 これはあくまでも良そうだけど……自国の脅威となるならば、身命を賭してでも俺を抹殺するつもりだったんじゃないのかな。
 まぁ殺意は無さそうだし、余計なことを言うのは避けておこう。藪を突いて蛇を出しちゃ怖いしな。

 あまり裏の世界の話はしないよう、俺は敢えて明るく話を流すことにした。


「お褒めに預かり光栄だよ。これでも察することで生き抜いてきた社畜だったんでね」

「ふふふ。本当に頭の悪い男じゃなくて良かった。まぁこれで私は安心して国に戻れるわ。……このまま貴方が勇者の務めをまっとうしてくれるなら、ね」


 変わらない笑顔のまま、椅子から立ち上がって部屋から出ようとするフィム。最後にこちらへ振り返ると、

「そうだ。このまま農業大国ヘリオスに向かうのなら、十分に気をつけて。悪魔が出たとか呪いが起きたって、情勢が不安定になっているみたいだから」

 フィムはそう呟くと、赤ワインの僅かな香りを残して去っていった。




「はぁ、まさかあんな堂々と工作員が来るなんて思わなかったぜ」

 ふぅ……と軽く気疲れの溜息を吐く。そこで開けっ放しのドアから海風が吹いてきていることに気が付いた。

「ちゃんと閉めて行ってくれよ……うん? なんだ?」

 重たい体を引き摺るようにしてドアを閉めようと向かうと、扉の隙間から、女性が立っているのが見えた。


「なんだ、今度はレジーナさんに変装か? 忘れ物でもしたか?」

其方そなたは何を言うておる? 我は此度こたびの御礼をしにアキラの元へ参ったのじゃ」

 へ? お礼って?

「ふふふ、ヒトの命を救ってもおごらぬのは其方の美徳よな。それに其方は太くて、立派で、長いモノがあんなに美味だと我に教えてくれたじゃろ? そのじゃ」

 スススっと足音もなくこちらに近寄ると、レジーナさんは俺の胸に手の平を置いた。


「ちょっ! レジーナさんいったいなにを……!?」

 まるで男を誘惑する美女みたいな言い方だけど……たしかマーレ族の性別って曖昧なんじゃ!?

「うむ? ふふふ……それは今宵、じっくり時間を掛けて確かめてみるがよい。、どちらの身体をも知り尽くした我に任せるのじゃ。……快楽に気をやられるでないぞ?」


 そのまま俺はベッドにドンっと押し倒され、レジーナさんに馬乗りにされてしまった。

「さぁ、覚悟せい」
「え? えっ??」


 ――く、喰われる!?!?

 その日の晩、宿の一室から一人の男の情けない喘ぎ声が漏れ出ていたという。


 ――――――――――――――――――

 ちなみに、ロロルさんがグラスやジョッキを左手で持つのは第6話に描写があります。
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