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◆アクテリア王国編
第22話 港町での買い出し
しおりを挟む「しゅ、しゅごかった……マーレ族恐るべし」
「なーにを呆けておるのじゃ。たかがマッサージ如きで寝落ちしおって」
昨晩はマーレ族秘伝の生態マッサージで、地獄のような天国を味わった。
レジーナのお礼と称した巧みな手技で、背ビレ外しや三枚おろしなど、人間の骨格を超えた秘儀でヒギィ!となってしまったのだ。
特に鱗落としという叩き技では、男である俺が「そこトントンされると、奥まで響いて気持ちいいのぉ」などとヤバすぎる声を上げてしまうほどだった。
「まぁお陰で戦闘の疲労も綺麗サッパリ消えたよ」
「ふふふ、そうであろう?」
昨日のモンスター退治の疲労もなく、とてもスッキリとした目覚めだ。
「ふぅ、一家に一人はマーレ族が欲しくなるよ。……そういえばレジーナはもう海に帰るのかい?」
「なんじゃ、寂しいのか。なんなら本当に我の番になるか?」
いや、それはちょっと……今後の旅もできなくなっちゃうし。
「……そうじゃの。せっかく久方ぶりに陸に上がったのじゃし、ヘリオスの港までお主たちについて行こうかの」
少しだけ気恥ずかしそうに顔を背けながら、ゆーらゆらと身体を揺らすレジーナさん。
出会った当初の凛々しい感じは薄れ、今ではずいぶんと可愛らしい性格になっている。
「そうしてくれると俺も嬉しいよ。それに海を自在に泳げるレジーナさんが居れば、まだまだ俺の知らない珍しい海の幸を見せてくれるだろ?」
「そ、そうじゃぞ! 船旅の間も、其方が度肝を抜く魚を獲ってきてやろう! 楽しみにしておくがよい!」
度肝を抜くって、ソレ毒とか危ないヤツじゃないよな?
若干不安に思いつつも、可愛くドヤ顔をするレジーナさんを見て、思わず俺も笑みがこぼれていた。
◆◆◇◇
一旦マーレ族の元へ帰ったレジーナさんと別れ、俺たち三人は渡航船組合の事務所へ向かった。
「おう、来たか勇者サマ!」
「おいおい、勇者サマはやめてくれ。俺の名前はアキラって言うんだ、組合長さん」
「だから組長じゃ……って言ってねぇな。分かった、俺は海の男、オロトゥーリアス。トゥーリオって呼んでくれ!」
――それって海鼠の別名じゃなかったかな……。
「分かったよトゥーリオさん。それで、船は無事に出せそうか?」
「おうよ! お陰様で船は無事だったぜ! あとは積荷さえ載せれば、明日にも出航できるはずだ」
「おぉ、それは良かった!」
無事に出航できるときいて、俺たちは両手を上げて喜び合う。
取り敢えず今日は準備に当てて、明日出発の船を予約することにした。
「それにしてもアキラよぉ。本当に良かったのか?」
「ん、なんのことだ?」
「あのクッソ美味い料理のレシピだよ。あんなにホイホイと街の連中に教えちまってよぉ。そりゃあみんな大喜びだったけどよぉ」
そう。俺はこの街でも、ウナギのタレや調理法などを秘匿する事なく公開していた。
今頃、レジーナさんが仲間のマーレ族を呼び寄せ、深海に居るピギールを漁獲する打ち合わせをしていることだろう。魚市場に安定して卸せるようになれば、トリメアはおそらくピギールブームが到来するんじゃないかな。
「いやぁ、たまに自分で作るくらいなら良いんだけどさ。蒲焼きって凄い手間が掛かるじゃん? だったらお金を出してでも、人の作ったものを食べられるようになった方が嬉しいかなって」
日本では地方や店によって、焼き方や味は千差万別だった。
ひつまぶしや白焼き、西洋風など様々な発展した食べ方もある。店それぞれの特徴があるから、食べ歩きは楽しいのだ。
……あぁ、肝焼きやヒレ巻きを食べながらビールを飲みたい。
「まぁそういうワケで、特に理由がない限りレシピは公開しているんだ。それで商売するつもりは今のところ無いし、料理が街の特産品になってくれればいろんなメシが食べられる。その方が俺は嬉しいよ」
「……そんな事言われちまったら、期待に応えねぇワケにはいかねーな。アキラの心意気に応え、街の発展の為にも頑張るぜ!」
「組長ぉ。街の女連中に聞きやしたが、昨晩奥さんと凄かったらしいじゃねーですか~?? もしかしなくとも、組長が頑張るのは夜の方なんじゃねぇですかィ?」
トゥーリオの部下が、下品な笑いを浮かべながら茶々を入れてくる。
しかしその彼は、すぐさま顔を真っ赤にしたトゥーリオに締め上げられ、更には周囲の女性陣から冷たい視線を浴びせられていた。
「ははは、確かに滋養溢れる食材だって言われてるし、この世界由来の不思議パワーがあるのかもね。でも、食べる量はほどほどにしてくれよ?」
ウナギには、脂溶性ビタミンであるビタミンAが含まれる。
脂に溶けやすいビタミンは、胎盤や母乳を通って胎児に影響を与える事があるので、摂取する量には注意が必要なのだ。
客そっちのけで取っ組み合いをしている職員を無視して、俺たちは組合の事務所を出た。そして明日の出航に向けて、買い出しをはじめた。
「そういえば日本ではそろそろアレが出回る頃なんだけどな~。米もある世界だし、こっちにも無いかな?」
「いらっしゃい! おいおい、兄ちゃん。美人さん揃えて買い物なんて羨ましいねぃ!! どうだい、美容に効く果物があるよ! 彼女達に買ってあげたらどうだい?」
「あはは、彼女なんかじゃないけどね。おっちゃん、この辺に一口大の大きさで、緑色をした果実ってないかな? 熟れてくると甘い匂いがしてくる奴なんだけど」
「んんっ? あぁ、アプリコのことかい!? いや……あるにはある、んだけどねぇ」
ん? なんか微妙な反応をされたな。もしかして食べられないのか?
「それがさぁ、ウチのバカ息子がアプリコと騙されてプリュネを仕入れちまってねぇ。見た目や匂いはアプリコと似ているんだが、プリュネはとてもじゃないが青臭くて食べられないんだよ~」
おっちゃんは溜め息交じりにそう説明したが、むしろそれを聞いた俺は歓喜した。
「それ! それだよ!! ねぇ、それ欲しい! おっちゃん、そのプリュネ買うよ!!」
「アンタ、今度は何を作るつもり? 食べられないって言ってるわよ?」
「……アキラ様が食べて苦しむ分には、ボクは構わないですよ?」
「ちょっと、兄ちゃん止めときなよ! 鳥しか食わないような不味いシロモノだよ?」
一同からやめとけコールが鳴り止まないが、俺は気にも留めず、次なるレシピを考える。
一方で蚊帳の外に置かれたアンさんは、「また始まった……」と犬らしからぬ溜息をそっと吐きながら、主人である俺を見上げるのであった。
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