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ヘリオス王国編
第33話 こぼれ話③
しおりを挟むここはトリメアって呼ばれている、潮風が薫る港街。
いつもは市場があって賑やかだけれど、昨日襲ってきたモンスターのせいで今は人通りも無いみたい。
僕はあんまり人混みは得意じゃないけど、こんな日は絶好の散歩日和だね!
なにより今は冴えない僕のご主人様や、やたら構ってくるあの人、僕のご飯をいつも狙ってくるアイツもいないんだ。
だから今回は僕だけで冒険だ!
……って思ってたんだけどなぁ。
「なんじゃ、お主はアキラの犬ではないか。こんなところで何をしておる」
あのおさかなさんに見つかっちゃった。
「ん? アキラは居らんのか。せっかく我のとっておきを披露してやろうと思うたのに。……仕方ない。其方、たしか名をアンと言うたか? 我に少し付き合え」
えぇーーっ。いやだよぉ。これからこの街のかわい子ちゃん巡りをしようと思ったのに。
こんな魚と居たんじゃ、猫ちゃんしか寄ってこないじゃないか。
……猫でもいいか。
「なんじゃ、急に擦り寄ってきよって。くっ、くすぐったいから舐めるでない! 我は餌じゃないぞ!? やっやめ……おいッッ!!」
ふぅ、仕方がないからついて行こうじゃないか。
あ、煮干し食べたいなぁ。
◆◆◇◇
「数十年振りに参ったが、まだやっておったようじゃの」
市場のある通りを避けて、人気の無い裏通りの建物に連れこまれちゃった。
なんだか薄暗いけど、人は居るみたい?
カウンターといくつかテーブル座席はあるから……お店かな?
それに……くんくんっ。
「……いらっしゃい」
「ああ、久しぶりじゃの。今回はそうだな、ココからソコまで一つ……いや、二つずつくれ」
おさかなさんは、シャツとベストを着たスキンヘッドの男にカウンターで何かを注文した。そのあと僕たちは、近くにあったテーブルに座ることにした。
それより、さっきからするこの匂いって……
「……どうぞ」
「むほーっ! これじゃこれ! もぐもぐっ……んんっ、美味いっ。やはりここのケーキは最高じゃな!」
そうだ、ケーキだ!
ご主人様の居た世界で見た、甘い匂いのおやつ!
僕は犬だったから食べられなかった、憧れのアレだ!
「んん~っ。この舌を蕩かすような、ネットリとした野菜の優しい甘さ! ザクザクとした粗塩の食感も楽しいのぅ。しかもそれが甘さを引き立てておる。このパンプキンケーキは見事じゃ!」
ムムムッ。このおさかな、テーブルに山盛りになったケーキをすごい速さで食べている! しかも自分だけ食べるなんてずるい!!
「……喰え」
――コトンッ
ほわぁあぁ!? このスキンヘッドの店員さん、僕にもくれるの?
え、犬でも食べられる特別製? カボチャやニンジンが材料だから健康的? やったぁ!!
もぐもぐ、バクバクバク……
「ちょ、ちょっとアンよ。我にもそっちのケーキをひと口寄越せ。というか海の女王である我に全て献上せよ……っああ!? それは我のケーキだ!」
うるさいなぁ、生意気なことばかり言っているとこうだぞ!
「横取りはやめよ! ダメっ、まだ我も食べてないのに丸飲みするなぁぁ!! せめて交換!! やめっ、やめてぇえぇ!!」
◆◆◇◇
「……ううっ、ぐすっ。ひどいよぉ。我のっ、我の大事なケーキがぁ……滅多に食べられないのにっ」
プフゥ~!! あぁ、お腹いっぱい。
ハゲの人、ありがとう。ハゲなのに中々やるんだね。
なんだか魚が隣の席でピチピチと煩かったけど。
でもなんでこの世界にケーキがあるんだろう? ……まぁ美味しかったから細かいことはいいか。さぁ~って、お魚の用事には十分付き合ってあげたし、帰ろうっと!
「うううぅ、我へのご褒美ケーキじゃったのに……まっ、待て! 何処へ行くのじゃ!」
……もう、うるさいなぁ。
お腹も膨れたら眠くなっちゃった。
散歩が終わったら、ご主人様のところに戻ってお昼寝しようっと。
たくさんケーキをくれて嬉しかったよ、ありがとう!
またよろしくねー!!
「な、なんじゃマスター!? その手を離せ! ケーキ泥棒が逃げてしまう!!」
「……お代」
「えっ? えぇぇええぇえ!?」
「あの犬っころの分も含めてな」
「うそじゃろぉおぉおおお!?」
* * * *
注:実際の犬にはペット専用の食べ物をあげましょう!
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