新生桃太郎紀行〜俺の二つの玉(だんご)を狙ってくるのは悪役令嬢と聖女と溺愛王子様〜

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

文字の大きさ
4 / 15
第2章 最初のお供は犬耳のアイツ

2-3 鬼と魔法と犬耳娘

しおりを挟む
 むかーし、むかーし。
 あるところに、童貞桃太郎と悪役犬令嬢がおりました。
 変態下着悪役負け犬令嬢が何も考えずに放った炎上魔法に引き寄せられ、山の中に潜んでいたケモノや鬼人たちがやってきたようです。


「な、なんだか誰かに凄く馬鹿にされている気がするんだけど……」
「気にするな。今のこの状況を見たヤツなら、例え神だって笑ってくると思うぜ」

 狼と鬼人たちは雄叫びを上げながら、目の前にあるルナの放った炎に向かってきている。
 その速さが尋常じゃないと思ったが、どうやら鬼人が狼に騎乗しているようだ。
 森の中なので真っ直ぐは走れないようだが、あのスピードならここに来るのも時間の問題だ。


「こいつ、他のケモノを使役できるのかよ。クソ、数が多いのは厄介だな。それにしても、なんでこんなところに鬼どもが来たんだ!?」

 未だ消えることも無く緑色に燃え盛る炎を指さしながら、原因であるルナにその理由を問いただす。
 この火に近付いても全く熱くはない不思議な炎。
 だが触れたら最後、炭になるまで消えないっていうんだから恐ろしい。

「鬼が来る理由? あー、もしかしてアレかなぁ? でも……うぅ~ん??」
「ん? なんだよ、歯切れの悪い言い方しやがって」

 コイツがすぐ何かをやらかすのは、出逢ってからこの1日でよく分かった。
 だからもう大抵のことでは驚かないと思うが。

「たぶんなんだけどね? 私の国、っていうか一族にかかわることなんだけど……」

 頭につけた犬耳をへにょりとさせ、申し訳なさそうにゴニョゴニョと喋り始めるルナ。
 どうでもいいが、そのロリぷにボディで上目遣いをするはやめろ。
 背が俺の胸辺りまでしかないような美少女が、そんなご主人様に甘える子犬みたいな仕草なんてしたら……俺みたいな童貞は昇天する。


「あのね? もともと禁忌魔法っていうのは、鬼神の別名でもある邪神たちが使っていた魔術が元になっているの。そしてその魔術は眷属たちにも引き継がれているんだけど……」
「おい、まさか。その眷属ってもしかして……」

「そう。その眷属の血を引くと言われているのが私たち、化身族なの。そして化身族が編み出したのが、今私が使っている魔法というわけなのよ……」

 あぁ、それで俺が育ったこの国では魔法が無かったのか。
 じゃあ昨晩コイツが山を吹き飛ばした魔法なんかも、化身族が住むフォークロア王国の秘技ってことなんだろうな。


「ルナの魔法と鬼神が関係あるのは分かったけどよ。鬼が引き寄せられる理由にはなってねーよな?」
「えーっと、それはね? 私も絶対にそうだっていう確証が無いんだけど、鬼人は鬼神が魔術を使って生み出したって言われているの。だからあいつらの魂は魔法の根源である、魔力と似ているの」

「んん? ってことは化身族が使う魔法は……」
「そう。魔力は鬼人にとっての力の源であり、極上の餌でもあるってワケ」


 ……なるほどな、これで合点がいったわ。
 もうすでに目の前にまで迫ってきているあの鬼人共は、この無限に燃え続ける極上の魔力を求めてやってきた、というわけか。

「ごめんね、テイロー。私が魔法なんて使ったせいで……こんな力、他の人から見たら穢らわしいよね。呼び寄せちゃったのは私のせいだし、一人で頑張って鬼たち倒すから……」
「ああん? 急に何言ってんだお前は?」
「だって……だってっ!! 鬼神はテイローを育ててくれた勇者様たちの仇なんでしょっ!? それと同じ力を使う私なんて……」

 なんだよ。おいおいおい。
 そんなことでか? そんなことで、この俺様がルナのことを拒絶するとでも思ってるのか――!?

「俺様をみくびってんじゃねぇよ、ルナ。お前のその魔法はあのクソ共を蹴散らす、そりゃすげぇ力なんだろ?」

 昨日の爆散魔法然り、この炎上魔法しかり。
 物理特化な俺にとっちゃ、それは喉から手が出るほど羨ましい力だ。

「その禁忌の力だって、この世のゴミから国民を守るために、御先祖サマが苦労して編み出したんだろ? むしろ他の奴には出来ないスゲェことなんだろ!? だったら、お前にはその血が流れてるって胸張って誇れよ!」
「てっ、ていろぉ……!! グスッ……」


 敵の魔術を奪って自分の糧にするなんて、そんな簡単にできるわきゃねーだろ。
 俺だってここまで強くなるのに、この山ン中で血反吐吐いてまでジジイにしごかれたんだ。
 ルナの一族だって未知の技を会得するためには並大抵の努力をしてないだろう。少なくない犠牲も絶対にあったはずだ。

 なによりルナが居てくれれば、鬼神をブチ殺すのにこんなに心強いことは無い。
 あの妖狐の尻尾フェアリーテイルと呼ばれた英雄たちが負けたんだ。
 俺一人でも楽勝……とは、正直言いがたい。


「俺の仇討ちには他の誰でもない……ルナ、お前が必要なんだ。だから是非とも俺にその力を貸してくれよ。……な?」
「……グスッ。本当についていっていいの? だって私……災厄の魔女、なんだよ?」
「はっ! 災厄? 上等じゃねーか。その名の通り、鬼どもに災厄を届けてやろうぜ。ほら、前を見てみろよ――さっそく欲しがりな鬼さんが到着したみたいだぜ?」


『ギャウウゥウン!!』


 俺はルナに言葉を掛けながら、先行して飛びかかってきた狼に刀を一閃。
 ナマクラな刀だと骨を断ち切る感触があるのだが、ジジイの愛刀は何の抵抗も無く狼の胴体を前後に真っ二つにする。
 哀れな犬っころは断末魔をひと鳴きして、その生命の炎を散らしていった。

「よぉ、おはようさん。そして逝ってらっしゃい!!」
『ギャウン!!』『ギャンッ!』

「おうおう、朝から威勢がいいなワンコロどもォ! ククク、もっと俺様と遊ぼうぜェ?」
『ギャウウゥ!?』

 肉食獣の持つ鋭い歯をむき出しにして向かってくる狼に対し、こちらも獰猛な笑みで挑発してやる。

 既にコイツらには最初のような威勢はない。その代わりに勝っている数を利用して俺たちの周りを取り囲み、唸り声を上げて警戒するようにになった。
 いくら鬼に使役されているとはいえ次々と仲間の数を減らされては、さすがに命を投げ捨てるような無茶はしたくないようだ。


「んんん~、どうしたァ? 手下ばっか様子見で戦わせていないで、お前らもさっさと来いよ。ははは、それとも俺様にビビっちまったのか?」

 刀に付いた血を振り払い、木の陰に隠れている鬼人共に切っ先を向けて問いかける。
 言葉が通じるかは分からないが、馬鹿にしていることぐらいは分かるだろ。

『グギャ! ゲギャギャ……』

「チッ、ケモノと違って頭の回るヤツは面倒臭ェな。さっさと来いっつーの……あん? ルナは下がってろ。危ねぇぞ?」

さすがに前に出られたままじゃ俺も戦いにくい。
どこかに避難してもらうか、大人しくしていてもらわねぇと……。

「――。それに、私は貴方にお姫様のように守ってもらうためについていくんじゃないもの。隣りで共に戦う仲間なんだってこと、今から証明して見せるんだから!! ……だから、テイロー。私の覚悟――見ていてくれる?」

 涙目だったルナはすっかり自信たっぷりの表情に生まれ変わったようだ。
 俺の隣に進み出ると、短杖を手に詠唱を始めた。


 魔法と鬼神たちとの関連性を知った桃太郎。
 邪神の系譜をもつ血族を呪っていたルナ。
 しかし彼女は桃太郎の鼓舞によって、己の力の真の価値を理解した。

 奮い立ったルナは勇気と誇りを取り戻し、鬼人にその力を魅せつける――!!

 めでたし、めでたし??


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能認定され王宮から追放された俺、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれ、気がついたら【竜人王】になってました。

霞杏檎
ファンタジー
田舎の村から上京して王宮兵士となって1年半…… まだまだ新人だったレイクは自身がスキルもろくに発動できない『無能力者』だと周りから虐げられる日々を送っていた。 そんなある日、『スキルが発動しない無能はこの王宮から出て行け』と自身が働いていたイブニクル王国の王宮から解雇・追放されてしまった。 そして挙げ句の果てには、道中の森でゴブリンに襲われる程の不遇様。 だが、レイクの不運はまだ続く……なんと世界を破壊する力を持つ最強の竜種"破滅古竜"と出会ってしまったのである!! しかし、絶体絶命の状況下で不意に出た言葉がレイクの運命を大きく変えた。 ーーそれは《竜族語》 レイクが竜族語を話せると知った破滅古竜はレイクと友達になりたいと諭され、友達の印としてレイクに自身の持つ魔力とスキルを与える代わりにレイクの心臓を奪ってしまう。 こうしてレイクは"ヴィルヘリア"と名乗り美少女の姿へと変えた破滅古竜の眷属となったが、与えられた膨大なスキルの量に力を使いこなせずにいた。 それを見たヴィルヘリアは格好がつかないと自身が師匠代わりとなり、旅をしながらレイクを鍛え上げること決める。 一方で、破滅古竜の悪知恵に引っかかったイブニクル王国では国存続の危機が迫り始めていた…… これは"無能"と虐げられた主人公レイクと最強竜種ヴィルヘリアの師弟コンビによる竜種を統べ、レイクが『竜人王』になるまでを描いた物語である。 ※30話程で完結します。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

処理中です...