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第4章 鬼之島へ
4-1 荒れ狂う海に棲むモノ。
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むか~し、むかしのお話。
ある島国に、伝説の英雄夫婦に育てられた桃太郎という少年がおりました。
しかし彼の育ての親はある日、鬼人と呼ばれる鬼たちに殺されてしまいます。
復讐に燃える桃太郎は、鬼人の親玉が棲むと言われる鬼之島に向けて旅に出ました。
旅の道中で二人の仲間を得た桃太郎。
獣の特徴をもつ化身族の国、フォークロア王国の侯爵令嬢ルナ。
そして優しい心を持つ小鬼人のリンを旅のお供とし、数か月の旅の果てに遂に鬼之島へと続く“彼岸の浜辺”に到着しましたとさ。
◇
「着いた……とは言っても、想像以上にヤベェところだな、此処は……」
「なにこれ……いったいどうなっているの!?」
「うわぁあ~!!」
俺たちの目の前には、荒れ狂う海と地獄のような赤黒いゴツゴツとした岩場が広がっていた。
海の向こうは深い霧で先がほとんど何も見えないし、海面からは時々得体のしれないバケモノのような魚が顔を見せている。こんな状態じゃあ、船なんてとても出せるような状況じゃない。
「こんなんでどうやって鬼之島に渡れっていうんだよ……」
「この海に出たって、さすがの私たちだって死んじゃうわよ!?」
「ボク、泳ぐのはあんまり……」
俺様だってこの海を泳いで渡るのは嫌だ。
俺一人だったら死ぬ気はないが、ルナとリンを連れて行くのは不可能だ。
「なにか他の方法を考えるしかねぇな~。ちょっとこの辺りを探索してみるか」
「そうね。もしかしたら、何か知ってる人が居るかもしれないし?」
「でも、こんなに荒れた海岸に誰か居るかなぁ……?」
たしかに、リンの言う通りかもしれない。
この辺りは海のバケモノ以外に生き物の気配も、誰かが住んでいそうな建物も無い。
まぁ、それもそうか。こんな人外魔境に好き好んで棲もうなんてする頭のイカレた奴なんて……
「あっ! 桃にぃ、ルナねぇ! あそこに誰かが居るよ!!」
「あぁ? そんなワケが「ほ、ホントだわ! あそこ! あの岩場に人が居るわよ!!」……ま、マジかよ!?
ルナとリンが指さす方を目を凝らしてよく見ると、波しぶきを浴びながら不安定な足場しかない岩場の先に人影があった。
あんなアブねぇ場所で、いったい何をしてやがるんだ?
まさか、鬼人……か?
「いや……ちげぇな。なんだ、アレは……ってオイオイ。あんな波の荒れ狂った岩場に釣り人だとォ!?」
吹き荒れる強風に足を取られつつ近づいていくと、その人影が少しずつ見えてきた。
その人物は麦わらの帽子を被り、簡素な服装で釣り竿を持って立っている。
「ちょっと、こんなところで釣りですって!? なんて神経しているのよっ」
ルナは海から吹き付ける強い風にバタバタとめくられるスカートを必死に抑えながらそう叫ぶ。
今日は……黄色のフリル付きか。可愛い系で攻めたな。
「……テイロー? 貴方、見たわね?」
「な、なんのことだ?」
「見てっ、二人とも!! あの人が何か釣り上げたよっ!!」
「「ホント!?」」
リンの声でハッとする俺たち。
再び海の方へと視線を戻すと、そこで俺らが目にしたのはなんと、先ほど俺たちが見掛けたバケモノ魚を華奢な竿一本で釣り上げようとする釣り人の姿だった。
「おいっ。あのままじゃアイツ、海に引きずり込まれるぞ!?」
「待って……すごい、力で負けてなんかないわよ、あの人!!」
そのまま見てられなくなった俺はアイツを助けようと走り出すが、後ろでルナがそんなことを言っている。
そんなバカなこと、あるわけがないだろう――
「嘘だろ、オイ……」
その釣り人は、右手一本でいとも簡単に巨大魚を釣り上げていた。
◇
「おぉ、なんや兄さんたち~。こんな辺鄙なところに観光かぁ?」
俺たちがその現場に着くと、巨大魚を片手で掴んでいた釣り人がニヘラ、と無邪気な笑顔でそう話し掛けてきた。
歳は俺と同じ二十歳前くらいの男。肌は色白で綺麗な顔立ちをしている。明らかな優男風の体格で、とてもこんなデカい魚を片手で持ち上げるような力を持っているようには見えない。
「お前……いったい、ナニモンだ? ただの釣り人なんかじゃねぇんだろ?」
俺は警戒を最大限に上げ、腰元に差したジジイの刀『獏』を抜いた。
ルナとリンも俺の様子を見て、同じように臨戦態勢に入る。
「ちょっ、ちょい待ちィ!? やだなぁ、そんな物騒なモノをワイに向けんといてや!!」
「うるせぇ。そんなあからさまに油断させようたって、そうはいかねぇぜ?」
そんなバレバレな子供騙しじゃあ、ガキだって信じるわけがない。
向こうの力量を図るためにも、俺は自分の殺意を高めてコイツにぶつけてみた。
「おぉ、怖いこわい。殺気なんてぶつけられたら、ビビって動けんくなってしまうやんか……なぁ?」
「おい、なにをするつもり……なにっ!?」
「キャアッ!?」
「うぐっ……!」
釣り人の男はニコニコとしていた目をスゥ、と細めて何かをしたと思った瞬間。
目の前の男は俺が放った殺気なんて目じゃ無いほどの重たい気を一気に放ち、俺たちは金縛りのように動けなくなってしまった。
「ぐうっ……な、んだ。てめっ、何をしやがったァ!」
「んふふふ。なんやぁ? ワイはただ兄さんの殺気にビビって、反射的にやり返してしもただけやで~? にしても、こんなワイにそんな怖がるなんて。ホンマにキミぃら……んふっ、随分と弱っちいんやなぁ! んなははは!!」
「はあっ!? こ、この野郎っ!! 俺様が、弱ぇだと……?」
「だって、んぷぷぷっ。んにゃはははは!!」
コイツは堪えきれなくなったのか、俺たちを馬鹿にしたように噴き出しやがった。
我慢ならなくなった俺はどうにか身体を動かそうとするが……くそっ、どうやっても指ひとつビクともしない。
マジでなにが起きてやがるんだ?
「んぐっ、ぐううっ」
「ぐ、苦しいよぉっ」
「お? せやったせやった、女の子が居ったんやったわ。スマンのぉ。ほらっ」
「……あ、あれ?」
「うご、ける……?」
コイツがルナたちを見てニコリと笑うと、まるで何事も無かったかのように俺たちを覆っていた重たい空気が霧散していった。
俺より強い殺気を返すなんて俄かには信じられないが、勝てない相手ではないはず。
これは、好機。
動けるようになった瞬間、攻めるなら今しかないと思った俺は奴の居る岩場まで飛び、刀を抜いた――のだが。
「キミら、なんやねん~。急にやって来て、いきなし刀抜いてくるなんて物騒やなぁ。ワイ、怖くてオシッコちびってしまうわ~」
「てめっ、ふざけんな……なんだコレは!」
すれ違いざまに切り捨てようとした刹那の間に、奴はたった指二本で俺の刀を抑え込んでしまった。俺がいくらグググと力で押し込もうとしても微塵も動かず、刀を引くことすらもできない。
「ちっきしょ、う……」
「おっと、それはもうしまっときぃ。それ以上やるんやったら、ワイも兄さんのこと……殺すで?」
「ぐっ……!? くそっ。マジでなんなんだてめェ……」
あの世界最強の勇者に育てられた俺が、こんな細っちい男に手も足も出ないなんて……。
「んふふっ。兄さん、ワイがナニモンか気になるみたいやなぁ。……ま、からかうのもこの辺まででえぇやろ。よっしゃ、ちょっくらワイについて来てや」
俺の刀を抑える力がフッと消えたかと思った瞬間、目の前に居たはずの釣り人が消えた。……かと思えば、ルナとリンの後ろをザッザッと何事も無かったかのように呑気に歩いていた。
「な、なんなのよあの男は……」
「怖いよルナねぇ~。あの人、ボクのこと見て笑ってた!」
あのワケの分からない男はきっと、リンが鬼人であることに気付いているんだろう。
だが気にする様子も無ければ手も出さねぇってことは、俺らの事なんて取るに足りないとでも思っているに違いない。
「取り敢えず今のところは敵対するつもりは無いんだろ。どうやらアイツ、俺たちよりも数段は強いみたいだからな」
「そんな……テイローでも勝てないだなんて」
「桃にぃ……」
信じたくはねぇが、俺だってこれ以上アイツに手を出すような愚か者じゃない。
真意は分からないが、鬼之島について何か知ってるかもしれないしな。
俺たちがそんな相談をしている内にも、釣り人は釣った巨大魚をズルズルと引きずりながらどんどん先へと進んで行ってしまう。
仕方なく釣り人の後を追うことにした俺たちは、警戒を怠らないようにして歩き始めた。だが別に罠なんかがあるワケでも無く、何事も無く目的地に着いてしまった。そしてその先にあったのは、岩の隙間にできた洞窟だった。
「さぁさぁ~、ようこそワイの城へ。なんと兄さんたちがここの初めてのお客さんや! 歓迎するで~」
「……なんだか不安になって来る暗さなんだが」
「本当にここに住んでいるの……?」
「うへぇ、なんかワサワサしている虫がいるよぉ~」
釣り人は壁のくぼみにあった蝋燭に火を点けると、どんどん中へと入っていってしまった。置いてけぼりにならないように俺たちも慌てて着いていくが――本当にただのほら穴のようにしか見えない。
そうして薄暗い中を転ばないようにしながら進んでいくと、多少開けた場所に着いた。
「ふぃ~。今日はコレしか釣れんかったけど、まぁえぇやろ。魚、食えるやろ?」
「魚……? あ、あぁ。魚は好きだが……魚ってコレのことか?」
俺が指さした先に居るのは、虹色に輝く派手過ぎる生物。
すでに息絶えているが、開いた口からはギラギラとした無数の歯がギッシリと見えていて不気味だ。少なくとも俺が知っている中にこんな魚は居ない。
まさかこれを食べるというのか、この男は。
「なんやなんや、そんなでっかい図体しておきながらビビっとんのかいっ! こりゃ~、陸じゃ味わえない絶品なんやで~! まぁ楽しみにしとってや!!」
困惑する俺たちを無視して、釣り人は奥から取り出した包丁で捌き始めてしまった。
「大丈夫なのかしら私たち……」
「ボク、ここで死んじゃうのかなぁ」
◇
海岸で出会った不思議な釣り人の男。
巨大な魚を片手で釣り上げただけでなく、ここまで育ての親以外に負けたことの無かった桃太郎を赤子のようにあしらってしまいました。
そして何故か洞窟に案内されてしまった三人は、果たして無事に鬼之島への手掛かりを掴むことはできるのでしょうか……?
ある島国に、伝説の英雄夫婦に育てられた桃太郎という少年がおりました。
しかし彼の育ての親はある日、鬼人と呼ばれる鬼たちに殺されてしまいます。
復讐に燃える桃太郎は、鬼人の親玉が棲むと言われる鬼之島に向けて旅に出ました。
旅の道中で二人の仲間を得た桃太郎。
獣の特徴をもつ化身族の国、フォークロア王国の侯爵令嬢ルナ。
そして優しい心を持つ小鬼人のリンを旅のお供とし、数か月の旅の果てに遂に鬼之島へと続く“彼岸の浜辺”に到着しましたとさ。
◇
「着いた……とは言っても、想像以上にヤベェところだな、此処は……」
「なにこれ……いったいどうなっているの!?」
「うわぁあ~!!」
俺たちの目の前には、荒れ狂う海と地獄のような赤黒いゴツゴツとした岩場が広がっていた。
海の向こうは深い霧で先がほとんど何も見えないし、海面からは時々得体のしれないバケモノのような魚が顔を見せている。こんな状態じゃあ、船なんてとても出せるような状況じゃない。
「こんなんでどうやって鬼之島に渡れっていうんだよ……」
「この海に出たって、さすがの私たちだって死んじゃうわよ!?」
「ボク、泳ぐのはあんまり……」
俺様だってこの海を泳いで渡るのは嫌だ。
俺一人だったら死ぬ気はないが、ルナとリンを連れて行くのは不可能だ。
「なにか他の方法を考えるしかねぇな~。ちょっとこの辺りを探索してみるか」
「そうね。もしかしたら、何か知ってる人が居るかもしれないし?」
「でも、こんなに荒れた海岸に誰か居るかなぁ……?」
たしかに、リンの言う通りかもしれない。
この辺りは海のバケモノ以外に生き物の気配も、誰かが住んでいそうな建物も無い。
まぁ、それもそうか。こんな人外魔境に好き好んで棲もうなんてする頭のイカレた奴なんて……
「あっ! 桃にぃ、ルナねぇ! あそこに誰かが居るよ!!」
「あぁ? そんなワケが「ほ、ホントだわ! あそこ! あの岩場に人が居るわよ!!」……ま、マジかよ!?
ルナとリンが指さす方を目を凝らしてよく見ると、波しぶきを浴びながら不安定な足場しかない岩場の先に人影があった。
あんなアブねぇ場所で、いったい何をしてやがるんだ?
まさか、鬼人……か?
「いや……ちげぇな。なんだ、アレは……ってオイオイ。あんな波の荒れ狂った岩場に釣り人だとォ!?」
吹き荒れる強風に足を取られつつ近づいていくと、その人影が少しずつ見えてきた。
その人物は麦わらの帽子を被り、簡素な服装で釣り竿を持って立っている。
「ちょっと、こんなところで釣りですって!? なんて神経しているのよっ」
ルナは海から吹き付ける強い風にバタバタとめくられるスカートを必死に抑えながらそう叫ぶ。
今日は……黄色のフリル付きか。可愛い系で攻めたな。
「……テイロー? 貴方、見たわね?」
「な、なんのことだ?」
「見てっ、二人とも!! あの人が何か釣り上げたよっ!!」
「「ホント!?」」
リンの声でハッとする俺たち。
再び海の方へと視線を戻すと、そこで俺らが目にしたのはなんと、先ほど俺たちが見掛けたバケモノ魚を華奢な竿一本で釣り上げようとする釣り人の姿だった。
「おいっ。あのままじゃアイツ、海に引きずり込まれるぞ!?」
「待って……すごい、力で負けてなんかないわよ、あの人!!」
そのまま見てられなくなった俺はアイツを助けようと走り出すが、後ろでルナがそんなことを言っている。
そんなバカなこと、あるわけがないだろう――
「嘘だろ、オイ……」
その釣り人は、右手一本でいとも簡単に巨大魚を釣り上げていた。
◇
「おぉ、なんや兄さんたち~。こんな辺鄙なところに観光かぁ?」
俺たちがその現場に着くと、巨大魚を片手で掴んでいた釣り人がニヘラ、と無邪気な笑顔でそう話し掛けてきた。
歳は俺と同じ二十歳前くらいの男。肌は色白で綺麗な顔立ちをしている。明らかな優男風の体格で、とてもこんなデカい魚を片手で持ち上げるような力を持っているようには見えない。
「お前……いったい、ナニモンだ? ただの釣り人なんかじゃねぇんだろ?」
俺は警戒を最大限に上げ、腰元に差したジジイの刀『獏』を抜いた。
ルナとリンも俺の様子を見て、同じように臨戦態勢に入る。
「ちょっ、ちょい待ちィ!? やだなぁ、そんな物騒なモノをワイに向けんといてや!!」
「うるせぇ。そんなあからさまに油断させようたって、そうはいかねぇぜ?」
そんなバレバレな子供騙しじゃあ、ガキだって信じるわけがない。
向こうの力量を図るためにも、俺は自分の殺意を高めてコイツにぶつけてみた。
「おぉ、怖いこわい。殺気なんてぶつけられたら、ビビって動けんくなってしまうやんか……なぁ?」
「おい、なにをするつもり……なにっ!?」
「キャアッ!?」
「うぐっ……!」
釣り人の男はニコニコとしていた目をスゥ、と細めて何かをしたと思った瞬間。
目の前の男は俺が放った殺気なんて目じゃ無いほどの重たい気を一気に放ち、俺たちは金縛りのように動けなくなってしまった。
「ぐうっ……な、んだ。てめっ、何をしやがったァ!」
「んふふふ。なんやぁ? ワイはただ兄さんの殺気にビビって、反射的にやり返してしもただけやで~? にしても、こんなワイにそんな怖がるなんて。ホンマにキミぃら……んふっ、随分と弱っちいんやなぁ! んなははは!!」
「はあっ!? こ、この野郎っ!! 俺様が、弱ぇだと……?」
「だって、んぷぷぷっ。んにゃはははは!!」
コイツは堪えきれなくなったのか、俺たちを馬鹿にしたように噴き出しやがった。
我慢ならなくなった俺はどうにか身体を動かそうとするが……くそっ、どうやっても指ひとつビクともしない。
マジでなにが起きてやがるんだ?
「んぐっ、ぐううっ」
「ぐ、苦しいよぉっ」
「お? せやったせやった、女の子が居ったんやったわ。スマンのぉ。ほらっ」
「……あ、あれ?」
「うご、ける……?」
コイツがルナたちを見てニコリと笑うと、まるで何事も無かったかのように俺たちを覆っていた重たい空気が霧散していった。
俺より強い殺気を返すなんて俄かには信じられないが、勝てない相手ではないはず。
これは、好機。
動けるようになった瞬間、攻めるなら今しかないと思った俺は奴の居る岩場まで飛び、刀を抜いた――のだが。
「キミら、なんやねん~。急にやって来て、いきなし刀抜いてくるなんて物騒やなぁ。ワイ、怖くてオシッコちびってしまうわ~」
「てめっ、ふざけんな……なんだコレは!」
すれ違いざまに切り捨てようとした刹那の間に、奴はたった指二本で俺の刀を抑え込んでしまった。俺がいくらグググと力で押し込もうとしても微塵も動かず、刀を引くことすらもできない。
「ちっきしょ、う……」
「おっと、それはもうしまっときぃ。それ以上やるんやったら、ワイも兄さんのこと……殺すで?」
「ぐっ……!? くそっ。マジでなんなんだてめェ……」
あの世界最強の勇者に育てられた俺が、こんな細っちい男に手も足も出ないなんて……。
「んふふっ。兄さん、ワイがナニモンか気になるみたいやなぁ。……ま、からかうのもこの辺まででえぇやろ。よっしゃ、ちょっくらワイについて来てや」
俺の刀を抑える力がフッと消えたかと思った瞬間、目の前に居たはずの釣り人が消えた。……かと思えば、ルナとリンの後ろをザッザッと何事も無かったかのように呑気に歩いていた。
「な、なんなのよあの男は……」
「怖いよルナねぇ~。あの人、ボクのこと見て笑ってた!」
あのワケの分からない男はきっと、リンが鬼人であることに気付いているんだろう。
だが気にする様子も無ければ手も出さねぇってことは、俺らの事なんて取るに足りないとでも思っているに違いない。
「取り敢えず今のところは敵対するつもりは無いんだろ。どうやらアイツ、俺たちよりも数段は強いみたいだからな」
「そんな……テイローでも勝てないだなんて」
「桃にぃ……」
信じたくはねぇが、俺だってこれ以上アイツに手を出すような愚か者じゃない。
真意は分からないが、鬼之島について何か知ってるかもしれないしな。
俺たちがそんな相談をしている内にも、釣り人は釣った巨大魚をズルズルと引きずりながらどんどん先へと進んで行ってしまう。
仕方なく釣り人の後を追うことにした俺たちは、警戒を怠らないようにして歩き始めた。だが別に罠なんかがあるワケでも無く、何事も無く目的地に着いてしまった。そしてその先にあったのは、岩の隙間にできた洞窟だった。
「さぁさぁ~、ようこそワイの城へ。なんと兄さんたちがここの初めてのお客さんや! 歓迎するで~」
「……なんだか不安になって来る暗さなんだが」
「本当にここに住んでいるの……?」
「うへぇ、なんかワサワサしている虫がいるよぉ~」
釣り人は壁のくぼみにあった蝋燭に火を点けると、どんどん中へと入っていってしまった。置いてけぼりにならないように俺たちも慌てて着いていくが――本当にただのほら穴のようにしか見えない。
そうして薄暗い中を転ばないようにしながら進んでいくと、多少開けた場所に着いた。
「ふぃ~。今日はコレしか釣れんかったけど、まぁえぇやろ。魚、食えるやろ?」
「魚……? あ、あぁ。魚は好きだが……魚ってコレのことか?」
俺が指さした先に居るのは、虹色に輝く派手過ぎる生物。
すでに息絶えているが、開いた口からはギラギラとした無数の歯がギッシリと見えていて不気味だ。少なくとも俺が知っている中にこんな魚は居ない。
まさかこれを食べるというのか、この男は。
「なんやなんや、そんなでっかい図体しておきながらビビっとんのかいっ! こりゃ~、陸じゃ味わえない絶品なんやで~! まぁ楽しみにしとってや!!」
困惑する俺たちを無視して、釣り人は奥から取り出した包丁で捌き始めてしまった。
「大丈夫なのかしら私たち……」
「ボク、ここで死んじゃうのかなぁ」
◇
海岸で出会った不思議な釣り人の男。
巨大な魚を片手で釣り上げただけでなく、ここまで育ての親以外に負けたことの無かった桃太郎を赤子のようにあしらってしまいました。
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