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   2章2部 冒険者

シンヤVSミリー

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「へー、あのゼノくんとやり合うなんて。見るからに頼りなさそうだったのに、あの子やるじゃん!」

 トワとゼノの戦いを見ていたミリーは、感心した様子。

「普段はダメダメだけど、やるときはやる子なんだぜ」
「きゃはは、じゃあ、そんなトワと一緒にいるシンヤくんも、それはそれは強いんだよね?」
「ははは、試してみたらいいさ」

 期待のまなざしを向けてくるミリーに、リボルバーをくるくる回しながら不敵に笑ってみせる。

「ヒュー、かっこいいー! 向こうも盛り上がってきたみたいだし、こっちもやり合おうか! ミリーの華麗な動きに見惚みほれてたら、ケガするから気を付けてね!」

 ミリーは小悪魔っぽくウィンクを。そしてくるりとフリフリのスカートをふわりとなびかせながら、一回転。再びシンヤに向き直った瞬間、彼女の方からするど一筋ひとすじの閃光が放たれた。

「はっ!?」

 その瞬間、予知のスキルによる攻撃察知によって、閃光がシンヤの胸板むないたに吸い込まれていく軌道が見えたという。なのですぐさまリボルバーの照準を閃光の軌道に合わせ、引き金を引く。
 するとキィーンと鋭い金属音が鳴り響き、弾丸が襲い掛かる閃光をはじき飛ばした。

(あれは氷のナイフ?)

 はじきとばされ地面に刺さったものをみると、それはナイフ。しかも驚くのはそれが氷でできていたということ。どうやら魔法で氷のナイフを生成し、投てきしてきたらしい。ちなみに氷のナイフの刃先は丸まっており、親切に非殺傷用にしてくれているみたいであった。

「ちょっ!? 完璧な不意打ちだったのに!? かわしたんじゃなく、ナイフそのものを撃ち落とすなんて!? しかもひるみやあせりもなく、冷静に対処してたし!? トワと違ってどれだけ戦闘慣れしてるのよ!?」

 ミリーは口を押さえ驚愕きょうがくする。
 彼女が驚くのも無理はない。不意打ちに対し、ほとんど動じずに対処したのだから。それもこれも攻撃察知のおかげ。事前に軌道や攻撃範囲がわかっていたため、冷静に動けたのだ。
 もし転生したばかりの被害察知能力の場合、ダメージを受けた予感から逆算し、回避行動するだけで精一杯だった。しかし今だとどんな攻撃なのか事前に見極められるため、対処の幅が格段に広がったといっていい。しかもそれを冷静に余裕を持ってやれるのだから、次の行動にも生かせた。

(予知のスキルによる、攻撃察知能力様様だ。それにこの心象武器のリボルバー。自分の手足のように馴染み、狙ったところに当たってくれるのも大きいな)

 スキル心象武器は人の想いを、武器にして召喚する。しかもその武器は使用者と相性がよく、手にとてもなじんでさまざまな特性や能力を持つことも。そんなシンヤのリボルバー。なんとシンヤの思った通りにこたえてくれるという。銃の取り回しから、精確な射撃まで。まるで銃そのものが、シンヤをアシストしてくれているかのように。そのため狙いをさだめて引き金を引けば、思い通りの射撃ができるのだ。そのおかげで氷のナイフをたやすく撃ち落とせているというわけだ。

「新人のくせになまいきー! これならどうだ!」

 ミリーは氷のナイフを右手に三本、さらに左手にも三本生成し、一斉投てき。合計六本の氷のナイフが、シンヤ目掛けて飛翔ひしょうしてきた。

「そこだ!」

 常人ならばどれをどう対処すればいいか、混乱するだろう。しかしシンヤは彼女の攻撃の軌道と範囲を事前に把握はあくできる。なのでさっきどうように冷静に照準を合わせ引き金を引いていった。目にもとまらぬクイックドローで四本を撃ち落とし、残り二本を少し身体をそらし紙一重に回避。ほおをかすめる程度の被害で押さえ切った。

「今度はこっちの番だぜ!」

 ナイフをやり過ごした瞬間、ミリーに向かって銃撃を。

「ッ!?」

 だが彼女は機敏きびんな動きでサイドステップを。弾丸を回避してみせた。
 投てきの技量。さらに回避の動きからみるに、ミリーも相当の手練てだれだということがわかる。

「――うそでしょ……。今のをあんな見事に……」

 ミリーはシンヤへ畏怖いふの念を送ってくる。

「なんなのあなたたち……、ただものじゃなさすぎ……」
「ははは、まあ、こっちもいろいろわけありでな」

 弾丸をリロードしながらふくみのある笑みを。
 本当はここで勇者とその補佐役とかっこよく宣言したい場面だが、身分のほうはしばらくだまっておくことになったので自重しておいた。

「まったくー、一般的な新人の力量を超えすぎだって。相手させられる先輩の気持ちになってほしいよー」

 とほほと肩をすくめるミリー。

「まあ、ミリーたちのときも人のことはいえなかったけどさー」

 それから彼女はぼそりとつぶやく。

「ということで先輩にはなを持たせてくれない?」
「ははは、こっちとしては勝って、華々はなばなしい冒険者デビューをしたいからさ」

 かわいらしくお願いしてくるミリーに、不敵に返す。

「わー、なまいきー。そんな新人くんには、おしおきしないとだね! はっ!」

 ミリーは流れるような一連の動さで、氷のナイフを一本投てき。精度抜群のキレのある一撃だ。
 だが攻撃察知が使えるシンヤには、あまり効果がない。直線でせまってくるなら銃弾で撃ち落としやすく、回避も楽なのだから。なので先ほど同様に銃撃で撃ち落とした。

「なっ!?」

 だがここで異変に気づく。
 なんとさっきの場所にミリーの姿がいなかったのだ。そう、彼女はなんと投てき後、シンヤに向かって身をかがめ猛ダッシュしていたという。ナイフを撃ち落とすことに集中しすぎて、気づくのが少し遅れてしまっていた。

「この!」

 慌てて彼女に発砲するが、紙一重にかわされまたたく間に間合いを詰められてしまう。

「ふっふーん♪ これならどうだ!」

 ミリーは氷のナイフによる、刺突しとつを繰り出してきた。
 キレがある見事な一撃。しかしその軌道を読み、シンヤは取り出したナイフで受け流す。
 結果、すれ違う形に。それからシンヤへ振り向こうとするミリーに、銃口を突きつけ引き金を引いた。

「きゃはは!」

 しかしこれもまた機敏な回避でかわされてしまう。

「ここまで接近したら、もう銃は使えないよね!」

 そして彼女は距離を詰め、氷のナイフによる斬撃を。しかもそれは一撃、二撃でとどまらない。距離をとらせず食いつきながら、連撃を放ち続ける。その動きはまるで踊っているかのよう。優雅でかろやかな身のこなしからの、鋭いナイフさばき。さらにときにはりや掌底しょうていといった打撃も繰り出してくる始末。こうも接近されおまけに続けざまに攻撃されては、射撃する余裕なんてない。もはや防御にてっするしかなかった。

(この子、強い!? おそらくゼノ以上。レティシアクラスかもしれない!?)

 ミリーの攻撃をしのぎながら、分析ぶんせきする。
 彼女は非常に戦い慣れているといっていい。おそらく相当の場数を踏んでおり、修羅場をくぐってきたであろうことがわかる。一番警戒すべきはゼノだと思っていたが、彼女こそもっとも危険な相手だったみたいだ。

「もう、シンヤくんしぶとすぎー! なんでやらせてくれないのー!」

 攻撃しながらもほおをふくらませるミリー。
 というのも押されまくってはいるが、攻撃察知によりなんとかさばけているのだ。いくら手数が多くても、どんな攻撃か事前にわかっていれば手の打ちようはある。おかげで今だ倒されず、ミリーとやり合えていた。

「あー、もう! こうなったら!」

 ミリーが攻撃しながらも、なぜか氷のナイフをシンヤとは別の方向へ投てきした。

「どこに投げて……、はっ!? トワ!?」
「え?」

 慌ててゼノと戦っているトワの方へ視線を移すと、氷のナイフが彼女の足元近くに突き刺さった。

「凍っちゃえ!」

 ミリーが指をパチンと鳴らした瞬間、氷のナイフが破裂。そしてなんと周辺を凍らせたのだ。

「あ、足が!?」

 しかもその凍結に、トワの足が巻き込まれてしまう形に。

「ゼノくん、二人でシンヤくんをやっちゃうよ!」
「もう少しトワさんと剣をまじえていたかったが、しかたない。そろそろこの模擬戦を終わらせよう」

 なんとミリーのオーダーを聞き、ゼノはすぐさまシンヤの方へと突撃してくる。
 対してトワは追いかけようとするが、氷が張り付いた足のせいですぐに動くことができなかった。

「キャハ、二人同時攻撃。これをしのげるかな?」
「シンヤ、わるいな」

 ゼノに続き、ミリーも突撃を。二人はコンビを組んでるだけあって、息はピッタシ。見事なコンビネーションで、同時攻撃を仕掛けてきた。

「二人がかりとか卑怯ひきょうだぞ!?」

 これには悪態をつくしかない。
 攻撃察知によって、二人の斬撃の軌道がシンヤをとらえているのがわかる。このままだと察知したとおり直撃はまのがれない。片方ならナイフで防げるが、もう片方はどう対処しても被弾するしかない状況。完全な詰みであった。

(負ける!?)

 もうお手上げだと、目をつぶった瞬間。

「はっ!? ゼノくん、ふせいで!」
「しまった!?」

 シンヤの目の前を極光きょっこうの斬撃が通り過ぎ、ミリーとゼノを呑み込んでいったのであった。

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